腸閉塞・イレウス
外科的緊急β版・逐条レビュー継続中
施設プロファイル: 二次救急/外科的処置を持たない/当直帯は超音波・CTが使えない。
腹痛の入口は急性腹痛。
30秒要約
- 分岐はひとつだけ。腸閉塞において大切なことは、腸閉塞を起こしている腸管が血行障害を起こしているか否かによって治療方針が異なるということ。
- 血行障害があれば緊急手術。血行障害を伴う場合は、症状は重篤で、非常につよい腹痛を来す。下血も血行障害を考えさせる所見として重要。血行障害を起こしていることが強く疑われれば、緊急手術が必要。
- 腹部手術の既往を必ず聞く。以前にお腹の中の手術をしているときは、5%ぐらいの頻度で術後に腸閉塞が発生する。
- 年齢で原因が変わる。腸重積は生後半年から2歳頃、肥厚性幽門狭窄症は生後1か月前後、腸回転異常・中腸軸捻転は新生児期以降に発生するものが2割で、年長児の反復性嘔吐の原因となる。
- 主症状は嘔吐。ただし嘔吐を来す腸閉塞以外の多くの疾患があり、区別が必要。
レッドフラグ → 次の一手
所見があったときにどれだけ急ぐかと、家族に何を伝えるかの対応表。3列目の文言は家族説明ページに同じ言葉で載っているので、画面を見せながら渡せる。
| 緊急度 | 所見 | その場で次にやること | 時間の勝負 |
|---|---|---|---|
| 119 | 胆汁性嘔吐 | 腸回転異常・中腸軸捻転を最優先で外す。持てない(中腸軸捻転) | 即時 |
| 119 | 非常に強い腹痛(血行障害のサイン) | 緊急手術が必要。持てない | 即時 |
| 119 | 下血を伴う | 下血も血行障害を考えさせる所見として重要。持てない(小児の血便) | 即時 |
| 119 | 腹膜刺激症状・腹部膨満+ショック | 穿孔・絞扼。輸液しながら搬送 | 即時 |
| 119 | 腹部手術既往+嘔吐+腹部膨満+排ガス停止 | 術後腸閉塞。持てない | 即時 |
| 緊急 | 高度な脱水(先天性腸閉塞・反復する嘔吐) | これら病気では、高度な脱水症状となるため、点滴を行い、適切な治療が必要。輸液を当院で開始 | 即時 |
| 緊急 | 間欠的な啼泣+嘔吐+不機嫌(3か月〜2歳) | 腸重積。当直帯はエコーが無く確かめられない。この所見だけで整復可能施設へ電話する(腸重積) | 即時 |
| 緊急 | 生後1か月前後の噴水状嘔吐+体重増加不良 | 肥厚性幽門狭窄症。輸液補正が先(肥厚性幽門狭窄症) | 当日 |
| 緊急 | 鼠径部の膨隆 | 嵌頓ヘルニア(嵌頓ヘルニア)。必ず鼠径部を見る | 即時 |
| 緊急 | 新生児の嘔吐+腹部膨満+胎便排泄遅延 | 先天性腸閉塞・ヒルシュスプルング病。持てない | 即時 |
| 当日 | 血行障害を疑わない腸閉塞 | 脱水補正目的の輸液と減圧。管理できる施設へ | 当日 |
分類(学会の表をそのまま使う)
生直後に腸閉塞を来す疾患
| 区分 | 疾患 |
|---|---|
| 機械的閉塞 | 先天性腸閉鎖・狭窄/先天性食道閉鎖/先天性十二指腸閉鎖・狭窄/先天性小腸閉鎖・狭窄/直腸・肛門形成異常/直腸肛門奇形 |
| 機能的閉塞 | 大腸運動機能異常/ヒルシュスプルング病/ヒルシュスプルング病類縁疾患(腸管の神経節細胞は存在するが、腸管の動きがヒルシュスプルング病のように悪い疾患群) |
| 全身性疾患 | 周産期胎児循環異常/低出生体重児/敗血症/甲状腺機能低下症 |
機械的閉塞は、腸管の内腔がつながっていなかったり狭くなっていたりすることにより通過障害が発生する場合で、機能的閉塞とは腸管の管腔はしっかりできているのに腸がうまく動かないために閉塞が発生する病気です。ヒルシュスプルング病がその典型ですが、多くの類似疾患があります。全身性の病気でも腸管運動が障害され閉塞症状が出現することがあります。
先天性の腸閉塞は、出生前に診断される場合が増えています。
生直後以降に発生する腸閉塞
| 区分 | 疾患と特徴 |
|---|---|
| 消化器疾患 | 壊死性腸炎(低出生体重児に特徴的で、ミルクを開始してしばらくして発生)/肥厚性幽門狭窄症(生後1か月前後に発生)/腸重積(生後半年から2歳頃までの間で季節の変わり目に多く発生)/腸回転異常・中腸軸捻転(新生児期以降に発生するものが2割で、年長児の反復性嘔吐の原因となる)/メッケル憩室(胎生期の腸管の遺残で、腸閉塞の他に消化管出血の原因となる)/腸管重複症(腸重積の原因となることがある) |
| 腹部手術既往 | 術後イレウス(以前にお腹の中の手術をしているときは、5%ぐらいの頻度で術後に腸閉塞が発生する) |
| 泌尿器疾患ほか | 巨大水腎症や腹部悪性腫瘍も、巨大な場合は腸管を圧迫し腸閉塞を来す |
症状
腸閉塞の症状としては、お腹が膨れる、繰り返す嘔吐、腹痛が主なものですが、下血を伴うこともあります。
また、これら病気では、高度な脱水症状となるため、点滴を行い、適切な治療が必要となります。
治療ワークフロー(当院でやること)
当院の仕事は「血行障害があるかを判断して、輸液して、送る」。
| 時間 | やること |
|---|---|
| 0分 | バイタル。脱水とショックの評価。腹部膨満・腹膜刺激症状 |
| 0〜5分 | 嘔吐物の色を自分で見る。胆汁性なら中腸軸捻転として動く(中腸軸捻転) |
| 5分 | 鼠径部と陰嚢を見る(嵌頓ヘルニア・急性陰嚢症) |
| 5〜10分 | 腹部手術の既往を聞く。傷を探す |
| 10〜20分 | ルート確保・輸液。脱水補正目的の輸液(経口補水・点滴・採血・末梢ルート確保) |
| 10〜20分 | 血算・生化・電解質・血ガス(嘔吐で低Cl性代謝性アルカローシスになりうる) |
| 20分 | 腹部X線(鏡面像・ガス分布・遊離ガス)(腹部X線)。X線は夜間も撮れる(2026-09-14 確認)。腹部エコーだけが当直帯に当てられない(腹部エコー)ので、画像が揃うのを待たずに次へ進む |
| 判断 | 血行障害を疑うか?(強い腹痛・下血・ショック・腹膜刺激症状)→ 疑えば緊急手術が要る=持てない |
| 搬送前 | 絶飲食。胃管を入れるかは施設判断(下の医師確認事項)。輸液を続けながら搬送 |
専門施設での治療(家族への説明のため)
血行障害を伴わない腸閉塞では、脱水補正目的の輸液、腸管蠕動を止めるお薬の投与や、鼻から小腸までチューブを挿入留置して小腸内の減圧をおこなう方法でまず治療します。5日から1週間経過しても腸閉塞の改善が認められない場合には手術による治療を考慮しなければなりません。
腸回転異常・中腸軸捻転では、腸管を助けるために早期診断、早期治療が必要です。
鑑別:嘔吐を腸閉塞と決める前に
小児の腸閉塞の主症状は嘔吐ですが、嘔吐を来す腸閉塞以外の多くの疾患があり、区別が必要です。
| 病態 | 見分け | 次の一手 |
|---|---|---|
| 胃食道逆流症 | 胃内のミルクが胃と食道の逆流防止機構が不完全で食道に上がってくる病気で、乳児期には非常に頻度が高い | 胃食道逆流症 |
| ミルクアレルギー | 小児嘔吐のかくれた原因として注意が必要 | 小児の血便・食物アレルギー |
| 胃腸炎 | 下痢を伴う、周囲の流行 | 胃腸炎と脱水 |
| 頭蓋内圧亢進 | 朝の頭痛・嘔吐、意識・神経所見 | 頭痛・頭部打撲 |
| DKA | 多飲多尿・体重減少・深く速い呼吸 | 糖尿病性ケトアシドーシス |
| 周期性嘔吐症 | 反復するパターン、間欠期は無症状 | 周期性嘔吐。器質的疾患を外してから |
| 尿路感染症 | 発熱、乳児では嘔吐だけのことがある | 尿路感染症 |
| 中毒 | 内服歴 | 急性中毒 |
| 虫垂炎 | 右下腹部痛、発熱 | 虫垂炎 |
| 卵巣腫瘍茎捻転(女児) | 突然の強い下腹部痛+嘔吐 | 卵巣腫瘍茎捻転 |
問診チェック
- 嘔吐物の色(胆汁性かどうか)と回数
- 最終排便・排ガス
- 腹部手術の既往(何を、いつ)
- 胎便排泄の時期(新生児・乳児)
- 出生歴(低出生体重児か)、在胎週数
- 体重の推移
- 出生前診断の指摘(先天性腸閉塞は出生前に見つかることが増えている)
- 既知の疾患(ヒルシュスプルング病・腸回転異常)
- 水分摂取と尿量(脱水の評価)
送る/持つ(当院=二次救急・外科的処置なし)
エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)
- 要確認:小児外科・新生児外科の紹介先(夜間・休日)。小児外科は決まった連携先に直接電話する運用(施設名・番号は保留中)
- 要確認:当院で胃管(減圧)を入れるか。搬送前に入れるかどうかの方針
- 確定(2026-09-14):夜間の腹部エコーは当院で当てられない。腹部X線は撮れる
- 要確認:搬送中の輸液と鎮痛の指示
- 要確認:造影検査(上部消化管造影・注腸)ができる施設
家族に渡す一文
「腸の通り道がふさがっている(腸閉塞)可能性を考えています。子どもの腸閉塞は、年齢によって原因が違います。大事なのは、ふさがっているところの血の巡りが止まっているかどうかです。血の巡りが止まっている場合は、急いで手術が必要になります。とても強い痛みや血便は、そのサインです。血の巡りが保たれている場合は、点滴と、鼻から入れる管でお腹の中の圧を下げる治療から始めます。どちらにしても、手術ができる病院で診ていただく必要があります。いま点滴を始めるのは、繰り返す嘔吐で強い脱水になっているためです。」
医師確認事項(要・岡本判断)
- 要確認:本シートは日本小児外科学会の一般向け解説ページ「腸閉塞」を一次資料としている。診療ガイドラインではない。薬剤・用量・手技には踏み込んでいない。
- 要確認:搬送前に胃管を入れるか。学会ページは「鼻から小腸までチューブを挿入留置して小腸内の減圧」を治療として挙げているが、当院で搬送前にどこまで行うかは決めておきたい。
- 要確認:「嘔吐で低Cl性代謝性アルカローシス」は本シートの実務上の記載で、引用元にはない(肥厚性幽門狭窄症と整合させたい)。
- 要確認:腹部X線の読み(鏡面像・ガス分布)は本シートで一次資料を確認していない。腹部X線と整合させる必要がある。
- 要確認:「腸管蠕動を止めるお薬」が何を指すかは学会ページに明記がない。当院では扱わない前提でよいか。
- 要確認:ヒルシュスプルング病は本シートで独立して扱っていない(表の中でのみ)。新生児の胎便排泄遅延・慢性便秘の文脈で別シートに切り出すかどうか。
出典
- 日本小児外科学会.小児外科で治療する病気「腸閉塞」.http://www.jsps.or.jp/archives/sick_type/tyou-heisoku (httpでアクセス。2026-09-13閲覧)。「腸閉塞は、腸管の通過がなんらかの原因により障害された状態で、小児でも多くの原因で発生します」「機械的閉塞は、腸管の内腔がつながっていなかったり狭くなっていたりすることにより通過障害が発生する場合で、機能的閉塞とは腸管の管腔はしっかりできているのに腸がうまく動かないために閉塞が発生する病気です。ヒルシュスプルング病がその典型ですが、多くの類似疾患があります。全身性の病気でも腸管運動が障害され閉塞症状が出現することがあります。先天性の腸閉塞は、出生前に診断される場合が増えています」「腸閉塞の症状としては、お腹が膨れる、繰り返す嘔吐、腹痛が主なものですが、下血を伴うこともあります。また、これら病気では、高度な脱水症状となるため、点滴を行い、適切な治療が必要となります」「壊死性腸炎は低出生体重児に特徴的で、ミルクを開始してしばらくして発生します。肥厚性幽門狭窄症は生後1か月前後に発生します。腸重積は、生後半年から2歳頃までの間で季節の変わり目に多く発生します。腸回転異常・中腸軸捻転は、新生児期以降に発生するものが2割で、年長児の反復性嘔吐の原因となります。メッケル憩室は、胎生期の腸管の遺残で、腸閉塞の他に消化管出血の原因となります。腸管重複症は、腸重積の原因となることがあります。その他に、以前にお腹の中の手術をしているときは、5%ぐらいの頻度で術後に腸閉塞が発生します。巨大水腎症や腹部悪性腫瘍も、巨大な場合は腸管を圧迫し腸閉塞を来します」「小児の腸閉塞の主症状は嘔吐ですが、嘔吐を来す腸閉塞以外の多くの疾患があり、区別が必要です。胃食道逆流症は、胃内のミルクが胃と食道の逆流防止機構が不完全で食道に上がってくる病気で、乳児期には非常に頻度が高く、ミルクアレルギーも小児嘔吐のかくれた原因として注意が必要です」「腸閉塞において大切なことは、腸閉塞を起こしている腸管が血行障害を起こしているか否かによって治療方針が異なるということです。腸回転異常・中腸軸捻転では、腸管を助けるために早期診断、早期治療が必要です。血行障害を伴う場合は、症状は重篤で、非常につよい腹痛を来します。下血も血行障害を考えさせる所見として重要です。血行障害を起こしていることが強く疑われれば、緊急手術が必要になります」「血行障害を伴わない腸閉塞では、脱水補正目的の輸液、腸管蠕動を止めるお薬の投与や、鼻から小腸までチューブを挿入留置して小腸内の減圧をおこなう方法でまず治療します。5日から1週間経過しても腸閉塞の改善が認められない場合には手術による治療を考慮しなければなりません」。表1「生直後に腸閉塞を来す疾患」・表2「生直後以降に発生する腸閉塞」は本文の表に転記した。