薬疹・SJS/TEN・DIHS
アレルギー・皮膚β版・逐条レビュー継続中
施設プロファイル: 二次救急/皮膚科の入院設備なし。この3つは当院で抱えない。早く見抜いて送るのが仕事。
30秒要約
- 「薬を飲んだあとの発熱+粘膜」で止まる。厚労省マニュアルの主要徴候は3つ — 発熱(38℃以上)/粘膜症状/多発する紅斑。
- 早期症状のいずれかがあり、症状の持続や急激な悪化を認めた場合には、早急に入院設備のある皮膚科の専門機関に紹介する(マニュアルの明文)。
- 目の症状が早期に来る。眼の充血、眼脂、まぶたの腫れ、目が開けづらい。「ただの結膜炎」で流さない。
- 服用後2週間以内が多いが、数日以内あるいは1か月以上のこともある。DIHSは2〜6週と遅い。
- DIHSは原因医薬品を中止しても2週間以上遷延する。中止して良くならないことが、むしろ手がかり。
レッドフラグ → 次の一手
所見があったときにどれだけ急ぐかと、家族に何を伝えるかの対応表。3列目の文言は家族説明ページに同じ言葉で載っているので、画面を見せながら渡せる。
| 緊急度 | 所見 | 次の一手 |
|---|---|---|
| 119 | 全身の10%以上に水疱・表皮剥離 | TEN。熱傷に準じた全身管理が要る。当院で持てない。緊急搬送 |
| 119 | 呼吸困難・循環不全 | 気道・呼吸器の粘膜病変。集中治療のできる施設へ |
| 緊急 | 発熱(38℃以上)+粘膜症状+多発する紅斑の3つ | SJSの主要徴候が揃っている。直ちに入院設備のある皮膚科の専門機関へ |
| 緊急 | 眼の充血・眼脂・まぶたの腫れ・目が開けづらい | 早期症状。眼後遺症を残しうるので眼科の関与が要る |
| 緊急 | 口唇・陰部のびらん、排尿排便時痛 | 粘膜症状。同上 |
| 緊急 | 薬剤開始後の紅斑が持続する・急激に悪化する | 早急に紹介(マニュアルの明文) |
| 緊急 | 原因薬を中止しても2週間以上遷延する発疹+発熱+肝機能障害 | DIHSを疑う。血算(好酸球・異型リンパ球)・肝機能 |
| 当日 | 薬剤開始後の単純な紅斑のみ、粘膜症状なし、全身状態良好 | 被疑薬の中止と経過観察。再診の日を決める。悪化の条件を紙で渡す |
SJS/TEN
早期に認められる症状(マニュアル逐語): 「医薬品服用後の発熱(38℃以上)、眼の充血、眼脂(眼分泌物)、まぶたの腫れ、目が開けづらい、口唇や陰部のびらん、咽頭痛、紅斑」
医療関係者の対応(マニュアル逐語): 「上記症状のいずれかが認められ、その症状の持続や急激な悪化を認めた場合には早急に入院設備のある皮膚科の専門機関に紹介する」
主要徴候(3つ): 「発熱(38℃以上)、粘膜症状(結膜充血、口唇びらん、咽頭痛、陰部びらん、排尿排便時痛)、多発する紅斑(進行すると水疱・びらんを形成)を伴う皮疹の3つが主要徴候である」
診断したら: 「直ちに入院させた上で、眼科や呼吸器科などとのチーム医療を行う」
TEN: 「全身が広範囲にわたり赤くなり、全身の10%以上にやけどのような水ぶくれ、皮ふのはがれ、ただれなどが認められ、高熱(38℃以上)、皮ふや口にできるぶつぶつ、目が赤くなるなどの症状を伴う重症の皮膚障害」。「スティーヴンス・ジョンソン症候群と中毒性表皮壊死融解症は一連の病態と考えられ、中毒性表皮壊死融解症の症例の多くがスティーヴンス・ジョンソン症候群の進展型と考えられています」
発症時期: 「原因医薬品の服用後2週間以内に発症することが多いが、数日以内あるいは1ヶ月以上のこともある」
原因医薬品: 「抗菌薬、解熱消炎鎮痛薬、抗けいれん薬、痛風治療薬、サルファ剤、消化性潰瘍薬、催眠鎮静薬・抗不安薬、精神神経用薬、緑内障治療薬、筋弛緩薬、高血圧治療薬など広範囲にわたり、その他の医薬品によっても発生することが報告されている」
頻度: SJS 人口100万人当たり年間1〜6人、TEN 人口100万人当たり年間0.4〜1.3人
DIHS(薬剤性過敏症症候群)
概念: 「高熱と臓器障害を伴う薬疹で、医薬品中止後も遷延化する。多くの場合、発症後2〜3週間後にHHV-6の再活性化を生じる」
主要所見(日本皮膚科学会 診断基準 表1-1)
- 限られた医薬品投与後に遅発性に生じ、急速に拡大する紅斑。しばしば紅皮症に移行する
- 原因医薬品中止後も2週間以上遷延する
- 38℃以上の発熱
- 肝機能障害
- 血液学的異常(a・b・cのうち1つ以上): a. 白血球増多(11,000/mm³以上) b. 異型リンパ球の出現(5%以上) c. 好酸球増多(1,500/mm³以上)
- リンパ節腫脹
- HHV-6の再活性化
典型DIHS: 1〜7すべて/非典型DIHS: 1〜5すべて(ただし4は、その他の重篤な臓器障害をもって代えることができる)
原因医薬品(頻度順): 「抗てんかん薬、ジアフェニルスルホン、サラゾスルファピリジン、アロプリノール、ミノサイクリン、メキシレチンであることが多く、発症までの内服期間は2〜6週が多い」
2021年の調査では最疑薬として抗てんかん薬(カルバマゼピン、ラモトリギン)が多く、次いでバクタ、サラゾスルファピリジン、アロプリノール、レクチゾール。
所見の取り方(非専門医が落としやすいところ)
- 必ず口の中と眼を見る。「粘膜を見たか」が分岐点。
- 陰部も確認する(排尿排便時痛を聞く)。
- 薬剤歴を時系列で並べる。いつ始めた薬か、何日目か。市販薬・サプリも聞く。
- 中止しても良くならないかを追う(DIHSの手がかり)。
- 血算(好酸球・異型リンパ球)と肝機能を出す。
- 発疹の進展速度を記録する(急激な拡大が危険サイン)。
鑑別
治療ワークフロー(当院でやること)
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 被疑薬を中止する。複数あれば時系列で絞る |
| 2 | 口腔・眼・陰部の粘膜を診る。所見を記録する |
| 3 | 発熱の有無を確認する(38℃以上か) |
| 4 | 血算(好酸球・異型リンパ球)・肝機能・腎機能 |
| 5 | 主要徴候3つが揃う、または早期症状が持続・急激に悪化 → 入院設備のある皮膚科の専門機関へ早急に紹介 |
| 6 | 眼症状があれば眼科の関与を求める(後遺症を残しうる) |
| 7 | 中止しても2週間以上遷延する → DIHSを疑い直す |
| 8 | 被疑薬をカルテと患者本人に明示して残す(再投与の防止) |
ステロイド全身投与などの治療方針は本シートに書いていない。専門機関での判断による。
送る/持つ(当院=二次救急・皮膚科入院設備なし)
| 状態 | 当院の扱い |
|---|---|
| SJS/TENを疑う | 持てない。直ちに入院設備のある皮膚科の専門機関へ |
| DIHSを疑う | 持てない。臓器障害の評価と長期管理が要る |
| 眼症状がある | 眼科の関与が要る。後遺症を残しうる |
| 単純な薬疹(粘膜症状なし・全身状態良好) | 被疑薬中止と経過観察。悪化の条件を具体的に渡す |
送るときに伝えること
- 被疑薬と開始日・何日目か
- 粘膜症状の有無と部位(眼・口唇・陰部)
- 体温、発疹の分布と進展速度
- 血算(好酸球・異型リンパ球)と肝機能
エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)
- 要確認:入院設備のある皮膚科の紹介先と、夜間の連絡方法
- 要確認:眼科の関与を求める手順
- 決定:当院では治療を開始せず、被疑薬中止のみ行い専門医紹介する(論点:重症薬疹を疑ったときに当院で開始する治療があるか(本シートには書いていない))
- 要確認:被疑薬の記録と再投与防止の院内手順(お薬手帳・カルテ・アレルギーカード)
家族に渡す一文
「お薬による皮膚の反応が疑われます。発熱と、目・口・陰部の粘膜の症状を伴うときは、重い型の可能性があり、入院できる皮膚科で診てもらう必要があります。とくに目の症状は後に視力に影響が残ることがあるので、早めに眼科にも診てもらいます。原因と考えられるお薬は中止します。このお薬の名前を必ず覚えておいて、今後どこの病院にかかるときも必ず伝えてください。お薬手帳にも記録します。」
出典
- 厚生労働省.重篤副作用疾患別対応マニュアル スティーヴンス・ジョンソン症候群(皮膚粘膜眼症候群).平成18年11月(平成29年6月改定).作成:日本皮膚科学会マニュアル作成委員会.https://www.pmda.go.jp/files/000218908.pdf (2026-09-12閲覧・PDF原文を確認)。早期に認められる症状、「上記症状のいずれかが認められ、その症状の持続や急激な悪化を認めた場合には早急に入院設備のある皮膚科の専門機関に紹介する」、主要徴候3つ、「以上の症状・検査により本症と診断した場合は、直ちに入院させた上で、眼科や呼吸器科などとのチーム医療を行う」、副作用の好発時期(服用後2週間以内が多いが数日以内あるいは1ヶ月以上のことも)、原因医薬品の範囲、発生頻度(人口100万人当たり年間1〜6人)。
- 厚生労働省.重篤副作用疾患別対応マニュアル 中毒性表皮壊死融解症(TEN).https://www.pmda.go.jp/files/000218909.pdf (2026-09-12閲覧)。全身の10%以上の水疱・表皮剥離、SJSとTENは一連の病態でTENの多くはSJSの進展型、発生頻度(人口100万人当たり年間0.4〜1.3人)。
- 日本皮膚科学会.薬剤性過敏症症候群診療ガイドライン2023.日皮会誌 134(3):559-580, 2024.https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/DIHS2023.pdf (2026-09-12閲覧・PDF原文を確認)。DIHS診断基準(表1-1)の全文、典型DIHS/非典型DIHSの区別、原因医薬品(頻度順)と発症までの内服期間2〜6週、2013年・2021年の全国調査の推計値、重症度判定スコア(表2)。
- 未確認: Nikolsky現象の厚労省マニュアル本文中の明記、日本皮膚科学会の重症多形滲出性紅斑ガイドライン本体および2025年補遺(https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/SJSTEN2025.pdf )の内容、SJS/TENの国内診断基準(厚労省研究班2009年確定版)の全文。
病態・根拠9章
病態:皮疹の面積より先に、粘膜と臓器を確認する
薬疹は軽い紅斑から重症の全身病態まで含む。SJS/TENでは表皮・粘膜の傷害が進み、眼、口腔、陰部、呼吸器等にも障害を生じうる。DIHSは薬剤開始から遅れて発症し、原因薬を止めても炎症や臓器障害が続くことがある。見える皮疹だけに外用薬を処方して終わると、重症化の入口を見逃す。[1][2]
鑑別:薬を飲み始めた日まで戻って聞く
感染性発疹との区別に、すべての処方薬、市販薬、開始・中止日、過去の曝露を時系列で整理する。DIHSでは2~6週程度前に始めた薬が候補となり、直近の頓服だけを被疑薬としない。顔面浮腫、リンパ節腫脹、遷延する発熱、肝障害等が手がかりになる。SJS/TENを疑う眼痛・充血、口腔の痛み・びらん、多発紅斑や水疱では、すべての診断基準がそろうまで待たない。[1][2]
検査の役割と限界
血算・分画、肝・腎機能等は、皮膚以外の障害を調べ、経過を追うために行う。好酸球増加や異型リンパ球はDIHSを支持するが、初期の一回の正常値で否定しない。HHV-6再活性化には発症からの時期が関わり、即時に結果がないことは専門紹介を待つ理由にならない。皮膚生検や原因薬を調べる検査は、病態・時期・安全性を考慮して専門医が選ぶ。[2]
治療と紹介:原因薬への再曝露を避ける
被疑薬を中止し、薬剤名、開始日、最終投与、写真・経過を受入先に渡す。抗てんかん薬等の中断による危険もあるため、代替治療を担当科と同時に調整する。重症薬疹を疑う場合は入院設備のある皮膚科へ早く紹介し、眼症状は眼科評価も急ぐ。当院で免疫治療を独自に開始せず、呼吸・循環・水分状態を支えながら移送を調整する。[1][2]
DIHSでは中止後の悪化や再燃も起こりうるため、「薬を止めたから治療終了」としない。専門科で臓器障害と回復後の合併症を追う。家族には原因薬の確実性を区別して記録し、薬手帳や診療情報で共有すること、自己判断で再服用して確かめないことを説明する。[1][2]
出典と適用範囲
- [1] 厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル:SJS。初期症状、粘膜眼症状、入院皮膚科への早期紹介。2017年改定。
- [2] 日本皮膚科学会 DIHS診療ガイドライン2023。遅発・遷延する病態、鑑別、臓器・血液検査、ウイルス再活性化。
SJS/TENの免疫治療選択や小児用量を本節で決めない。DIHSガイドラインは小児だけを対象とした資料ではない。
臨床医が迷う場面
発疹は少ないが眼が痛い。薬だけ中止して翌日再診でよい?
服薬後の発熱に眼痛・羞明・充血、口腔や外陰部のびらんがあれば、皮疹の少なさで軽症としない。SJS/TENの早期を疑い、被疑薬の中止と同日専門施設への連絡を進める。眼合併症は後遺症に関わるため、眼科を含む評価を遅らせない。
新しい薬を複数飲んでいる。全部アレルギー登録する?
処方薬、市販薬、頓用、サプリを開始・中止日と症状出現日で並べる。緊急時は必要性の低い被疑薬を中止し、必須薬の代替は担当科と相談する。原因確定前は疑いと確定を分けて記録し、安全な代替薬の情報も専門医と共有する。
薬疹が疑われた薬を少量で飲み直して確認できる?
SJS/TENが疑われる薬の再投与を外来や自宅で試さない。重い反応の再誘発につながり得る。原因薬評価は専門施設に依頼し、商品名だけでなく成分、投与時期、皮膚・粘膜・臓器所見を保存して、以後の処方時に参照できるようにする。