BRUE(乳児の短時間の危急事態)・無呼吸発作
救急・外傷・中毒β版・逐条レビュー継続中
施設プロファイル: 二次救急/小児集中治療なし/当直帯に画像(CT・MRI・エコー)は撮れず、末梢血液像も出ない(2026-09-14 確認)。腰椎穿刺・導尿・ルート確保はできる。夜間入院もできる。
BRUEの評価は本来「何を省略してよいか」を決めるためのもので、低リスクBRUEはもともと検査をほとんど要しない。当直帯の制約はそこには当たらない。
効くのは高リスク側と虐待評価——眼底検査・全身骨X線・頸胸部CT・MRI はいずれも当直帯に出せない。疑ったら、確かめずに入院させて翌日につなぐか、送る。
30秒要約
- 来院時にはもう元気。それがこの病態の定義。「今は普通だから帰す」でなく、低リスクの条件を全部満たすかを確認してから判断する。
- 低リスクの条件は7つ。ひとつでも外れたら低リスクではない(下の表)。
- 低リスクなら、不必要な検査や入院を避けることが推奨されている。むやみに検査を並べない。
- 低リスクでないなら、背景に虐待・代謝疾患・不整脈がありうる。この3つは身体診察だけでは拾えない。
- 日本の手引き自身が「BRUEの提唱、低リスク群の選別ならびに低リスク群に推奨される対応が、日本の医療現場で適切か否かについては、さらなる検討が必要」と留保をつけている。機械的に当てはめない。
定義(1と2の両方を満たす)
1. 1歳未満の乳児において、次の徴候のひとつ以上が突然に発症し、短時間で回復して来院時には症状が改善している
- チアノーゼまたは蒼白
- 呼吸休止・低呼吸・不規則な呼吸
- 筋緊張の著明な変化(過緊張または低緊張)
- 反応レベルの変化
2. 適切な病歴確認と診察にても、事態を説明し得る状況を何も認めない
原因が説明できるなら、それはBRUEではない。まず原因を探す。
低リスクの条件(すべて満たすとき)
| # | 条件 | ひとつでも外れたら |
|---|---|---|
| 1 | 生後60日を超えている | 低リスクではない |
| 2 | 未熟性がない(在胎32週以上で出生、発症時の修正在胎45週以上) | 低リスクではない |
| 3 | 初めての発症(過去の同様の出来事なし、群発なし) | 低リスクではない |
| 4 | 持続時間1分未満 | 低リスクではない |
| 5 | 専門家による心肺蘇生を要していない | 低リスクではない |
| 6 | 懸念される病歴がない(虐待、突然死の家族歴、有害物質への曝露など) | 低リスクではない |
| 7 | 診察上懸念される所見がない(打撲痕、心雑音、臓器肥大など) | 低リスクではない |
所見 → 次の一手
| 所見 | 次の一手 |
|---|---|
| 7条件をすべて満たす | 不必要な検査や入院を避ける。観察のうえ、再発時の受診条件を具体的に渡す(下の「家族に渡す一文」) |
| 生後60日以下 | 低リスクではない。生後3か月未満の発熱の枠も併せて考える。入院での評価を検討 |
| 在胎32週未満/修正在胎45週未満 | 低リスクではない。無呼吸の残存を考え、モニタ下の観察へ |
| 2回目以降・家族に同様の既往 | 低リスクではない。不整脈・代謝疾患・虐待を必ず当たる |
| 持続が1分以上/CPRを要した | 低リスクではない。入院・モニタリング。搬送を検討 |
| 打撲痕がある/受傷機転が説明されない | 虐待を疑う。眼底検査(網膜出血)・全身骨X線・頸胸部CTは身体診察では拾えない所見を拾う手段(外傷・跛行) |
| 心雑音・頻脈・徐脈 | 心電図。WPW症候群・QT延長症候群・上室頻拍・心室頻拍。必要ならHolter |
| 低血糖 | 脂肪酸代謝異常症も考慮。ブドウ糖投与前のクリティカルサンプルを検討(低血糖) |
| 代謝性アシドーシス | ショック以外に有機酸代謝異常症などの代謝疾患も考える |
| 意識障害や痙攣があった | アンモニア値を確認する |
| 授乳・嘔吐との時間的関係がある | 嚥下や逆流(胃食道逆流・胃軸捻転など)の際の咽頭反射による一時的な呼吸停止。授乳・嚥下評価を優先し、逆流検査の適応は選択的に検討 |
| 発作性の動きがあった | てんかんを考える。脳波(けいれん重積) |
| 鼻汁・咳が先行 | RSV・百日咳。乳児の百日咳は無呼吸で来る。気道感染検査。百日咳は鼻咽頭検体による検査を検討(採用・提出先は確認) |
低リスクでないときに当たる検査(手引きが挙げる体系)
低リスク例に一律で行うものではない。原因検索が必要な例に対する一覧。
血算/生化学(低血糖・アンモニア)/血液ガス(代謝性アシドーシス)/髄液検査/血液・髄液培養/気道感染迅速検査/百日咳抗体/胸部X線/全身骨X線(虐待評価)/上部消化管造影/頭部・頸胸部CT・MRI(虐待評価を含む)/心エコー/腹部エコー/脳波/心電図(必要ならHolter)/タンデムマス・有機酸分析・アミノ酸分析(代謝疾患スクリーニング)/眼底検査(虐待診断のための網膜出血確認)/食道pH検査/ポリソムノグラフィー
送る/持つ(当院=二次救急・小児集中治療なし)
| 状態 | 当院の扱い |
|---|---|
| 低リスクの7条件をすべて満たす | 当院で対応できる。過剰な検査をしない |
| 低リスクでない | モニタ下の観察が要る。当院で入院観察できるかを確認して、できなければ送る |
| 繰り返す・CPRを要した | 持てない。モニタリングと精査ができる施設へ |
| 虐待を疑う | 眼底・全身骨X線・頭部画像が要る。当院で揃わなければ送る。通告は疑いの段階で |
| 不整脈を疑う | 小児循環器へ |
送ると決めた時点でやること
- 目撃者から聞いた発作の様子(色・呼吸・筋緊張・反応)と持続時間を、そのままの言葉で記録して渡す
- 低リスク7条件のどれが外れたかを明示する
- 搬送を遅らせない範囲で血糖・血液ガスを採り、低血糖は直ちに補正する
エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)
- 要確認:当院で乳児のモニタ下入院観察ができるか(できなければBRUEは原則送ることになる)
- 要確認:夜間に眼底検査・全身骨X線が撮れるか
- 要確認:小児循環器・代謝の紹介先
- 要確認:虐待を疑ったときの院内手順
家族に渡す一文
「赤ちゃんが一時的に色が変わった・息が止まった・ぐったりしたように見えた、という出来事です。いま診察では異常がありませんが、原因が分からないことが特徴なので、危険な条件に当てはまらないかを確認します。おうちに帰ってから、同じことがもう一度あった/色が悪い/息をしていない時間がある/ぐったりして起きない、このどれかがあれば、すぐに来てください。そのときの様子(何秒くらいか、色はどうか、体は硬かったか柔らかかったか)を覚えておいてください。」
病態・根拠12章
病態と根拠
BRUEは原因名ではなく、評価後に残る出来事の記述
乳児は呼吸・循環・嚥下の調整が未熟で、短い色調変化や呼吸の乱れが目撃されることがある。ただし、その未熟さだけで無呼吸を説明して帰すことはできない。BRUEという名称を使えるのは、1歳未満で、出来事が短時間に終了し、診察時に普段の状態へ戻り、病歴と診察から原因を説明できない場合である。発熱、持続する呼吸困難、低酸素、哺乳障害、意識低下などが残っていれば、感染症・呼吸障害・神経疾患などの症候として扱う。[1][2]
赤い顔でいきんだ、授乳中にむせた、嘔吐物が口にたまった、という出来事だけでは定義を満たさない。色は青色・蒼白か、呼吸は実際に止まったか、筋緊張と反応はどう変化したかを目撃者に分けて聞く。「息をしていないようだった」という印象と観察された所見を区別する。可能なら安全を確保した後の動画を参考にするが、撮影を蘇生より優先しない。
年齢と早産歴が判断を変える理由
AAPの低リスク推奨は、生後60日超、出生在胎32週以上かつ発症時修正在胎45週以上、初回で群発なし、1分未満、訓練された医療者によるCPRなし、懸念される病歴・診察所見なしをすべて満たす乳児に限る。[1] 生後60日ちょうどや持続1分ちょうどを「低リスク」に丸めない。反復歴と突然死・不整脈の家族歴は別々に確認する。
低月齢では、感染や哺乳・気道の問題が無呼吸として現れやすく、早産児では呼吸調整の成熟度も背景になる。一方、基準が一つ外れただけで重い病気が確定するわけではない。低リスク群で検査を省略できる推奨を、そのまま適用できないという意味である。低リスクでない群は均一ではなく、原因を示す所見に沿った検査・観察が必要になる。[2][3]
何を先に除外するか
| 手がかり | 病態として考えること | 評価を絞る方向 |
|---|---|---|
| 授乳中のむせ、咳、哺乳時間の延長、体重増加不良 | 嚥下と呼吸の協調不良、誤嚥、気道病変 | 授乳場面の観察、嚥下・気道評価。逆流だけを原因と決めない |
| 無呼吸、咳の乏しい咳発作、百日咳曝露 | 乳児の気道感染・百日咳 | 呼吸状態の経時観察、必要時に鼻咽頭検体による病原体検査 |
| 同じ型の反復、眼球偏位、左右差、回復の遅れ | てんかん発作など | 初発けいれん、必要時の脳波・小児神経相談 |
| 突然死・不整脈の家族歴、脈の異常 | QT延長などの不整脈 | 12誘導心電図、必要時に循環器相談 |
| 絶食後の症状、低血糖、アシドーシス、肝腫大 | 代謝・内分泌疾患 | 血糖、血液ガス、電解質、アンモニア。危急時検体を検討 |
| 説明の変化、不自然な打撲、受傷歴と発達段階の不一致 | 虐待による傷害 | 安全確保と専門的な評価。身体診察が正常でも除外できない |
高リスク側の評価では、まず診断・治療の遅れが害になる感染、哺乳問題、不整脈、虐待などを扱い、その後に嚥下障害、間欠的気道閉塞、てんかんなどを段階的に評価する、という専門家枠組みがある。[3] 一律に大量の検査を行う方法ではない。
検査をしない理由と、検査の限界
低リスクBRUEでは、通常の血液検査、髄液、画像、脳波、逆流検査を一律には行わない。検査の偽陽性から追加処置や入院が増える一方、説明できる病気が見つかる可能性は低い。AAPは必要に応じた短時間のパルスオキシメータ観察や心電図などを認めているが、固定した時間だけ観察すれば安全になる、という基準ではない。[1]
低リスク例に酸分泌抑制薬を経験的に処方したり、逆流があることだけで無呼吸の原因とすることは避ける。乳児の逆流はよくみられ、時間的に近く起こることと因果関係は同じではない。[1] 正常心電図はすべての間欠性不整脈を、短い正常脳波はすべてのてんかんを除外しない。追加評価は再発の型と病歴に応じる。
当院では夜間のCT・MRIと、熟練者による超音波評価はできない。モニタ入院の可否だけで完結させず、画像・専門的評価が必要な傷害や神経所見があれば受入先に相談する。低血糖の危急時検体は採れれば有用だが、採血や提出調整のために糖補正・搬送を遅らせない。
帰宅・入院後の見直し
帰宅は低リスク条件だけでなく、観察中に再発がないこと、哺乳と呼吸が普段どおりであること、保護者が説明を理解し、再受診できることを確かめて判断する。当院では低リスクに限り指導付き帰宅とし、低リスクでない例はモニタ体制を確認した入院観察または専門施設への紹介とする。原因を示す新所見、反復、CPRを要する出来事があれば初回分類を見直す。
家族には「今は回復している」「BRUEは原因を確定した病名ではない」「同じ出来事が再びあれば再評価が必要」を伝える。呼吸がない、反応がない、色が戻らない場合は119番とし、乳児CPRの学習機会を案内する。安全な睡眠環境を伝え、家庭用モニタが突然死予防を保証するとの説明はしない。[1][2]
参照資料
- [1] AAP. *Brief Resolved Unexplained Events and Evaluation of Lower-Risk Infants*. 2016. 定義・低リスク条件・低リスク群の検査/治療推奨。https://publications.aap.org/pediatrics/article/137/5/e20160590/52195/Brief-Resolved-Unexplained-Events-Formerly
- [2] Royal Children's Hospital. *Brief resolved unexplained event (BRUE)*. 2026年1月更新。高リスクの選択的検査、相談・退院時の安全網。https://www.rch.org.au/clinicalguide/guideline_index/Apparent_Life_Threatening_Event_ALTE/
- [3] Merritt JL II, et al. *A Framework for Evaluation of the Higher-Risk Infant After a BRUE*. Pediatrics. 2019;144:e20184101. 高リスク群に対する専門家合意の枠組み。抄録確認、本文全体は未確認。https://doi.org/10.1542/peds.2018-4101
国内資料の引継ぎ
- 厚生労働省SIDS研究班(日本SIDS・乳幼児突然死予防学会、日本救急医学会、日本周産期・新生児医学会、日本小児科医会、日本小児科学会、日本小児救急医学会、日本小児外科学会、日本小児保健協会、日本新生児成育医学会、日本臨床救急医学会の意見を得て作成).乳幼児突発性危急事態(ALTE)原因疾患検索手順の手引き(BRUE章を含む).2016年度作成.https://plaza.umin.ac.jp/sids/pdf/blue_guide.pdf (2026-09-12閲覧、2026-09-28時点でリンク切れ。移転先未確認。umin.ac.jp/sids配下のサイト自体が404で、学会の後継URLも確認できず)。BRUEの定義(1歳未満・4徴候・説明し得る状況を認めない)、低リスクの7条件、低リスク例に不必要な検査や入院を避けることの推奨、原因検索の検査体系、無呼吸・徐呼吸/ショック/意識障害/痙攣/出血斑/外傷痕の各項に分散して記載された原因(胃食道逆流・胃軸捻転、てんかん、不整脈〈WPW症候群・QT延長症候群・上室頻拍・心室頻拍〉、低血糖と脂肪酸代謝異常症、代謝性アシドーシスと有機酸代謝異常症、虐待)、および検査の位置づけ(全身骨X線・頭部/頸胸部CT・MRI・眼底検査が虐待評価の一環であること、アンモニア値、食道pH検査)。手引き自身が「BRUEの提唱、低リスク群の選別ならびに低リスク群に推奨される対応が、日本の医療現場で適切か否かについては、さらなる検討が必要」と留保を付けている。原文はAAP(Pediatrics. 2016;137(5):e20160590)。
臨床医が迷う場面
哺乳中にむせて色が変わった。BRUEとして検査する?
BRUEは診察と病歴で説明がつかない短いイベントを指す。哺乳との関連、むせ、吐物、体位を詳しく聞き、呼吸・嚥下など説明できる病態を評価する。原因がある事象をBRUEと呼ばず、反復や体重増加不良があればその病態に応じた評価へ進む。
今は元気でも生後1か月なら、低リスク経路で帰宅できる?
できない。年齢を含む低リスク条件をすべて満たす必要がある。低リスクから外れるだけで全検査を一律に行うのではなく、感染、不整脈、虐待、代謝異常などを病歴・診察から選択的に評価し、小児科へ相談して観察・入院の必要性を決める。
低リスクで帰すとき、逆流の薬や家庭モニターを出す?
原因不明のイベントだけを根拠に、逆流の薬や家庭心肺モニターを一律に導入しない。観察中に再発がないかを確認し、再発時の救急要請、安全な睡眠環境、保護者の不安と蘇生教育を相談する。フォロー先と時期を決め、原因を説明できないまま安心だけを伝えない。