急性虫垂炎
外科的緊急β版・逐条レビュー継続中
施設プロファイル: 二次救急/外科的処置なし/当直帯は超音波・CTが使えない。手術も画像も当院にないので、当直帯の判断は問診・診察・スコア・血算/CRP・時間だけで組み立てる。当院は院内夜間入院が可能だが、経時観察は画像による診断・重症度評価の代わりにはならない。早期外科相談と再診察・悪化時搬送の体制を確認する。
30秒要約
- 右下腹部痛から始まるとは限らない。年少児は「いつもより元気がない・ぐずる・食欲が落ちる」で始まる。
- 筋性防御は感度0.62・特異度0.63・陽性尤度比1.6。無いことは否定の根拠にならない。
- 単純性(非穿孔性)虫垂炎なら、深夜の緊急手術は必須ではない。国内ガイドラインは準緊急手術でも安全としている(推奨度C1)。ただし、専門施設で評価された非穿孔例の手術時機と、画像不能の当院での疑い例の搬送時機を同一にしない。
- ただし汎発性腹膜炎に移行すれば夜間でも緊急手術。腹膜炎やショックの出現を待たず、進行性疼痛・反復嘔吐・摂取困難も外科へ早期相談する。
- 幼児期の穿孔率は学童期の約2倍(本邦文献で26.7〜76.5%)。年少児ほど早く壊れる。
- 画像不能な当院では早期に外科へ相談する。院内観察は、受入外科と方針を共有し、数時間おきの再診察と悪化時の即時搬送を確保できる場合に限る。確保できなければ紹介する。 再診察は画像検査の代わりに単純性・穿孔性を確定する手段ではない。
レッドフラグ
所見があったときにどれだけ急ぐかと、家族に何を伝えるかの対応表。3列目の文言は家族説明ページに同じ言葉で載っているので、画面を見せながら渡せる。
| 緊急度 | 所見 | その場で次にやること | 時間の勝負 |
|---|---|---|---|
| 119 | 板状硬・反跳痛・汎発性腹膜炎の像/ショック | 絶食・ルート・外科のある施設へ夜間でも緊急搬送 | 待たない |
| 緊急 | 高熱が続き腹満・歩くのもつらい(膿瘍・汎発性腹膜炎を疑う) | 外科へ連絡。当直帯は画像を当院で撮れないので、画像なしでそのまま連絡する | 待たない |
| 緊急 | 2歳未満・年少児で腹痛と不機嫌が続く | 年少児は穿孔率が高い。「胃腸炎」で帰さない | 進行が速い |
| 緊急 | 糞石を認める | 虫垂内圧が上がりやすく急速に穿孔しうる | 進行が速い |
| 当日 | PAS/Alvarado 7点以上 | 当院では画像を撮れない。手術対応可能施設へそのまま紹介し、画像は先方で | 当日 |
| 緊急 | PAS/Alvarado 4〜6点、または欠測項目があり確定スコアを作れない | 画像不能な当院では早期に外科へ相談する。院内観察は、受入外科と方針を共有し、数時間おきの再診察と悪化時の即時搬送を確保できる場合に限る。確保できなければ紹介する。 | 当日 |
鑑別:紛れやすい(この診断に辿り着けなくなる相手)
| 疾患 | 拾う所見 | 決め手 | 落とし穴 |
|---|---|---|---|
| 急性胃腸炎 | 嘔吐・下痢・腹痛 | 経過が合うか(虫垂炎は下痢が主役にならない) | 最大の誤診パターン。学会も「胃腸炎と診断されて管理されているうちに進行して重症化する」と明記 |
| 腸間膜リンパ節炎 | 先行する上気道炎、圧痛点が移動 | エコーで腫大リンパ節+正常虫垂(当直帯は当院で撮れない) | 虫垂を描出できていないのに「リンパ節炎」と決めない。画像が無い夜は、この病名で安心しない |
| 便秘 | 腹痛、排便間隔 | 浣腸で痛みが完全に消えるか | 消えなければ疑い直す |
| 尿路感染症・腎盂腎炎 | 発熱、CVA叩打痛 | 検尿 | 検尿は閾値低く出す |
| 右下葉肺炎 | 腹痛を訴えるが腹部所見が乏しい | 呼吸数・聴診・胸部X線 | 腹だけ診ていると落ちる |
| 女児の卵巣捻転・骨盤内病変 | 突然の下腹部痛+嘔吐 | エコー(当直帯は当院で撮れない=疑ったら相談) | 陰性切除率は5歳未満と女児で高い(卵巣腫瘍茎捻転) |
| 腸重積(年長児) | 間欠的腹痛 | エコー(当直帯は当院で撮れない) | 年長児の腸重積は少ないが、腹痛のみで受診しうる(腸重積) |
鑑別:見逃してはいけない
- 穿孔・汎発性腹膜炎:高熱が続く、腹満、歩くのもつらい。ここに至れば夜間でも緊急手術の対象で、当院の判断は「すぐ送る」一択になる。
- 年少児(特に2歳未満):症状が非典型で、穿孔率が突出して高い群。疑いを下げる材料がないまま帰さない。
- retrocecal/骨盤内虫垂:側腹部痛や恥骨上部痛で来ることがあり、右下腹部の圧痛が乏しい。
所見の取り方
- 圧痛の場所だけでなく、痛くない場所から順に触れて局在を確かめる。
- 歩かせる・跳ばせる。咳・跳躍・打診での痛みはPediatric Appendicitis Scoreで2点の重みを持つ項目。
- 筋性防御が無いことを否定の根拠にしない(感度0.62)。
- 年少児は本人の訴えより、保護者が言う「いつもと違う」を採る。
問診・スコア
Pediatric Appendicitis Score(PAS)/Alvarado Score — 単独で確定診断には使えない(推奨度C1)が、トリアージには使える。
| 項目 | Alvarado | PAS |
|---|---|---|
| 移動痛 | 1 | 1 |
| 右下腹部圧痛 | 2 | 2 |
| 咳・跳躍・打診痛(Alvaradoは反跳痛) | 1 | 2 |
| 嘔気・嘔吐 | 1 | 1 |
| 食欲不振 | 1 | 1 |
| 発熱(37.3/38℃以上) | 1 | 1 |
| 白血球増加(10,000以上) | 2 | 1 |
| 左方移動 | 1 | 1 |
| 満点 | 10点 | 10点 |
| 疑診の閾値 | 7点以上 | 7点以上 |
(2026-09-26 表を訂正: 旧表は右下腹部の痛みを「右下腹部痛」「右下腹部圧痛」の2行に分けており、Alvaradoが12点・PASが9点になっていた。どちらも右下腹部圧痛は1項目2点で満点10点〔HAPPY!こどものみかた 表2〕)
スコアの使い方(ガイドライン掲載のトリアージ案)
- 3点以下:スコアだけで帰宅としない。診察が安心でき、経口摂取可能で、別の診断が妥当、翌日までの再評価と悪化時即受診を確保できる場合に限り検討する。 旧資料の感度・特異度を個々の児の除外保証に用いない。
- 4〜6点:画像不能な当院では早期に外科へ相談する。院内観察は、受入外科と方針を共有し、数時間おきの再診察と悪化時の即時搬送を確保できる場合に限る。確保できなければ紹介する。
- 7点以上:手術対応可能施設で画像診断(PAS 7点以上の陽性的中率72%)
検査
当院の当直帯では 1・2 を実施できない(超音波・CTが夜間に使えない。2026-09-14 確認)。当直帯に手元にあるのは 3 のCRP(発症日数で読む)と血算、そして 4 が言う「画像陰性でも否定しない」という考え方だけ。画像を使えないことは評価上の制約であり、正常な画像が得られたこととは異なる。反復診察を行いながら外科へ相談し、必要な画像・処置がある場合は実施可能な施設へつなぐ。
夜間に白血球分画を測定できない場合は当該項目を未評価と明記する。欠測を正常の0点として確定スコアを作らず、完成版スコアの閾値で帰宅・紹介を自動決定しない。
- 超音波が第一選択(推奨度A)。感度85〜92%・特異度94〜100%。径>6mm・非圧縮性が中核所見。糞石・周囲脂肪織の変化・血流増加は支持所見。
- CTは推奨度B。穿孔疑い・肥満・年少児などで超音波が技術的に困難なときに限る。小児のCT被曝リスクを考えて漫然と第一選択にしない。
- CRPのカットオフは発症からの日数で動く。国内ガイドラインが引くメタ解析では、発症1日目1.5・2日目4.0・3日目10.5 mg/dL。早期受診例の初回低値を除外に使わない。
- 超音波陰性は否定ではない。正常虫垂の描出は容易でなく、年少児・肥満児で感度が落ちる。疑いが強ければ時間を置いて再検する。
初期プラン(コア)
- 全身状態と腹膜刺激の有無を先に見る。汎発性腹膜炎なら以降の手順を飛ばして搬送。
- スコアは病歴・診察・検査の補助に使い、欠測項目と適用限界を明記する。
- 画像不能な当院では早期に外科へ相談する。院内観察は、受入外科と方針を共有し、数時間おきの再診察と悪化時の即時搬送を確保できる場合に限る。確保できなければ紹介する。
- 帰宅は低確率と判断でき、摂取と再評価が確保できる場合に限る。再評価日を明記し、悪化なら予定を待たず受診する。
- 診断不確実なら専門相談する。夜間入院が可能でも、再診察・悪化時搬送の体制を確保できなければ自院観察を選ばない。
送る/持つ(当院=二次救急・外科的処置なし・当直帯は画像なし)
外科がないため早期に受入先へ相談する。朝までの観察を選ぶ場合も、受入外科と観察・再診察・悪化時の搬送を共有しておく。
| 状態 | 判断 | 根拠 |
|---|---|---|
| 汎発性腹膜炎・穿孔疑い・ショック | 夜間でも緊急搬送 | 腹膜炎に移行すれば夜間でも緊急手術が必要 |
| 単純性虫垂炎が疑わしく全身状態良好 | 画像不能な当院では早期に外科へ相談する。院内観察は、受入外科と方針を共有し、数時間おきの再診察と悪化時の即時搬送を確保できる場合に限る。確保できなければ紹介する。 | 非穿孔例の手術待機を、疑い例の搬送延期へそのまま転用しない |
| PAS 4〜6点で判断がつかない | 画像不能な当院では早期に外科へ相談する。院内観察は、受入外科と方針を共有し、数時間おきの再診察と悪化時の即時搬送を確保できる場合に限る。確保できなければ紹介する。 | スコアと反復診察は補助で、画像不能が観察一択の根拠にはならない |
| 2歳未満・年少児 | 閾値を下げて送る | 幼児期の穿孔率は学童期の約2倍 |
送ると決めた時点でやること
- 絶食・ルート確保
- 受入先へ先に電話。穿孔を疑う所見と、画像を実施できず単純性・穿孔性が未確定であることを明示する。
- スコア・発症からの時間・CRPと発症日数をセットで伝える。当院で画像を撮っていないことを明示する(相手は画像から始める前提で動く)
- 家族に「当院では手術ができない」ことを検査前に伝えておく
エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)
以下の2026-09-26の記載は過去の採用経緯である。現行本文では、完全に評価できたスコアも診療の補助とし、欠測を正常扱いしない。院内観察は受入外科との方針共有、再診察要員、悪化時の搬送体制を確保できる場合に限定する。これらを満たせなければ紹介側に倒す。
- 要確認:小児外科の夜間・休日の第一受け入れ先と直通番号。小児外科は決まった連携先に直接電話する運用(施設名・番号は保留中)
- 決定=紙面本文のPAS/Alvaradoスコア段階的トリアージ(3点以下帰宅・4〜6点院内経過観察・7点以上紹介)を正本とする(論点:単純性虫垂炎を朝まで当院で観察してよいか、それとも疑った時点で全例紹介か)。「疑った時点で全例外科紹介」は9/25の要決定209件一括処理で他疾患と横並びに当てはめられた定型パターンで、虫垂炎固有の検討ではなかった。国内ガイドライン(Minds「エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン2017」CQ1〜9)が同トリアージとactive observationを推奨(CQ7推奨度B)し、当院が持つ夜間入院という強みがこのトリアージを支える設計であるため、段階的トリアージを正本化する。ただし4〜6点を院内経過観察とする運用は、当直体制を本人が確認できるまでは、暫定的に4〜6点も紹介側へ倒す運用とする(下の未確認事項参照)。
- 確定(2026-09-14):夜間の腹部エコー・CTはいずれも当院で撮れない。このシートは画像なしで層別する前提で書いてある
- 確定(2026-09-14):夜間の自動白血球分画は出ない。PAS/Alvaradoの配点が1点ぶん取れないので、当院の夜はスコアの絶対値より、時間を置いた再評価に重みを置く
- 要確認:active observation中の抗菌薬の院内方針院内
家族に渡す一文
「盲腸の先にある虫垂という部分の炎症です。お子さんの場合、大人のように『右下が痛い』とはっきり言えないことが多く、元気がない・食べたがらないだけのこともあります。当院では手術ができないので、手術が必要と判断したら、できる病院にお願いします。今日はいったん帰るとしても、痛みが強くなる・熱が上がる・歩くのもつらくなるようなら、時間を待たずに来てください。」
出典
- 日本小児救急医学会 診療ガイドライン作成委員会.エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン2017 第Ⅱ部 小児急性虫垂炎診療ガイドライン.第1版・2017年6月23日発行.https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00575/ (2026-09-10閲覧)。症状の感度・特異度と筋性防御(CQ3)、PAS/Alvaradoの配点とトリアージ案(CQ3・表5-1)、超音波とCT(CQ4・表5-2/5-3)、CRPのカットオフが発症日数で変わること(CQ3)、active observationと48時間以内の再評価(CQ7)、準緊急手術の安全性(CQ9)、陰性切除率(CQ6)、年齢別発生頻度と穿孔率(CQ1・CQ2)。2022年改訂版との照合は未。
- 日本小児外科学会.急性虫垂炎.http://www.jsps.or.jp/archives/sick_type/kyusei-tyusuien (2026-09-10閲覧・httpでアクセス)。年少児で右下腹部痛から始まるとは限らないこと、糞石で急速に穿孔しうること、胃腸炎と診断されているうちに重症化しうること。
- 『研修医当直御法度 第6版』p.159-161(「4〜6歳の虫垂炎には必ず泣かされる」)、『研修医当直御法度百例帖 第2版』p.133(小児の虫垂炎は疑ったら4〜6時間経過観察または入院)。段階的トリアージ・経過観察重視の方針を小児固有の記載として支持(2026-09-26 決定時に確認。同書p.154の妊婦の虫垂炎の記載とは別項)。
病態・根拠10章
病態:腹痛の移動と経過を捉える
虫垂炎は初めから右下腹部の局在痛を呈するとは限らない。臍周囲から右下腹部へ痛みが移動し、体動・深呼吸等で増強する場合がある。年少児では食欲低下、不機嫌、嘔吐・下痢が前面に出るため、症状の順番と反復診察を重視する。圧痛・筋性防御の一所見がないことや、下痢があることだけでは除外できない。[1][3]
鑑別と検査:スコアと炎症反応の役割
PASやpARCは病歴、診察、検査から確率を整理する補助で、確定検査ではない。血算・CRPが低い発症早期や非典型例でも、経過と診察が気になるなら再評価する。尿検査は尿路感染等、思春期では妊娠関連病態や卵巣病変等を検討するために使う。尿所見だけを見て、右下腹部の症状をすべて尿路感染へ帰属させない。[1]
「虫垂が見えなかった」は「正常」と異なる
超音波では虫垂そのものに加え、周囲の炎症など二次所見を評価する。虫垂が描出されない場合、リスクと二次所見に応じて追加画像・外科相談・再診察を選ぶ。正常画像という扱いで一律帰宅にしない。CT・MRIを含む検査の選択は施設と児の状態によって異なる。IDSAは小児の初回超音波を提案し、不確定で疑いが残る場合はMRI・CT等を臨床状況に応じて選ぶ。[1][2]
治療と紹介:当院で朝まで観察できるか
当直帯に画像・手術がない当院では、単純性か穿孔性かを十分評価できない症例がある。「非穿孔なら待てる」という一般論を、そのまま「疑い例は全員朝まで安全」と読み替えない。循環不良、腹膜刺激、進行性疼痛、反復嘔吐・摂取困難があれば外科へ連絡し、絶食、静脈路・必要な補液、鎮痛を進める。抗菌薬開始と搬送時期は受入側と決める。[1][2]
低確率として帰宅する場合
診察が安心でき、摂取でき、別の診断が妥当で、再評価できることが条件となる。痛みの増悪・局在化、発熱や嘔吐の進行、動けない場合は予定を待たず受診するよう伝える。観察中も再診時も、前回の診察時刻と圧痛・歩行・摂取の変化を比較する。[1]
出典と適用範囲
- [1] CHOP Suspected appendicitis ED pathway。2026年更新。リスク評価、虫垂非描出、再診察と帰宅条件。
- [2] IDSA 2024 腹腔内感染ガイドライン・小児虫垂炎の画像。小児の初回超音波、不確定後のMRI・CT、画像の限界。条件付き推奨でエビデンスの確実性は非常に低い。
- [3] NIDDK Symptoms and Causes of Appendicitis。腹痛の移動・増悪、小児の非典型症状。
画像不能な当院での夜間観察は受入外科と院内体制を踏まえた個別判断とする。海外の抗菌薬選択・量は転記していない。
臨床医が迷う場面
炎症反応が低くても虫垂炎を疑う?
早期や年少児では血液所見が典型的でない。発症からの時間、移動・局在する痛み、歩行や跳躍時の痛み、食欲と反復診察を重視する。低い検査値や未完成スコアだけで除外せず、疑いがあれば画像評価可能な外科へ相談する。
抗菌薬だけの治療を外来で試してよい?
非手術治療は単純性と評価された選択例に専門施設で検討する方法であり、画像がない当院の疑い例にそのまま適用しない。穿孔・糞石・膿瘍などを含む評価が必要。絶食、鎮痛、補液を行い、外科と治療方針と搬送時期を共有する。
痛みが少し改善したら朝まで待てる?
改善だけで穿孔や進行を除外しない。腹膜刺激、発熱、嘔吐、循環と経過を再評価する。当直の観察は受入外科と共有した再診察・即時搬送の条件が整う場合に限り、年少児や進行性疼痛は早期搬送を優先する。