1-2おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)
病態・根拠
このページの目次11項目
1一目でわかるフロー
受診(耳下腺・顎下腺の腫脹主訴)
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【問診・視診・触診】発症時期/片側か両側か/発熱の有無/酸味刺激での増悪/
ワクチン接種歴(0/1/2回)/周囲の流行状況・接触歴/年齢(学童前 vs 思春期以降)
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┌─ レッドフラグ評価(§1)────────────────────────────┐
│ 頭痛・嘔吐・項部硬直・意識障害 → 無菌性髄膜炎/脳炎疑い │
│ 心窩部痛・持続嘔吐 → 膵炎疑い │
│ (思春期以降男児)陰嚢腫脹・疼痛 → 精巣炎疑い │
│ 急な難聴・耳鳴・ふらつき → ムンプス難聴疑い(緊急耳鼻科紹介) │
└─ 該当あり ─▶ 各専門科と連携・上位施設紹介/入院検討 ─────────────┘
│ 該当なし
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【腫脹パターンで鑑別(§2)】
両側/片側+発熱+初発 → 流行性耳下腺炎(典型像)
片側+反復歴+軽度発熱(〜37℃台) → 反復性耳下腺炎
発赤・強い圧痛・膿性排膿+高熱 → 化膿性耳下腺炎
下顎角が触知でき可動性のある腫瘤 → 頸部リンパ節炎
食事のたびに反復する腫脹(顎下腺優位) → 唾石症
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【検査(§3)】原則不要(臨床診断)。非典型・鑑別困難・確定要時のみRT-PCR/IgM等を選択
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【治療(§4)】対症療法が基本(解熱鎮痛・水分・軟らかい食事・安静)
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【保護者指導(§5)】再受診サイン(特に難聴・精巣炎・髄膜炎症状)/
出席停止=腫脹後5日+全身状態良好まで/ワクチン未接種なら任意接種案内
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軽快 → 終診(レッドフラグ非該当なら再診は症状増悪時のみ)図は横にスクロールできます →
2レッドフラグ(見逃し厳禁)
- ムンプス難聴(★最重要・最も見逃されやすい): 急な片側性の難聴・耳鳴・めまい・ふらつき。頻度は文献間で幅があり、0.01〜1%程度(報告により「1万人に1人」〜「100人に1人」に近い数字まで様々。[1]日本小児科学会=500〜1,000人に1人[0.1〜0.2%]、[3]兵庫県小児科医会=0.1〜1%、[4]JIHS=0.01〜0.5%)とされる[1][3][4]。耳下腺炎の重症度と難聴発症は無相関であり、軽症・不顕性感染でも発症しうる。片側性がほとんどで、乳幼児では自覚訴えが乏しく保護者が気づきにくい。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の2015〜2016年全国調査では2年間で少なくとも348例が確認され、多くが高度〜重度の非可逆性難聴であった[3]。確立された治療法はなく、発症を疑ったら早期に耳科的評価(聴力検査)につなげることが唯一の対応である[3]
- 無菌性髄膜炎: 頭痛・嘔吐・項部硬直。有症者の1〜10%に合併するとされ[1][4][10]、中枢神経症状の約半数は耳下腺炎に先行または耳下腺炎を伴わずに出現する点に注意(「耳下腺が腫れていないから髄膜炎は否定的」と判断しない)[10]。多くは自然軽快するが、髄液所見の確認と経過観察を要する
- 脳炎: 頻度は無菌性髄膜炎よりさらに低い(報告により0.002〜0.3%、または3,000〜5,000人に1人程度)が[1][4]、意識障害・けいれんを伴えば緊急対応
- 膵炎: 突然の心窩部痛・持続する悪心嘔吐。有症者の約4%に合併するとされる[4]。多くは1週間程度で軽快するが、脱水・経口摂取不良を伴えば補液を要する
- 精巣炎(思春期以降の男児): 陰嚢の疼痛・腫脹・発赤。思春期後感染では未接種者で約20〜40%(報告により約30%)、接種者でも約6%に合併しうる[3][4][10]。多くは片側性で、精巣萎縮を来しうるが、テストステロン産生・妊孕性は通常維持される[10]。両側性・不妊化は稀だが、思春期以降男児の耳下腺炎では必ず問診に含める
- 卵巣炎: 頻度は約5%とされる[4]。腹痛の訴えとして見逃されやすい
3重症度・病型の判定
重症度
- 軽症: 経口摂取可能、活気良好、発熱軽度〜なし
- 中等症: 発熱・咽頭痛・酸味刺激時痛みで摂取量がやや低下しているが、脱水徴候なく活気は保たれている
- 重症: §1のレッドフラグいずれか該当(髄膜炎/脳炎、膵炎、精巣炎/卵巣炎、難聴)
病型・鑑別
- 流行性耳下腺炎(典型像): 頭痛・筋肉痛・食欲低下・発熱に続き、片側または両側の耳下腺(時に顎下腺・舌下腺)のびまん性腫脹。腫れは48時間以内にピークとなり、1〜10日(多くは7〜10日、長くても2週間程度)で軽快する。最終的には約70〜75%が両側性となるが、当初は片側から始まることが多い。酸味の強い食品摂取で痛みが増悪しやすい。感染者の30〜35%は不顕性感染となる[1][2][3]
- 反復性耳下腺炎: 1〜6歳頃に好発し、同側または両側の耳下腺腫脹を年に複数回繰り返す。発熱は軽度(37℃台)〜なしで、強い痛みは稀。1〜2日、長くても1か月程度で自然消退することが多く、成長とともに頻度が減り思春期までに消失する。初回発症時は流行性耳下腺炎との鑑別が困難で、「繰り返すかどうか」の経過観察で初めて確定診断できる。ワクチンでは予防できない[2][7]
- 化膿性耳下腺炎: 細菌感染による。発赤を伴う強い圧痛、38℃以上の発熱、耳下腺管開口部からの膿性排膿を認めることが多く、抗菌薬治療を要する。膿瘍形成が疑われれば超音波検査が有用
- 頸部リンパ節炎: 齲歯・歯肉炎、扁桃炎・咽頭炎などが原因となる境界明瞭で可動性のある腫瘤。耳下腺腫脹と異なり下顎角の輪郭を触知でき、耳垂が挙上・外方に押し出されるような所見は通常ない
- 唾石症: 唾液腺管内の結石により唾液排出が障害され、食事摂取時(唾液分泌刺激時)に一致して反復する腫脹・疼痛を来す。顎下腺に多い。画像検査(超音波・CT)で結石を確認する
年齢因子: 幼児・小児期の感染は比較的軽症だが、思春期以降の感染は症状が強く出現しやすく、精巣炎・卵巣炎・髄膜炎などの合併症リスクが上昇する[4]。保育施設などムンプスウイルスに免疫のない乳幼児集団ではしばしば集団発生する[4]
4検査
- 必要: 典型的な臨床像(両側/片側の耳下腺腫脹+周囲流行歴)があれば臨床診断で足り、原則としてルーチンの検査は不要[1]。以下は非典型例・確定診断が必要な場合(届出目的、集団発生対応、ワクチン既接種者での非典型経過、耳下腺腫脹を伴わない無菌性髄膜炎の原因検索など)に選択的に行う
- RT-PCR(唾液・咽頭ぬぐい液・尿・髄液): 最も推奨される確定診断法。特にワクチン接種歴のある患者ではIgM抗体が偽陰性となりやすいため、発症早期の検体でPCR検査を優先する[5]
- 血清IgM抗体: 補助的診断法。ワクチン既接種者では陽性化しない、または陽性期間が短いことがあり、IgM陰性のみでムンプスを否定できない[5]
- 急性期・回復期ペア血清IgG抗体: 有意な上昇の確認により診断を補強
- 髄膜炎を疑う場合の髄液検査、膵炎を疑う場合の血中膵酵素(アミラーゼ膵型分画・リパーゼ)+腹部症状の評価
- 不要・過剰になりがち: 典型像での確定診断目的のルーチン血液検査・画像検査。血清アミラーゼ単独の測定を「診断的」に扱うこと(アミラーゼは唾液腺由来成分が大半を占め非特異的であり、膵炎の有無を裏付けるには膵型分画や臨床症状との統合が必要)[5]。ワクチン接種歴のない典型例へのPCR・抗体検査の一律実施(臨床診断で十分なため)
5治療
- 第一選択: 対症療法が基本。特異的抗ウイルス薬は存在しない[10]
- 解熱・鎮痛: アセトアミノフェンを第一に用いる。体重換算の考え方としては添付文書上の小児用量(1回10〜15mg/kg、投与間隔4〜6時間以上、1日総量60mg/kgを目安に、年齢・体重に応じた絶対量上限あり)が一般的な基準であり、個別の処方量は院内採用製剤の添付文書とGL値の一般論に沿って決定する。アスピリン系薬剤は小児のウイルス性疾患には用いない(ライ症候群リスク)
- 水分・栄養: 軟らかく刺激の少ない食事を勧め、咀嚼時痛を軽減する。酸味の強い食品・飲料(柑橘類など)は唾液分泌を刺激し疼痛を増悪させるため避けるよう指導する[10]
- 安静
- 第二選択・無効時(合併症別の対応):
- 無菌性髄膜炎: 多くは自然軽快するため対症療法(解熱鎮痛・輸液)を基本とし、頭痛・嘔吐が強く経口摂取困難な場合は入院での経過観察・補液を検討
- 精巣炎: 床上安静、陰嚢の挙上・支持、冷罨法、鎮痛薬による疼痛コントロール[10]
- 膵炎: 嘔吐が強い場合は絶食・輸液管理とし、腹部症状の経過を観察
- やってはいけない/非推奨:
- 抗菌薬投与(ウイルス感染に無効。化膿性耳下腺炎との誤診に注意した上で判断する)
- アスピリン系解熱薬(小児のウイルス性疾患ではライ症候群リスクのため回避)
- 酸味・刺激物を含む食事の助言(疼痛を増悪させる)
- 「軽症だから様子見でよい」という安易な判断(難聴の発症は耳下腺炎の重症度と無関係なため、軽症例でもレッドフラグ問診を省略しない)
- 血清アミラーゼ単独の結果のみで膵炎の有無を確定的に説明すること
6再診・帰宅指導・保護者説明
- 再受診すべきサイン(保護者に伝える):
- 片耳の聞こえが悪い、耳鳴りがする、呼びかけへの反応が乏しい、ふらついて歩けない(ムンプス難聴を疑うサインとして最優先で明確に伝える。「症状が軽いから大丈夫」ではないことを強調する)
- 強い頭痛、繰り返す嘔吐、首が硬く曲がらない、ぐったりして反応が悪い(髄膜炎/脳炎)
- 強い腹痛が続く、嘔吐が続く(膵炎)
- (思春期以降の男児)陰嚢の腫れ・痛み・発赤(精巣炎)
- 高熱が4〜5日以上続く、腫脹部の発赤や強い圧痛が増悪する(化膿性耳下腺炎への波及や他疾患の可能性)
- 経過の見通し・登園/登校の目安:
- 腫脹は48時間以内にピークとなり、多くは7〜10日、長くても2週間程度で軽快する見通しであることを伝える[1][2]
- 出席停止の基準(学校保健安全法施行規則 第19条・第二種学校感染症): 「耳下腺、顎下腺又は舌下腺の腫脹が発現した後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで」[1][6]。この基準は平成24年4月1日施行の改正(平成24年文部科学省令第11号)で従前の「腫脹消失まで」から現行基準に変更されたもの。令和5年5月8日施行の改正(令和5年文部科学省令第22号)は新型コロナウイルス感染症の出席停止基準を新設する趣旨であり、おたふくかぜの条文自体はこの改正の対象外(文部科学省通知5文科初第345号の新旧対照表で確認済み)。感染性は腫脹発現後5日程度で弱まるとされる一方、腫脹自体は2週間ほど残ることがあるため、「腫れが完全に引くまで」ではなく上記基準日数で判断する旨を保護者・園/学校双方に説明する
- 保育所・未就学児についても同基準に準じた考え方で登園の目安を伝える
- 紹介・入院の閾値:
- 難聴・耳鳴・平衡障害を疑う訴えがあれば緊急で耳鼻咽喉科へ紹介(治療法は確立していないが、早期の聴力評価と患者・家族への説明のため速やかな受診が望ましい)
- 髄膜炎/脳炎を疑う神経症状(意識障害、けいれん、強い頭痛・嘔吐、項部硬直)は上位施設・小児神経科と連携し、髄液検査・入院を検討
- 膵炎を疑い経口摂取困難・脱水を伴う場合は入院での補液管理を検討
- 精巣炎・卵巣炎で疼痛管理が外来対応で不十分な場合、または両側性・重症例は専門科(泌尿器科・婦人科)へ紹介
7出典(日本のGL優先・URL+版年)
- [1] 公益社団法人日本小児科学会「流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)」(一般の方向けページ、予防接種・感染症情報): https://www.jpeds.or.jp/general/prevention/yobo-kansensho/kansensho02-05.html
- [2] 神奈川県衛生研究所「流行性耳下腺炎」: https://www.pref.kanagawa.jp/sys/eiken/003_center/0307_shikkan/files/131127_mumps.htm
- [3] 兵庫県小児科医会「おたふくかぜと難聴」(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会2015〜2016年全国調査の紹介を含む): https://hyogo-pa.org/survey/mumps/
- [4] 国立健康危機管理研究機構(JIHS)感染症情報提供サイト「感染症発生動向調査からみる1983年〜2024年の我が国の流行性耳下腺炎の状況」: https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/article/mumps/010/index.html
- [5] 国立健康危機管理研究機構(JIHS)病原体検査マニュアル「流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)の検査」令和5年度稀少感染症診断技術研修会資料: https://www.niid.jihs.go.jp/images/lab-manual/kisyo/6_R5_Mumps_Kato.pdf
- [6] 学校保健安全法施行規則 第19条(第二種学校感染症・出席停止期間の基準): https://laws.e-gov.go.jp/law/333M50000080018 ※現行の「腫脹発現後5日+全身状態良好」基準は平成24年4月1日施行の改正(平成24年文部科学省令第11号)による。令和5年5月8日施行の改正(令和5年文部科学省令第22号)は新型コロナウイルス感染症条項の新設が目的で、おたふくかぜの条文は対象外であることを文部科学省通知「学校保健安全法施行規則の一部を改正する省令の施行について(通知)」5文科初第345号(令和5年4月28日)の新旧対照表で確認済み: https://www.mext.go.jp/content/20230427-mxt_ope01-000004520_2.pdf
- [7] 社会福祉法人恩賜財団済生会「反復性耳下腺炎」: https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/recurrent_parotitis/
- [8] 公益社団法人日本小児科学会「おたふくかぜワクチン接種回数に関するお願い」(2回接種の推奨・接種時期): https://www.jpeds.or.jp/society-activities/pediatric-medical-care/vaccination/vaccinations-infectiousdiseases/20370.html
- [9] 公益社団法人日本小児科学会 会長(滝田順子)発 厚生労働大臣(上野賢一郎)宛要望書「おたふくかぜ含有ワクチンの早期定期接種化および既承認ワクチンの活用に関する要望書」2026年6月4日付(令和8年6月4日、PDF本文の日付表記で確認。掲載URLの
20260611はアップロード日でありPDF本文の署名日と異なる点に注意): https://www.jpeds.or.jp/uploads/2026-06/20260611_MMR.pdf - [10] MSDマニュアル プロフェッショナル版「ムンプス」(乳児および小児における一般的なウイルス感染症の章): https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/19-小児科/乳児および小児における一般的なウイルス感染症/ムンプス
改定で内容が変わりうるため、運用前に各リンク先の最新版を確認すること。難聴・精巣炎などの合併症頻度は文献・調査年により幅があるため、院内説明資料化の際は最新の一次データで数値を再確認することを推奨する。
8臨床医が迷う場面
9ワクチンを受けているので、おたふく検査は不要?
接種歴があってもムンプスを完全には除外できない。片側・両側の腫脹、曝露、発症日と他の原因を評価し、疑う場合は検体の種類・採取時期を確認して検査する。予防接種歴だけで学校・家族への感染対策を省かない。
10腫れが強いので抗菌薬を追加する?
典型的なムンプスはウイルス性で抗菌薬の対象ではない。膿性排液、局所の強い発赤、脱水や全身悪化では化膿性耳下腺炎などを再評価する。嚥下困難、強い頭痛、嘔吐、精巣痛や聴覚の変化があれば合併症として診察する。
11耳下腺の腫れが軽くなれば登校してよい?
感染対策は見た目の軽快だけで終了しない。国内の登校基準である腫脹開始後5日経過と全身状態良好を確認する。発症日・接触歴・検査結果を整理して学校へ伝え、再発熱や神経症状、難聴などがあれば登校より診察を優先する。
一般教育・院内オペ補助。個別診断・治療の代わりにはなりません。β版・逐条レビュー継続中。