細菌性腸炎・腸管出血性大腸菌(EHEC)とHUS

緊急

細菌性腸炎・腸管出血性大腸菌(EHEC)とHUS

消化器β版・逐条レビュー継続中

2026-09-12更新
β版用量は適用前に一次資料と院内採用を確認。

施設プロファイル: 二次救急/急性血液浄化なし。HUSは当院で持てない。

30秒要約

  • 止痢薬は使わない。「止痢薬はHUS発症の危険因子であるため、小児のEHEC感染患者に投与しない」(推奨グレードD=行わないよう勧められる)。サルモネラ・カンピロバクターでも排菌を遅らせるため使わない。
  • 抗菌薬は「一定の結論はない」。日本のガイドラインは推奨グレードを「該当せず」としている。「使う/使わない」の二択で覚えない(下記)。
  • HUSは下痢の出現後4〜10日に発症。EHEC感染者の約1〜10%。下痢の2〜3日後に発症する例は急激かつ重症の経過をとることがある。
  • 乏尿・無尿はHUS患者の約半数に起き、そのさらに約半数が急性血液浄化療法を必要とする。
  • 血清Crが年齢・性別基準値上限の2倍以上なら、急性血液浄化療法ができる施設へ(推奨グレードB)。

レッドフラグ → 次の一手

所見があったときにどれだけ急ぐかと、家族に何を伝えるかの対応表。3列目の文言は家族説明ページに同じ言葉で載っているので、画面を見せながら渡せる。

緊急度所見次の一手
119乏尿・無尿HUSを疑う。血算(Hb・血小板・破砕赤血球)・Cr・電解質。急性血液浄化ができる施設へ連絡
119意識障害・痙攣・頭痛HUSの中枢神経症状(1/4〜1/3に何らかの中枢神経症状)。意識障害
119出血傾向・紫斑血小板減少。HUSを疑う
緊急血清Cr が年齢・性別基準値上限の2倍以上急性血液浄化療法が施行できる施設での診療を考慮する(推奨グレードB)
緊急血便+下痢の子で、受診時に脱水がある/低Na血症(130 mEq/L以下)/ALT上昇(70 IU/L以上)/EHEC O157:H7無尿・乏尿や透析の危険因子。輸液を早めに入れ、経過を追う
緊急下痢発症から4〜10日目の再受診HUSの好発時期。顔色・尿量・むくみを必ず確認
緊急血便+発熱細菌性腸炎を疑う。便培養。止痢薬を出さない
当日下痢が治まった(サルモネラ・カンピロバクター)登校(園)可能。手洗いを励行する
当日数週間後の四肢の脱力(カンピロバクター後)ギラン・バレー症候群の併発がありうる

潜伏期と症状(日本小児科学会の解説より)

病原体潜伏期間症状
腸管出血性大腸菌(EHEC)ほとんどの大腸菌が主に10時間〜6日、O157:H7は3〜4日(1〜10日)無症状の場合もあるが、水様下痢便、腹痛、血便。乏尿や出血傾向、意識障害はHUSの合併を示唆する症状
サルモネラ主に12〜36時間(6〜72時間)下痢、血便、嘔吐、発熱
カンピロバクター通常2〜5日(長くなる場合もある)下痢、血便、嘔吐、発熱。発症数週間後にギラン・バレー症候群を併発することもある

治療ワークフロー(当院でやること)

順やること注意
1脱水を評価し、輸液を早めに入れる輸液が少ないことが無尿・乏尿の危険因子として挙げられている
2便培養を出すEHECの確定診断は菌の分離+ベロ毒素(遺伝子)の確認。培養は通常4〜5日を要する
3O157迅速検査を使う場合IC法は15〜20分で判定できるが、検出感度はRPLA法に比べ4倍程度低い。キット間でも差がある。陰性で否定しない
4止痢薬を出さない推奨グレードD。EHECではHUSの危険因子。サルモネラ・カンピロバクターでも排菌を遅らせる
5抗菌薬は慎重に判断する(下記)日本のガイドラインは推奨グレード「該当せず」
6下痢発症後4〜10日をHUSの警戒期間として家族に伝える尿量・顔色・むくみ・元気のなさ
7届出(3類・全数)HUS発症例に限り、菌が分離できなくても届出できる
8入院なら接触感染予防策を便培養陰性が連続して2回確認されるまで(推奨グレードB)

抗菌薬とHUSの関係(「使う/使わない」の二択ではない)

日本のガイドラインのステートメント(推奨グレードは「該当せず」):

「腸管出血性大腸菌(EHEC)感染に対する抗菌薬の使用と溶血性尿毒症症候群(HUS)の発症に関しては一定の結論はない。」
「患者の家族等の保護者に対しては、感染拡大予防を目的として抗菌薬投与を考慮する。」

なぜ結論が出ていないか

立場根拠
抗菌薬はHUSの危険因子(米国のガイドラインは推奨しない)抗菌薬投与により菌体から毒素が放出される。EHEC O157感染患者を対象とした複数のコホート研究で、抗菌薬投与群は非投与群よりHUS発症率が高かった
影響しない1981〜2001年の海外臨床研究のメタ解析ではHUS発症率に影響を与えないとされた
有益の可能性2011年欧州STEC O104:H4のケースコントロール研究では、抗菌薬投与群で痙攣の発生率・外科的介入率・死亡率が低く、便中の細菌の残存日数が短かった
国内の報告EHEC集団感染の際にホスホマイシンを下痢発症早期(特に2日以内)に使用した群のHUS発症率が、抗菌薬を全く使用しなかった群に比べ低いことが示されている

「海外と国内では抗菌薬投与の適応が異なるため、2者の単純な比較は難しく、抗菌薬投与がHUS発症予防に有効か否かについては結論が出ていない。今後さらなる検証が必要であるため、推奨グレードを該当せずとした。」

厚生労働省のQ&Aも「ホスホマイシンがHUSの合併率を減少させる可能性があることがわかってきました」としている。

決定:抗菌薬は投与しない(HUSリスクとの関連が指摘されるため)(論点:当院でEHEC疑い例に抗菌薬を出すかどうかの方針。ガイドラインが結論を出していない以上、院内で決めておく必要がある。「早期(2日以内)のホスホマイシン」を採るかどうか)

HUS(溶血性尿毒症症候群)

発症のタイミング(逐語)

「HUSの症状はEHEC感染者の約1〜10%に発症し、下痢の出現後4〜10日に発症する。下痢の2〜3日後に発症する例もあるが、そのような例では急激かつ重症の経過をとることがあり注意すべきである。」

診断基準(3主徴)

項目基準
溶血性貧血破砕状赤血球を伴う貧血で Hb 10 g/dL未満
血小板減少血小板数 15万/μL 未満
急性腎傷害血清クレアチニン値が年齢・性別基準値の1.5倍以上

随伴症状: 中枢神経(意識障害、痙攣、頭痛、出血性梗塞等)/消化管(下痢、血便、腹痛、重症では腸管穿孔・腸狭窄・直腸脱・腸重積)/心臓(心筋傷害による心不全)/膵臓(膵炎)/DIC

予後と重症度

  • 乏尿・無尿はHUS患者の約半数に発生し、さらにその約半数が急性血液浄化療法を必要とする。
  • 1/4〜1/3の患者が何らかの中枢神経症状を呈する。
  • 急性期の死亡率は約2〜5%。
  • 患者の約80%が15歳以下で発症し、子どもと高齢者で重症化しやすい。

無尿・乏尿や透析の危険因子: 受診時に脱水を認める患者/HUS発症前の等張性輸液製剤(水分・Na)の投与量が少ない患者/受診時に低Na血症(130 mEq/L以下)やALT上昇(70 IU/L以上)を呈する患者/EHEC O157:H7の感染患者

届出・登校(園)

項目内容
届出(EHEC)3類感染症・全数届出。菌の分離・同定とベロ毒素の確認による。HUS発症例に限り、便からのVT検出あるいは患者血清のO抗原凝集抗体等で診断した場合も届出が必要
学校保健安全法第三種
登校(EHEC・有症状者)医師において感染のおそれがないと認められるまで出席停止
登校(EHEC・無症状病原体保有者)トイレでの排泄習慣が確立している5歳以上の子どもは出席停止の必要はない。5歳未満は2回以上連続で便培養が陰性になれば登校(園)してよい
登校(サルモネラ・カンピロバクター)下痢が治まれば登校(園)可能。手洗いを励行する
保育所EHECは医師が意見書を記入することが考えられる感染症(麻しん・インフルエンザ等と同じ最重要区分)。発生時は速やかに保健所に届け、指示に従い消毒を徹底する

鑑別

疾患見分け
ウイルス性胃腸炎嘔吐が先行し下痢が続く。血便は乏しい(胃腸炎と脱水)
腸重積間欠的啼泣、イチゴゼリー状粘血便(腸重積)
IgA血管炎(腹部型)紫斑+腹痛。腸重積を合併しうる
炎症性腸疾患慢性の経過、体重減少、成長障害
Meckel憩室前触れなく大量の下血(小児の血便)
食物蛋白誘発胃腸炎新生児・乳児期、哺乳との関連(小児の血便)

送る/持つ(当院=二次救急・急性血液浄化なし)

状態当院の扱い
細菌性腸炎の診断・輸液・届出当院で行う
HUSを疑う(乏尿・貧血・血小板減少・Cr上昇)持てない。急性血液浄化療法ができる施設へ
血清Crが基準値上限の2倍以上同上(推奨グレードB)
中枢神経症状持てない
脱水で輸液が要る当院で対応しうる

エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)

  • 要確認:EHEC疑い例への抗菌薬の院内方針院内(ガイドラインが結論を出していないため)
  • 要確認:急性血液浄化療法ができる施設の受け入れ先
  • 要確認:年齢・性別別の血清Cr基準値表を院内に置くか(2倍以上の判定に要る)
  • 要確認:O157迅速検査の院内採用と、便培養の外注日数
  • 要確認:保健所への届出手順

家族に渡す一文

「細菌による腸炎です。下痢止めは使いません。菌や毒素を体の外に出しにくくして、かえって悪化させることがあるためです。血便が出る菌のなかには、下痢が始まってから4〜10日たったころに、腎臓に影響が出るものがあります。おしっこの量が減る・顔色が悪い・まぶたや足がむくむ・ぐったりする、このどれかがあれば、日数がたっていてもすぐに来てください。ご家族にも手洗いを徹底してください。」

出典

  • 溶血性尿毒症症候群の診断・治療ガイドライン作成班(日本小児腎臓病学会・日本腎臓学会・日本小児神経学会・日本小児感染症学会・日本感染症学会の専門家で構成).溶血性尿毒症症候群の診断・治療ガイドライン.東京医学社、2014年4月.https://kobecity-kmss.jp/files/publicfiles/11f7cba8586a1d1eb1d92c0fe048bde9.pdf (2026-09-12閲覧)。抗菌薬のステートメント(一定の結論はない/推奨グレード該当せず/家族への感染拡大予防目的の投与を考慮)と、海外・国内の根拠の対比(ホスホマイシンを下痢発症早期〈特に2日以内〉に使用した群でHUS発症率が低い)、止痢薬(推奨グレードD=行わないよう勧められる)、HUSの発症時期(下痢出現後4〜10日、約1〜10%、2〜3日後の例は急激かつ重症)、3主徴の診断基準(Hb 10 g/dL未満・血小板15万/μL未満・血清Cr 年齢性別基準値の1.5倍以上)、随伴症状、乏尿・無尿は約半数でさらにその約半数が急性血液浄化療法を要すること、無尿・乏尿や透析の危険因子、1/4〜1/3の中枢神経症状、急性期死亡率2〜5%、血清Crが基準値上限の2倍以上で急性血液浄化療法ができる施設での診療を考慮(推奨グレードB)、入院患者への接触感染予防策(便培養陰性が連続2回まで・推奨グレードB)。
  • 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会.学校、幼稚園、認定こども園、保育所において予防すべき感染症の解説(2025年4月改訂版).https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20250430_yobo_kansensho.pdf (2026-09-12閲覧)。EHEC・サルモネラ・カンピロバクターの潜伏期と症状、カンピロバクター後のギラン・バレー症候群、登校(園)基準、下痢止め薬を使用しないこと、HUS患者の約80%が15歳以下。
  • 国立健康危機管理研究機構.腸管出血性大腸菌(EHEC)検査・診断マニュアル(2024年8月改訂).https://www.niid.jihs.go.jp/images/lab-manual/EHEC20240827.pdf (2026-09-12閲覧)。確定診断は菌の分離とベロ毒素(遺伝子)の確認、IC法の検出感度はRPLA法に比べ4倍程度低くキット間でも差がある、迅速検査キットの所要時間、3類・全数届出とHUS発症例の届出の特例。
  • 厚生労働省.腸管出血性大腸菌Q&A(最終改訂 令和3年12月17日).https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177609.html (2026-09-12閲覧)。届出義務、ホスホマイシンがHUSの合併率を減少させる可能性、下痢止め薬・痛み止め薬の注意。
  • こども家庭庁.保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版、2023年5月一部改訂).https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e4b817c9-5282-4ccc-b0d5-ce15d7b5018c/c60bb9fc/20230720_policies_hoiku_25.pdf (2026-09-12閲覧)。EHECは意見書が考えられる感染症、抗菌薬は慎重に判断されること、保健所への届出と消毒。
  • 未確認: 小児急性胃腸炎診療ガイドライン(2017/2022、日本小児救急医学会)の原典PDFは公開URLが404でアクセスできず、便培養の適応・抗菌薬CQ・入院適応の本文は確認できていない。便中白血球の感度・特異度の定量値も未確認。
病態・根拠10章
病態:腸炎の重症度と、毒素による障害を分ける

細菌性腸炎では腸管の炎症・分泌による下痢と、摂取低下による脱水を評価する。一方、腸管出血性大腸菌(STEC/EHEC)では志賀毒素による血栓性微小血管障害が問題となり、溶血性貧血、血小板減少、急性腎障害を伴うHUSへ進む場合がある。便の回数や血便が減っても、腎臓・血液の合併症の評価は別に続ける必要がある。[1][2]

鑑別:血便をすべて感染と決めない

血便・強い腹痛ではSTEC等を疑うが、腸重積、炎症性腸疾患等も鑑別する。緑色嘔吐、腹膜刺激、強い発作痛、循環不良があれば、便培養だけを待つ経過観察にはしない。食事、動物接触、渡航、集団内発症、家族の症状と経過を聞き、原因菌と感染拡大の可能性を絞る。[1][2]

検査の目的と限界

便の検査は原因微生物を調べるもので、HUSの有無を判定するものではない。STECが疑われる場合は志賀毒素等を含む検査の可否を確認する。顔色不良、点状出血、乏尿、浮腫、傾眠・けいれんは血算・血小板、Cr・電解質、溶血の評価につながる。発症初期の正常値だけで後のHUSを除外できず、経過に応じて再検を計画する。[2]

治療:補水と抗菌薬を別々に判断する

まず循環・水分状態を評価し、飲める場合は経口補水、必要時は静脈補液を行う。ただし、乏尿・腎障害が生じた後の補液は、脱水予防の段階と同じ量で続けず、体重、尿量、血圧・浮腫を見て腎専門医と調整する。STECで止痢薬を使わない点は、国内HUSガイドラインとCDCが一致する。[1][2]

抗菌薬は菌種・重症度・宿主要因で目的が異なる。STECについて、CDC2024はHUSリスクから使用しないよう勧告し、国内2014年HUSガイドラインは一定の結論なしとしている。この年代・推奨差を無視して、すべての血便へ経験的抗菌薬を定型投与しない。敗血症など時間依存の治療が必要な場合も含め、感染症・腎臓専門医と直ちに判断する。[1][2]

帰宅時の説明と追跡

補水でき、循環が安定し、再診が確保できる場合に帰宅を考える。STEC疑い・確定例は、排尿低下、顔色不良、むくみ、強い倦怠感、反応の変化があれば下痢が軽くなっていても再受診するよう説明する。HUS所見や神経症状は腎・集中治療へ緊急相談する。[1][2]

出典と適用範囲

STEC抗菌薬に関する国内旧版とCDCの推奨差は未解消であり、院内方針院内を本節で確定していない。その他の菌種ごとの抗菌薬適応・用量を網羅する節ではない。

臨床医が迷う場面
下痢が減ったので、HUSの心配も終わり?

腸症状の改善後にもHUSが発症し得る。尿量減少、顔色不良、むくみ、紫斑、強い倦怠感を説明し、発症日からの経過と血算・腎機能を追う。疑う変化があれば次回予約を待たず再評価する。初回の血算やCrが正常でも後日の発症は否定できない。

出典:CDC E. coli感染症の治療 / 国内HUS診断治療ガイドライン

血便があるので、止痢薬と抗菌薬を同時に出す?

止痢薬は使わず、便検査と脱水・腎機能評価を行う。STEC/EHECを疑う場合、抗菌薬は利益とHUSリスクが議論され、当院は院内投与しない既存方針で対応する。他病原体、敗血症、基礎疾患では判断が変わるため、原因を区別して専門医と相談する。

出典:CDC E. coli感染症の治療 / 国内HUS診断治療ガイドライン

早く補液すべきなら、尿が出なくても大量に入れる?

早期の脱水補正は重要だが、乏尿・無尿や腎傷害が進む場合は体液過剰を避ける必要がある。体重、入出量、呼吸、電解質を反復評価し、漫然と輸液を続けない。HUSが疑わしければCrの閾値到達を待つのではなく、血液浄化に対応する施設へ相談する。

出典:CDC E. coli感染症の治療 / 国内HUS診断治療ガイドライン

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