2-1. 初期対応の手順(GL記載の10ステップの要旨)[1]
- アナフィラキシーを認識し、院内の緊急時プロトコールに沿って迅速に対応する
- 可能なら曝露要因を除去する(原因薬剤の点滴投与中なら中止など)
- 気道/呼吸/循環、精神状態、皮膚、体重を評価する
- 応援を呼ぶ(院内蘇生チームまたは救急隊)
- 大腿部中央の前外側に0.1%アドレナリン(1:1,000[1mg/mL]溶液)0.01mg/kgを直ちに筋注(最大量:成人0.5mg、小児0.3mg)。投与時刻を記録し、必要なら5〜15分毎に再投与する(ほとんどの患者は1〜2回の投与で効果が得られる)
- 患者を仰臥位にする(呼吸困難・嘔吐がある場合は楽な体位)。下肢を挙上させる。突然立ち上がったり座ったりした場合、数秒で急変することがある
- 必要な場合、フェイスマスクか経口エアウェイで高流量(6〜8L/分)の酸素投与を行う
- 留置針・カテーテル(14〜16Gの太いもの)で静脈路を確保し、0.9%等張食塩水1〜2Lの急速輸液を考慮(例:成人は最初の5〜10分で5〜10mL/kg、小児は10mL/kg)
- 必要に応じ胸部圧迫法で心肺蘇生を行う
- 頻回かつ定期的に血圧・心拍数・心機能・呼吸状態・酸素濃度を評価する(可能なら持続的モニタリング)
2-2. アドレナリン筋注:体重換算の考え方[1]
- 通常量:0.01mg/kg(1mg/mL=1:1000溶液を使用)
- 最大投与量:成人0.5mg、小児0.3mg
- 効果発現:筋注後10分程度で血中濃度が最高になり、40分程度で半減する。効果が短時間で消失するため、症状が治療抵抗性なら5〜15分毎に反復投与する
- 投与経路:筋肉内注射が原則(静脈内投与は心停止/心停止に近い状態以外は推奨されない。不整脈・高血圧などの有害事象リスクがあるため)
- 投与部位:大腿部中央の前外側(殿部や他部位は不可・吸収が不確実)
- 妊娠中の患者でも母体循環動態を守ることが胎児を守ることにつながるため筋注の適応となる
- 既知または疑いのある心血管疾患患者でも、アドレナリン使用の絶対禁忌は存在しない(ベネフィットとリスクのバランスで判断)
簡易換算の目安(GL表14より)[1]:
| 年齢の目安 | 用量の目安(1mg/mL[1:1000]) |
|---|
| 体重10kg以下の乳幼児 | 0.01mL/kg = 0.01mg/kg |
| 1〜5歳の小児 | 0.15mg(0.15mL) |
| 6〜12歳の小児 | 0.3mg(0.3mL) |
| 13歳以上・成人 | 0.5mg(0.5mL) |
※あくまで体重換算(0.01mg/kg、最大成人0.5mg・小児0.3mg)の考え方の補助であり、年齢だけで機械的に決めない。体重が判明している場合は年齢区分より体重換算(0.01mg/kg)を優先する(肥満・低体重児では年齢区分どおりだと実体重との乖離が生じうるため)。年齢と体重の区分が食い違う境界例(例:体重上は0.15mg相当だが年齢は6〜12歳など)でも、体重を優先して判断する。
2-3. エピペン(アドレナリン自己注射薬)の体重区分[2]
添付文書(エピペン注射液0.15mg/0.3mg。2026年3月改訂第6版が現行最新〔前版は2025年11月改訂第5版〕。以下の用法・用量・警告の記載内容自体は旧版から一貫しているが、運用前に必ず最新版原文で再確認すること)の用法・用量:「通常、アドレナリンとして0.01mg/kgが推奨用量であり、患者の体重を考慮して、アドレナリン0.15mg又は0.3mgを筋肉内注射する」「通常、成人は0.3mg製剤を使用し、小児は体重に応じて0.15mg製剤又は0.3mg製剤を使用する」。
- 警告(9)に明記された過量投与の目安:0.01mg/kgを超える用量となるのは、0.15mg製剤では体重15kg未満、0.3mg製剤では体重30kg未満の患者。この場合は過量投与となるおそれがあるため十分な注意が必要で、それ以外のアドレナリン製剤(アンプル等)の使用も含めて検討し、患者の症状を観察した上で慎重に判断する。
- 実地の目安(上記から逆算):15kg以上30kg未満=0.15mg/30kg以上=0.3mg。エピペンには体重15kg未満に対応する承認用量区分が存在せず、15kg未満への処方は適応外使用に相当する(過量投与のおそれを伴うため通常は行わず、必要な場合は通常のアドレナリン注射液(アンプル)での用量調整を検討する)。
- 「小児等への投与」:低出生体重児・新生児・乳児を対象とした臨床試験は実施しておらず、安全性は確立していない。
- 禁忌(添付文書に明記):イソプレナリン・ノルアドレナリン等のカテコールアミン製剤、アドレナリン作動薬を投与中の患者(ただし、蘇生等の緊急時はこの限りでない)。GL2022が述べる「アドレナリン使用に絶対禁忌は存在しない」は心血管疾患既往を理由に投与をためらうべきでない、というアナフィラキシー治療全般の考え方であり、エピペン添付文書上のこの禁忌とは矛盾しない(他のカテコールアミン投与中という限定的な状況のみが対象)。
- 投与部位:大腿部の前外側のみ(殿部やその他の部位への注射は避ける)。衣服の上からでも投与可能。
- 使用方法:オレンジ色のニードルカバー先端を大腿前外側に垂直に「カチッ」と音がするまで強く押し付け、太腿に押しつけて注射する。押しつけ時間:GL2022の解説図(図14)は「5秒間」と明記している[1]。一方、現行のPMDA添付文書(後述、直近改訂版)は「数秒間強く押し付けて注射する」という記載にとどまり、具体的な秒数を明記していない可能性がある。実技指導では「数秒間(目安5秒程度)しっかり押しつける」という運用とし、指導時は必ずその時点の添付文書原文の秒数表現を確認すること。
- 一度注射すると再注射できない仕組み(同一の製剤での二度注射は不可)。効果不十分・症状再燃時は次回投与量の医療用アドレナリン(施設内の製剤)または追加のエピペンで対応する。
- 患者・保護者への交付時は、必ずインフォームドコンセントを実施し、保存方法・使用方法・使用時発現しうる副作用等を理解したことを確認した上で交付する。
2-4. 第二選択薬(アドレナリン以外)の位置づけ[1]
| 薬剤 | 臨床的意義(GL要旨) | 推奨度 |
|---|
| H1抗ヒスタミン薬(クロルフェニラミン・ジフェンヒドラミン静注、セチリジン経口など) | 瘙痒感・紅斑・蕁麻疹・鼻漏などを軽減するが、気道閉塞や血圧低下/ショックを防止・改善できないため救命効果はない | C |
| β2アドレナリン受容体刺激薬(サルブタモール吸入など) | 喘鳴・咳嗽・息切れなど下気道症状を軽減するが、上気道閉塞や血圧低下/ショックには無効 | C |
| グルココルチコイド(ヒドロコルチゾン・メチルプレドニゾロン静注、プレドニゾロン経口など) | 作用発現に数時間を要し、アナフィラキシー発症後最初の数時間は救命効果がない。遷延性/二相性反応の防止・緩和を意図して使用されるが、その効果は立証されていない | C |
- 第一選択薬であるアドレナリンが最優先。第二選択薬はいずれも推奨度C(比較研究などの非実験的記述研究、または無作為化対照試験もしくは準実験的研究からの類推)にとどまる。
- H1/H2抗ヒスタミン薬の急速静注は血圧低下を、グルココルチコイドの急速静注は喘息発作等の過敏症状の発現を招く可能性があり好ましくない。
- アドレナリンに反応しない患者、特にβブロッカー投与中の患者にはグルカゴンが有効な可能性がある(成人1〜5mg、小児20〜30μg/kg、最大1mgをゆっくり5分以上かけて静注。必要に応じ5〜10分毎に1mgずつ反復、または5〜15μg/分で持続点滴)[1]。
- グルカゴンは日本では抗アナフィラキシー適応で未承認(適応外使用):GL2022自身が「日本での適応疾患は、動揺病、メニエール症候群に限られる」と明記しており[1]、アナフィラキシー・β遮断薬抵抗性への使用は適応外使用である旨をカルテ記載・インフォームドコンセントの観点で明示すること。
2-5. 体位[1]
- 明らかな血圧低下がなくても、発症時は仰臥位かトレンデレンブルグ体位が望ましい。血圧が著明に低下している場合は下肢挙上が短時間でも血圧上昇に効果的。
- 呼吸困難がある場合は座位、妊娠中は左側を下にして半仰臥位、意識消失時は回復体位にする。
- 血管内に血液量が維持されていない病態で急に立位・坐位にすると、心室内・大静脈内が十分に充満していない"Empty"な状態(empty vena cava / empty ventricle syndrome)に陥る。この状態でアドレナリンを投与しても心臓は空打ちとなり薬効が不十分なばかりか、心拍出量低下や心室細動など不整脈誘発のリスクがある。
2-6. 二相性反応と観察時間[1]
- 二相性反応は成人の最大23%、小児の最大11%に発生する。
- 二相性反応の約半数は最初の反応後6〜12時間以内に出現する。
- アドレナリン投与の遅れ(発症から30分以上)は二相性反応の出現に関連する。
- 遅延反応でアドレナリン投与を要したのは9.2%(中央値1.7時間、14分〜30時間)、うち76%は4時間以内だが7.4%は4〜10時間のうちに重篤な反応を来している。
- GL2022自体に「◯時間観察してから帰宅」という一律の数値基準の明記はない。上記の疫学(二相性反応の約半数が6〜12時間以内に出現、アドレナリン投与の遅れが二相性反応と関連)を踏まえ、症状が治療に良好に反応し軽快した単回投与例でも数時間(目安4〜6時間)の院内観察を行い、アドレナリン複数回投与例・重症例(グレード3)・喘息合併例・アドレナリン投与が遅れた例では、より長時間(6時間超〜一晩)の観察または入院を検討するのが実地臨床の考え方。