傷を洗浄し、縫うかどうかを決める
洗う。消毒しない。 創傷部への消毒薬使用は感染予防目的では行わず、消毒薬は組織毒性でかえって治りを悪くしうる。水道水による洗浄は有効(グレードB)で、生理食塩水と感染率に差はない。縫うタイミングは顔面・頭頸部は24時間前後、体幹・四肢は6〜12時間以内が目安で、部位・汚染・深部構造・創縁の緊張で「縫わない」選択も持つ。
始める前に
- 止血(直接圧迫)。拍動性の出血・大量出血なら持てない
- 受傷機転・時刻・場所(土・水・動物)を聞く。説明と創が合うかを確認する
- 深部構造の評価(知覚・運動・血流・関節可動域)を縫う前に必ず行う
- 痛みを取る(局所麻酔・表面麻酔)。鎮静だけで痛い処置をしない
- 腱・神経・血管・関節・骨に達する疑い、手指の創(特に屈側)、眼瞼・涙小管・鼻・耳・口唇(赤唇縁をまたぐ)、異物残存の可能性、創縁の緊張が強い/循環不全の懸念がないかを確認する
手順
- 1
大量の流水(水道水でよい)で創を洗い、異物を取り切る
水道水による洗浄は有効であり、水道水と生理食塩水で感染率に差はない
- 2
創内は消毒しない。周囲の健常皮膚のみ消毒し、消毒薬が創内に入らないよう注意する
消毒薬は組織毒性があり、菌濃度を下げる一方で正常組織を損傷し感染を引き起こしうる
- 3
擦過創は砂・アスファルト粒子などの異物を、創が上皮化する前に可及的速やかに洗浄・除去する
外傷性刺青を防ぐため。上皮化後は除去に難渋する
- 4
必要ならデブリードマンを行う
- 5
部位・時間・汚染・深部構造・創縁の緊張を踏まえて縫うか縫わないかを決める
- 6
『縫わない』選択肢も持つ:緊張のない浅い直線創は創傷被覆材・テープ固定、頭皮の小さな裂創は毛髪結紮や組織接着剤(院内採用による)、汚染が強く時間が経った創は開放のまま洗浄を繰り返し後日閉創(当院で追えるか確認)、深部構造の損傷を疑う創は縫わずに送る
縫うと評価が遅れる場合や、一期的縫合が困難な場合がある
- 7
顔面・頭頸部は受傷後24時間前後、体幹・四肢は6〜12時間以内を目安に縫合する。汚染の程度・壊死付着で大きく左右される
- 8
受傷後6〜8時間以内に十分な洗浄・デブリードマンを行えば一期的縫合を検討できる。ただし創縁の緊張が強い、または縫合後の腫脹・浮腫による循環不全が懸念される場合は一期的縫合は困難
受傷後6〜8時間以内の十分な洗浄・デブリードマンが行われた場合には一期的縫合が有効
- 9
母子手帳で破傷風の接種歴を確認し、必要ならトキソイド(±TIG)を接種する
年齢・創の状態・接種歴・糖尿病合併の有無を考慮した破傷風予防は有効
やってはいけない
- 感染予防を目的として創傷内を消毒する(組織を傷め、結果的に感染を引き起こしうる)
- 汚染が強い・受傷から時間が経った創を無理に一期縫合する
- 腱・神経・血管・関節・骨に達する疑いのある創を縫う(縫わずに送る)
- 創縁の緊張が強い、または縫合後の腫脹・浮腫による循環不全が危惧される創を一期的縫合する
- 汚染や深部組織の損傷・露出がなく基礎疾患のない創にルーチンで予防的抗菌薬を投与する
- 局所抗生剤をそれのみで感染予防目的に用いる(耐性菌の出現を誘導する可能性がある)
- 鎮静だけで(局所麻酔・表面麻酔なしに)痛い処置を行う
終わったあと
- 再診日を決める(感染徴候の確認と抜糸)
- 感染徴候(赤み・腫れ・熱・痛みの増強・膿)が出たら予定より早く受診するよう具体的に伝える
- 抗菌薬はきれいな創では基本的に必要ないことを伝える
この場で持てない・送る
- 拍動性の出血・大量出血 → 直接圧迫。持てない
- 頭部の創+意識障害・嘔吐・陥没 → 頭蓋内損傷疑い(119)
- 2歳未満の頭部の咬創 → 皮膚損傷が軽微でも頭蓋内穿通創がありうる
- 腱・神経・血管・関節・骨に達する疑い → 縫わない。持てない。専門施設へ
- 手指の創(特に屈側) → 腱・神経の評価が要る。手外科へ
- 知覚・運動の異常(指が曲がらない・しびれる) → 神経・腱損傷。持てない
- 眼瞼・涙小管・鼻・耳・口唇(赤唇縁をまたぐ) → 整容と機能の問題。形成外科へ
- 異物が残っている可能性(ガラス・木片・砂利) → 画像評価。残すと感染・刺青
- 創縁の緊張が強い/腫脹・浮腫による循環不全が危惧される → 一期的縫合は困難。専門施設へ
- 受傷機転と創が合わない/年齢に合わない部位 → 虐待を疑う
- 要確認:当院で縫合を行う範囲(部位・深さ・年齢・鎮静の要否)、局所麻酔薬・表面麻酔薬の院内採用と小児の最大量
- 要確認:組織接着剤・皮膚接合テープの院内採用、破傷風トキソイド・TIGの院内在庫
- 要確認:抜糸の場所(当院かかかりつけか)と部位別の抜糸日、軟部組織の異物を探す画像(X線・エコー)を当直帯で撮れるか
- 要確認:本シートは2015年版『急性創傷診療ガイドライン』に基づく。より新しい版の有無は未確認
- 要確認:引用したエビデンスの多くは成人対象(オランダ408人・minor limb lacerationsのRCTも成人)。小児対象は水道水vs生理食塩水のRCT(46例)のみで、小児にそのまま当てはめる際は留保が要る
- 要確認:破傷風予防のACIP判断表が日本感染症学会の資料(動物咬傷シート出典)と整合しているか未確認
手順・適応・禁忌はすべて本シートの正本の記載のみ。院内の器材・採用薬・搬送先は施設ごとに違うため、適用前に院内ルールを確認すること。