急性虫垂炎

急性虫垂炎

外科的緊急β版・逐条レビュー継続中

2026-09-10更新
β版用量は適用前に一次資料と院内採用を確認。このβ版について

施設プロファイル: 二次救急/外科的処置なし/当直帯は超音波・CTが使えない。手術も画像も当院にないので、当直帯の判断は問診・診察・スコア・血算/CRP・時間だけで組み立てる。ただし当院は当直帯でも小児科病床に入院させられる——これが画像の代わりになる。

30秒要約

  • 右下腹部痛から始まるとは限らない。年少児は「いつもより元気がない・ぐずる・食欲が落ちる」で始まる。
  • 筋性防御は感度0.62・特異度0.63・陽性尤度比1.6。無いことは否定の根拠にならない。
  • 単純性(非穿孔性)虫垂炎なら、深夜の緊急手術は必須ではない。国内ガイドラインは準緊急手術でも安全としている(推奨度C1)。だから当院の判断は「今すぐ救急搬送か、朝一で紹介か」の二択になる
  • ただし汎発性腹膜炎に移行すれば夜間でも緊急手術。ここが夜間搬送の分岐点。
  • 幼児期の穿孔率は学童期の約2倍(本邦で27〜76.5% 対 14〜39.9%)。年少児ほど早く壊れる
  • 当直帯は画像が無い。代わりに「時間」を使う。ガイドラインの active observation(経過観察)は画像が無い当院でこそ主力になる手段で、陰性切除率・穿孔率・CT実施率を下げると示されている(推奨度B)。帰宅させて48時間後に会うのではなく、入院させて数時間ごとに診るほうが、当院の条件では確実。

レッドフラグ

所見があったときにどれだけ急ぐかと、家族に何を伝えるかの対応表。3列目の文言は家族説明ページに同じ言葉で載っているので、画面を見せながら渡せる。

緊急度所見その場で次にやること時間の勝負
119板状硬・反跳痛・汎発性腹膜炎の像/ショック絶食・ルート・外科のある施設へ夜間でも緊急搬送待たない
緊急高熱が続き腹満・歩くのもつらい(膿瘍・汎発性腹膜炎を疑う)外科へ連絡。当直帯は画像を当院で撮れないので、画像なしでそのまま連絡する待たない
緊急2歳未満・年少児で腹痛と不機嫌が続く年少児は穿孔率が高い。「胃腸炎」で帰さない進行が速い
緊急糞石を認める虫垂内圧が上がりやすく急速に穿孔しうる進行が速い
当日PAS/Alvarado 7点以上当院では画像を撮れない。手術対応可能施設へそのまま紹介し、画像は先方で当日
当日PAS/Alvarado 4〜6点当直帯は画像が選べないので経過観察一択。帰宅させるなら48時間以内に必ず再評価、迷うなら入院で数時間ごとに診る(当院は夜間入院可)当日〜翌日

鑑別:紛れやすい(この診断に辿り着けなくなる相手)

疾患拾う所見決め手落とし穴
急性胃腸炎嘔吐・下痢・腹痛経過が合うか(虫垂炎は下痢が主役にならない)最大の誤診パターン。学会も「胃腸炎と診断されて管理されているうちに進行して重症化する」と明記
腸間膜リンパ節炎先行する上気道炎、圧痛点が移動エコーで腫大リンパ節+正常虫垂(当直帯は当院で撮れない虫垂を描出できていないのに「リンパ節炎」と決めない。画像が無い夜は、この病名で安心しない
便秘腹痛、排便間隔浣腸で痛みが完全に消えるか消えなければ疑い直す
尿路感染症・腎盂腎炎発熱、CVA叩打痛検尿検尿は閾値低く出す
右下葉肺炎腹痛を訴えるが腹部所見が乏しい呼吸数・聴診・胸部X線腹だけ診ていると落ちる
女児の卵巣捻転・骨盤内病変突然の下腹部痛+嘔吐エコー(当直帯は当院で撮れない=疑ったら相談陰性切除率は5歳未満と女児で高い(卵巣腫瘍茎捻転
腸重積(年長児)間欠的腹痛エコー(当直帯は当院で撮れない年長児の腸重積は少ないが、腹痛のみで受診しうる(腸重積

鑑別:見逃してはいけない

  • 穿孔・汎発性腹膜炎:高熱が続く、腹満、歩くのもつらい。ここに至れば夜間でも緊急手術の対象で、当院の判断は「すぐ送る」一択になる。
  • 年少児(特に2歳未満):症状が非典型で、穿孔率が突出して高い群。疑いを下げる材料がないまま帰さない。
  • retrocecal/骨盤内虫垂:側腹部痛や恥骨上部痛で来ることがあり、右下腹部の圧痛が乏しい。

所見の取り方

  • 圧痛の場所だけでなく、痛くない場所から順に触れて局在を確かめる。
  • 歩かせる・跳ばせる。咳・跳躍・打診での痛みはPediatric Appendicitis Scoreで2点の重みを持つ項目。
  • 筋性防御が無いことを否定の根拠にしない(感度0.62)。
  • 年少児は本人の訴えより、保護者が言う「いつもと違う」を採る。

問診・スコア

Pediatric Appendicitis Score(PAS)/Alvarado Score — 単独で確定診断には使えない(推奨度C1)が、トリアージには使える。

項目AlvaradoPAS
移動痛11
右下腹部痛21
咳・跳躍・打診痛(Alvaradoは反跳痛)12
嘔気・嘔吐11
食欲不振11
発熱(37.3/38℃以上)11
右下腹部圧痛2
白血球増加(10,000以上)21
左方移動11
疑診の閾値7点以上7点以上

スコアの使い方(ガイドライン掲載のトリアージ案)

  • 3点以下:帰宅可。翌日再評価を約束する(PAS 3点以下で除外の感度95%・特異度83%)
  • 4〜6点:経過観察(active observation)または画像検査。48時間以内の再評価を徹底する
  • 7点以上:手術対応可能施設で画像診断(PAS 7点以上の陽性的中率72%)

検査

当院の当直帯では 1・2 を実施できない(超音波・CTが夜間に使えない。2026-09-14 確認)。当直帯に手元にあるのは 3 のCRP(発症日数で読む)と血算、そして 4 が言う「画像陰性でも否定しない」という考え方だけ。つまり画像が無いことは、もともと画像で安心してはいけない病気では致命傷にならない。効くのは時間を置いた再評価。

なお PAS/Alvarado の「左方移動」は当直帯に判定できない——夜間は鏡検も自動分画も出ない(2026-09-14 確認)。白血球数だけで点を付け、満点が1点低くなる前提で読む。7点の閾値に届かなくても、届かない理由が「測れないから」であることを忘れない。

  1. 超音波が第一選択(推奨度A)。感度85〜92%・特異度94〜100%。径>6mm・非圧縮性が中核所見。糞石・周囲脂肪織の変化・血流増加は支持所見。
  2. CTは推奨度B。穿孔疑い・肥満・年少児などで超音波が技術的に困難なときに限る。小児のCT被曝リスクを考えて漫然と第一選択にしない。
  3. CRPのカットオフは発症からの日数で動く。国内ガイドラインが引くメタ解析では、発症1日目1.5・2日目4.0・3日目10.5 mg/dL。早期受診例の初回低値を除外に使わない
  4. 超音波陰性は否定ではない。正常虫垂の描出は容易でなく、年少児・肥満児で感度が落ちる。疑いが強ければ時間を置いて再検する。

初期プラン(コア)

  1. 全身状態と腹膜刺激の有無を先に見る。汎発性腹膜炎なら以降の手順を飛ばして搬送。
  2. スコアで層別する(3点以下/4〜6点/7点以上)。
  3. 当直帯は画像に進めない。代わりに再評価の時刻を決める。院内に留めるか帰すかを、ここで決める。
  4. 帰宅させるなら、再評価の日時を約束する(「何かあれば」では条件にならない)。active observationで抗菌薬を始めた場合は48時間以内に必ず再評価。
  5. 迷ったら帰さずに入院させる。当院は当直帯でも小児科病床で受けられる。画像が無い施設にとって、入院での経時観察が画像の代わりになる。

送る/持つ(当院=二次救急・外科的処置なし・当直帯は画像なし)

外科がないので手術はすべて他院。判断は「今夜送るか、朝一で紹介か」に集約される。

状態判断根拠
汎発性腹膜炎・穿孔疑い・ショック夜間でも緊急搬送腹膜炎に移行すれば夜間でも緊急手術が必要
単純性虫垂炎が疑わしく全身状態良好準緊急でよい(受け入れ先と相談のうえ朝一の紹介も選択肢)入院から手術までの待機時間で成績に有意差なしとする複数の報告。国内ガイドラインも準緊急手術で安全(推奨度C1)
PAS 4〜6点で判断がつかない当直帯は画像を選べないので経過観察。帰すなら48時間以内の再評価を約束、迷うなら入院(夜間入院可)active observationは陰性切除率・穿孔率・CT実施率を下げる(推奨度B)。画像が無い当院では、これが主力の手段になる
2歳未満・年少児閾値を下げて送る幼児期の穿孔率は学童期の約2倍

送ると決めた時点でやること

  1. 絶食・ルート確保
  2. 受け入れ先へ先に電話。単純性か穿孔疑いかを明示する(相手の夜間対応が変わる)
  3. スコア・発症からの時間・CRPと発症日数をセットで伝える。当院で画像を撮っていないことを明示する(相手は画像から始める前提で動く)
  4. 家族に「当院では手術ができない」ことを検査前に伝えておく

エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)

  • 要確認:小児外科の夜間・休日の第一受け入れ先と直通番号。小児外科は決まった連携先に直接電話する運用(施設名・番号は保留中)
  • 要確認:単純性虫垂炎を朝まで当院で観察してよいか、それとも疑った時点で全例紹介か
  • 確定(2026-09-14):夜間の腹部エコー・CTはいずれも当院で撮れない。このシートは画像なしで層別する前提で書いてある
  • 確定(2026-09-14)夜間の自動白血球分画は出ないPAS/Alvaradoの配点が1点ぶん取れないので、当院の夜はスコアの絶対値より、時間を置いた再評価に重みを置く
  • 要確認:active observation中の抗菌薬の院内方針

家族に渡す一文

「盲腸の先にある虫垂という部分の炎症です。お子さんの場合、大人のように『右下が痛い』とはっきり言えないことが多く、元気がない・食べたがらないだけのこともあります。当院では手術ができないので、手術が必要と判断したら、できる病院にお願いします。今日はいったん帰るとしても、痛みが強くなる・熱が上がる・歩くのもつらくなるようなら、時間を待たずに来てください。」

医師確認事項(要・岡本判断)

  • 要確認:単純性虫垂炎を当院で朝まで観察する運用を採るか、疑った時点で全例紹介か。この1点でこのシートの搬送分岐が決まる当院は夜間入院ができるので「朝まで院内で観察」は物理的には可能。画像が無い状態で朝まで抱えることを是とするかが判断の中身になる。
  • 要確認:active observation中の抗菌薬使用の院内方針(ガイドラインは原則抗菌薬なしでのAOを前提としている)。
  • 要確認:本シートは2017年版ガイドラインに基づく。2022年改訂版のCQ本文との照合は未
  • 要確認:小児の「発症から穿孔まで何時間」という国内の一次データは見つからなかった。年齢別穿孔率で代替しているが、この扱いでよいか。

出典

  • 日本小児救急医学会 診療ガイドライン作成委員会.エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン2017 第Ⅱ部 小児急性虫垂炎診療ガイドライン.第1版・2017年6月23日発行.https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00575/ (2026-09-10閲覧)。症状の感度・特異度と筋性防御(CQ3)、PAS/Alvaradoの配点とトリアージ案(CQ3・表5-1)、超音波とCT(CQ4・表5-2/5-3)、CRPのカットオフが発症日数で変わること(CQ3)、active observationと48時間以内の再評価(CQ7)、準緊急手術の安全性(CQ9)、陰性切除率(CQ6)、年齢別発生頻度と穿孔率(CQ1・CQ2)。2022年改訂版との照合は未
  • 日本小児外科学会.急性虫垂炎.http://www.jsps.or.jp/archives/sick_type/kyusei-tyusuien (2026-09-10閲覧・httpでアクセス)。年少児で右下腹部痛から始まるとは限らないこと、糞石で急速に穿孔しうること、胃腸炎と診断されているうちに重症化しうること。

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