5-14 脱水と水分補給(経口補水・点滴)

緊急

5-14脱水と水分補給(経口補水・点滴)

ORSが第一選択・維持輸液は等張液へ
β版 · 紙面の最終確認 2026-10-30

日付は紙面の確認日です。院内承認を示すものではありません。処方・運用は、本文の適用条件と出典、院内の採用薬・手順を確認してください。

このページの目次10項目

ページ内目次

1ポイント

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2鑑別のながれ

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3脱水度の評価(乳児基準)

脱水なし体重減少5%未満経口摂取の維持、ORSは補助的に
軽症体重減少目安5%ORSが第一選択(目安50mL/kgを4時間)
中等症体重減少目安10%ORSが第一選択・頻回の再評価(目安100mL/kgを4時間)
重症体重減少目安15%経静脈輸液を優先、ショック評価(目安150mL/kg)
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4計算・スコア

判定

脱水の簡易評価(外来4項目)

該当0項目: この簡易評価では5%以上の脱水は示唆されない(臨床像で再評価)

体重減少率9%超、またはショック/プレショック徴候があればこの評価に依らず重度脱水として経静脈輸液を優先(本シート§4参照)。

いつ使う

外来での急性胃腸炎などの脱水程度の当たり付け。4項目中2項目以上の該当で体重の5%以上の脱水が示唆される(厚生労働省 抗微生物薬適正使用の手引きの簡易評価)。

落とし穴
  • 2項目未満でも脱水は否定されない — 経口摂取・尿量・経過と合わせて判断する
  • 詳細な重症度分類はCDS(4項目0〜8点: 軽度1〜4点/中等症〜重症5〜8点、小児急性胃腸炎診療GL2017)を併用
次の一手

評価結果に応じて経口補水療法(ORT)または輸液へ(本シート§4と「脱水と水分補給」シート参照)。嘔吐でORTが進まない場合の制吐薬の考え方は詳細リファレンス参照。

出典

厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き」(4項目中2項目該当で体重5%以上の脱水が示唆)/日本小児救急医学会「小児急性胃腸炎診療ガイドライン2017」/Friedman JN, et al. J Pediatr 2004(Clinical Dehydration Scale)。URLは本シート詳細リファレンスの出典参照。

計算

ORS補正量の目安(4時間)

kg

重症(頻脈・末梢冷感・傾眠〜意識障害・ショック徴候)は経静脈輸液を優先 — この計算の対象外(本シート参照)。

いつ使う

急性胃腸炎などの軽症〜中等症脱水の欠乏量補正。ORSが第一選択(軽症・中等症とも)。数値は体重減少%に対応する目安(乳児: 軽症5%=50mL/kg・中等症10%=100mL/kg/年長児: 軽症3%=30mL/kg・中等症5〜6%=50〜60mL/kg)。

落とし穴
  • 乳児と年長児で同じ「軽症」でも補正量が異なる(体液組成の差)
  • NICEは年齢・軽重を区分せず「臨床的脱水あり」で一律50mL/kg(4時間)+維持量の簡略設計 — どちらの設計で運用するかは施設判断
  • 高Na血症性脱水(易刺激性・筋緊張亢進・けいれん)は急速補正を避け別管理
次の一手

4時間補正後に再評価→是正されていれば通常の食事・水分へ。進まなければ点滴適応の判断へ(本シート§4)。

出典

小児急性胃腸炎診療ガイドライン2017/NICE NG29/MSD Manual Professional(年齢別区分・Finberg分類由来)。全出典URLは本シート詳細リファレンス参照。

計算

輸液維持量(Holliday-Segar)

kg

等張液を第一に考える。低張液は医原性低Naのリスク。新生児(生後28日未満)は対象外。個別処方ではない。

いつ使う

点滴が必要になった場合の維持輸液量。Holliday-Segar式は古典的な出発点(個別処方箋ではなく考え方の例示)。最初の10kgまで100mL/kg、次の10kg(11〜20kg分)+50mL/kg、20kgを超える分+20mL/kg。

落とし穴
  • これは量の出発点であり、個別の処方ではない
  • Holliday-Segar式は「量」の計算式であって輸液の種類を規定しない。従来セットで使われてきた低張液(1/3〜1/4生食相当)は、嘔吐・疼痛・脱水による非浸透圧性ADH分泌と重なると医原性低Na血症・けいれんのリスクを上げる
  • AAP 2018: 生後28日〜18歳で維持輸液を要する患者には等張液を第一選択
  • 現代は「Holliday-Segar算出量をそのまま入れる」運用ではない。国内総説も「Holliday-Segar式に基づく従来の低張液から、より制限した輸液量での等張液選択が主流になっている」としている。高ストレス下の小児では算出量の1/3〜1/2に制限する提案もある
  • この式には上限が組み込まれていない。体重が大きいほど式をそのまま延長すると非現実的な量になる。院内の上限を決めておくこと
  • 除外(適用範囲外): 神経外科疾患、先天性/後天性心疾患、肝疾患、悪性腫瘍、腎機能障害、尿崩症、大量の水様性下痢、重度熱傷、生後28日未満またはNICU、18歳超
  • K追加は排尿(尿量)を確認し、腎機能に問題がないことを確認したうえで
  • 新生児(生後28日未満)は対象外
次の一手

維持輸液が必要なら等張液を第一に考える。Kは尿量確認と腎機能OKのうえで追加。経口摂取が可能になれば経口へ。

出典

Holliday-Segar式/坂井 2025 日小児腎臓病学会誌/Feld et al. AAP 2018 Pediatrics。全出典URLは本シート詳細リファレンス参照。

計算

初期輸液・ボーラス量(場面別)

kg

場面

この道具の目的は量を出すことではなく、場面を取り違えないこと。同じ「初期輸液」でも 10mL/kg と 20mL/kg が場面によって使い分けられており、量そのものよりどの場面かの判断が先にある。とくにショックでないDKAに 20mL/kg を急速投与すると脳浮腫のリスクを上げる。実施は院内プロトコルに従い、医師が判断する。

いつ使う

体重と場面を選ぶと、正本が挙げている初期輸液の量と投与時間が出る。「ショックなら20mL/kg」と丸暗記していると、DKA・アナフィラキシーで量も時間も変わることを見落とす。

落とし穴
  • 10mL/kg と 20mL/kg は矛盾ではなく場面の違い。どちらか一方を既定値として覚えない
  • 敗血症性ショックでは J-SSCG2024 が10〜20mL/kg ずつ反復し、反応を評価する形をとる。1回で決め打ちにせず、輸液過剰の所見や反応の鈍化があれば中断を検討する
  • アナフィラキシーのガイドラインは成人量(総量1〜2L)が先に目に入る書きぶりになっている。「1〜2L」は成人の総量目安で、小児にそのまま当てはめない
  • 胃腸炎で使う「下痢1回ごとに10mL/kg追加(上限240mL/回)」は経口の追加量であって、ここでいう静脈内ボーラスとは別物
  • 維持輸液(Holliday-Segar)とボーラスは別の話。ボーラス後の維持は別に計算する
出典

ショック時20mL/kg=本サイト「経口補水・外来輸液」「血液ガスの読み方」。敗血症性ショック10〜20mL/kgずつ反復=J-SSCG2024 小児章。アナフィラキシー小児10mL/kg=日本アレルギー学会 アナフィラキシーガイドライン2022(図12ステップ8・p19、「4 症状別の治療/補液」p24)。DKA=ISPAD 2022 および 日本糖尿病学会・日本小児内分泌学会 2024コンセンサスガイドライン第9章。ショックでない重症発熱性疾患にルーチンのボーラスを行わない、および最初の1時間の合計上限(40〜60mL/kg)=JRC蘇生ガイドライン2020 第3章 p.200-201「8 ショック」(原文PDFで直接確認・2026-09-13)。いずれも本サイトの該当シートに一次出典のURLを載せている。

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5検査

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6処置・処方例

Rp. 1経口補水液(ORS) 乳児目安:軽症50mL/kg・中等症100mL/kgを4時間で補正(年齢・程度別の量は下の計算ツールで体重から出す) 経口
脱水なし〜中等症の第一選択。補正量・下痢時の追加量は上の計算ツールで体重から出す
  1. 母乳・ミルク・普段の水分摂取は中止せず継続する
  2. 嘔吐がある場合は5mLを5分おきから開始し、耐容性を見て漸増する
  3. 吐いてしまっても、5〜10分休止してから少量から再開する
  4. 経口摂取が可能になれば速やかに通常の食事・水分へ戻す
Rp. 2経静脈輸液 ショック:生理食塩水20mL/kgを急速投与。ショックでない脱水:ソリタT1号(開始液)10〜20mL/kg/時で2〜3時間(胃腸炎と脱水の輸液方針を準用。本症固有の輸液プロトコルとしての確定はまだ無い) 点滴
重症脱水・ショック疑い、または経口補水トライアルが失敗のとき
  1. ショック(CRT延長・頻脈・意識低下):生理食塩水20mL/kgを急速投与し、脈拍・CRT・意識・尿量で再評価。必要なら反復
  2. ショックでない中等症〜重症の脱水:ソリタT1号(開始液)を10〜20mL/kg/時で2〜3時間
  3. 改善したら早めに経口補水(ORS)へ戻す
点滴はショックなら生理食塩水20mL/kg急速投与、ショックでなければソリタT1号10〜20mL/kg/時で2〜3時間(胃腸炎と脱水の方針を準用。本症固有の確定はまだ無い)。オンダンセトロンも同方針(原則使わない)を準用。 避けること・注意:STEC/O157感染が疑われる血便では確定診断前に抗菌薬を安易に投与しない(HUSのリスクを高めうる)。スポーツドリンク・果汁・炭酸飲料をORSの代替にしない。オンダンセトロンは日本では胃腸炎に適応外であり、胃腸炎と脱水の方針(原則使わない)を準用する。
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7帰宅・入院の目安

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8診療中の疑問と回答

経口補水で吐いたら失敗として点滴する?
一度の嘔吐で判断せず、少量頻回で再開し飲めた量と損失、尿量と循環を評価する。必要量を保てない場合は経鼻胃管での補水も検討する。ショックや意識障害は経口トライアルを続けず救急対応し、点滴後も可能になれば経腸補水へ戻す。
根拠:RCH Gastroenteritis:経腸補水と退院条件
計算した維持量だけ入れれば脱水は補正できる?
維持量、すでに失った量、続く嘔吐・下痢の損失は分けて考える。体重、出納、診察と電解質に応じて補液を調整し、最初の処方を固定しない。腎・心疾患やNa異常がある児は一般的な補水計算をそのまま適用せず専門科へ相談する。
根拠:RCH Gastroenteritis:経腸補水と退院条件
帰宅前にどこまで飲めればよい?
一口飲めたことだけでなく、観察中に必要な飲水を保て、嘔吐が減り、軽度以下の脱水と安定した反応・循環を確認する。家庭で使う補水液と与え方、悪化時の連絡方法を共有する。繰り返す不成功や診断不明例は入院を含め再評価する。
根拠:RCH Gastroenteritis:経腸補水と退院条件
点滴の方が確実ではないか?
軽症〜中等症ではORSと経静脈輸液の脱水是正効果は同等とされ、末梢静脈確保の侵襲を避けられるORSが優先される。
維持輸液に低張液を使ってよいか?
国際的には等張液が第一選択に転換している。低張液は医原性低Na血症・けいれんのリスクがある。
点滴になったら何を使う?
ショックなら生理食塩水20mL/kgを急速投与。ショックでない脱水はソリタT1号(開始液)10〜20mL/kg/時で2〜3時間——胃腸炎と脱水の方針を準用。本症固有の輸液プロトコルとしての確定はまだ無い。
オンダンセトロンは使うか?
胃腸炎と脱水の方針(原則使わない。経口補水が進まないときのみ医師が個別に判断)を準用する。本症固有の確定はまだ無い。
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10家族への説明

水分は一気にたくさんではなく、少しずつ何度も与えます。スプーン1杯(5mLくらい)から5分おきに与え、吐かなければ少しずつ量を増やします。スポーツドリンク・果汁・炭酸飲料は下痢を悪化させることがあるので避け、母乳・ミルクは続けてください。ぐったりして反応が乏しい、半日以上おしっこが出ない、唇や口の中がカラカラに乾いている、血便がある、何度も吐いて水分が入っていかない——このいずれかがあればすぐに連絡してください。

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