骨折をその場で診て、固定するまで
「歩けるから大丈夫」「関節が動くから骨折していない」は成立しない。触ると泣く・手を使わない・足に体重をかけられない、があれば骨折を疑う。当直で急ぐのは骨そのものでなく開放骨折・血流障害・コンパートメント症候群・脊椎損傷で、これだけは時間の勝負。
始める前に
- 「歩けるから大丈夫」「関節が動くから骨折していない」は成立しない。学会が名指しで否定している。触ると泣く・手を使わない・足に体重をかけられない、があれば骨折を疑う
- 特に乳幼児では、腫れが少なかったり、骨折していない部位の痛みを訴えたりすることもあり注意が必要
- 受傷直後にはX線で骨折を確認できないことや、骨折線が現れず弯曲する急性塑性変形もある。陰性は否定にならない
- 骨端軟骨や関節内の骨折では診断が難しいため、骨折が疑われる側だけでなく健側も撮影をしたり、ギプスなどで固定して定期的なX線観察を行い、診断を付ける
- いつ、どこで、どう受傷したか(高さ・地面・目撃者)
- 説明が受傷機転と合うか、説明が変わらないか
- 受傷後に歩いたか/使ったか(機能の変化)
- 痛みの部位を本人が指させるか
- 既往の骨折、骨系統疾患、内分泌疾患
- 最終飲食時刻(整復や手術に鎮静が要るため)
- アレルギー、内服
手順
- 1
服を脱がせて、左右を見比べる。腫脹・変形・皮膚の破れ・皮下出血を確認する
- 2
痛がる場所を本人に指ささせる。乳幼児は動かさない肢を探す
- 3
触るのは最小限。痛い所を最後に触る
- 4
末梢の循環(脈・色・温かさ・毛細血管再充満)と、知覚・運動を固定の前に記録する
固定の前後で末梢所見を2回記録しておくと、後から悪化したときに、いつ起きたかが分かる
- 5
開放創の有無を確認し、あれば清潔被覆する
- 6
X線を撮る。関節を含めて2方向。必要なら健側も撮る
- 7
固定する。固定後にもう一度、循環と知覚を確認して記録する
- 8
鎮痛を行う
- 9
整形へつなぐか、帰すかを決める
- 10
開放骨折は清潔被覆・固定・搬送する。創内を消毒しない
骨折と同時に皮膚が破れて骨折部が露出したものを開放骨折と呼び、治療を急ぐ必要がある
- 11
末梢の脈が触れない・手が白い・退色反応がない場合は血管損傷を疑う。整復で戻ることがあるが、戻らなければフォルクマン拘縮の危険
血管損傷の場合には、早急に手術が必要
- 12
著しい変形・脱臼を伴う骨折は整復が要る。当院で持てるかは要確認のまま扱う
- 13
頸椎・脊椎の疼痛+神経症状があれば脊椎損傷として固定し動かさない
- 14
安静時痛の増強・他動伸展で激痛・知覚異常・腫脹の緊満があればコンパートメント症候群として、ギプス・包帯を直ちに全周切開して緩め、搬送する
- 15
血管損傷や神経損傷がないことを確認してから、ギプスなどで固定する
確認が先
- 16
シーネ(副子)で、隣接する関節を含めて固定する
全周のギプスは腫脹で締まるので、急性期には避けるのが一般的(要確認:この運用は本シートの実務上の記載であり、引用元=学会ページには「ギプスなどで固定」としか書かれておらず、この記載自体はない)
- 17
固定したら挙上する
- 18
上腕骨顆上骨折を疑う場合は、X線前に末梢の循環と知覚・運動を記録する
やってはいけない
- 創内を消毒しない
- 帰すときに「陰性=骨折なし」と言わない
- 骨折部がグラグラしない限りは、その周囲の関節や筋肉は動かした方が良い場合が多く、必要以上の安静はかえってよくない
終わったあと
- 触ると痛がる・使わない・体重をかけないが続くようなら、もう一度見せる
- 指先が白い・紫色・冷たい、しびれる、痛みがどんどん強くなる、このどれかがあれば、固定を緩めて、すぐに来る
- 子どもの骨は治る力が強く、多少のずれは成長とともにまっすぐになる。ただし関節のすぐそばの骨折だけは別で、しっかり治す必要がある
- 成長期は骨が癒合しやすいので、1〜2カ月たてば安定する
- 今日のレントゲンで写らなくても、「骨折はない」と言い切ることはできない
この場で持てない・送る
- 開放骨折 → 持てない。清潔被覆・固定して搬送
- 血流障害・コンパートメント症候群 → 持てない。締め付けを解除して搬送
- 著しい変形・脱臼を伴う骨折 → 整復が要る。当院で持てるかは要確認
- 頸椎・脊椎の疼痛+神経症状/脊椎の損傷 → 脊椎損傷として固定・動かさない。持てない
- 神経損傷を伴う → 持てない
- 大きく転位した骨折・関節内骨折・骨端軟骨の骨折 → 持てない(手術・牽引が要る)
- 不安定な関節周囲の骨折・大きく転位した骨折 → 入院して持続牽引を行ったり、経皮ピンニング手術を行ったりする=当院で持てない
- 転位の軽い骨折 → シーネ固定+鎮痛は当院。翌日整形へ(当院の整形対応による)
- 骨折が否定できないがX線陰性 → 固定して再診。当院でフォローするかは要確認
- 虐待を疑う → 持てない。通告と全身の評価
- 病的骨折を疑う → 持てない
- 受傷機転と骨折が合わない/年齢に合わない骨折 → 虐待を疑う
- 歩き始める前の乳児の長管骨骨折 → 同上。原則として虐待を考える(要確認:この原則は広く用いられるが、本シートでは日本語の一次資料を確認していない)
- 要確認:当院に整形外科の当直・オンコールがあるか。無いなら、どこへ何時まで送れるか
- 要確認:当院でシーネ固定の材料があるか(サイズ展開・小児用)
- 要確認:徒手整復を当院で行うか(行うなら鎮静体制が要る)
- 要確認:夜間のX線・CTの可否と読影体制
- 要確認:虐待を疑ったときの通告経路(児童相談所・院内の担当)
- 要確認:松葉杖・三角巾の在庫と、小児のサイズ
- 要確認:当院で骨折をどこまで持つか。整形の当直がなければシーネ固定と鎮痛だけ行って翌日紹介、という運用になるが、それを明文化しておきたい
手順・適応・禁忌はすべて本シートの正本の記載のみ。院内の器材・採用薬・搬送先は施設ごとに違うため、適用前に院内ルールを確認すること。