肥厚性幽門狭窄症
外科的緊急β版・逐条レビュー継続中
2026-09-12更新
β版用量は適用前に一次資料と院内採用を確認。このβ版について
施設プロファイル: 二次救急/外科的処置なし/当直帯は超音波を当てられない。手術も夜間の確定診断も当院にないが、この病気は「急いで送る」病気ではない。そして当院がやるべき仕事(輸液と電解質補正)は当直帯でも全部できる。
30秒要約
- 嘔吐は定義上、非胆汁性(白色〜乳汁様)。緑〜黄色の胆汁性嘔吐なら、この病気ではない。まず中腸軸捻転を外す。
- 生後2〜8週(ピーク3〜6週)。12週以降はまれ。男児に多い。
- 哺乳意欲は保たれる。吐いた直後にまた欲しがるのが特徴。「吐くのに飲みたがる」。
- 手術は緊急ではない。まず輸液で脱水と電解質(ClとK)を補正することが最優先。未補正のまま急いで手術に進めると麻酔・周術期リスクが上がる。
- 低クロール性・低カリウム性代謝性アルカローシスが典型。進行すると奇異性酸性尿を伴う。
- 当直帯にエコーは無い。それでも困らない。この病気で当院の仕事は確定診断ではなく輸液と電解質の補正で、そこは当直帯でもできる。確定は翌日か送り先でよい。急ぐのは輸液であって、診断でも手術でもない。
レッドフラグ → 次の一手
所見があったときにどれだけ急ぐかと、家族に何を伝えるかの対応表。3列目の文言は家族説明ページに同じ言葉で載っているので、画面を見せながら渡せる。
治療ワークフロー(当院=外科なし)
この病気の要点は「急がないこと」。急ぐのは輸液であって、手術ではない。
| 順 | やること | 注意 |
|---|---|---|
| 1 | 嘔吐の色を自分で確認する | 胆汁性ならこのシートを離れ、中腸軸捻転へ |
| 2 | 脱水の評価(体重減少・皮膚・尿量・大泉門) | 直近の健診体重・母子手帳と比較する |
| 3 | 血液ガスと電解質(Cl・K)を出す | 低クロール性・低カリウム性代謝性アルカローシスが典型。血液ガスも電解質も当直帯に出せる(2026-09-14 確認)ので、この行は夜でもそのまま実行できる。副腎皮質過形成との分かれ目もここで付く |
| 4 | 腹部エコーで幽門を見る | 筋層厚・幽門管長(下記)。当直帯は当院で当てられないので、この工程は翌日か送り先に回す。4を飛ばして5へ進んでよい |
| 5 | 輸液で脱水と電解質を補正する。これが最優先 | 手術は緊急ではない。電解質が是正されてから幽門筋切開術を行う |
| 6 | 小児外科へ連絡 | 「補正を始めている」ことを伝える。未補正での緊急搬送を急がない |
超音波の基準(文献でカットオフに幅があるため範囲で示す)
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 幽門筋層厚 | 3〜4mm以上(正常は3mm未満とする文献が多い)。獨協医大は3mm以上、慶應KOMPASは4mm以上、MSDは「典型例では4mm以上、正常は3mm未満」 |
| 幽門管長 | 14〜17mm以上(獨協医大17mm、慶應KOMPAS 14mm、MSD 16mm) |
判定に迷う場合は、複数断面での再測定・時間をおいた再検査を検討する。
当院の当直帯にこの測定はできない(超音波が夜間に使えない。2026-09-14 確認)。この表は送り先・翌日の外来で使う値として置いてある。
要確認: 上記のとおり3つの日本語ソースで数値が一致していない。院内で採用する基準値を決めること。
所見の取り方
- 嘔吐の色を実物で見る(保護者の「黄色」と医師の「胆汁性」がずれる)。
- 哺乳の様子を見る。吐いた直後にまた欲しがるか。
- オリーブ様腫瘤(右上腹部〜臍右側)は触れれば強い所見だが、触知率は経験によって大きく変動する。触れなくても超音波基準を優先して判断する。当直帯はその超音波も無いので、触れないことを否定に使わず、電解質と経過で動く。
- 体重を実測し、出生時・直近健診と比較する。
- 胃蠕動不穏(左上腹部に波打つ動き)が見えることがある。
鑑別
| 疾患 | 見分け | 次の一手 |
|---|---|---|
| 中腸軸捻転・腸回転異常症 | 胆汁性嘔吐。腹部は平坦〜陥凹のことが多い | 最優先で外す(中腸軸捻転) |
| 胃食道逆流症 | 溢乳が主体、体重増加は保たれることが多い | 経過と体重で分ける |
| 牛乳蛋白アレルギー | 血便・湿疹・体重増加不良を伴うことがある | 除去試験は専門外来で |
| 先天性消化管閉鎖 | 生直後からの嘔吐 | 生後2週未満なら幽門狭窄ありきにしない |
| 副腎皮質過形成(21水酸化酵素欠損の塩喪失型) | 低Na・高K・アシドーシス。幽門狭窄の低Cl・低K・アルカローシスと対照的 | 電解質のパターンで分かれる。見落とすと致命的 |
| 頭蓋内圧亢進による嘔吐 | 大泉門膨隆、意識、眼位 | 神経学的所見を取る |
| 尿路感染症 | 発熱を伴う嘔吐 | 検尿 |
電解質異常の機序(なぜアルカローシスになるか)
胃酸(HCl)の反復嘔吐による喪失で低クロール性・低カリウム性代謝性アルカローシスをきたす。循環血液量減少が進むと二次性アルドステロン症を介して腎での水素イオン・カリウム排泄が亢進し、アルカローシスが奇異性酸性尿を伴って増悪する。
送る/持つ(当院=二次救急・外科的処置なし)
| 状態 | 当院の扱い |
|---|---|
| 電解質の評価と脱水の評価 | 当院でできる(当直帯も) |
| エコーによる確定診断 | 当直帯はできない。翌日の当院外来か、送り先で |
| 輸液による脱水・電解質補正 | 当院で始める。これが最優先の治療 |
| 幽門筋切開術 | 持てない。小児外科へ |
| 胆汁性嘔吐だった場合 | 別疾患。緊急搬送(中腸軸捻転) |
送るときに伝えること
- 嘔吐の色(非胆汁性であること)と、生後日数
- 血液ガスと電解質の値(補正の進み具合が受け入れ先の判断を変える)
- エコー所見(筋層厚・幽門管長)。当直帯に搬送するなら「当院で画像を撮っていない」ことを明示する
- 開始した輸液の内容と時刻
エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)
- 要確認:小児外科の受け入れ先(緊急ではないので、日中の紹介でよいかを含めて)。小児外科は決まった連携先に直接電話する運用(施設名・番号は保留中)
- 要確認:当院で輸液・電解質補正をどこまで行うか(入院で補正してから紹介するか、補正を始めて当日搬送か)
- 確定(2026-09-14):夜間の腹部エコーは当院で当てられない。このシートは夜間=画像なしで輸液を始める前提で書いてある
- 確定(2026-09-14):夜間に血液ガスは出せる(静脈血でも可)。電解質も簡易採血の範囲
- 要確認:超音波カットオフ(筋層厚・幽門管長)の院内基準
家族に渡す一文
「胃の出口の筋肉が厚くなって、母乳やミルクの通り道が狭くなる病気です。まず点滴で体の中の水分と塩分のバランスを整えてから、短い手術で通り道を広げます。手術を急ぐ病気ではなく、体の状態を万全にしてから行います。当院では手術ができないので、手術のできる病院にお願いします。吐いたものに緑色がついたときは別の病気の可能性があるので、すぐ教えてください。」
医師確認事項(要・岡本判断)
- 要確認:超音波のカットオフ値(筋層厚3mm以上か4mm以上か、幽門管長14/16/17mmのどれか)。3つの日本語ソースで一致していない。
- 要確認:当院で輸液・電解質補正を入院で行ってから紹介する運用にするか。当院は当直帯でも入院を受けられるので、これは物理的に可能。画像なしで夜を越すことを是とするかが判断の中身になる。
- 要確認:本シートの内容は正本「腹部エコー:急性腹症(腸重積・虫垂炎・肥厚性幽門狭窄)2026-07-30」(多層検証済み・医師確認前)に基づく。日本の学会による肥厚性幽門狭窄症の診療ガイドラインは本シートでは確認していない。
出典
- 正本「腹部エコー:急性腹症(腸重積・虫垂炎・肥厚性幽門狭窄)」2026-07-30(AMPL 05_研究所/09_愛育病院/ナレッジ/外来編/画像。多層検証済み・医師確認前の下書き)。超音波診断基準、好発年齢・性差、非胆汁性射乳様嘔吐と哺乳意欲、胆汁性嘔吐であれば本症を否定し腸回転異常症・中腸軸捻転を最優先で除外すること、電解質異常の機序(低Cl性・低K性代謝性アルカローシスと奇異性酸性尿)、手術は緊急ではなく輸液・電解質補正を優先すること、オリーブ様腫瘤の触知率の変動、鑑別。
- 獨協医科大学埼玉医療センター小児外科.肥厚性幽門狭窄症.https://dept.dokkyomed.ac.jp/dep-k/ped_surg/hps.html (2026-09-12閲覧)。筋層厚3mm以上、幽門管長17mm、好発年齢。
- 慶應義塾大学病院KOMPAS.肥厚性幽門狭窄症.https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000116/ (2026-09-12閲覧)。筋層厚4mm以上、幽門管長14mm。
- MSDマニュアル プロフェッショナル版.肥厚性幽門狭窄症(最終更新2023年9月)。生後3〜6週が最多で12週以降はまれ、「激しい嘔吐が食後すぐに起こり、しばしば『噴出性』嘔吐(胆汁は含まない)」、典型例では筋層厚4mm以上・正常は3mm未満・幽門管長16mm、低クロール性代謝性アルカローシス。
- 獨協医科大学埼玉医療センター小児外科.腸回転異常症.https://dept.dokkyomed.ac.jp/dep-k/ped_surg/malrot.html (2026-09-12閲覧)。胆汁性嘔吐での鑑別(詳細は中腸軸捻転)。
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