不登校・こころのSOS
神経・発達・こころβ版・逐条レビュー継続中
施設プロファイル: 二次救急/児童精神科・心療内科の当直体制は要確認/外科的処置を持たない。
「朝起きられない・立ちくらみ」が前景なら起立性調節障害の除外を先にする。過量服薬・自傷による外傷は急性中毒・創処置と縫合の適応へ。
30秒要約
- 「学校に行けない」は診断名ではない。当直で本当に聞くべきことは一つだけ。いま死にたい気持ちや自分を傷つけたい気持ちがあるか、それに具体的な計画や手段があるか。
- 直接聞いていい、むしろ聞かないほうが危険。「死にたい」と言っている人は死なないというのは誤解です(厚生労働省ゲートキーパー養成研修用テキスト)。
- 身体症状が前景なら器質疾患の除外が先。特に思春期の朝起き不良・立ちくらみは起立性調節障害の除外が要る。
- 無理に登校の約束をしない。文部科学省の通知は不登校児童生徒への支援は,「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく,児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて,社会的に自立することを目指す必要があるとしている。
- 「うちの子だけ」ではない。令和4年度の小・中学校の不登校児童生徒数が約29万9千人(過去最多)、うち学校内外で相談を受けていない児童生徒数が約11万4千人(過去最多)(文部科学省)。
レッドフラグ → 次の一手
所見があったときにどれだけ急ぐかと、家族に何を伝えるかの対応表。3列目の文言は家族説明ページに同じ言葉で載っているので、画面を見せながら渡せる。
| 緊急度 | 所見 | その場で次にやること | 時間の勝負 |
|---|---|---|---|
| 119 | 自殺企図の直後(過量服薬・切創など医学的処置が必要) | まず身体的処置。急性中毒・創処置と縫合の適応を先に動かす。持てない(精神科と連携できる施設へ) | 即時 |
| 119 | 切迫した希死念慮+具体的な計画+手段を確保している(薬をためている、場所や方法を決めているなど) | 一人にしない。手段になりうるもの(刃物・薬・紐など)を本人から離す。精神科への緊急介入を要請 | 即時 |
| 緊急 | 「死にたい」「消えたい」と本人が話す・ほのめかすが、具体的な計画・手段は明確でない | 下の6項目ではぐらかさずに直接尋ねる。「死にたい」と言われたら、その気持ちを真剣に受け止め、悩んでいることについて、良い・悪いの判断をしたり、批評をしたりはせず、まずは話を聞くことが大切です(厚労省)。家族と情報共有し精神科・心療内科へつなぐ | 当日〜即時(6項目の結果次第) |
| 緊急 | 自傷痕(新旧混在・繰り返し・複数箇所) | 傷の評価と同時に、いつから・何をきっかけに・誰が知っているかを聴く。家族の認識を確認 | 当日 |
| 緊急 | 体重減少・るいそう・食事や体型への強いこだわり | 摂食障害の合併を疑う。バイタル・体重の推移を確認(起立性調節障害のレッドフラグと重なる) | 当日 |
| 緊急 | 家庭訪問や電話を繰り返しても安否が確認できない、外傷の説明が不自然、虐待を疑う所見 | 文科省通知は家庭訪問や電話連絡を繰り返しても児童生徒の安否が確認できない等の場合は,直ちに市町村又は児童相談所への通告を行うほか,警察等に情報提供を行うなど,適切な対処が必要であるとする。当院でも同じ発想で通告を検討 | 即時 |
| 当日 | 希死念慮・自傷なく、身体愁訴(頭痛・腹痛・倦怠感・立ちくらみ)が前景で登校できない | 起立性調節障害ほか器質疾患の除外を先に行う | 当日 |
| 当日 | いじめ・友人関係のトラブルが背景にあり、急性の落ち込みが強い | 学校・スクールカウンセラーとの連携を前提に、今日は無理に登校させない | 当日〜数日 |
鑑別:よくあるもの
| 状態 | 押さえること | 次の一手 |
|---|---|---|
| 起立性調節障害 | 思春期に多い。朝起きられない・立ちくらみ・倦怠感が主体 | 起立性調節障害 |
| 通常の登校しぶり(環境変化への反応) | 新学期・クラス替え・進学など。希死念慮・自傷を伴わない | 学校・家庭での様子見と情報共有 |
| いじめ・友人関係のストレス | 特定の相手・場面と結びついた回避 | 学校への働きかけ。文科省はいじめや暴力行為を許さない学校づくり,問題行動へのき然とした対応が大切であるとする |
| 発達特性による学校不適応 | 感覚過敏・対人関係の困難が背景にある | 発達外来・スクールカウンセラーと連携 |
鑑別:見逃してはいけないもの
| 状態 | 押さえること | 当院の扱い |
|---|---|---|
| うつ病・抑うつ状態 | 興味喪失・食欲不振・不眠が持続。下の「いのちのSOS」サインと重なる | 精神科・心療内科へ紹介(要確認:紹介先) |
| 摂食障害 | 体重・体型への強いこだわり、るいそう | 起立性調節障害のレッドフラグとも重複。専門科へ |
| 虐待(身体的・心理的・ネグレクト) | 外傷の説明が不自然、安否確認ができない | 通告(下のエスカレーション参照) |
| いじめによる希死念慮・自殺企図 | 学校での特定の関係性が引き金 | 学校・教育委員会との情報共有が前提。まず身体的安全の確保 |
| 統合失調症の前駆状態 | 独語・被害的な訴え・行動や身なりの急な変化 | 精神科へ |
治療ワークフロー(当院でやること)
当院の仕事は「身体の危険と、こころの危険を、その場で見分けて、つなぐ」。
| 時間 | やること |
|---|---|
| 0分 | バイタル。自殺企図の直後か(過量服薬・外傷)を最優先で確認。あれば急性中毒・創処置と縫合の適応を並行 |
| 0〜5分 | 希死念慮・自傷の有無を直接尋ねる。はぐらかさない。率直で誠実な態度で自殺について話すならば,それが自殺の危険を引き起こすことはありません(文科省「子供に伝えたい自殺予防」) |
| 5〜10分 | 希死念慮があれば下の6項目で危険性を評価する |
| 10〜15分 | 自傷創・体重・栄養状態を診察。刃物・薬など手段になりうるものが本人の手元にあるか確認し、あれば預かる・家族と共有する |
| 15〜20分 | 身体愁訴が前景なら器質疾患の除外へ(起立性調節障害の問診・検査を参照) |
| 20分〜 | 家族から見た変化点(いつから、何をきっかけに)を聴く。学校・スクールカウンセラー・かかりつけとの情報共有の同意を得る |
| 判断 | 119/urgent/todayのどこにあたるかを上のレッドフラグ表で確認し、送る/持つを決める |
所見の取り方(希死念慮の評価)
厚生労働省のゲートキーパー養成研修用テキストは、「死にたい」と言われたら、1)自殺を具体的に計画しているか、2)手段を確保しているか、3)いつ頃からそう考えているか、4)どの程度持続しているか、5)どの程度その思いが強いか、6)客観的に焦燥感があったり、遺書を準備しているなどの行動を確認することが必要ですとする。この6項目を、否定も批評もせずに順に聞く。
聞き方の心得(同テキストより):
- 「今から相手の話を聴く」という心の準備をすることが大切です
- 話をしてくれること、死にたい気持ちを打ち明けてくれたことをねぎらうとよいでしょう
- 正しいか間違っているか、良いか悪いかを判断したり批判したりしない
危険因子・防御因子(厚労省ゲートキーパーテキストより)
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 危険因子 | 過去の自殺企図・自傷歴。喪失体験(身近な者との死別)、苦痛な体験(いじめ・家庭問題)、精神疾患・身体疾患の悩み、ソーシャルサポートの欠如、自殺企図手段への容易なアクセス(危険な手段を手にしている、危険な行動に及びやすい環境があるなど)、飲酒・薬物乱用 |
| 防御因子 | 心身の健康、安定した社会生活、支援の存在(本人を支援してくれる人がいたり、支援組織があること)、利用可能な社会制度、適切な対処行動(信頼できる人に相談するなど)、周囲の理解 |
問診チェック(家族・本人へ)
- いつから学校に行けなくなったか。きっかけ(新学期・いじめ・友人関係・成績・部活・家庭内の出来事)
- 「消えたい」「死にたい」といった言葉を口にしたことがあるか。「消えてしまいたい」とほのめかす(文科省「いのちのSOS」)は見逃されやすいサイン
- 自傷の既往、けがを繰り返していないか
- 好きなことへの興味を失っていないか、食欲・睡眠の変化
- 体重や体型への強いこだわり、食事制限
- アルコール・薬物への接触
- 行動・性格・身なりの急な変化
- 大切なものを人にあげる、身辺整理のような様子
- 家庭内の状況(虐待・DV・経済的困難)と、家庭訪問・電話で安否確認ができているか
- 学校・スクールカウンセラー・かかりつけ医と情報共有できているか、「児童生徒理解・支援シート」のような記録が学校側にあるか
送る/持つ(当院=二次救急・児童精神科の当直体制は要確認)
エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)
- 要確認:児童精神科・心療内科の紹介先(夜間・休日、緊急介入が要る場合の搬送先を含む)
- 要確認:市町村・児童相談所への通告の実務手順(誰が、どの窓口に、当直帯でどう動くか)。文科省通知は家庭訪問・電話で安否確認できない場合の通告を教育委員会側の対応として示しているが、医療機関からの通告ルートは別途整理が要る
- 要確認:スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーとの連携動線(学校側の窓口、情報共有の同意の取り方)
- 確定(2026-09-14):当院で縫合はできない。自傷による切創は洗浄・止血・被覆まで当院で行い、縫合が要れば時間内に送る(創処置と縫合の適応)
- 要確認:過量服薬時の血中濃度測定・中毒110番への問い合わせ手順(急性中毒)
- 要確認:「危険な手段」(家庭内の刃物・薬・高所など)を家族と一緒に遠ざける具体的な声かけを院内でどこまで行うか
家族に渡す一文
「学校に行けない状態が続いていて、心配なお気持ちだと思います。今日ここでまず確認したいのは、体に隠れた病気がないかということと、お子さんの心が今どれくらいつらいかということです。学校に戻ることだけがゴールではありません。文部科学省も、不登校の支援は学校に戻ることだけを目標にするのではなく、お子さんが自分の進路を見つけて社会に出ていけるようになることを目指すべきだとしています。もし『消えたい』『死にたい』という言葉がお子さんから出たときは、それをはぐらかさず、そのまま聞いてあげてください。話を聞いてもらえるだけで、お子さんの安心につながります。学校の先生やスクールカウンセラー、かかりつけの先生とも情報を共有しながら、少しずつ進めていきましょう。」
困ったときにお子さん本人にも伝えてよい相談窓口(文部科学省の資料より):
- 文部科学省24時間対応可能として実施している電話相談(0570-0-78310「なやみ言おう」)
- 法務省の無料でかけられる「子どもの人権110番」(0120-007-110)
- 全国の小中学校に配布されている「子どもの人権SOSミニレター」
医師確認事項(要・岡本判断)
- 要確認:本シートの一次資料は文部科学省の通知・手引きと厚生労働省のゲートキーパー養成研修用テキストであり、当院での児童精神科的な救急対応プロトコルではない。119/urgent/todayのレベル分けと時間軸の治療ワークフローは、これらの一次資料の記載(危険因子・6項目の評価・通告の要件など)をもとに本シートが救急外来向けに再構成したものであり、学会や行政が示した確定した診療アルゴリズムそのものではない。臨床運用前に精神科・心療内科と擦り合わせたい。
- 要確認:当院に精神科・児童精神科の当直体制があるか。無ければ、切迫した希死念慮のケースをどこへ、どの手段で搬送するかを事前に決めておく必要がある。
- 要確認:医療機関から児童相談所・警察への通告の具体的な手順。文科省通知の「家庭訪問や電話連絡を繰り返しても児童生徒の安否が確認できない等の場合」の通告は学校・教育委員会の動きとして書かれており、医療機関側の通告フローは本シートで一次資料を確認していない。
- 要確認:摂食障害の合併を疑う体重・BMIの目安は、本シートでは具体的な基準値を書いていない。当院での判断基準を専門科と決めておきたい。
- 要確認:過量服薬時の血中濃度測定や解毒の判断は本シートの範囲外(急性中毒を参照)。
- 要確認:「いのちのSOS」サイン一覧(文科省「子供に伝えたい自殺予防」中学・高校向けプログラムのスライド教材)は、生徒同士の相互支援を目的とした教育プログラムの一部であり、臨床的なスクリーニングツールとして検証されたものではない。当直での目安として使う位置づけにとどめている。
出典
- 文部科学省.「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」令和元年10月25日.https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1422155.htm (2026-09-13閲覧)。「不登校児童生徒への支援は,「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく,児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて,社会的に自立することを目指す必要があること」「家庭訪問や電話連絡を繰り返しても児童生徒の安否が確認できない等の場合は,直ちに市町村又は児童相談所への通告を行うほか,警察等に情報提供を行うなど,適切な対処が必要であること」「不登校の要因や背景を的確に把握するため,学級担任の視点のみならず,スクールカウンセラー及びスクールソーシャルワーカー等によるアセスメント(見立て)が有効であること」「いじめや暴力行為を許さない学校づくり,問題行動へのき然とした対応が大切であること」「「児童生徒理解・支援シート(参考様式)」」。
- 文部科学省.「不登校の児童生徒等への支援の充実について(通知)」令和5年11月17日.https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1422155_00001.htm (2026-09-13閲覧)。「令和4年度の国立、公立、私立の小・中学校の不登校児童生徒数が約29万9千人(過去最多)、うち学校内外で相談を受けていない児童生徒数が約11万4千人(過去最多)、うち90日以上欠席している児童生徒数が約5万9千人(過去最多)」「不登校やいじめ、児童生徒の自殺が急増する中、児童生徒のメンタルヘルスの悪化や小さなSOS、学級変容などを教職員が察知し、問題が表面化する前から積極的に支援につなげ、未然防止を図るため」。
- 文部科学省.子供に伝えたい自殺予防(学校における自殺予防教育導入の手引)(平成26年7月).手引き本体 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/__icsFiles/afieldfile/2018/08/13/1408017_002.pdf ・概要 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/__icsFiles/afieldfile/2018/08/13/1408017_001.pdf (2026-09-13閲覧、リンク元 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1408017.htm )。「率直で誠実な態度で自殺について話すならば,それが自殺の危険を引き起こすことはありません」。「いのちのSOS~いのちの危機のサイン~」として「すぐに涙ぐみ、独りごとを言う」「好きなことにも興味を失う」「「消えてしまいたい」とほのめかす」「イライラして集中力がない」「アルコールや薬物の乱用」「自傷行為」「最近の喪失体験」「けがを繰り返す」「同じ言葉を繰り返す」を挙げる。援助希求のキャッチフレーズ「きようしつ」(きづいて:危機に気付く/よりそい:友達に寄り添う/うけとめて:生きづらさを受け止める/しんらい:信頼できる大人に/つなげよう:つなげる)。相談窓口として「文部科学省が悩む子供を対象に24 時間対応可能として実施している電話相談(0570-0-78310「なやみ言おう」)」「法務省の無料でかけられる「子どもの人権110番」(0120-007-110)」「「子どもの人権SOSミニレター」」を挙げる。
- 厚生労働省.ゲートキーパー養成研修用テキスト(第3版).「3.自殺を考えている人の心理」https://www.mhlw.go.jp/content/text3_03_7.pdf /「4.自殺の危険因子と防御因子」https://www.mhlw.go.jp/content/text3_04_8-9.pdf /「5.ゲートキーパーとしての心得」https://www.mhlw.go.jp/content/text3_05_10-18.pdf /「9.ゲートキーパーQ&A」https://www.mhlw.go.jp/content/text3_09_140-148.pdf (2026-09-13閲覧、リンク元 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/gatekeeper_text.html )。自殺を考えている人の心理として16項目を列挙し、①絶望感は「もうどうすることもできない」と絶望する気持ち、⑯自殺念慮は「死にたい」、「この世からいなくなりたい」など自殺するしか解決する方法はないという考えと定義する。危険因子として「過去の自殺企図・自傷歴」「自殺企図手段への容易なアクセス」(危険な手段を手にしている、危険な行動に及びやすい環境があるなど)、防御因子として「支援の存在」(本人を支援してくれる人がいたり、支援組織があること)を挙げる。心得として「「今から相手の話を聴く」という心の準備をすることが大切です」「話をしてくれること、死にたい気持ちを打ち明けてくれたことをねぎらうとよいでしょう」。Q&Aでは「『死にたい』と言われたら、出来る限りその話に触れないようにする」を誤りとし、「「死にたい」と言っている人は死なないというのは誤解です。「死にたい」と言われたら、その気持ちを真剣に受け止め、悩んでいることについて、良い・悪いの判断をしたり、批評をしたりはせず、まずは話を聞くことが大切です」と解説。また「「死にたい」と言われたら、1)自殺を具体的に計画しているか、2)手段を確保しているか、3)いつ頃からそう考えているか、4)どの程度持続しているか、5)どの程度その思いが強いか、6)客観的に焦燥感があったり、遺書を準備しているなどの行動を確認することが必要です」と、危険性確認の6項目を示す。
- 起立性調節障害:思春期の朝起き不良・立ちくらみの器質的除外はこちらを参照。本シートとは相互に参照する関係で、重複する記載(体重減少・希死念慮のレッドフラグ等)は起立性調節障害シート側にも別途記載がある。