麻疹(はしか)

麻疹(はしか)

発熱・感染症β版・逐条レビュー継続中

2026-09-12更新
β版用量は適用前に一次資料と院内採用を確認。このβ版について

施設プロファイル: 二次救急。治療そのものより、院内で広げないことが当院の最大の仕事。特異的治療はない。

30秒要約

  • 疑った瞬間に動線を止める。「麻しんは空気感染するため、手洗いやマスクでは十分な予防ができない」。外来で、感受性者が麻疹患者と20分未満空間を共有した後に感染・発症した例が報告されている
  • 感染可能期間は「発症の1日前から解熱後3日を経過するまで」(修飾麻疹で発熱がない場合は発疹出現後5日を経過するまで)。曝露者調査はこの定義で切る。
  • 曝露後72時間以内ならワクチン、6日以内なら免疫グロブリンで発症を予防できる可能性がある。時刻を確定して急ぐ。
  • 届出は「診断後直ちに」。法定は7日以内だが、麻疹は迅速な行政対応のため特別に早期の届出が求められている。臨床診断例(検査未実施)でも届出対象
  • 発疹出現後3日以内の採血ではIgMが偽陰性になりうる。陰性を否定の根拠にしない。

疑った瞬間にやること(順番を守る)

やること
1待合に戻さず、その場から個室管理体制へ。「個室管理体制」とは空気感染対策が可能な体制(可能な場合は陰圧室)
2対応する職員を限定する。麻疹抗体陽性が確認されている者、または1歳以上での2回接種が記録で確認されている者に限る
3やむを得ず免疫が不十分な者が対応する場合は、N95マスクあるいはそれ以上の性能を持つろ過マスクを着用する
4保健所へ連絡。診断後直ちに届け出る
5検査を2系統、並行して出す(下記)
6接触者リストを作る。感染可能期間内に、直接接触/2m以内/同一時間に空間を共有した者
7接触者全員の麻疹含有ワクチン接種歴を記録で確認する。記録がない場合は「受けていない」と考える。0歳での接種は接種回数に含めない
8免疫が無い/不十分な接触者へ、72時間以内のワクチンまたは6日以内の免疫グロブリンを検討

平常時に決めておくこと(ガイドラインの要求): 「麻疹(疑い)患者受診時の対応手順(休日夜間含む)は平常時に決定し、共有しておく」「来院時の入口を別に設けることを想定しておく」。受付段階で発疹の有無を確認し、麻疹を否定できない発疹があれば速やかに別室へ誘導できるよう準備しておく。

臨床経過

時期日数所見
潜伏期通常10〜12日間
カタル期2〜4日38℃前後の発熱、咳、鼻汁、くしゃみ、結膜充血、眼脂、羞明。熱が下降した頃に頬粘膜にコプリック斑
発疹期3〜4日(詳細版では3〜5日)一度下降した発熱が再び高熱となり(39〜40℃)、特有の発疹(小鮮紅色斑が暗紅色丘疹、融合し網目状に)。耳後部→頸部→顔→体幹→上肢→下肢の順に広がる
回復期7〜9日解熱し、発疹は消退し、色素沈着を残す

二峰性の発熱(カタル期でいったん下降 → 発疹期に再上昇)が診断の手がかり。

コプリック斑: 「発疹出現の1〜2日前頃に頬粘膜の臼歯対面に、やや隆起し紅暈に囲まれた約1mm径の白色小斑点」。発疹出現後2日目を過ぎる頃までに急速に消失する

検査(2系統を並行して出す)

系統検体・時期出す先
PCR/ウイルス分離発疹出現後7日以内に、EDTA血・咽頭ぬぐい液・尿の3点セット(できれば2点以上)保健所を通して地方衛生研究所
麻疹特異的IgM抗体(EIA法)発疹出現後4〜28日医療機関で実施

この2つは並行して実施する。

偽陰性・偽陽性の落とし穴

  • 発疹出現後3日以内に採血された検体では、麻疹であってもIgMがまだ陽性になっていない場合がある。「結果の解釈には十分な注意が必要」。
  • 疑いが強いのにIgM陰性なら、日を改めて再検査+急性期と回復期のペア血清を。
  • 修飾麻疹では急性期のIgM抗体が検出されない場合が多い。急性期からIgG抗体が著明な高値(EIA法で100前後)であることを確認し、PCRでウイルス遺伝子を検出する。
  • 麻疹含有ワクチン接種から8〜56日の場合、IgMが陽性になる場合がある。遺伝子型で鑑別可能(ワクチンは遺伝子型A)。
  • CF法・HI法は感度が低く、免疫保有の確認には適さない

ペア血清の判定: 急性期に比して回復期の抗体価が4倍以上の上昇で有意上昇(EIA法は2倍以上)。

所見 → 次の一手

所見次の一手
発熱+咳・鼻汁・結膜炎(カタル症状が強い)+二峰性の発熱麻疹を鑑別に入れる。ワクチン歴(1歳以上で2回か)と流行状況、発症前1か月の行動(海外渡航・国内旅行・人が多く集まる場所)を確認
コプリック斑ほぼ確定的。動線を止める
発疹が耳後部・頸部・前額部から始まり下降する麻疹らしい経過
軽症で非典型(微熱・短い発熱・カタル症状なし・限局性の発疹)修飾麻疹。ワクチン免疫が低下してきた者に多い。IgMが陰性になりやすいのでPCRとIgG高値で診断。感染力は弱いがゼロではない
呼吸状態の悪化肺炎の合併は6%。乳児では死亡例の60%は肺炎に起因する
意識障害・けいれん1,000例に0.5〜1例で脳炎約60%は完全に回復するが、25%に中枢神経系の後遺症、致命率は約15%意識障害
耳痛中耳炎は約7%で最も多い合併症の一つ
妊婦・免疫不全者が接触したワクチン接種不適当者。直ちに麻疹抗体検査を実施し、抗体価が陰性または低い者(EIA法10.0未満/PA法1:64以下)は免疫グロブリン投与を検討

曝露後の対応

対応期限内容
麻疹含有ワクチン接触後72時間以内「麻疹に対する免疫を保有しない、あるいは不十分である接触者が、麻疹患者との接触後72時間以内に麻疹含有ワクチンを接種することによって、麻疹の発症を予防できる可能性がある」
人免疫グロブリン製剤曝露から6日以内「曝露から6日以内であれば、人免疫グロブリン製剤の注射により発症を予防できる可能性がある」。筋注用製剤は麻疹発症予防に健康保険適用が認められているが、静注用製剤は認められていない。用量は1回15〜50 mg/kg 筋注

健康観察期間: 抗体陰性または不十分だった接触者は、接触から5〜21日間(免疫グロブリンを投与した場合は4週間まで)麻疹を発症する可能性がある。

感染可能期間の定義(接触者を切る基準): 「麻疹発症の1日前から解熱後3日を経過するまで。なお、発熱がない修飾麻疹の場合は発疹出現後5日を経過するまで」。

職員の抗体価

  • 1歳以上で2回の予防接種の記録がある場合は、抗体検査は必須ではない
  • 測定にはEIA法またはPA法を用いる。CF法・HI法は使用しない(多くの陰性者が発生してしまう可能性が高い)。
  • EIA法で「陰性」または「±」なら接種を強く推奨。「陽性」でも低い抗体価なら接種を推奨。
  • PA法で「陰性(1:16未満)」あるいは1:16、1:32、1:64、1:128(医療関係者の場合)等の低い抗体価なら接種を推奨。免疫を保有している成人の平均PA抗体価は1:512〜1:1024

届出

項目内容
類型5類感染症・全数把握対象(2008年1月から)
期限法定は7日以内。ただし麻疹は迅速な行政対応の必要性から、特別により早期の届出が求められている。2015年5月21日から「診断後直ちに」患者の氏名・住所・職業等を管轄の保健所へ届け出ることが義務づけられている
届出区分麻しん(検査診断例)=発熱・発疹・カタル症状の3つ全てを認め、かつ検査診断されている ②麻しん(臨床診断例)=3つ全てを認める ③修飾麻しん(検査診断例)=どれかを認め、かつ検査診断されている
注意臨床診断例(検査未実施)でも届出対象。ただし「麻しんを疑う症例は原則として全例検査診断を行う」
期限を過ぎたら「もし7日を過ぎてしまっていても罰則はなく、忘れていることに気づいたらすぐに届け出ます」

出席停止(学校保健安全法施行規則)

  • 麻しんは第二種の学校感染症(第18条)。
  • 出席停止の期間は「解熱した後三日を経過するまで」(第19条)。ただし「病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めたときは、この限りでない」。

治療

  • 特異的な治療法はなく対症療法が中心。中耳炎・肺炎など細菌性の合併症を起こした場合には抗菌薬の投与が必要。
  • 唯一の予防方法は、麻疹含有ワクチンを1歳以上で2回受けておくこと
  • ビタミンA: WHOは5歳未満の麻疹疑い例全例に2回投与を推奨している。一方、国内の学会・行政が国内診療としてビタミンA投与を推奨した一次資料は、今回の調査範囲では見つからなかった。日本感染症学会は「途上国では、ビタミンA欠乏児でビタミンA投与による重症度の軽減が報告されている」と記載するにとどまる。国内での位置づけは要確認

SSPE(亜急性硬化性全脳炎)

麻疹罹患後、年単位の潜伏期を経て発症する進行性・致死的な中枢神経疾患。リスクは乳幼児期(特に2歳未満/1歳以下)の罹患

要確認: 潜伏期間と頻度は出典で食い違う。「麻しん罹患後7〜10年後」「潜伏期間は4〜8年で6〜10歳頃に発症することが多い」「数年から十数年以上」と、同一機構内のページ間でも表現が異なる。発生頻度は「麻しん罹患者10万例に1例」との記載がある。単一の確定値は示せない

鑑別

疾患見分け
突発性発疹解熱してから発疹。カタル症状が乏しい(突発性発疹
風疹発熱が軽く、耳介後部・後頭部・頸部のリンパ節腫脹風疹
川崎病主要症状を数える。コプリック斑はない(川崎病
溶連菌(猩紅熱)迅速検査、いちご舌(溶連菌
薬疹薬剤歴。粘膜疹があれば薬疹・SJS/TEN
アデノウイルス結膜炎が共通。迅速検査(咽頭結膜熱

送る/持つ(当院=二次救急)

状態当院の扱い
診断・届出・曝露者対応当院で行う(保健所と連携)
軽症で経口摂取可能院内感染対策ができる前提で当院で対応しうる
肺炎・脱水入院。空気感染隔離ができる施設かを確認してから送る
脳炎・重症肺炎持てない。「重症肺炎や脳炎などの重症例は、感染症指定医療機関での診療が望ましい」
免疫不全者・妊婦の麻疹重症化しやすい。専門施設へ

送るときに必ず伝えること: 「麻疹疑い」であることを最初に言う。受け入れ側も動線と隔離の準備が要る。搬送の救急隊にも伝える

エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)

  • 要確認:陰圧室の有無と、無い場合の空気感染対策の代替手順
  • 要確認:麻疹疑い患者の来院時の別入口を設けられるか
  • 要確認:職員の抗体価の把握状況(EIA法/PA法での記録、2回接種歴の記録)
  • 要確認:N95マスクの在庫とフィットテストの実施状況
  • 要確認:曝露後のワクチン(72時間)・免疫グロブリン(6日)を当院で実施するか、保健所・かかりつけへ回すか
  • 要確認:筋注用免疫グロブリン製剤の入手経路
  • 要確認:夜間・休日の保健所連絡先と届出手順

家族に渡す一文

「麻疹(はしか)の可能性があります。この病気は空気を介してうつる力が非常に強く、マスクや手洗いでは防げません。他の患者さんと同じ場所で待てないので、個室でお待ちいただきます。熱がいったん下がってから再び上がり、発疹が出るという経過をとります。発症の1日前から、熱が下がって3日経つまでは人にうつします。ご家族やまわりに、麻疹にかかったことがなく予防接種も受けていない方がいたら、接触から72時間以内なら予防接種で、6日以内なら注射で発症を防げる可能性があるので、すぐに教えてください。登園・登校は、熱が下がってから3日経つまで休みます。」

医師確認事項(要・岡本判断)

  • 要確認:麻疹疑い患者の院内動線(別入口・個室・対応職員)を平常時に決めておくこと。ガイドラインが明示的に要求している。このシートで最も重要な空欄
  • 要確認:曝露後のワクチン・免疫グロブリンを当院で実施するか。72時間・6日という期限があるので、判断経路を決めておかないと間に合わない。
  • 要確認:ビタミンA投与の国内での位置づけ。WHOは推奨するが、国内の学会・行政の一次資料に推奨の明記が見つからなかった。
  • 要確認:入院適応の数値基準は、国内の一次資料に明示されたものが見つからなかった。
  • 要確認:発疹期の日数が届出ガイドライン(3〜4日)とJIHS詳細版(3〜5日)で異なる。運用上はどちらでも大差ないが、記載を統一するか。

出典

  • 国立感染症研究所感染症疫学センター.医療機関での麻疹対応ガイドライン 第七版.2018年5月.https://id-info.jihs.go.jp/manuals/guidelines/measles/medical_201805.pdf (2026-09-12閲覧)。個室管理体制=空気感染対策が可能な体制(可能な場合は陰圧室)、受付段階での発疹確認と別室誘導の準備、外来で感受性者が麻疹患者と20分未満空間を共有した後に感染・発症した例の報告、来院時の別入口、対応職員の限定とN95マスク、感染可能期間の定義(発症の1日前から解熱後3日を経過するまで/修飾麻疹は発疹出現後5日)、接触者の定義、ワクチン接種歴の記録確認(記録がなければ受けていないと考える・0歳での接種は回数に含めない)、曝露後72時間以内のワクチン曝露から6日以内の人免疫グロブリン(筋注用のみ保険適用・1回15〜50 mg/kg)、妊婦・免疫抑制者への抗体検査(EIA法10.0未満/PA法1:64以下)、健康観察期間5〜21日(免疫グロブリン投与時は4週間)、職員の抗体価基準(EIA法・PA法を用いCF法・HI法は使用しない、1歳以上2回接種の記録があれば抗体検査は必須でない)、IgMの偽陰性(発疹出現後3日以内)とペア血清の判定基準、修飾麻疹でのIgG著明高値とPCR、ワクチン接種後8〜56日のIgM偽陽性と遺伝子型A、届出(2015年5月21日から診断後直ちに)。
  • 国立感染症研究所感染症疫学センター.医師による麻しん届出ガイドライン 第五版.2016年3月9日/2023年5月16日暫定修正.https://id-info.jihs.go.jp/manuals/guidelines/measles/guideline03_20230516.pdf (2026-09-12閲覧)。潜伏期10〜12日、カタル期2〜4日・発疹期3〜4日・回復期7〜9日の経過と二峰性発熱、発疹の広がる順序、修飾麻疹、届出の3区分(検査診断例・臨床診断例・修飾麻しん)、7日以内の法定期限と麻疹に求められる早期届出、罰則がないこと。
  • 国立感染症研究所麻疹対策技術支援チーム.2016年改訂:最近の知見に基づく麻疹の検査診断の考え方https://id-info.jihs.go.jp/relevant-information/measles/arugorizumu2016.pdf (2026-09-12閲覧)。発疹出現後7日以内にEDTA血・咽頭ぬぐい液・尿の3点セットを保健所経由で地方衛生研究所へIgMは発疹出現後4〜28日に医療機関で①と②は並行して実施する
  • 国立健康危機管理研究機構.麻しん(詳細版)(2024年8月23日改訂)https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/measles/detail/index.html / 麻しんQ&A https://id-info.jihs.go.jp/relevant-information/measles/faq/overview/index.html (2026-09-12閲覧)。コプリック斑の詳細、「麻しんは空気感染するため、手洗いやマスクでは十分な予防ができない」、合併症の頻度(肺炎6%・乳児の死亡例の60%は肺炎に起因、脳炎1,000例に0.5〜1例・約60%は完全回復・25%に後遺症・致命率約15%、中耳炎約7%)、特異的治療がなく対症療法が中心であること、SSPE。
  • 日本感染症学会.感染症クイック・リファレンス「麻疹」.https://www.kansensho.or.jp/ref/d79.html (2026-09-12閲覧)。空気・接触・飛沫予防策と陰圧個室、重症例は感染症指定医療機関での診療が望ましいこと、ビタミンAの位置づけ(途上国・栄養不良児の文脈)。
  • 学校保健安全法施行規則(e-Gov法令検索・現行版、改正 令和5年文部科学省令第22号、施行日2023-05-08)https://laws.e-gov.go.jp/law/333M50000080018 (2026-09-12閲覧)。第18条(麻しんは第二種)、第19条「麻しんにあつては、解熱した後三日を経過するまで」
  • 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会.2026年における麻疹患者数増加に関する注意喚起.2026年4月1日.https://www.jpeds.or.jp/uploads/2026-04/20260401_mashin.pdf (2026-09-12閲覧)。2回接種済みの感染者は軽症の修飾麻しんが多く周りへの感染力も弱いこと。
  • 難病情報センター.亜急性硬化性全脳炎(SSPE)(2023年11月更新)https://www.nanbyou.or.jp/entry/204 (2026-09-12閲覧)。
  • WHO. Measles fact sheet (2026-07-15) https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/measles (2026-09-12閲覧)。5歳未満の麻疹疑い例へのビタミンA 2回投与の推奨(国内の推奨ではない)。

処方

kgこのシートの計算すべてに反映。タブを閉じるまで保持されるので、患者が変わったらクリアする。
処方

処方の考え方

曝露後の予防は時間で手段が変わる。72時間以内ならワクチン、6日以内なら免疫グロブリン。感染可能期間は発症1日前から解熱後3日を経過するまで(発熱のない修飾麻疹では発疹出現後5日を経過するまで)。

曝露からの時間

この数字の意味

体重換算の考え方であって処方箋ではない。実際の剤形・力価(ドライシロップ10%/20%等)と採用薬は施設ごとに違い、本シートの「院内ローカルルール」(§6)は未確定のまま。g・包数への換算は院内採用を確認したうえで行う。

薬剤名だけで用量が出ないものは、正本にその記載が無いということ。推測の数字は出さない。

参考計算・参考判定です。適用は添付文書・現行ガイドライン・院内採用・患者個別要因を確認のうえ医師が判断してください。

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