嵌頓鼠径ヘルニアの整復可否と送るタイミング
不機嫌が止まらない乳児では、おむつを開けて鼠径部と陰嚢を診る。腹部だけ診ていると落ちる。待機手術または手術なしで嵌頓する確率は全小児例で7%、早産児で11%。疼痛が軽微で嘔気だけのこともある(成人の症例集積からの指摘で、小児データではない)ため、派手な痛みを待たない。反復する嵌頓と、そのたびの整復操作そのものが精巣壊死のリスクになりうるため、「戻せたから様子見」で終わらせず外科につなぐ。
始める前に
- 不機嫌な乳児では必ずおむつを開ける。鼠径部と陰嚢を左右比較で診る。
- 皮膚の色(変色は阻血のサイン)。
- 男児では精巣の位置・硬さも同時に見る(捻転との鑑別)。
- 診断は基本的に病歴と身体所見。還納可能な膨隆にルーチンの画像検査は推奨されない。
手順
- 1
硬い腫瘤をそっと押して消えるかを確認する。
消えずにひどく嫌がるなら嵌頓。
- 2
男児で陰嚢まで及ぶ腫脹と疼痛があれば、精巣捻転との鑑別をカラードプラで行う。捻転なら6〜8時間の勝負になる。
- 3
膨隆がはっきりしない場合は超音波検査を行う。
- 4
腹膜刺激症状・ショック・皮膚の変色があれば整復を試みない。絶食・ルート確保のうえ外科のある施設へ緊急搬送する。
- 5
送ると決めたら絶食・ルート確保を行う。
- 6
受け入れ先へ先に電話する。「嵌頓か捻転か鑑別中」ならそのまま伝える。
相手の準備が変わる。
- 7
発症時刻、整復を試みたか・試みていないかを明示する。
- 8
家族に「当院では手術ができない」ことを先に伝える。
やってはいけない
- 腹膜刺激症状・ショック・皮膚の変色があれば整復を試みない。絶食・ルート確保のうえ外科のある施設へ緊急搬送する。
- 整復できても「戻せた」で終わらせない。反復する嵌頓と反復整復は精巣壊死リスクになりうる。
- 阻血のサイン(皮膚変色・腹膜刺激)が出ていれば整復を試みず送る。嵌頓は数時間単位の緊急である。
終わったあと
- 整復できた場合も「戻せた」で終わらせない。反復嵌頓と反復整復は精巣壊死リスクのため、外科受診につなぐ。
この場で持てない・送る
- 要確認:当院で用手整復を試みる方針か、試みずに搬送するか。試みるなら鎮静の可否と、失敗時の搬送手順。日本の一次情報に明示的推奨がないため院内で決める必要があり、決まっていない状態で夜間に判断を迫られるのが最悪。このシートの分岐の中心。
- 要確認:整復に鎮静を使う場合の院内手順(当直1人体制で可能か)。
- 要確認:小児外科の夜間・休日の受け入れ先と直通番号
- 要確認:整復できた場合のフォロー(当院で外来につなぐか、その場で外科紹介か)
- 小児に特化した『何時間で壊死するか』を示す日本の学会一次資料は見つかっていない。参考の成人症例集積(発症から手術まで6時間未満で他臓器切除例なし、12時間未満と12時間以降で他臓器切除率12.5%対47.6%・有意差なしp=0.1839)は小児への外挿が検証されていない。
- 要確認:本シートの時間の数値は成人データに基づく参考値。小児のデータが無いことを明示した現在の書き方でよいか。
手順・適応・禁忌はすべて本シートの正本の記載のみ。院内の器材・採用薬・搬送先は施設ごとに違うため、適用前に院内ルールを確認すること。