急性陰嚢症・精巣捻転

急性陰嚢症・精巣捻転

外科的緊急β版・逐条レビュー継続中

2026-09-10更新
β版用量は適用前に一次資料と院内採用を確認。このβ版について

施設プロファイル: 二次救急/外科的処置なし/当直帯は超音波を当てられない。捻転なら手術は当院でできない。画像を待たずに診察所見だけで送るのがこのシートの目的で、当直帯はそれが唯一の道になる。

30秒要約

  • 腹痛だけで来る。思春期男児は羞恥心から陰嚢の痛みを自分から言わない。「腹痛で来た男児の陰嚢を診ていない」が最も再現性の高い見逃し方。
  • 時間が全て。捻転解除までの時間で温存率が決まる。6時間以内は温存率が高く、12時間を超えると急速に落ち、24時間を超えるとほぼ期待できない。
  • 超音波は捻転を確実に除外できない。臨床的な疑いが強ければ、画像の結果を待たずに専門施設へ連絡する。
  • 精巣挙筋反射は90%の症例で消失しているが、逆に約10%は保たれている。反射があることを否定の根拠にしない。

レッドフラグ

所見があったときにどれだけ急ぐかと、家族に何を伝えるかの対応表。3列目の文言は家族説明ページに同じ言葉で載っているので、画面を見せながら渡せる。

緊急度所見その場で次にやること時間の勝負
緊急突然発症の陰嚢痛(夜間睡眠中・早朝の発症が最多)その場で陰嚢を診る。TWISTを取る。高リスクならエコーを待たず連絡6時間以内が勝負
緊急TWIST 5〜7点(高リスク)画像を待たずに泌尿器科・小児外科へ連絡6時間以内
緊急精巣が高位・横位、硬い、挙筋反射消失同上6時間以内
緊急男児の下腹部痛・腹痛+嘔気嘔吐で腹部所見に乏しい陰嚢を開けて診る。腹痛のみが唯一の症状の捻転がある診断遅延の温床
当日痛みが自然に消えた(間欠性捻転の疑い)消えたことを否定材料にしない。再発しやすいので専門科へつなぐ
当日新生児の無痛性の陰嚢腫脹・変色出生前後の捻転がありうる。専門科へ

TWISTスコア(Barbosa 2013 原著)

項目
精巣腫脹(testicular swelling)2
硬い精巣(hard testicle)2
精巣挙筋反射消失(absent cremasteric reflex)1
悪心・嘔吐(nausea/vomiting)1
高位精巣(high riding testis)1
合計7点満点

判定: 0〜2点=低リスク/3〜4点=中等度/5〜7点=高リスク。原著の前向きコホート(n=338、捻転51例)で、カットオフ2と5における陰性的中率・陽性的中率はいずれも100%(特異度81%・感度76%)。

系統的レビュー・メタ解析(18歳以下5研究)での実際の捻転率: 低リスク(0〜2点)2.2%、中等度(3〜4点)22.3%、高リスク(5〜7点)86.7%。低リスクでも2.2%は捻転であることを忘れない。

時間と精巣温存率

発症からの時間温存率
0〜6時間97.2%
7〜12時間79.3%
13〜18時間61.3%
19〜24時間42.5%
25〜48時間24.4%
48時間超7.4%

(系統的レビューの数値。別の報告では6時間以内100%・12時間以上20%・24時間以上0%とされる。数値に幅はあるが、6時間・12時間・24時間で段が落ちる構造はすべての報告で一致している

鑑別:急性陰嚢症の内訳

疾患割合拾う所見決め手
精巣垂・精巣上体垂捻転40〜60%(最多)7〜12歳に多い。精巣・精巣上体は正常に触知され、限局した有痛性小結節が確認できる。痛みは捻転より軽いエコーで精巣血流が保たれている
精巣捻転20〜30%突然発症、夜間・早朝、嘔気嘔吐、挙筋反射消失、高位・横位。左が右の2〜3倍エコーで血流低下。ただしエコー陰性でも否定しない
精巣上体炎残り発症は緩徐、発熱を伴う、膿尿。性活動期では淋菌・クラミジア尿検査(膿尿)

時間が経つと臨床所見での鑑別は当てにならなくなる。腫脹が増悪して所見がはっきりしなくなった場合、学会資料も「鑑別は必ずしも容易ではない」「迷わず手術・試験切開で確定診断すべき」としている。当院では手術ができないので、迷った時点で送るが同じ意味になる。

所見の取り方

  • 男児の腹痛では、必ず陰嚢を開けて診る。本人に「玉は痛くない?」と直接聞く。付き添いの前で言いにくい年齢なら、聞き方と場を配慮する。
  • 挙筋反射(大腿内側を刺激して精巣が挙上するか)を左右で比較する。消失は捻転を示唆するが、保たれていても否定できない
  • 精巣の位置(高位・横位)と硬さを健側と比べる。
  • 発症時刻を分単位で詰める。「夕方から」ではなく「何時何分ごろ」。この数字が受け入れ先の判断を変える

問診チェック

検査

当院の当直帯にカラードプラ超音波は無い(2026-09-14 確認)。以下 1 は送り先で行われる検査であり、当直帯の当院では 2 の原則がそのまま運用になる。診察所見(TWIST)だけで送る。

  1. カラードプラ超音波で精巣血流を評価する(第一選択)。
  2. ただし超音波は捻転を確実に除外できない。臨床的疑いが強ければ画像を待たない。
  3. 尿検査(精巣上体炎の鑑別)。

送る/持つ(当院=二次救急・外科的処置なし)

当院で手術はできない。したがって「疑った時点で電話」が原則になる。

  1. TWISTが高リスク(5〜7点)、または臨床的に強く疑う → エコーの結果を待たずに泌尿器科・小児外科へ連絡
  2. 発症時刻と、いま何時間目かを最初に伝える
  3. 絶食にする(緊急手術になる)
  4. 家族に「精巣を残せるかどうかは時間で決まる」ことを、移動の判断がつくように伝える
  5. 用手整復について: 海外のガイドライン(豪州外科学会)は「試みてよいが、手術を絶対に遅延させてはならない」としている。日本の学会一次資料でこの点を明示した記載は確認できていない。当院で試みるかは要確認とする。

エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)

  • 要確認:泌尿器科・小児外科の夜間・休日の受け入れ先と直通番号。小児外科は決まった連携先に直接電話する運用(施設名・番号は保留中)
  • 要確認:当院で用手整復を試みる方針か、試みずに送るか
  • 確定(2026-09-14):夜間に陰嚢エコーは当てられない。「エコーを待たずに送る」が当院の既定
  • 要確認:救急車要請の院内手順

家族に渡す一文

「精巣(睾丸)にいく血管がねじれて、血が流れなくなっている可能性があります。この病気は、ねじれを戻すまでの時間で結果が決まります。当院では手術ができないので、手術のできる病院へすぐ移っていただきます。移動の時間も結果に響くので、急いで決めてください。」

医師確認事項(要・岡本判断)

  • 要確認:当院で用手整復を試みる方針か。日本の学会一次資料に明示的推奨が見つからないため、方針を決めておく必要がある。
  • 決着(2026-09-14):夜間の陰嚢エコー体制は無い。このシートは「診察所見だけで送る」運用で確定。残るのは用手整復の方針のみ。
  • 要確認:温存率の数値は系統的レビュー(原文未直接確認)に基づく。この扱いでよいか。
  • 要確認:日本泌尿器科学会「急性陰嚢症診療ガイドライン2014年版」は書籍のため本文未確認。搬送前対応の国内推奨はこの本文次第。

出典

  • 日本小児泌尿器科学会.小児の急性陰嚢症.https://jspu.jp/ippan_021.html (2026-09-10閲覧)。夜間睡眠中の突然発症、下腹部痛・嘔気を伴うこと、発症後6〜8時間以内に治療しないと壊死に陥ること、鑑別が必ずしも容易でないこと、精巣挙筋反射の確認。
  • 日本小児外科学会.急性陰嚢症.http://www.jsps.or.jp/archives/sick_type/seisou-nentenshou (2026-09-10閲覧・httpでアクセス)。急性陰嚢症の20〜30%が精巣捻転、新生児と思春期の2峰性、思春期の受診遅れが精巣喪失の大きな理由であること。
  • Barbosa JA, et al. Development and initial validation of a scoring system to diagnose testicular torsion in children. J Urol. 2013;189(5):1859-64. PMID 23103800. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23103800/ (2026-09-10閲覧・アブストラクト原文を直接確認)。TWISTの項目・配点・カットオフ2/5・NPV/PPV 100%・特異度81%・感度76%。
  • Qin KR, Qu LG. Diagnosing with a TWIST: Systematic Review and Meta-Analysis of a Testicular Torsion Risk Score. J Urol. 2022(AAFP誌の要約経由で確認・原文未直接確認)。https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2022/1200/pocg-testicular-torsion.html 低・中・高リスク群の捻転率。
  • 獨協医科大学埼玉医療センター小児泌尿器科.精巣捻転(急性陰のう症).https://dept.dokkyomed.ac.jp/dep-k/pediuro/document/torsion.pdf (2026-09-10閲覧)。急性陰嚢症の内訳、精巣垂捻転の好発年齢と所見、時間経過で鑑別困難になること。
  • 山田茉未子ほか.精巣捻転症への学校における取り組み.慶應保健研究37(1):111-114, 2019. https://www.hcc.keio.ac.jp/ja/research/asetts/files/37-17.pdf (2026-09-10閲覧)。夜間・早朝発症が最多、左が右の2〜3倍、発症ピーク13〜14歳、挙筋反射が90%で消失、羞恥心による申告遅延。
  • Royal Australasian College of Surgeons. Acute scrotal pain and suspected testicular torsion guidelines (2022). https://www.surgeons.org/about-racs/position-papers/acute-scrotal-pain-and-suspected-testicular-torsion-guidelines-2022 (2026-09-10閲覧)。豪州のガイドラインであり日本の医療体制とは異なる。超音波は捻転を確実に除外できないこと、用手整復は手術を遅延させてはならないこと。

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