胆汁性嘔吐・中腸軸捻転(腸回転異常症)
外科的緊急β版・逐条レビュー継続中
施設プロファイル: 二次救急/外科的処置なし/当直帯は超音波・CTが使えない。この疾患は当院で完結しない。疑った時点で新生児開腹術のできる施設へ連絡するのがこのシートの全部で、当直帯は画像が無いぶん、それ以外に選択肢がない。
30秒要約
- 胆汁性嘔吐が主訴なら、外科的疾患が完全に否定されるまで、外科疾患が隠れているものとして診療をすすめる。
- 腹部が張っていないことは否定の根拠にならない。むしろ中腸軸捻転では腹部は平坦か陥凹していることが多く、それ自体が手がかりになる。他の腸閉塞と逆。
- 中腸軸捻転による症状の約80%は生後1か月以内。ただし学童期以降にも、間欠的腹痛・嘔吐・便秘・下痢・成長障害という慢性の顔で現れる。
- 腸管壊死は中腸軸捻転の5〜13%。中腸軸捻転の死亡率は20%程度、広範な腸管壊死をきたした場合は65%。
- 「乳児の嘔吐=まず幽門狭窄のエコー」と短絡しない。幽門狭窄の嘔吐は定義上、非胆汁性。
レッドフラグ
所見があったときにどれだけ急ぐかと、家族に何を伝えるかの対応表。3列目の文言は家族説明ページに同じ言葉で載っているので、画面を見せながら渡せる。
| 緊急度 | 所見 | その場で次にやること | 時間の勝負 |
|---|---|---|---|
| 119 | 胆汁性嘔吐+ショック/血便 | 腸管壊死が進行している。ルート確保・絶食のうえ緊急搬送 | 待たない |
| 119 | 新生児の胆汁性(緑〜茶色)嘔吐 | 疑った時点で新生児開腹術のできる施設へ連絡。検査を終えてから電話しない | 短時間で腸管壊死 |
| 緊急 | 正常胎便排出・哺乳良好だった新生児の突然の哺乳拒否+嘔吐 | 典型的な発症の仕方。腹部が平坦でも否定しない | 短時間 |
| 緊急 | 腹部膨満・血便が加わった | 進行所見。搬送を急ぐ | 短時間 |
| 当日 | 学童期以降の反復する腹痛・嘔吐・便秘/下痢・成長障害 | 慢性の顔で来る腸回転異常症がある。画像で検討 | — |
鑑別:胆汁性嘔吐を見たときに並べるもの
| 疾患 | 見分け | 決め手 |
|---|---|---|
| 中腸軸捻転 | 腹部は平坦か陥凹していることが多い。急速に進行 | エコーでwhirlpool sign、UGIでcorkscrew sign |
| 肥厚性幽門狭窄症 | 嘔吐は非胆汁性(噴水状)。生後3〜6週が最多。右上腹部にオリーブ様腫瘤。低クロール性代謝性アルカローシス | エコーで筋層厚3〜4mm以上・幽門管長14〜17mm以上(文献で幅がある) |
| その他の腸閉塞(閉鎖・ヘルニア嵌頓など) | 腹部膨満を伴うことが多い | X線・エコー |
| 腸重積 | 間欠的腹痛、イチゴゼリー状便。来院時に胆汁性嘔吐があれば腸閉塞がかなり進行した状態 | エコー |
幽門狭窄と取り違えた実例が報告されている(生後25日男児。腹部単純X線で胃泡の拡張と下部消化管ガス像の消失を認め幽門狭窄が疑われたが、UGIで十二指腸の急峻な狭小化と完全閉塞、注腸で結腸が左側・回盲部が上腹部正中にあり、腸回転異常+中腸軸捻転と判明)。
「これがないから違う」と言えないもの
- 腹部膨満がない → 中腸軸捻転ではむしろ平坦〜陥凹が多い
- 上部消化管造影が陰性 → UGIの誤診率は18%との報告(72例中13例)。UGI単独の特異度は62%と低い
- 1歳未満で超音波が陰性 → ガイドラインは1歳未満では超音波の感度が低いと明記している
- 年長児だから → 1歳以上で中腸軸捻転のリスクが下がるとは言えない(オッズ比0.32、リスク増加なし)
- 早産児で症状がはっきりしない → 早産児は症状が非特異的で診断が遅れ、腸管壊死率の高さに寄与している
検査(日本小児外科学会 腸回転異常症診療ガイドライン 2023)
当院の当直帯では超音波・上部消化管造影・CTのいずれも実施できない(2026-09-14 確認)。以下は送り先で行われる検査の一覧として読む。当直帯の当院にとって、この節は「相手が何をするか」を理解して電話するための材料であって、当院の手順ではない。
推奨: まず腹部超音波(弱く推奨)→ 診断がつかなければ上部消化管造影(弱く推奨)。腹部単純X線は腸回転異常症の診断には推奨しない。
| 検査 | 対象 | 成績 |
|---|---|---|
| 腹部超音波 | 腸回転異常症全般 | 統合で感度100%・特異度99% |
| 腹部超音波 | 中腸軸捻転限定 | 統合で感度95%・特異度82% |
| 上部消化管造影 | 腸回転異常症全般 | 統合で感度95%・特異度62% |
| 上部消化管造影 | 中腸軸捻転限定 | 感度41〜79%・特異度43〜98% |
| 腹部造影CT | 中腸軸捻転 | CT単独では感度61%・特異度0%。補助的 |
| 腹部単純X線 | 腸回転異常症 | 感度・特異度とも低く、診断目的には非推奨 |
所見の名前
- whirlpool sign(超音波): 上腸間膜動脈を中心に、上腸間膜静脈が腸管を巻き込みながら渦を巻くように走行する
- whirl sign(CT): 同じ所見のCTでの呼び方
- corkscrew sign(上部消化管造影): 十二指腸がTreitz靱帯で固定されていないため、水平脚が椎体左縁まで走行せず椎体より右側で下行し、捻転部がらせん状に下行して狭小化する
問診・所見の取り方
初期プラン(コア)
- 全身状態を先に安定させる。嘔吐の回数、経口摂取量、皮膚の状態から脱水を迅速に評価し、必要なら輸液しながら診療をすすめる。
- 絶食。
- 疑った時点で、小児外科あるいは新生児開腹術のできる施設へ連絡する。検査を全部終えてから電話しない。
- 当直帯は超音波を当てられない。もともと「陰性でも搬送の判断を変えない」検査なので、無いことで判断は変わらない。胆汁性嘔吐という事実だけで動く。
送る/持つ(当院=二次救急・外科的処置なし)
持てない。疑った時点で送る。
送ると決めた時点でやること
- 絶食・輸液ルート確保(脱水があれば補正を開始)
- 受け入れ先へ先に電話。「胆汁性嘔吐の新生児」と最初に言う
- 嘔吐の色・生後日数・胎便排出・腹部所見(平坦か膨満か)・血便の有無を伝える
- 家族に「腸がねじれている可能性があり、当院では手術ができない」ことを先に伝える
注意: 搬送前の具体的処置(胃管減圧のサイズ、輸液量、造影剤の選択)について、日本小児外科学会のガイドラインは診断・手術適応・術式が対象範囲で、紹介元向けの初期対応プロトコルは範囲外。ここは院内で決めておく必要がある。
エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)
- 要確認:新生児開腹術のできる施設の夜間・休日の受け入れ先と直通番号。小児外科は決まった連携先に直接電話する運用(施設名・番号は保留中)
- 要確認:院内出生児と外来からの新生児で搬送先・手順が変わるか(産科併設のため)
- 要確認:搬送前の胃管減圧を当院で行うか、そのサイズと手順
- 確定(2026-09-14):夜間に腹部エコーは当てられない。このシートは「胆汁性嘔吐という所見だけで電話する」前提で書いてある
家族に渡す一文
「吐いたものに緑色がついているのは、腸のどこかがつまっている可能性を示すサインです。赤ちゃんの場合、腸がねじれていることがあり、これは時間との勝負になります。当院では手術ができないので、手術のできる病院へすぐ移っていただきます。」
出典
- 日本小児外科学会(協力:日本小児放射線学会).腸回転異常症診療ガイドライン【詳細版】.2023年5月10日発行.http://www.jsps.or.jp/wp-content/uploads/2023/05/13.shousai.pdf (2026-09-10閲覧・httpでアクセス)。CQ1の検査推奨と各検査の感度・特異度、whirlpool sign/corkscrew signの定義、1歳未満での超音波の感度低下、UGI誤診率18%、疫学(中腸軸捻転は腸回転異常症の65〜80%、腸管壊死5〜13%、死亡率20%・広範壊死で65%)、年長児のリスク(オッズ比0.32)、早産児の診断遅延。Mindsに2023年10月13日選定:https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00769/
- 日本小児外科学会.腸回転異常症.http://www.jsps.or.jp/archives/sick_type/tyoukaiten-ijoushou (2026-09-10閲覧・httpでアクセス)。症状の約80%が生後1か月以内、短時間で腸管壊死に至ること、幼児期以降の非典型像。
- 吉里充(沖縄県立中部病院小児外科).小児外科的疾患を見逃さないための新生児乳幼児期の嘔吐.沖縄医報 Vol.43 No.6, 2007. https://archive.okinawa.med.or.jp/old201402/activities/kaiho/kaiho_data/2007/200706/pdf/068.pdf (2026-09-10閲覧)。腹部が平坦〜陥凹していることが多く診断の手がかりになること、胆汁性嘔吐は外科疾患が否定されるまで外科疾患として扱うこと、全身状態の安定を最優先すること、疑ったらすぐ紹介すること。2007年発行の一施設総説であり学会の正式推奨ではない。
- 獨協医科大学埼玉医療センター小児外科.肥厚性幽門狭窄症.https://dept.dokkyomed.ac.jp/dep-k/ped_surg/hps.html / 慶應義塾大学病院KOMPAS.肥厚性幽門狭窄症.https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000116/ / MSDマニュアル プロフェッショナル版.肥厚性幽門狭窄症(2026-09-10閲覧)。超音波カットオフは3ソースで筋厚3〜4mm・幽門管長14〜17mmと幅があり、単一の統一値ではない。
- 孝橋賢一.肥厚性幽門狭窄症に類似した腹部単純X線像を呈した中腸軸捻転の1例.小児科臨床 58:49-53, 2005(腸回転異常症ガイドラインの文献レビュー表経由・原文未直接確認)。
病態・根拠10章
捻転が血流障害を起こす理由
腸回転異常では腸管固定の異常により腸間膜の付着部が狭くなり、中腸が上腸間膜動脈を軸にねじれやすい。通過障害に血流障害が加わると腸管虚血・壊死へ進む。画像確定だけを目的に待つと、救済できる腸管を失うおそれがある。[1]
症状をどう読むか
胆汁性嘔吐は暗緑色かを家族と確認する。黄色い胃液とは区別するが、色の聴取に時間をかけて外科相談を遅らせない。新生児・乳児の緑色嘔吐は、腹部膨満が目立たず一時的に元気に見えても閉塞を除外するまで外科的に扱う。血便、腹膜刺激、循環不良は進行した障害を疑う所見であり、出現を待つ診断ではない。[1][2]
鑑別と検査の役割
幽門狭窄は典型的には無胆汁性嘔吐で、胆汁性嘔吐の説明に置き換えない。感染性胃腸炎でも嘔吐は起こるが、下痢のない嘔吐では閉塞、頭蓋内疾患などを再検討する。制吐薬で止まったことも重症疾患の除外にならない。[2]
上部消化管造影と超音波は腸管の位置・通過や血管を取り巻く腸間膜を評価する検査であり、緊急性と施設の経験で選ぶ。単純X線で明らかな閉塞像がないことだけでは除外できない。循環が悪い場合は検査より蘇生と外科的対応を優先し、安定例の追加検査も受入外科と相談する。[1]
当院での初期治療と搬送
経口摂取を止め、循環評価、静脈路、必要な輸液と胃管減圧を進める。目的は脱水・ショックと誤嚥を防ぎ、手術可能施設に安全につなぐことである。当直帯の当院には超音波・CTも緊急手術もない。疑った時点で小児外科へ連絡し、検査を翌朝行うために院内で留める計画は取らない。[1][2]
引継ぎと説明
嘔吐開始時刻と色、腹痛・腹満、血便、循環・尿量、胃管排液、輸液と反応を伝える。家族には胃腸炎との最終的な区別より先に、「腸の血流が悪くなる閉塞を早く除外する必要がある」と説明する。[1][2]
出典・適用範囲
- [1] 日本小児外科学会 腸回転異常症診療GL2023詳細版。
- [2] RCH 嘔吐。
[1]は国内学会GL2023詳細版の本文をHTTP公開URLで確認。[2]は豪州小児施設の嘔吐経路。各画像の感度・特異度や死亡率をすべての施設・年齢へ一律に当てはめない。 確認日:2026-10-23。
臨床医が迷う場面
緑色の嘔吐が1回だけで、今は元気でも待てる?
胆汁性の緑色嘔吐は、腸閉塞が除外されるまで外科的緊急疾患として扱う。色が曖昧なら写真や色の例を用いて確認する。反復や腹満を待たず、絶食と全身評価を行い、小児外科へ連絡する。当直帯に確定画像ができない当院では搬送相談を先行する。
根拠:RCH 小児の嘔吐
制吐薬で吐かなくなれば中腸軸捻転を除外できる?
嘔吐が止まったことは重い原因の除外にならない。胆汁性であった経過、痛み、血便、循環と腹部所見を再確認する。薬への反応を帰宅基準にせず、閉塞疑いが残る場合は小児外科での評価へつなぐ。ショックや血便があれば緊急搬送を急ぐ。
根拠:RCH 小児の嘔吐
下痢がない乳児の嘔吐を胃腸炎として帰してよい?
嘔吐だけの場合は胃腸炎以外の原因を積極的に見直す。胆汁性なら閉塞、非胆汁性の噴水状嘔吐なら幽門狭窄などを考え、月齢、哺乳、尿量、体重と全身状態で評価する。腹部が平坦でも安心とせず、外科疾患を疑う経過では専門科へ相談する。
根拠:RCH 小児の嘔吐