8-8肘内障(うでを動かさない)
腫脹・変形がなければ整復。あれば先にX線
β版 · 紙面の最終確認 2026-10-30
日付は紙面の確認日です。院内承認を示すものではありません。処方・運用は、本文の適用条件と出典、院内の採用薬・手順を確認してください。
このページの目次8項目
1ポイント
- 手を引いたあと腕を使わない・だらんと下げている乳幼児に多い。整復は数秒、多くは麻酔不要。
- 変形・腫脹・末梢循環障害は肘内障にしない。骨折・阻血を積極的に疑い、整復操作より先にX線を優先する。
- 6か月未満・7歳以上の初回・機転不明・整復後も使わない・発熱合併は典型例から外れる。画像評価や紹介を検討する。
- 整復成功なら多くは30分以内に腕を使い始める。使わないままなら再整復の可否と骨折の可能性を再評価する。
2鑑別のながれ
- 典型的な牽引機転、腫脹・変形・皮下出血なし、肘をやや屈曲・前腕回内位で動かさない→回内位保持での屈伸は比較的疼痛なく可能→典型的肘内障(整復前X線は不要。麻酔も不要で直ちに整復)
- 機転不明、腫脹・変形あり、7歳以上または6か月未満、整復音を伴わず可動域改善が乏しい→骨折・脱臼との誤診が生じやすい→非典型例(早期に画像評価・整形外科的判断)
- 少しでも腫脹・変形・皮下出血がある→→骨折(上腕骨顆上骨折・外側顆骨折など)(先にX線で除外)
- 発熱・関節腫脹・整復操作が奏功しない・症状が48時間以上持続→pseudoparalysis(疑似麻痺)として肘内障類似の像を呈しうる→敗血症性関節炎・骨髄炎(血液検査と整形外科紹介)
- 幼児期に繰り返すことがある(再発率5〜39%、2歳未満は再発リスクが高い)→成長とともに発症しなくなる(輪状靱帯の発達。目安として6〜7歳以降は稀)→反復性肘内障(正常経過。整復手技は通常通り)
- 短期間での頻回反復、養育者の説明が受傷状況と整合しない→→虐待の可能性(慎重評価)
3検査
- 腫脹・変形・皮下出血・強い圧痛がある例、受傷機転が不明/不自然な例、整復操作を2〜3回試みても成功しない例は肘関節X線(2方向、必要に応じ健側比較)を撮影する
- 発熱・炎症所見を伴い敗血症性関節炎・骨髄炎を疑う例は血液検査(血算・CRP等。赤沈は当直帯に出ない)を追加する
- 腫脹なし・機転が典型的・身体所見が典型的な例へのルーチンの整復前X線は不要。麻酔も不要で直ちに整復してよい
4肘内障の整復(過回内法→回外屈曲法)
- 第一選択は過回内法:患側肘を90°屈曲位に保ち、片手の母指を橈骨頭上に当てて固定、もう一方の手で手関節を把持し、急速に前腕を過回内させる
- 整復成功の指標:橈骨頭部でのクリック音・触知可能なはじける感覚。多くは整復直後〜数分で疼痛が消失し腕を使い始める
- 過回内法が無効なら回外屈曲法へ切り替える:同様の把持で、1回の連続動作として前腕を急速にしっかり回外させたのち、肘関節を完全屈曲位まで持っていく
- 施術後10〜15分は患肢の自動運動を観察し、整復が得られたか確認する
- 整復後は簡単な固定を行うことも行わないこともある(一律のGL推奨はなく施設判断)。固定するなら整復後2日間、肘を屈曲位・前腕回外位に保つと、固定しない場合より再発率が下がるとの報告がある
やってはいけない・落とし穴
↑ このページの入口へ- 整復手技は施設で習った方法(過回内法・回外屈曲法)以外は用いない
- 腫脹・変形がある例へ整復操作を先行させない(骨折を悪化させるリスク。先にX線で除外する)
- 機転不明・非典型例に画像評価を経ず反射的に整復を試みない
- 整復不成功のまま繰り返し無理な整復操作を反復しない(2〜3回不成功なら画像評価・整形外科紹介に切り替える)
- 典型例に鎮静・麻酔をルーチンで使わない
5紹介の目安
- 帰宅整復成功、腫脹・変形なく神経血管所見も正常:登園・登校の制限も不要
- 搬送・紹介整復操作を2〜3回試みても整復に至らない非典型例・反復例:整形外科紹介、腫脹・変形・機転不明でX線上骨折/脱臼が疑われる、または除外しきれない:整形外科紹介・専門的画像評価、受傷機転が不自然、または短期間での頻回反復で虐待が懸念される:院内の虐待対応フローへ、神経血管障害の所見を伴う:整形外科・救急対応
6診療中の疑問と回答
- 腕を使わない乳児に、すぐ整復してよい?
- 機転、姿勢と圧痛を確認し、腫脹・変形・紫斑、骨性圧痛や発熱がないか診る。典型例なら画像前の整復を検討できるが、非典型の年齢や外傷、感染・骨折の疑いがあれば同じ手順を繰り返さず画像・専門相談を先に行う。
根拠:RCH Pulled elbow - 整復のクリックがあれば帰宅させてよい?
- クリックだけでなく実際に腕を使い、上方の物に手を伸ばせることと疼痛を確認する。通常は数十分以内に使い始める。使わない場合は診断と整復の成否を再評価し、回数を決めず反復せずに上級医・画像評価へ進む。
根拠:RCH Pulled elbow - 整復後も少し使わないが、受傷から長時間経っている。どうする?
- 時間が経った受傷では回復が遅れることがあるが、骨折を見逃していないか再確認する。専門医と相談し必要なら固定・画像と短期再診を設定する。成功が確実でないまま説明なく帰宅させず、痛み増悪・腫脹や使用困難の持続は再受診とする。
根拠:RCH Pulled elbow
- 整復前に必ずレントゲンを撮る?
- 撮らない。腫脹なし・機転が典型的・所見が典型的なら整復前X線は不要で、麻酔も不要で直ちに整復してよい。
- 過回内法と回外屈曲法どちらを先に試す?
- 過回内法が第一選択。2017年のコクランレビューで初回整復の不成功率は過回内法9.2%、回外屈曲法26.4%だった。無効なら回外屈曲法に切り替える。
- 整復後どのくらいで腕を使い始める?
- 多くは30分以内。使わないままなら再整復の可否と骨折の可能性を再評価する。
8家族への説明
手を引いたあと腕を使わないときは、よくある肘の靱帯のずれのことが多いです。指先の色が悪い、腫れや変形がある、戻したあとも使わないときはすぐ連絡してください。
一般教育・院内オペ補助。個別診断・治療の代わりにはなりません。β版・逐条レビュー継続中。