急性陰嚢症・精巣捻転
外科的緊急β版・逐条レビュー継続中
施設プロファイル: 二次救急/外科的処置なし/当直帯は超音波を当てられない。捻転なら手術は当院でできない。画像を待たずに診察所見だけで送るのがこのシートの目的で、当直帯はそれが唯一の道になる。
30秒要約
- 腹痛だけで来る。思春期男児は羞恥心から陰嚢の痛みを自分から言わない。「腹痛で来た男児の陰嚢を診ていない」が最も再現性の高い見逃し方。
- 時間が全て。捻転解除までの時間で温存率が決まる。6時間以内は温存率が高く、12時間を超えると急速に落ち、24時間を超えるとほぼ期待できない。
- 超音波は捻転を確実に除外できない。臨床的な疑いが強ければ、画像の結果を待たずに専門施設へ連絡する。
- 精巣挙筋反射は90%の症例で消失しているが、逆に約10%は保たれている。反射があることを否定の根拠にしない。
レッドフラグ
所見があったときにどれだけ急ぐかと、家族に何を伝えるかの対応表。3列目の文言は家族説明ページに同じ言葉で載っているので、画面を見せながら渡せる。
| 緊急度 | 所見 | その場で次にやること | 時間の勝負 |
|---|---|---|---|
| 緊急 | 突然発症の陰嚢痛(夜間睡眠中・早朝の発症が最多) | その場で陰嚢を診る。TWISTを取る。高リスクならエコーを待たず連絡 | 6時間以内が勝負 |
| 緊急 | TWIST 5〜7点(高リスク) | 画像を待たずに泌尿器科・小児外科へ連絡 | 6時間以内 |
| 緊急 | TWIST 3〜4点(中等度)で臨床所見が濃厚 | 中等度でも臨床的疑いが強ければ画像を待たず連絡 | 6時間以内 |
| 緊急 | 精巣が高位・横位、硬い、挙筋反射消失 | 同上 | 6時間以内 |
| 緊急 | 男児の下腹部痛・腹痛+嘔気嘔吐で腹部所見に乏しい | 陰嚢を開けて診る。腹痛のみが唯一の症状の捻転がある | 診断遅延の温床 |
| 当日 | 痛みが自然に消えた(間欠性捻転の疑い) | 消えたことを否定材料にしない。再発しやすいので専門科へつなぐ | — |
| 当日 | 新生児の無痛性の陰嚢腫脹・変色 | 出生前後の捻転がありうる。専門科へ | — |
TWISTスコア(Barbosa 2013 原著)
| 項目 | 点 |
|---|---|
| 精巣腫脹(testicular swelling) | 2 |
| 硬い精巣(hard testicle) | 2 |
| 精巣挙筋反射消失(absent cremasteric reflex) | 1 |
| 悪心・嘔吐(nausea/vomiting) | 1 |
| 高位精巣(high riding testis) | 1 |
| 合計 | 7点満点 |
判定: 0〜2点=低リスク/3〜4点=中等度/5〜7点=高リスク。原著の前向きコホート(n=338、捻転51例)で、カットオフ2と5における陰性的中率・陽性的中率はいずれも100%(特異度81%・感度76%)。
系統的レビュー・メタ解析(18歳以下5研究)での実際の捻転率: 低リスク(0〜2点)2.2%、中等度(3〜4点)22.3%、高リスク(5〜7点)86.7%。低リスクでも2.2%は捻転であることを忘れない。
当院の当直帯にはカラードプラ超音波が無いため(検査節参照)、jmed51が示す「1〜5点はエコーで判定し、6〜7点は直ちに紹介」という段階的な運用は当院では踏めない。したがって3〜4点(中等度)も5〜7点(高リスク)と同様に、臨床的疑いが強ければ画像の結果を待たずに連絡する対象に含める。
時間と精巣温存率
| 発症からの時間 | 温存率 |
|---|---|
| 0〜6時間 | 97.2% |
| 7〜12時間 | 79.3% |
| 13〜18時間 | 61.3% |
| 19〜24時間 | 42.5% |
| 25〜48時間 | 24.4% |
| 48時間超 | 7.4% |
(系統的レビューの数値。別の報告では6時間以内100%・12時間以上20%・24時間以上0%とされる。数値に幅はあるが、6時間・12時間・24時間で段が落ちる構造はすべての報告で一致している)
鑑別:急性陰嚢症の内訳
| 疾患 | 割合 | 拾う所見 | 決め手 |
|---|---|---|---|
| 精巣垂・精巣上体垂捻転 | 40〜60%(最多) | 7〜12歳に多い。精巣・精巣上体は正常に触知され、限局した有痛性小結節が確認できる。痛みは捻転より軽い | エコーで精巣血流が保たれている |
| 精巣捻転 | 20〜30% | 突然発症、夜間・早朝、嘔気嘔吐、挙筋反射消失、高位・横位。左が右の2〜3倍 | エコーで血流低下。ただしエコー陰性でも否定しない |
| 精巣上体炎 | 残り | 発症は緩徐、発熱を伴う、膿尿。性活動期では淋菌・クラミジア | 尿検査(膿尿)。抗菌薬は下記「精巣上体炎確定後の治療」参照 |
時間が経つと臨床所見での鑑別は当てにならなくなる。腫脹が増悪して所見がはっきりしなくなった場合、学会資料も「鑑別は必ずしも容易ではない」「迷わず手術・試験切開で確定診断すべき」としている。当院では手術ができないので、迷った時点で送るが同じ意味になる。
精巣上体炎確定後の治療
当直帯はNAAT・培養結果が出ない(施設プロファイル)。淋菌/クラミジアを確定してから単剤を選ぶガイドライン通りの運用は、この制約のもとでは当院では実行できない。
- 非性活動期(目安・思春期前): UTI型として扱う。具体的な薬剤名・用量はここには書かず、尿路感染症シートおよびbacterial-tracheitis・bone-joint-infection・cellulitisの既存決定と同じ書式で当院のアンチバイオグラムを確認して選択する(大腸菌を標的に第1〜3世代セフェムを軸に検討)。非性活動期と性活動期を分ける年齢の院内定義は未確認。
- 性活動期(思春期・問診で性活動歴を確認): 決定=当直はCTRX 1g・1日1〜2回・点滴静注(投与日数は重症度により1〜7日間)を単剤で開始し、クラミジアを狙う薬剤(MINO/ドキシサイクリン等)の追加要否とタイミングは翌朝の専門科判断に委ねる(論点:当直でCTRXを単剤先行させる運用でよいか)。JAID/JSC感染症治療ガイドライン2018はCTRX単剤が第一選択でありdual therapy(CTRX+ドキシサイクリンの同時併用)は推奨しないと明記しているが、当院既存の院内書籍jmed51はCTRX+ドキシサイクリン併用のレジメンを載せており、国内の実務書と学会ガイドラインの間で立場が割れている。フルオロキノロン系(LVFX等)を思春期患者に使う場合の院内方針院内は別途要確認(下記)。
所見の取り方
- 男児の腹痛では、必ず陰嚢を開けて診る。本人に「玉は痛くない?」と直接聞く。付き添いの前で言いにくい年齢なら、聞き方と場を配慮する。
- 挙筋反射(大腿内側を刺激して精巣が挙上するか)を左右で比較する。消失は捻転を示唆するが、保たれていても否定できない。
- 精巣の位置(高位・横位)と硬さを健側と比べる。
- 発症時刻を分単位で詰める。「夕方から」ではなく「何時何分ごろ」。この数字が受け入れ先の判断を変える。
問診チェック
検査
当院の当直帯にカラードプラ超音波は無い(2026-09-14 確認)。以下 1 は送り先で行われる検査であり、当直帯の当院では 2 の原則がそのまま運用になる。診察所見(TWIST)だけで送る。
- カラードプラ超音波で精巣血流を評価する(第一選択)。
- ただし超音波は捻転を確実に除外できない。臨床的疑いが強ければ画像を待たない。
- 尿検査(精巣上体炎の鑑別)。
送る/持つ(当院=二次救急・外科的処置なし)
当院で手術はできない。したがって「疑った時点で電話」が原則になる。
- TWISTが高リスク(5〜7点)、または臨床的に強く疑う → エコーの結果を待たずに泌尿器科・小児外科へ連絡
- 発症時刻と、いま何時間目かを最初に伝える
- 絶食にする(緊急手術になる)
- 家族に「精巣を残せるかどうかは時間で決まる」ことを、移動の判断がつくように伝える
- 用手整復について: 用手整復は試みない。疑った時点で速やかに搬送する(試みによる時間ロスを避ける)(決定、下記エスカレーション参照)。海外のガイドライン(豪州外科学会)は「試みてよいが、手術を絶対に遅延させてはならない」としており参考情報として残すが、日本の学会一次資料でこの点を明示した記載は確認できていないため、当院の運用としては試みない。
エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)
- 要確認:泌尿器科・小児外科の夜間・休日の受け入れ先と直通番号。小児外科は決まった連携先に直接電話する運用(施設名・番号は保留中)
- 決定:用手整復は試みず、疑った時点で速やかに搬送する(試みによる時間ロスを避ける)(論点:当院で用手整復を試みる方針か、試みずに送るか)
- 確定(2026-09-14):夜間に陰嚢エコーは当てられない。「エコーを待たずに送る」が当院の既定
- 決定=精巣上体炎(性活動期)は当直でCTRXを単剤先行させ、クラミジアを狙う薬剤(MINO/ドキシサイクリン等)の追加要否は翌朝の専門科判断に委ねる(論点:当直でCTRXを単剤先行させる運用でよいか。詳細は「精巣上体炎確定後の治療」参照)
- 要確認:フルオロキノロン系(LVFX等)を思春期患者に使う場合の院内方針院内
- 要確認:救急車要請の院内手順
家族に渡す一文
「精巣(睾丸)にいく血管がねじれて、血が流れなくなっている可能性があります。この病気は、ねじれを戻すまでの時間で結果が決まります。当院では手術ができないので、手術のできる病院へすぐ移っていただきます。移動の時間も結果に響くので、急いで決めてください。」
出典
- 日本小児泌尿器科学会.小児の急性陰嚢症.https://jspu.jp/ippan_021.html (2026-09-10閲覧)。夜間睡眠中の突然発症、下腹部痛・嘔気を伴うこと、発症後6〜8時間以内に治療しないと壊死に陥ること、鑑別が必ずしも容易でないこと、精巣挙筋反射の確認。
- 日本小児外科学会.急性陰嚢症.http://www.jsps.or.jp/archives/sick_type/seisou-nentenshou (2026-09-10閲覧・httpでアクセス)。急性陰嚢症の20〜30%が精巣捻転、新生児と思春期の2峰性、思春期の受診遅れが精巣喪失の大きな理由であること。
- Barbosa JA, et al. Development and initial validation of a scoring system to diagnose testicular torsion in children. J Urol. 2013;189(5):1859-64. PMID 23103800. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23103800/ (2026-09-10閲覧・アブストラクト原文を直接確認)。TWISTの項目・配点・カットオフ2/5・NPV/PPV 100%・特異度81%・感度76%。
- Qin KR, Qu LG. Diagnosing with a TWIST: Systematic Review and Meta-Analysis of a Testicular Torsion Risk Score. J Urol. 2022(AAFP誌の要約経由で確認・原文未直接確認)。https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2022/1200/pocg-testicular-torsion.html 低・中・高リスク群の捻転率。
- 獨協医科大学埼玉医療センター小児泌尿器科.精巣捻転(急性陰のう症).https://dept.dokkyomed.ac.jp/dep-k/pediuro/document/torsion.pdf (2026-09-10閲覧)。急性陰嚢症の内訳、精巣垂捻転の好発年齢と所見、時間経過で鑑別困難になること。
- 山田茉未子ほか.精巣捻転症への学校における取り組み.慶應保健研究37(1):111-114, 2019. https://www.hcc.keio.ac.jp/ja/research/asetts/files/37-17.pdf (2026-09-10閲覧)。夜間・早朝発症が最多、左が右の2〜3倍、発症ピーク13〜14歳、挙筋反射が90%で消失、羞恥心による申告遅延。
- Royal Australasian College of Surgeons. Acute scrotal pain and suspected testicular torsion guidelines (2022). https://www.surgeons.org/about-racs/position-papers/acute-scrotal-pain-and-suspected-testicular-torsion-guidelines-2022 (2026-09-10閲覧)。豪州のガイドラインであり日本の医療体制とは異なる。超音波は捻転を確実に除外できないこと、用手整復は手術を遅延させてはならないこと。
- 日本感染症学会・日本化学療法学会.JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015―尿路感染症・男性性器感染症―(「2. 急性精巣上体炎」pp.21-23).感染症学雑誌 第90巻第1号,2016年1月20日発行。https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/guideline_JAID-JSC_2015_urinary-tract.pdf (2026-09-26 原文PDF直接確認):性活動期35歳以下は淋菌・クラミジアを、それ以外の年齢は大腸菌を念頭に置いた治療を行うという年齢での使い分け(CⅢ)。軽症・中等症の第一選択は経口フルオロキノロン(LVFX 1回500mg・1日1回・14日間など)。
- 日本感染症学会・日本化学療法学会.JAID/JSC感染症治療ガイドライン2018―男性尿道炎とその関連疾患―(「2. 淋菌性精巣上体炎」「Ⅴ. クラミジア性尿道炎 b)精巣上体炎」pp.317-320).感染症学雑誌 第92巻第3号,2018年5月20日発行。https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/guideline_JAID-JSC2018_maleurethritis1805.pdf (2026-09-26 原文PDF直接確認):淋菌性精巣上体炎の第一選択はCTRX 1回1g・1日1〜2回・点滴静注・1〜7日間投与(重症度により日数判断)。耐性菌に対するdual therapy(CTRX+ドキシサイクリン同時併用)は「現時点では推奨しない」と明記。クラミジア性精巣上体炎で高熱時はMINO点滴静注1回100mg・1日2回3〜5日間→解熱後MINO経口1回100mg・1日2回に切替え合計14日間投与。
- 救命救急jmed51『あなたも名医! もう困らない救急・当直 ver3』p.258:精巣上体炎に「セフトリアキソン1g静注+ドキシサイクリン100mg内服を1日2回,10日間」の併用レジメンの記載(JAID/JSC 2018のdual therapy非推奨とは立場が異なる。TWISTのスコア区分〈1〜5点/6〜7点〉はp.256)。
病態・根拠10章
鑑別の考え方:捻転を疑う理由は、静脈還流と動脈血流の障害にある
精巣捻転では精索がねじれ、精巣の血流が障害される。突然の陰嚢痛だけでなく下腹部痛・嘔吐で来ることがあり、痛みの場所を本人が言い出せない場合もある。発症時刻、急に始まったか、過去に自然軽快した同様の痛みがあるかを確認し、腹部・鼠径・左右の精巣を診察する。時間がたった症例も温存不能と決めず、緊急外科評価を求める。[1][2]
鑑別:挙睾筋反射や尿検査で一つに決めない
高位・横位の精巣、強い圧痛、反射消失は捻転を支持するが、個々の所見は確定・除外の単独検査にはならない。精巣付属器捻転では上極の限局痛、精巣上体炎では排尿症状や発熱が手がかりとなる。ただし、これらがありそうでも精巣捻転を確実に除外できなければ外科相談を先にする。正常尿は精巣上体炎も完全には除外しない。[1]
超音波の役割と限界
ドプラ超音波は血流・解剖を評価できるが、捻転で陰性の検査が報告されている。疑いが強いときは、画像を予約すること自体が手術を遅らせないかを考える。RCHは外科評価を検査のために遅らせないよう求め、日本泌尿器科学会も、診断できない場合は緊急手術を行うことがあると説明する。当直帯にエコーと手術がない当院では、受入泌尿器科・小児外科へまず電話する。[1][2]
治療と搬送前に必要なこと
鎮痛を行い、手術・麻酔を想定して経口摂取を控える。捻転を疑う診察所見と発症時刻、最終摂取、嘔吐、外傷を伝え、検査結果がそろうまで連絡を待たない。用手的解除は手術の代わりではなく、実施するかは経験のある受入専門医と判断する。痛みが軽快しても間欠性捻転を含むため、相談を取り消す根拠にはしない。[1][2]
帰宅と家族への説明
外科的緊急疾患を除外した後に、診断に応じた安静・鎮痛や尿路評価を組む。原因不明の陰嚢痛を検査ができなかったまま帰すことは避ける。再燃する痛み、腫れ、嘔吐は予約日を待たない症状であり、早い受診が精巣を守る可能性につながると説明する。[1][2]
出典と適用範囲
- [1] RCH Acute scrotal pain or swelling。小児の診察、超音波の偽陰性、外科相談と帰宅条件。2026年更新。
- [2] 日本泌尿器科学会:陰嚢の急な腫れ・痛み。捻転の病態、症状、診断不確実時の緊急手術。
手技の手順・鎮痛薬量・施設間搬送の時間基準はこの解説では固定しない。
臨床医が迷う場面
超音波で血流があれば、精巣捻転は否定できる?
部分捻転や間欠性では血流が保たれることもある。突然の痛み、精巣の位置、嘔吐など臨床的疑いを優先し、画像陰性だけで終了しない。当院では疑った時点で手術可能な施設へ連絡し、超音波の実施や再検のために搬送を遅らせない。
来院時には痛みが消えた。帰宅でよい?
自然に戻った間欠性捻転の可能性がある。突然の発症・消失、反復、精巣位置の変化を確認し、泌尿器科へ相談する。痛みの消失を確定的な否定材料にせず、再燃時に直ちに受診することも伝える。思春期男児の腹痛では陰嚢の確認を省略しない。
精巣上体炎らしいので、抗菌薬を出す前に何を確認する?
まず捻転を十分評価する。年齢、尿症状、尿検査と培養、性活動歴をプライバシーに配慮して確認し、病原体と基礎尿路異常の可能性を考える。小児を成人の尿道炎レジメンに自動的に当てはめず、本文の院内対応と専門科の判断で処方する。