3-4急性腹痛・嘔吐(外科のない当直で)
腹痛・嘔吐・時間で結果が決まる4つの疾患
β版 · 紙面の最終確認 2026-10-30
日付は紙面の確認日です。院内承認を示すものではありません。処方・運用は、本文の適用条件と出典、院内の採用薬・手順を確認してください。
このページの目次8項目
1ポイント
- 外科を持たない当直では、診断が確定しなくても送る判断はできる。確定を待って時間を使うほうが危ない。
- 当直帯の当院に画像は無い(超音波・CT・MRIいずれも)。当直帯に使えるのは問診・診察・簡易採血・迅速検査・尿定性・便、そして時間だけ。
- 時間で結果が決まるのは4つ。胆汁性嘔吐(中腸軸捻転)/陰嚢痛(精巣捻転)/間欠的な啼泣(腸重積)/腹膜刺激(穿孔)。最初の3分でこの4つを外す。
- 腹痛の子で腹だけを診ない。陰嚢・鼠径・咽頭・呼吸数・尿・血糖。腹以外の病気が腹痛で来る。
- 「胃腸炎」と書いた瞬間に思考が止まる。年少児の虫垂炎は胃腸炎と診断されて進行することがある。
判断の流れ
拡大して見る ↗2鑑別のながれ
- 胆汁性嘔吐(緑〜黄色)→新生児〜乳児。腹部所見が乏しくても否定しない→中腸軸捻転(腸回転異常症)(数時間で腸管壊死)
- 男児の下腹部痛・陰嚢痛→挙睾筋反射消失、精巣高位・横位→精巣捻転(発症6〜8時間がゴールデンタイム)
- 3か月〜2歳の間欠的な啼泣+嘔吐→痛みの合間はケロッとしている。血便は遅発所見→腸重積
- 鼠径部〜陰嚢の硬い膨隆→触診で整復できない・皮膚変色・不機嫌→嵌頓鼠径ヘルニア(詳細)
- 板状硬・反跳痛・体動で悪化する持続痛→腹膜刺激所見→腹膜炎(穿孔)
- 発熱+腹痛だが腹部所見に乏しい→呼吸数・検尿・咽頭・鼓膜→尿路感染症・下葉肺炎・溶連菌など腹部外の原因
- 紫斑+腹痛→腹痛が紫斑に先行することがある→IgA血管炎(腸重積合併に注意)
- 女児の下腹部痛+嘔吐→卵巣嚢腫の既往→卵巣捻転(詳細)
- 初経後の下腹部痛→月経歴を2〜3か月遡って詳しく聴く。「今生理中です」「生理が終わったばかりです」という本人の自己申告だけで否定しない→子宮外妊娠(破裂すれば出血性ショック。卵巣捻転と同様に妊娠反応を並行して確認する)
- 目撃のない突然の嘔吐・流涎・胸腹部痛→誤飲の可能性(磁石・ボタン電池)→消化管異物(詳細)
3検査
- エコーが第一選択だが当直帯は当てられない(腸重積・虫垂・遊離腹水・卵巣・陰嚢血流の評価は送り先で行う)
- X線は夜間も撮れる(当直医が読む)。遊離ガス・腸閉塞・異物など目的を決めてから撮る。「便秘の確認」でルーチンに撮らない
- 血液検査は全身状態不良・脱水・虫垂炎疑い・DKA疑いで。CRP初回低値を除外に使わない
- 検尿の閾値は低く。UTI・DKA・結石が一度に拾える
- 血糖は腹痛+嘔吐なら測る
- 初経後の女児の下腹部痛は妊娠反応検査(尿・血)を入口に加える。電話を待たせず並行して行い、陽性なら送り先エコーで子宮内胎嚢の有無を確認する
- エコー陰性は否定ではない、という原則は当直帯では「疑いが強ければ送る」にそのまま置き換わる
4帰宅・入院の目安
- 帰宅レッドフラグの4つ(胆汁性嘔吐・陰嚢痛・間欠啼泣・腹膜刺激)がない、経口補水ができる、原因がはっきりしている(胃腸炎・便秘等)、再受診の条件を具体的な所見で渡せる
- 入院DKA疑いは当院で初期輸液・カリウム補正と搬送相談を並行。軽症に見えても翌朝まで相談を待たず、小児集中治療のある専門施設へつなぐ(DKAの既存方針)、尿路感染症・腎盂腎炎など外科を要さない疾患は多くが当院で開始できる
- 搬送・紹介胆汁性嘔吐・陰嚢痛・間欠啼泣・腹膜刺激のいずれか、虫垂炎・嵌頓ヘルニア・卵巣捻転・消化管異物など外科的疾患を疑う、初経後女児で妊娠反応陽性の下腹部痛(子宮外妊娠疑い)は持てない。産婦人科のある施設へ、意識障害・重度アシドーシス・循環不全を伴うDKA疑いは持てない。初期蘇生のうえ直ちに搬送する(院内方針院内)、画像は当直帯にないため、診断確定を待たずに連絡する
5診療中の疑問と回答
- 鎮痛薬を使うと診断できなくなるので待つ?
- 適切な鎮痛は行い、その前後で腹部所見と全身状態を記録する。痛みが減ったことだけで外科疾患を否定しない。胆汁性嘔吐、腹膜刺激、陰嚢痛、間欠的な激痛を先に確認し、疑いがあれば画像待ちで搬送を遅らせない。
根拠:RCH Acute abdominal pain - 下痢があるから胃腸炎として帰してよい?
- 虫垂炎なども下痢を伴うことがある。持続・局在する痛み、歩行時痛、嘔吐との順序、尿・陰嚢・鼠径部や呼吸器の所見を確認する。年少児では典型像を欠くため、繰り返し診察し、説明できない疼痛や悪化は外科へ相談する。
根拠:RCH Acute abdominal pain - 診断がつかない腹痛を帰宅させる条件は?
- 全身状態が安定し、痛みの経過が改善し、緊急疾患の懸念が低く、飲水と再診が可能な場合に限って検討する。痛む場所の変化、持続嘔吐、血便、歩けないなどの再受診条件を具体的に伝え、再評価時刻を設定する。観察手段が乏しければ紹介する。
根拠:RCH Acute abdominal pain
- 嵌頓ヘルニアの用手整復は当院で試みる?
- 試みない。疑った時点で外科のある施設へ搬送する。
- 腸重積の整復はどうする?
- 当直帯では行わない。確診の手段が無く不成功時に開腹できないため、疑った時点で整復可能施設へ搬送する。
- エコーが撮れないのに虫垂炎はどう外す?
- 外さない。年少児・肥満児で感度が落ちる検査でもあるので、疑いが強ければ画像を待たずに送る。
- 初経後女児が「今生理中です」と言ったら妊娠は考えなくていい?
- 考える。自己申告だけを信じて子宮外妊娠を見逃した実例が複数報告されている。月経歴を2〜3か月遡って聴き、妊娠反応を確認する。
7家族への説明
お腹の痛みには、様子を見てよいものと、時間で結果が決まるものがあります。緑色の吐物、うずくまるほどの痛みが波で来る、血の混じった便、ぐったりして反応が鈍い — このどれかが出たら、次の診療時間を待たずに来てください。
一般教育・院内オペ補助。個別診断・治療の代わりにはなりません。β版・逐条レビュー継続中。