失神・一過性の意識消失
神経・発達・こころβ版・逐条レビュー継続中
施設プロファイル: 二次救急/小児循環器なし。心原性を疑った時点で専門施設へつなぐ。
30秒要約
- 失神の大半は良性(反射性・起立性)だが、心原性失神は予後が悪い。当直の仕事は「良性を診断すること」ではなく、心原性を外すこと。
- 心電図を撮る。失神で来たら、原則として全例。正常な心電図1枚でも心原性は否定できず、運動中発症・胸痛・突然死の家族歴などの危険な病歴があれば小児循環器へ相談する。
- 危ないのは次の7つ。前駆症状なし/胸痛/動悸/運動中に発症/臥位で発症/器質的心疾患の既往/突然死の家族歴。
- 運動中の失神は、証明されるまで心原性として扱う。
- けいれん様の動きを伴っても、失神のことがある。「けいれんした」で神経の枠に入れきらない。
レッドフラグ
所見があったときにどれだけ急ぐかと、家族に何を伝えるかの対応表。3列目の文言は家族説明ページに同じ言葉で載っているので、画面を見せながら渡せる。
| 緊急度 | 所見 | その場で次にやること | 時間の勝負 |
|---|---|---|---|
| 119 | 意識が戻らない/不整脈が続いている/ショック | 蘇生を優先。モニタ装着 | 待たない |
| 緊急 | 運動中に発症した失神 | 心原性として扱う。心電図。小児循環器へ | — |
| 緊急 | 臥位で発症した失神 | 反射性失神では説明しにくい。心原性を疑う | — |
| 緊急 | 前駆症状なく突然倒れた | 同上 | — |
| 緊急 | 胸痛・動悸を伴う | 心電図。不整脈・心筋炎・心筋症 | — |
| 緊急 | 突然死の家族歴(若年の原因不明死・溺死・事故死を含む) | QT延長症候群・Brugada・肥大型心筋症などを念頭に | — |
| 緊急 | 器質的心疾患の既往 | 専門施設へ | — |
| 緊急 | 心電図でQT延長・デルタ波・ST-T異常・心室肥大・徐脈 | 小児循環器へ | — |
| 当日 | 立ち上がった直後、長時間の起立、痛み・恐怖・採血などの誘因があり、前駆症状(目の前が暗くなる・吐き気・冷汗)を伴い、すぐ回復した | 反射性失神として、誘因の回避と再発時の対応を指導 | — |
鑑別:一過性意識消失
| 病態 | 拾う所見 | 決め手 | 当院の扱い |
|---|---|---|---|
| 反射性(神経調節性)失神 | 誘因あり(起立・痛み・恐怖・排尿・咳・採血)、前駆症状あり、倒れた後すぐ回復 | 病歴。心原性を外したうえでの診断 | 当院で完結しうる |
| 起立性低血圧・起立性調節障害 | 起立時、朝に強い、立ちくらみの反復 | 起立試験(起立性調節障害) | 当院で対応 |
| 心原性失神 | 運動中・臥位・前駆症状なし・胸痛・動悸・突然死の家族歴・器質的心疾患 | 病歴・診察・心電図で疑う。正常心電図でも危険な病歴があれば専門相談。ホルター・心エコーは当直帯に無く、必要な評価を専門施設へつなぐ | 持てない。小児循環器へ |
| てんかん発作 | 発作後のもうろう、舌咬傷、けいれんが先行、回復が遅い | 病歴。脳波 | 専門外来へ |
| 低血糖 | 空腹・糖尿病治療中・意識の戻りが遅い | 血糖測定 | 当院で対応 |
| 過換気 | 誘因、しびれ、テタニー | 病歴 | 当院で対応 |
| 心因性(偽失神) | 頻回、目撃者の前で、外傷を伴わない | 除外診断。決めつけない | 慎重に |
| 貧血・出血 | 蒼白、頻脈、月経過多 | 血算 | 当院で対応 |
心原性を疑う所見(日本循環器学会 失神の診断・治療ガイドライン)
心原性失神を疑う病歴・所見として挙げられているのは次のとおり。
- 前駆症状なし
- 胸痛
- 動悸あり
- 運動中に発症
- 臥位で発症
- 器質的心疾患の既往
- 突然死の家族歴
心電図異常には「失神の原因と診断可能なもの」と「失神の原因を疑うもの」がある。
所見の取り方
- 目撃者から聞く。本人は覚えていない。倒れ方、持続時間、顔色、けいれん様の動きの有無、回復までの時間。
- 姿勢を確定する。立っていたか、座っていたか、横になっていたか。臥位発症は意味が変わる。
- 何をしていたか。運動中か、安静時か、排尿・咳・採血の最中か。
- 外傷の有無(前駆症状なく倒れた人は受け身が取れず顔面外傷を負いやすい)。
- 心音(雑音)、脈の不整。
- 家族歴を具体的に聞く。「若くして亡くなった人はいますか」「原因不明の溺死・交通事故はありますか」。
問診チェック
検査
- 心電図(原則全例)。QT延長、デルタ波、Brugada型、ST-T異常、心室肥大、徐脈・伝導障害を見る。
- 血糖。
- 血算(貧血・出血)。
- 起立試験(反射性失神・起立性調節障害を疑うとき)。
- 心エコー・ホルター・運動負荷は専門施設で。
送る/持つ(当院=二次救急・小児循環器なし)
| 状態 | 当院の扱い |
|---|---|
| 心原性を疑う所見がひとつでもある | 持てない。小児循環器へ紹介 |
| 心電図に異常がある | 持てない。小児循環器へ |
| 反射性失神らしく、心電図正常、危険な所見なし | 当院で対応。誘因の回避と再発時の対応を指導し、再受診条件を渡す |
| 判断がつかない | 心電図を添えて紹介する。「様子を見ましょう」で終わらせない |
エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)
- 要確認:小児循環器の紹介先と、夜間に相談できるか
- 要確認:夜間に心電図を撮れる体制(機器・判読)
- 決定:指摘歴があれば失神の有無によらず心電図を再検し、延長を認めれば循環器専門科へ紹介する(論点:学校心臓検診でQT延長を指摘された児が受診したときの院内の扱い)
家族に渡す一文
「気を失うことの多くは、血圧や脈が一時的に下がって脳の血の巡りが減るもので、命に関わりません。ただし、運動しているときに倒れた・横になっているときに倒れた・前ぶれなく倒れた・ご家族に若くして突然亡くなった方がいる、このどれかに当てはまるときは、心臓が原因のことがあるので詳しい検査をします。心電図は今日撮ります。」
出典
- 日本循環器学会.失神の診断・治療ガイドライン(2007年初版、2012年改訂版)。心原性失神を疑う病歴・所見(前駆症状なし、胸痛、動悸あり、運動中に発症、臥位で発症、器質的心疾患の既往、突然死の家族歴)、心電図異常に「失神の原因と診断可能なもの」と「失神の原因を疑うもの」があること、2012年改訂版で失神診療のフローチャートと高リスク患者の評価法が導入されたこと。これらは本ガイドラインを紹介する二次情報(フクダ電子「失神診断のための検査・フローチャート」https://www.fukuda.co.jp/medical/icm/syncope/flow/ ほか)経由で確認しており、ガイドライン原文は未確認(2026-09-12閲覧)。
- 小児慢性特定疾病情報センター.QT延長症候群 概要.https://www.shouman.jp/disease/details/04_11_015/ (2026-09-12閲覧)。失神・突然死を起こすこと、学校心臓検診での発見頻度。
- 国立循環器病研究センター.先天性QT延長症候群.https://www.ncvc.go.jp/hospital/section/cvm/arrhythmia/qt/ (2026-09-12閲覧)。小児では運動やストレスで失神が誘発されることが大部分、家族歴の重要性、β遮断薬が第一選択。
病態・根拠12章
失神は脳血流の一過性低下として考える
失神は姿勢保持が失われる短い意識消失で、通常は自然に速やかに回復する。反射性失神では疼痛・恐怖・長時間立位などを契機に血管拡張や徐脈が起こり、起立性の病態では体位変化後の循環調整が追いつかない。心原性では不整脈、流出路狭窄、心筋症等により心拍出が急に落ちうる。病歴だけで良性を確定せず、心電図と危険な場面を確認する。[1][3]
発症場面が病型を分ける
立位での暑さ・長時間起立、痛みや採血、眼前暗黒感・冷汗・吐き気の前駆症状は反射性を支持する。運動中に倒れた、臥位で発症、前駆症状なく急に倒れた、胸痛・動悸を伴った場合は心原性を優先する。運動「直後」の迷走神経反応と、運動「中」の失神は意味が異なるため目撃者に正確に聞く。[1][2][3]
目撃者から取る時系列
本人は意識消失中を説明できない。倒れる前の姿勢・運動・症状、顔色、最初に力が抜けたか、けいれん様運動の開始時刻と長さ、呼吸、完全回復までの時間を聞く。短いミオクローヌスは失神でも起こる一方、長い発作後混迷、局在徴候、繰り返す発作はてんかん等を考える。低血糖・中毒・貧血/出血も評価し、「けいれんのように見えた」だけで心臓を外さない。[1]
家族歴と既往歴の質
若年突然死だけでなく、原因不明の溺死・単独事故、既知の不整脈・心筋症・突然死の家族歴を確認する。本人の先天性心疾患、川崎病後冠動脈病変、心筋炎、運動時胸痛・息切れ、服薬・QT延長薬を聞く。家族歴の陰性は遺伝性不整脈を除外しない。[2][3][4]
心電図は必須だが一枚で終わらない
RCHは小児失神で少なくとも一度の12誘導心電図を勧める。リズム、PR/QRS/QT、前興奮、伝導障害、肥大・ST-T変化を年齢基準と臨床背景で読む。自動測定値は参考であり異常を上級医と再確認する。発作間欠期に心電図が正常な不整脈もあるため、運動中発症や家族歴などの危険な病歴があれば正常ECGでも小児循環器へ相談する。[1][2]
起立性・反射性と心原性の管理の分岐
全身状態安定、典型的な誘因・前駆症状、速い完全回復、心電図に懸念なし、家族歴や胸痛・動悸なしの場合は反射性/起立性として水分・生活指導と再診を考える。しかし運動中・臥位・前駆なし、胸痛・動悸、突然死の家族歴、心疾患、心電図異常なら外来で長期の起立性管理へ直行しない。運動制限、監視の要否と心エコー・Holter等を受入先と決める。[1][2][3]
当院から搬送するときの境界
意識が戻らない、継続する不整脈、ショックはその場で蘇生と監視を始める。心原性が疑わしい児は当院夜間に心エコー・Holterがないため、検査予約を搬送の前提にしない。受入先には発症が運動中か直後か、姿勢、前駆、回復までの時間、家族歴、心電図原本と血糖、目撃者の動画を伝える。[1][2]
出典
- [1] Royal Children's Hospital Melbourne.Clinical Practice Guideline: Syncope(2023更新、2026-10-02確認)。小児の病歴・鑑別・心電図・紹介。
- [2] Royal Children's Hospital Melbourne.Basic paediatric ECG interpretation(2026-10-02確認)。年齢別ECG、心原性危険徴候と正常ECGの限界。
- [3] 日本循環器学会.先天性心疾患並びに小児期心疾患の診断検査と薬物療法ガイドライン(2018年改訂版)(2026-10-02確認)。§1.5.4(印刷p.35)の小児失神と心疾患評価。
- [4] ACC/AHA/HRS.2017 Guideline for the Evaluation and Management of Patients With Syncope(2026-10-03独立レビューでACC公式発表の基本原則を確認。推奨全文の精査は未完了)。病歴・診察・心電図の基本原則。小児の具体的判断には[1][2]を優先。
臨床医が迷う場面
心電図が正常なら、運動中の失神でも体育を許可できる?
正常な一枚だけでは心原性を除外できない。運動中の発症、胸痛・動悸、家族の突然死を確認し、小児循環器で評価するまで強い運動再開を安易に許可しない。反射性失神に見えても危険な病歴を優先し、検査と復帰判断を専門医につなぐ。
倒れたときに手足が動いた。てんかん薬を始める?
失神でも短いけいれん様運動が起こり得る。姿勢、誘因、前駆症状、皮膚色、持続と回復の速さを確認し、心電図も評価する。動きだけでてんかんと決めず、意識回復が遅い・反復するなどの所見に応じて小児神経・循環器へ相談する。
反射性らしい失神が繰り返す。薬を出す前に何をする?
水分・食事、睡眠、暑熱や長時間立位との関係を確認し、前駆症状があれば座る・横になる対応を教える。貧血や脱水などを病歴から評価し、頻回で生活に支障がある場合は専門評価へ進む。新たな胸痛や運動時発症は以前の良性診断に固定しない。