細菌性気管炎
呼吸器β版・逐条レビュー継続中
2026-09-13更新
β版用量は適用前に一次資料と院内採用を確認。このβ版について
施設プロファイル: 二次救急/外科的処置を持たない。気道確保が必要な重症例は「持てない」。
⚠ 根拠の性質: 細菌性気管炎に特化した日本の学会ガイドラインは見つからなかった。「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022」(日本小児感染症学会・日本小児呼吸器学会)はクループ症候群と細菌性気管炎を扱うとされるが書籍のみで、Mindsガイドラインライブラリでも本文は非公開(「本文公開交渉中」)であり、本シートでは一次資料として確認できていない。本シートは①米国発の医学百科(MSDマニュアル プロフェッショナル版・日本語版)の解説、②国内の症例報告2件(2025年)を一次資料として使っている。正式なガイドラインの推奨ではない。
30秒要約
- クループとして治療を始めても良くならない、または悪化する子は、細菌性気管炎を疑う。標準治療(アドレナリン吸入・ステロイド)に反応しない・急速に悪化するのが最大の手がかり。
- 先行するウイルス性感染症のあと、数日で吸気性喘鳴と呼吸困難が出るのが典型パターン。「大半の小児は,重度の吸気性喘鳴(stridor)および呼吸困難を発症する前の1~3日間,ウイルス性呼吸器感染症の症状を呈する」(MSDマニュアル)。
- 重症化すると挿管が必要になることが多い。国際的な症例集積データでは、約70〜90%の患者が挿管を要すると報告されている(Kanoら2025、Pediatrics International。原文は出典参照)。
- 確定診断は直達喉頭鏡検査か頸部X線側面像。当院でどちらが夜間にできるかは要確認(下記エスカレーション)。
- 重症例は喉頭蓋炎と同じ扱い。「細菌性気管炎の重症例の治療は喉頭蓋炎の治療と同様である」(MSDマニュアル)。当院の対応は急性喉頭蓋炎シートに準じる。
レッドフラグ → 次の一手
所見があったときにどれだけ急ぐかと、家族に何を伝えるかの対応表。3列目の文言は家族説明ページに同じ言葉で載っているので、画面を見せながら渡せる。
| 緊急度 | 所見 | その場で次にやること | 時間の勝負 |
|---|---|---|---|
| 119 | クループとして治療(アドレナリン吸入・ステロイド)を開始したが、改善しない・急速に悪化する(SpO2低下・意識レベル低下) | 細菌性気管炎を疑って気道確保を最優先。急性喉頭蓋炎シートに準じて応援を呼ぶ。持てない | 即時 |
| 119 | 咳嗽を契機に酸素飽和度が急激に低下する | 気道閉塞の進行として扱う。酸素・体位保持・応援要請 | 即時 |
| 119 | 急性発症の吸気性喘鳴+高熱+多量の膿性分泌物 | 「少数の小児では発症が急性であり,その場合は吸気性喘鳴(stridor)と高熱を特徴とし,しばしば多量の膿性分泌物がみられる」(MSDマニュアル)。喉頭蓋炎と同じ扱いで動く | 即時 |
| 119 | 陥没呼吸の増悪・チアノーゼ・意識障害 | 気道確保が最優先。当院で不可能なら人を呼ぶことに全力を注ぐ | 即時 |
| 緊急 | 発熱が数日続き、近医の内服抗菌薬でも解熱しない | クループ・気道感染としてだけで片付けず、経過を確認する | 当日〜 |
| 緊急 | 高熱+顕著な重症感(toxic look) | 「喉頭蓋炎を有する患者と同様に,細菌性気管炎の患児に顕著な重症感および急速に進行する呼吸窮迫がみられる場合があり,挿管を要することもある」(MSDマニュアル)。経過観察でなく評価を急ぐ | 当日 |
| 当日 | 犬吠様咳嗽・嗄声中心でアドレナリン吸入に反応する典型的なウイルス性クループ | クループとして経過観察 | 当日 |
鑑別:よくあるもの
| 疾患 | 見分け | 当院の扱い |
|---|---|---|
| ウイルス性クループ | 犬吠様咳嗽・嗄声が主体。アドレナリン吸入・ステロイドに反応する | 当院で経過観察。反応が乏しければ細菌性気管炎を再考 |
| 気管支喘息・RSV等の細気管支炎 | 呼気性喘鳴(wheeze)が主体で、吸気性喘鳴(stridor)ではない | 当院で対応 |
| 肺炎 | 咳嗽・発熱に加え、聴診での局所所見・呼吸数増加 | 当院で対応、重症度により搬送判断 |
| 溶連菌性咽頭炎 | 咽頭痛・発熱が主体で、吸気性喘鳴を伴わない | 当院で対応 |
鑑別:見逃してはいけないもの
| 疾患 | 見分け | 当院の扱い |
|---|---|---|
| 急性喉頭蓋炎 | 犬吠様咳嗽を欠く吸気性喘鳴、流涎、ふくみ声、前傾姿勢。分の単位で進行する | 持てない。触らない・寝かせない・泣かせない |
| 咽後膿瘍・扁桃周囲膿瘍 | 頸部腫脹・頸部可動域制限・開口障害。犬吠様咳嗽を欠くことが多い | 持てない |
| 気道異物 | 先行するウイルス性前駆症状を欠く突然発症。無熱、窒息・誤嚥エピソード歴 | 持てない。クループとして治療する前に除外する |
| じんましんとアナフィラキシー | 発熱を欠く急性発症、蕁麻疹・血管浮腫・曝露歴 | まず除外してから細菌性気管炎・クループを考える |
治療ワークフロー(当院でやること)
| 順 | やること | やってはいけないこと |
|---|---|---|
| 1 | クループとして治療開始した児の反応を確認する。アドレナリン吸入・ステロイドで改善するか、しないかを見る | 「反応しない=もう少し様子を見る」で片付けない |
| 2 | 体位を保つ。本人が楽な姿勢のままにする。バイタル(呼吸数・SpO2・意識レベル)を繰り返し確認する | 無理に仰臥位にしない |
| 3 | 刺激しない。啼泣を誘発する診察・処置は気道確保の準備が整うまで急がない | 舌圧子で無理に咽頭を覗かない |
| 4 | 酸素を投与する(マスクを嫌がるなら無理に当てない) | — |
| 5 | 確定診断の方法(頸部X線側面像・直達喉頭鏡検査)が当院でどこまでできるかを確認する(下記エスカレーション) | 検査を急ぐあまり気道を刺激しない |
| 6 | 重症感が強い・急速に悪化するなら、検査結果を待たずに応援を呼ぶ | 血液検査・画像の結果を待って判断を遅らせない |
| 7 | 搬送前は酸素投与を続けながら、体位を変えない | — |
所見の取り方
| 所見 | 取り方 | 所見があったら次にどうする |
|---|---|---|
| 吸気性喘鳴の性状 | 安静時か、増悪しているか | 安静時に及べば重症 |
| 全身状態(toxic look) | ぐったりしていないか、活気はあるか | 顕著な重症感は喉頭蓋炎に準じた対応 |
| 膿性分泌物 | 多量の膿性痰・分泌物の有無 | 急性発症型の手がかり(MSDマニュアル) |
| SpO2のトレンド | 咳嗽を契機とした急激な低下がないか | 見つけたら即時対応 |
| クループ標準治療への反応 | アドレナリン吸入・ステロイド投与後の経過を追う | 反応が乏しければ再評価 |
検査
- 頸部X線側面像:「頸部X線(側面像)で声門下の狭小化(クループに典型的にみられる対称的な先細りの狭小化[steeple sign]とは対照的に,不規則な場合がある)を明らかにすることによって確定される」(MSDマニュアル)。夜間の撮影可否は要確認。
- 直達喉頭鏡検査:「必要なら迅速に人工気道で気道を確保できる管理された状況下では,直達喉頭鏡検査を行うべきである」(MSDマニュアル)。当院で実施できるかは要確認(下記エスカレーション)。
- 血算・CRP:細菌感染を示唆する所見として参考にはなるが、確定診断の手段ではない。
問診チェック
- 先行するウイルス性上気道炎の症状(鼻汁・咳・発熱)が何日先行していたか
- クループとして治療を開始したことがあるか、その反応(改善した/しなかった)
- 発熱の持続日数、近医での抗菌薬内服歴の有無
- 咳嗽を契機とした急激な変化があったか
- インフルエンザ罹患歴(先行する事例として報告あり)
- 気管挿管歴(「まれに,細菌性気管炎がウイルス性クループまたは気管挿管の合併症として発生する」〈MSDマニュアル〉)
送る/持つ(当院=二次救急・気道確保の専門体制を持たない)
エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)
- 要確認:当院で小児の気道確保(挿管)ができる医師・体制が当直にあるか(急性喉頭蓋炎シートと共通の論点)
- 要確認:直達喉頭鏡検査・気管支鏡検査ができる施設と紹介先。「管理された環境下で小児の気道の扱いに長けた医師が実施すべきである」(MSDマニュアル)を満たせるか
- 要確認:頸部X線側面像を夜間に撮影できるか、読影(不規則な声門下狭小化の判定)を誰が行うか
- 要確認:MRSAを含む黄色ブドウ球菌・レンサ球菌属をカバーする抗菌薬の経験的選択と当院のアンチバイオグラム。本シートは意図的に薬剤名と用量を書いていない
- 要確認:PICU/ECMOが必要になりうる重症例の搬送先(下記の症例報告参照)
家族に渡す一文
「犬が吠えるような咳と診断されて治療を始めても、熱が下がらない、息苦しさがどんどん強くなる、せきをきっかけに顔色が悪くなる、というときは、気管の中で細菌の感染が起きている可能性があります。こうなると、坂を下るように急に悪くなることがあるため、様子を見ずにすぐに連絡してください。」
医師確認事項(要・岡本判断)
- 要確認:細菌性気管炎に特化した日本の学会ガイドラインは見つからなかった。「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022」(日本小児感染症学会・日本小児呼吸器学会)は書籍のみで、Mindsガイドラインライブラリでも本文は非公開(2026-09-13時点で「本文公開交渉中」)。原著が入手できたら本シートを差し替える必要がある。
- 要確認:MSDマニュアル プロフェッショナル版はアメリカ発の医学百科であり、日本の学会ガイドラインではない。本シートの中核記述(症状・診断・重症度)はこれに依っている。
- 要確認:症例報告2件(Kanoら2025・張2025)は個別症例であり、頻度や典型像を保証するものではない。特にKanoら2025はECMOを要した重症例で、典型例ではなく最重症の到達点として引用している。
- 要確認:MSDマニュアルが挙げる経験的抗菌薬(バンコマイシン・セフトリアキソン・セフタロリン等)は本シートに書いていない。当院の採用薬・アンチバイオグラムで決めるべき事項として意図的に外した。
- 要確認:当院で直達喉頭鏡検査・気管支鏡検査・頸部X線側面像の夜間実施が可能かが本シートの実行可能性を左右する。できないなら「疑ったら送る」の閾値を下げる方針にするかどうか。
- 要確認:Kanoら2025が記載する推定年間罹患率(10万人あたり0.1例、原文は出典参照)は、原著が引用する多施設研究(Tebruegge M, et al. Scand J Infect Dis 2009)の数値であり、本シートではTebruegge論文そのものを確認していない。
出典
- Kano K, Obara T, Ninomiya R, Honda K, Yogo N, Muto Y, et al. Severe respiratory failure caused by bacterial tracheitis in a two‐year‐old girl: ECMO and bronchoscopic management. Pediatr Int. 2025;67:e70185. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC12369452/ (オープンアクセス、CC BY 4.0。2026-09-13閲覧)。「A 2‐year‐old girl (weight, 10 kg; height, 86.8 cm) presented with a barking cough 5d after contracting the influenza virus and was admitted to our pediatric intensive care unit. She was clinically diagnosed with croup and treated with nebulized epinephrine, intravenous ampicillin, and steroids.」「owing to deoxygenation and deterioration of consciousness caused by respiratory distress, she required tracheal intubation and mechanical ventilation」「Given the atypical progression of the croup, flexible bronchoscopy (FB) was performed, revealing purulent secretions adhering circumferentially to the tracheal mucosa and extending to the peripheral bronchi... Methicillin‐resistant Staphylococcus aureus (MRSA) was isolated from sputum cultures, confirming bacterial tracheitis.」「Bacterial tracheitis is a rare pediatric condition, with an estimated annual incidence of 0.1 cases per 100,000 children.」「Diagnosis is based on upper airway obstruction and bronchoscopic findings of purulent secretions adhering to the tracheal mucosa.」「Approximately 70–90% of patients require intubation; however, following initial intubation to relieve airway obstruction, patients often show dramatic improvement.」「severe complications, including pneumothorax (1.3%) and acute respiratory distress syndrome (ARDS) (1.0%), have been reported, and conventional ventilation often fails to improve oxygenation.」「most patients with bacterial tracheitis improve with relatively short‐term intubation of 2–4 days. However, management may be prolonged if the lung parenchyma becomes involved or ARDS develops.」
- MSDマニュアル プロフェッショナル版.細菌性気管炎.https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/19-%E5%B0%8F%E5%85%90%E7%A7%91/%E5%B9%BC%E5%85%90%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E5%91%BC%E5%90%B8%E5%99%A8%E7%96%BE%E6%82%A3/%E7%B4%B0%E8%8F%8C%E6%80%A7%E6%B0%97%E7%AE%A1%E7%82%8E (2024年3月完全レビュー、2026-09-13閲覧)。米国発の医学百科(アメリカMerck & Co.)であり、日本の学会ガイドラインではない。「細菌性気管炎はあまり多くはみられないが,いずれの年齢の小児でも罹患しうる。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)およびA群β溶血性レンサ球菌が最も高頻度に関係する」「大半の小児は,重度の吸気性喘鳴(stridor)および呼吸困難を発症する前の1~3日間,ウイルス性呼吸器感染症の症状を呈する。少数の小児では発症が急性であり,その場合は吸気性喘鳴(stridor)と高熱を特徴とし,しばしば多量の膿性分泌物がみられる」「まれに,細菌性気管炎がウイルス性クループまたは気管挿管の合併症として発生する」「喉頭蓋炎を有する患者と同様に,細菌性気管炎の患児に顕著な重症感および急速に進行する呼吸窮迫がみられる場合があり,挿管を要することもある」「細菌性気管炎の合併症には,低血圧,心肺停止,気管支肺炎,および敗血症などがある。声門下狭窄が長期の挿管に続発することはまれである。適切な治療を受けた患児の大半が続発症もなく回復する」「細菌性気管炎の診断は臨床的に疑われ,直達喉頭鏡検査で膿性分泌物および声門下部の毛羽だった化膿性粘膜を伴う炎症を明らかにするか,または頸部X線(側面像)で声門下の狭小化(クループに典型的にみられる対称的な先細りの狭小化[steeple sign]とは対照的に,不規則な場合がある)を明らかにすることによって確定される」「必要なら迅速に人工気道で気道を確保できる管理された状況下では,直達喉頭鏡検査を行うべきである」「細菌性気管炎の重症例の治療は喉頭蓋炎の治療と同様であるが,できれば,気管挿管は管理された環境下で小児の気道の扱いに長けた医師が実施すべきである」(原文の抗菌薬の具体名〈バンコマイシン・セフトリアキソン・セフタロリン等〉は本シートには転記していない)。
- 張慶哲.クループ症候群だと思ったら細菌性気管炎.小児内科 57(4):389-390, 2025(沖縄県立南部医療センター・こども医療センター).https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.24479/pm.0000002317 (抄録のみ無料公開・本文は有料。2026-09-13閲覧)。「症例 4歳4か月,女児 現病歴:X−6日から咽頭痛と発熱が出現した。X−4日近医で内服抗菌薬が処方されたが,発熱が持続し,X−3日に同医へ入院した。吸呼気ともに喘鳴を聴取したため,クループ症候群と診断し,エピネフリンの吸入とデキサメタゾンの内服を開始したが,改善が乏しかった。X日に咳嗽を契機に酸素飽和度の急激な低下を認めたため,当院に転院した」。
- Minds ガイドラインライブラリ.小児呼吸器感染症診療ガイドライン.https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00758/ (2026-09-13閲覧)。本文は非公開。「最新版 本文は掲載準備中です」「公開ステータス 本文公開交渉中」。作成委員会=日本小児感染症学会・日本小児呼吸器学会、発行元=協和企画(2022-10-22、第1版)と表記があるが、本シートでは原著の本文を確認できていない。
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