3-10卵巣腫瘍茎捻転(女児の急性腹症)
下腹部痛・卵巣捻転・エコー
β版 · 紙面の最終確認 2026-10-30
日付は紙面の確認日です。院内承認を示すものではありません。処方・運用は、本文の適用条件と出典、院内の採用薬・手順を確認してください。
このページの目次7項目
1ポイント
- 女児の急性腹症で、最も落ちやすいのがこれ。小児における卵巣腫瘍茎捻転の診断の遅れはしばしばみられる。
- 診察を受けてから手術を受けるまでの平均時間は、初経前患者で974.5分、初経後患者で770.2分。どちらも12時間以上かかる。
- 若年女性の急性腹痛による外来受診では最大4%が卵巣腫瘍茎捻転によるものとされる。
- まずエコー、CTではない。感度72.1%、特異度99.6%程度。当院の当直帯はその超音波が当てられないので、確かめてからではなく疑った時点で電話する。
- 精巣捻転と同じ扱いをする。男児なら陰嚢を見るのに、女児では骨盤を見ない——ここが落とし穴。
2鑑別のながれ
- 右下腹部痛→心窩部→右下腹部への移動、発熱、反跳痛→虫垂炎(右側の捻転と紛らわしい)
- 3か月〜2歳の間欠的啼泣→イチゴゼリー状便→腸重積
- 排尿痛・側腹部痛・血尿→尿検査→尿路感染症・尿管結石
- 便塊触知を伴う腹痛→排便で完全に痛みが消えるか→便秘
- 初経後の腹痛→妊娠反応を必ず出す→子宮外妊娠
- 初経がこない+周期的な腹痛+下腹部腫瘤→外陰部を見れば分かる→処女膜閉鎖による月経血貯留
- 乳児の腹部腫瘤+不機嫌→胎児期からの卵巣嚢腫の捻転がありうる→卵巣腫瘍茎捻転(新生児・乳児)
3検査
- 月経歴を聞く(初経の有無・最終月経・周期)。初経前でも起きることを忘れない
- まず経腹超音波を推奨(CTではない)。感度72.1%・特異度99.6%程度。当院の当直帯はその超音波が当てられないため、確かめずに電話する
- 妊娠反応(初経後)、血算・CRP・尿定性を並行して行うが、電話を待たせてまで揃えない
- 搬送前に絶飲食・ルート確保・輸液・鎮痛を行う(手術に備える)
4帰宅・入院の目安
- 帰宅月経随伴痛として矛盾がなく、痛みが軽快している(再受診の条件を渡す)
- 搬送・紹介卵巣腫瘍茎捻転を疑う。確定を待たずに電話する、付属器の腫瘤を指摘された既往がある(速やかに小児外科または産婦人科に相談)、ショック・腹膜刺激症状、妊娠反応陽性+腹痛は子宮外妊娠を外すまで持てない、処女膜閉鎖(切開が要る)
5診療中の疑問と回答
- 片側の強い腹痛がいったん治った。捻転は否定できる?
- 捻転と自然整復で痛みが断続的になることがある。突然の片側痛、嘔吐、腫瘤の既往を確認し、改善だけで帰宅させない。初経前でも起こり得るため、疑った時点で小児外科・婦人科へ相談し、画像待ちの遅延を避ける。
根拠:RCH 思春期女児の下腹部痛 / ACOG Adnexal torsion in adolescents:Dopplerの限界・温存 - 超音波で血流が見えたら手術評価は不要?
- 卵巣血流が見えても捻転を完全には除外できない。症状と卵巣腫大・形態などを合わせ、疑いが高ければ専門外科評価を続ける。当直に超音波ができない当院では、検査できる翌朝まで待たず受入先へ連絡する。
根拠:RCH 思春期女児の下腹部痛 / ACOG Adnexal torsion in adolescents:Dopplerの限界・温存 - 発症から時間が経っていれば温存は難しいので急がない?
- 経過時間だけで卵巣温存不能とは判断しない。迅速に専門施設へつなぎ、捻転解除と温存の可否を手術所見を含めて判断してもらう。妊娠可能性がある児では妊娠反応と子宮外妊娠も並行評価するが、転送を不必要に遅らせない。
根拠:RCH 思春期女児の下腹部痛 / ACOG Adnexal torsion in adolescents:Dopplerの限界・温存
- 時間が経っているから手遅れ?
- そうではない。発症から時間が経過した卵巣茎捻転でも、若年者では積極的に卵巣温存を行うべきとされ、卵巣を残せた報告がある。
- 初経前だから婦人科疾患はない?
- 違う。骨盤漏斗靭帯が延長している初経前の女子に多くみられる。
- 右下腹部痛で虫垂炎として動いたが所見が合わない。次は?
- 卵巣を見る。右側での捻転が多く(S状結腸が左側に位置し右骨盤内のスペースが広いため)、虫垂炎と紛らわしい。
- 痛みが今おさまっている。帰していい?
- 帰さない。自然整復と再捻転を繰り返すことがある。
- エコーが陰性なら卵巣捻転は否定できる?
- できない。感度は72.1%程度とされる。当院は院内夜間そもそもエコーが無いので、疑った時点で電話する。
- 下痢がない嘔吐+強い腹痛を「胃腸炎」として帰したあと、痛みが続いている。どうする?
- 胃腸炎と決めつけない。下痢を伴わない嘔吐+強い腹痛を胃腸炎で説明するのは診断の遅れの典型パターン。経過観察にせず相談に回す。
7家族への説明
卵巣がねじれてしまう病気(卵巣腫瘍茎捻転)を考えています。卵巣に袋(嚢腫)や腫瘍があると、それが重みになって、根元でねじれてしまうことがあります。ねじれると血が通わなくなるため、早く戻すほど卵巣を残せる可能性が高くなります。これは手術ができる病院にお願いする必要があります。男の子の『精巣がねじれる病気』と同じ考え方です。時間が経っているから手遅れ、ということはありません。しばらく経ってから手術をしても、卵巣を残せた報告があります。なお、腫瘍といっても、ねじれる原因の多くは良性です(悪性は2%以下)。
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