1-2おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)
耳下腺腫脹・難聴/髄膜炎/精巣炎の見逃し
β版 · 紙面の最終確認 2026-10-30
日付は紙面の確認日です。院内承認を示すものではありません。処方・運用は、本文の適用条件と出典、院内の採用薬・手順を確認してください。
このページの目次9項目
1ポイント
- ムンプス難聴(最も見逃されやすい)は耳下腺炎の重症度と無相関。軽症・不顕性感染でも発症しうる。急な片側性の難聴・耳鳴・めまい・ふらつきに気づいたら早期に耳科的評価につなげる。
- 無菌性髄膜炎は有症者の1〜10%に合併し、中枢神経症状の約半数は耳下腺炎に先行または伴わずに出現する。「腫れていないから否定的」としない。
- 膵炎は有症者の約4%、精巣炎(思春期以降男児)は未接種者で約20〜40%(約30%)・接種者でも約6%に合併しうる。卵巣炎は約5%。
- 反復性耳下腺炎は初回発症時に流行性耳下腺炎との鑑別が困難で、繰り返すかどうかの経過観察で確定する。
- 解熱・鎮痛はアセトアミノフェン。酸味の強い食品は疼痛を増悪させるため避ける。
2鑑別のながれ
- 急な片側性の難聴・耳鳴・めまい・ふらつき→耳下腺炎の重症度と無相関。軽症でも発症しうる→ムンプス難聴(早期に耳鼻科評価)
- 頭痛・嘔吐・項部硬直→中枢神経症状の約半数は耳下腺炎に先行または伴わず出現する→無菌性髄膜炎
- 突然の心窩部痛・持続する悪心嘔吐→有症者の約4%に合併する→膵炎
- (思春期以降男児)陰嚢の疼痛・腫脹・発赤→未接種者で約20〜40%、接種者でも約6%に合併しうる→精巣炎
- 片側/両側の耳下腺腫脹を年に複数回繰り返す(1〜6歳好発)→発熱は軽度〜なし。強い痛みは稀→反復性耳下腺炎(繰り返すかどうかで確定)
- 発赤を伴う強い圧痛・38℃以上の発熱・膿性排膿→細菌感染→化膿性耳下腺炎(抗菌薬治療を要する)
3重症度
| 軽症 | 経口摂取可能、活気良好、発熱軽度〜なし | 対症療法 |
|---|---|---|
| 中等症 | 発熱・咽頭痛・酸味刺激時痛みで摂取量がやや低下しているが脱水徴候なく活気は保たれている | 水分・食事のフォロー |
| 重症 | 髄膜炎/脳炎、膵炎、精巣炎/卵巣炎、難聴のいずれか該当 | 各専門科と連携し上位施設紹介・入院を検討 |
→ 横にスクロールできます
4検査
- 典型的な臨床像(両側/片側の耳下腺腫脹+周囲流行歴)があれば臨床診断で足り、原則ルーチンの検査は不要
- RT-PCR(唾液・咽頭ぬぐい液・尿・髄液)が最も推奨される確定診断法。ワクチン接種歴のある患者はIgM抗体が偽陰性となりやすい。結果を待たず臨床診断で対応方針を決める
- 血清アミラーゼ単独の測定を診断的に扱わない。膵炎評価には膵型分画(アミラーゼ膵型分画・リパーゼ)と腹部症状の統合が必要
- 化膿性耳下腺炎で膿瘍形成が疑われても、超音波は当直帯に読める人がいない。当てても陰性は除外の根拠に使わない(翌朝の確定評価まで臨床所見で経過を見る)
5対応の注意
避けること・注意:抗菌薬投与(ウイルス感染に無効。化膿性耳下腺炎との誤診に注意)。アスピリン系解熱薬(ライ症候群リスク)。酸味・刺激物を含む食事の助言。血清アミラーゼ単独の結果のみで膵炎の有無を確定的に説明すること。
↑ このページの入口へ6紹介・入院の閾値
- 帰宅典型像で全身状態が良好なら対症療法で経過観察
- 入院無菌性髄膜炎で全身状態が安定していれば、夜間は当院で入院管理し、日勤帯に専門施設(小児神経科)と相談する(院内方針院内)。頭痛・嘔吐が強く経口摂取困難なら補液を要する、膵炎で経口摂取困難・脱水を伴う場合は入院での補液管理を検討
- 搬送・紹介難聴・耳鳴・平衡障害を疑う訴えがあれば緊急で耳鼻咽喉科へ紹介、意識障害・けいれん等、脳炎を疑う所見や全身状態が不安定な場合は上位施設・小児神経科へ紹介する、精巣炎・卵巣炎で外来対応が不十分、または両側性・重症例は専門科(泌尿器科・婦人科)へ紹介
7診療中の疑問と回答
- ワクチンを受けているので、おたふく検査は不要?
- 接種歴があってもムンプスを完全には除外できない。片側・両側の腫脹、曝露、発症日と他の原因を評価し、疑う場合は検体の種類・採取時期を確認して検査する。予防接種歴だけで学校・家族への感染対策を省かない。
根拠:CDC Mumps clinical overview - 腫れが強いので抗菌薬を追加する?
- 典型的なムンプスはウイルス性で抗菌薬の対象ではない。膿性排液、局所の強い発赤、脱水や全身悪化では化膿性耳下腺炎などを再評価する。嚥下困難、強い頭痛、嘔吐、精巣痛や聴覚の変化があれば合併症として診察する。
根拠:CDC Mumps clinical overview - 耳下腺の腫れが軽くなれば登校してよい?
- 感染対策は見た目の軽快だけで終了しない。国内の登校基準である腫脹開始後5日経過と全身状態良好を確認する。発症日・接触歴・検査結果を整理して学校へ伝え、再発熱や神経症状、難聴などがあれば登校より診察を優先する。
根拠:CDC Mumps clinical overview / 学校保健安全法施行規則 第19条(e-Gov現行法令)
- 腫れが軽ければ難聴の心配はない?
- ない。難聴の発症は耳下腺炎の重症度と無関係。軽症例でもレッドフラグ問診を省略しない。
- 耳下腺が腫れていなければ髄膜炎は否定的?
- 否定的ではない。中枢神経症状の約半数は耳下腺炎に先行または耳下腺炎を伴わずに出現する。
- 登園はいつから?
- 耳下腺・顎下腺・舌下腺の腫脹が発現した後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで。
9家族への説明
おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)です。耳の下や顎の下が腫れ、腫れは48時間以内にピークとなり、多くは7〜10日、長くても2週間ほどで軽くなります。片方の耳の聞こえが悪い、耳鳴りがする、ふらついて歩けない、といった様子は、腫れの程度に関わらず起こることがあるので、症状が軽くても早めにご連絡ください。強い頭痛や繰り返す嘔吐、首が硬い、強いおなかの痛み、(思春期以降の男の子は)陰嚢の腫れ・痛みがあるときもすぐに来てください。酸っぱい食べ物・飲み物は痛みを強くするので避けてください。登園・登校は、腫れが出てから5日経ち、全身の状態が良くなるまでお休みです。
一般教育・院内オペ補助。個別診断・治療の代わりにはなりません。β版・逐条レビュー継続中。