卵巣腫瘍茎捻転(女児の急性腹症)

卵巣腫瘍茎捻転(女児の急性腹症)

外科的緊急β版・逐条レビュー継続中

2026-09-13更新
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施設プロファイル: 二次救急/婦人科・小児外科の緊急手術を持たない/当直帯は超音波を当てられない/当直帯に院内で相談できる産婦人科もいない(2026-09-14 確認)。
腹痛の入口は急性腹痛。男児の対になる病態は急性陰嚢症

30秒要約

  • 女児の急性腹症で、最も落ちやすいのがこれ小児における卵巣腫瘍茎捻転の診断の遅れはしばしばみられる
  • 数字が物語る卵巣腫瘍茎捻転の小児が診察を受けてから手術を受けるまでの平均時間は、初経前患者で974.5分、初経後患者で770.2分どちらも12時間以上かかっています。
  • 頻度は低くない若年女性の急性腹痛による外来受診においては最大4%が卵巣腫瘍茎捻転によるものとされます。
  • まずエコー。CTではない。 若年者、特に小児におけるCT検査のハードルは高いと思われ、まず経腹超音波断層法を施行することが推奨される。感度は72.1%、特異度は99.6%程度。
  • ただし当院の当直帯は、その超音波が当てられない(2026-09-14 確認)。だから当直帯の手順は「エコーで確かめてから電話」ではなく、疑った時点で電話になる。このシートが告発している12時間の遅れは、確かめる工程で生まれる。当院にその工程が無いことは、むしろ速く動ける理由にする。
  • 精巣捻転と同じ扱いをする。男児なら陰嚢を見るのに、女児では骨盤を見ない——ここが落とし穴です。

レッドフラグ → 次の一手

所見があったときにどれだけ急ぐかと、家族に何を伝えるかの対応表。3列目の文言は家族説明ページに同じ言葉で載っているので、画面を見せながら渡せる。

緊急度所見その場で次にやること時間の勝負
119突然の強い下腹部痛+嘔気嘔吐七転八倒する耐え難い痛み卵巣腫瘍茎捻転を第一に考える持てない。当直帯はエコーが無いので確かめずに電話する即時
119腹膜刺激症状・ショック腹腔内出血・壊死。持てない急性腹痛即時
緊急付属器の腫瘤を指摘された既往がある(健診・他院・過去のエコー)捻転しやすい素地がある速やかに小児外科または産婦人科に相談持てない即時
緊急右下腹部痛で虫垂炎として動いたが、所見が合わない卵巣を見る虫垂炎即時
緊急間欠的に強くなる下腹部痛を繰り返している捻転と自然整復を繰り返していることがある。痛みが今おさまっていても帰さない当日
緊急新生児・乳児の腹部腫瘤+不機嫌胎児期からの卵巣嚢腫の捻転がありうる当日
緊急「胃腸炎」として帰したあと、痛みが続いている診断の遅れの典型。当直帯はエコーで取り返せないので、相談に回す即時
当日月経随伴痛として矛盾がなく、痛みが軽快している経過観察でよいが、再受診の条件を渡す数日

なぜ落とすのか(当直の構造的な穴)

対策
女児だと骨盤を見ない男児の陰嚢と同じ扱いで、女児では骨盤を疑う。当直帯はエコーが無いぶん、疑う閾値そのものを下げる
「胃腸炎」で帰す下痢がない嘔吐+強い腹痛を胃腸炎としない(急性腹痛
右下腹部痛=虫垂炎と決める右側での捻転が多いS状結腸が左側に位置し、右骨盤内のスペースが広くなるため)。虫垂炎と紛らわしい
初経前だから婦人科疾患はないと思う骨盤漏斗靭帯が延長している初経前の女子に多くみられる
画像を撮ろうとして時間を使う原典はまず経腹超音波断層法を推奨する。当院の当直帯はCTも超音波も無いので、画像待ちは最初から選択肢にない
痛みが一度おさまったから帰す自然整復と再捻転を繰り返す

押さえる数字

項目数字
発生率(1〜20歳の若年女性)100,000人中4.9人
若年女性の急性腹痛外来受診に占める割合最大4%
診察から手術までの平均時間初経前974.5分/初経後770.2分(どちらも12時間以上)
経腹エコーの感度・特異度感度72.1%/特異度99.6%
原因として最も多い良性腫瘍。うち成熟奇形腫が40%以上
悪性腫瘍の割合2%以下
捻転しやすい大きさ特に卵巣が5 cmより大きい場合
左右差左側よりも右側での捻転が多い

病態(家族と紹介先への説明に使う)

卵巣腫瘍茎捻転は、卵巣固有靭帯、骨盤漏斗靭帯、および卵管からなる軸の周りで卵巣が捻れる病態である。

  • 最も多い原因は良性腫瘍であり、機能性嚢胞が原因となることもある。良性腫瘍の中でも成熟奇形腫が原因となることが多く40%以上を占め、その他に漿液性嚢胞腺腫、傍卵巣嚢腫、線維莢膜細胞腫、線維腫、卵巣平滑筋腫等も原因となる。
  • 成熟奇形腫では周囲との癒着が少ないため、腫瘍の増大とともに卵巣腫瘍茎捻転を生じやすくなる。一方、内膜症性嚢胞では、周囲との癒着のため卵巣腫瘍茎捻転は生じにくい。
  • 卵巣腫瘍茎捻転における悪性腫瘍の割合は2%以下悪性腫瘍では周囲との癒着のために卵巣腫瘍茎捻転は生じにくいものと思われる。しかし一方で、悪性腫瘍の場合には治療の方法が異なってくるため、その鑑別は重要となる。

治療ワークフロー(当院でやること)

当直帯の当院は「疑う・電話する」の2つだけ。エコーは当てられず、手術は持てず、院内に相談できる産婦人科もいない(2026-09-14 確認)。電話の相手は必ず院外になる。

時間やること
0分バイタル。腹膜刺激症状の有無。痛みの強さを記録する(七転八倒なら重く見る)
0〜10分月経歴を聞く(初経の有無・最終月経)。初経前でも起きることを忘れない
10分疑った時点で院外へ電話する。当直帯はエコーが無く、院内に産婦人科もいないので、確かめてからにも、院内で相談してからにもしない。ここで待つと、原典の言う12時間の遅れを当院で再現することになる
並行妊娠反応(初経後)、血算・CRP・尿定性(尿検査の読み)。電話を待たせてまで揃えない
注意導尿は電話より後。搬送先でエコーを当てるとき、膀胱が空だと骨盤が見えにくい(下の医師確認事項)
搬送前絶飲食(手術に備える)。ルート確保・輸液・鎮痛
記録発症時刻、痛みの経過、エコー所見、月経歴。発症からの時間が治療方針を決める

専門施設での治療(家族への説明のため)

  • 悪性腫瘍が疑われる場合以外には腹腔鏡下に捻転した卵巣の整復を行う(報告施設の方針)。
  • 卵巣温存が可能と考えられる症例には腹腔鏡下卵巣腫瘍摘出術を行う。
  • 発症から時間が経過しており、肉眼的虚血性変化を認めていても、摘出した標本には壊死のない部位も認められ、術後合併症は生じなかったという報告があり、発症から時間が経過した卵巣茎捻転の症例であっても、特に若年者に於いては積極的に卵巣温存を行うべきであるとされています。

「時間が経ったからもう手遅れ」ではない。 遅れて気づいても、送る価値があります。

鑑別:女児の急性下腹部痛

病態見分け次の一手
虫垂炎心窩部→右下腹部への移動、発熱、反跳痛右側の捻転と紛らわしい虫垂炎
腸重積3か月〜2歳、間欠的啼泣、イチゴゼリー状便腸重積
尿路感染症・尿管結石排尿痛、側腹部痛、血尿尿検査の読み
便秘便塊触知、排便で軽快痛みが完全に消えるかを見る。消えなければ便秘で説明しない(こどもの便秘
月経困難症周期性、初経後経過
卵巣出血・黄体嚢胞破裂突然発症、月経周期の後半捻転と当直帯で区別できない。区別せず相談する
骨盤内炎症性疾患性交歴、帯下、発熱年齢と状況による
子宮外妊娠初経後。妊娠反応を出す必ず外す
処女膜閉鎖による月経血留留初経がこない+周期的な腹痛+下腹部腫瘤外陰部を見れば分かる
腸閉塞腹部手術既往、嘔吐、腹部膨満腸閉塞・イレウス

外陰部を見る。処女膜閉鎖は視診だけで分かり、見なければ絶対に分かりません。

問診チェック

  • 発症時刻を分単位で(手術の判断材料)
  • 痛みの性状(突然か、じわじわか七転八倒するか
  • 嘔気・嘔吐の有無(捻転では多い)
  • 初経の有無、最終月経、周期
  • 過去に同じ痛みを繰り返していないか(自然整復の既往)
  • 既知の卵巣嚢腫・腫瘍の指摘(健診・他院)
  • 排尿・排便の異常、発熱
  • 性交歴(年齢と状況に応じて、保護者と分けて聞く配慮)

送る/持つ(当院=二次救急・緊急手術なし・当直帯は超音波なし)

状態当院の扱い
卵巣腫瘍茎捻転を疑う持てない確定を待たずに電話
付属器の腫瘤を指摘された既往がある速やかに小児外科または産婦人科に相談
ショック・腹膜刺激症状持てない。輸液しながら搬送
妊娠反応陽性+腹痛子宮外妊娠を外すまで持てない
処女膜閉鎖持てない(切開が要る)
卵巣捻転が否定的で、他の原因が説明できる当院で対応

エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)

  • 確定(2026-09-14 確認)当直帯に院内で相談できる産婦人科はいない。産科併設であっても、夜の女児の急性腹症は院外に出す
  • 確定(2026-09-14):当直帯に経腹エコーは当てられない。このシートは画像なしで送る前提で書いてある
  • 要確認:夜間の妊娠反応の実施可否
  • 要確認:小児の腹腔鏡手術ができる紹介先
  • 要確認:導尿の順番。当院では搬送を決めてから導尿するが、搬送先がすぐエコーを当てる場合に膀胱を空にしてよいかは先方と決めておきたい

家族に渡す一文

卵巣がねじれてしまう病気(卵巣腫瘍茎捻転)を考えています。卵巣に袋(嚢腫)や腫瘍があると、それが重みになって、根元でねじれてしまうことがあります。ねじれると血が通わなくなるため、早く戻すほど卵巣を残せる可能性が高くなります。これは手術ができる病院にお願いする必要があります。男の子の『精巣がねじれる病気』と同じ考え方です。大事なことをひとつ。時間が経っているから手遅れ、ということはありません。しばらく経ってから手術をしても、卵巣を残せた報告があります。だから、今から動きます。なお、腫瘍といっても、ねじれる原因の多くは良性です(悪性は2%以下)。

医師確認事項(要・岡本判断)

  • 要確認:本シートの数字は、仙台市立病院医誌の症例報告(2例)の考察部分から採っている。考察が引用している先行文献(発生率・感度特異度・手術までの時間)は海外文献を含むと考えられ、原著までは遡っていない。診療ガイドラインではない。
  • 要確認:「エコー前に導尿しない」は本シートの実務上の注意で、引用元の記載ではない。当院の運用で決める必要がある(当直帯はエコーを当てないので、搬送先での撮像を妨げないかという形の論点になる)。
  • 要確認:「血流が見えても捻転は除外できない」は検索結果の要約に現れた記載で、本シートでは原著を確認していない。診療判断に使うなら裏取りが要る。
  • 要確認:小児(初経前)の卵巣捻転に特化した国内ガイドラインは本シートで見つけられなかった。存在するなら差し替えたい。
  • 決着(2026-09-14 確認)当直帯に院内の産婦人科へは相談できない。したがって当直帯のこのシートは「疑って、電話して、送る」だけで完結する。残るのは送り先をどこにするか(小児外科か婦人科か。施設名・番号は保留中)。
  • 補足:日勤帯に院内の産婦人科へ相談できるかは別問題で、そこは未確認。日中なら院内で完結しうるなら、その差は運用上大きい。
  • 要確認:新生児・乳児の卵巣嚢腫(胎児期からのもの)の扱いは本シートで一次資料を確認していない。

出典

  • 小熊佳那子、宇賀神智久、齋藤明見、ほか.発症から時間の経過した小児の卵巣腫瘍茎捻転に対し、卵巣温存し得た2例.仙台市立病院医誌 45: 31–37, 2025.https://hospital.city.sendai.jp/wp-content/uploads/2026/03/ddd351ac9659d129ca5b10da5805e071.pdf (2026-09-13閲覧)。症例報告(2例)+考察
  • 卵巣腫瘍茎捻転は突然の強い下腹部痛や嘔気嘔吐を主訴とする婦人科の代表的救急疾患である」「卵巣腫瘍茎捻転は、卵巣固有靭帯、骨盤漏斗靭帯、および卵管からなる軸の周りで卵巣が捻れる病態である。特に卵巣が5 cmより大きい場合にあらゆる年齢の女性に発生する
  • 最も多い原因は良性腫瘍であり、機能性嚢胞が原因となることもある。良性腫瘍の中でも成熟奇形腫が原因となることが多く40%以上を占め、その他に漿液性嚢胞腺腫、傍卵巣嚢腫、線維莢膜細胞腫、線維腫、卵巣平滑筋腫等も原因となる。成熟奇形腫では周囲との癒着が少ないため、腫瘍の増大とともに卵巣腫瘍茎捻転を生じやすくなる。一方、内膜症性嚢胞では、周囲との癒着のため卵巣腫瘍茎捻転は生じにくい。卵巣腫瘍茎捻転における、悪性腫瘍の割合は2%以下とされている」「悪性腫瘍の場合には治療の方法が異なってくるため、その鑑別は重要となる
  • 卵巣腫瘍茎捻転は左側よりも右側での捻転が多く見られるが、これはS状結腸が左側に位置し、右骨盤内のスペースが広くなるためと考えられている」「より若年の女性で生じやすいとされる。特に、骨盤漏斗靭帯が延長している初経前の女子に多くみられ、1〜20歳の若年女性における卵巣捻転の発生率は100,000人中4.9人である。若年女性の急性腹痛による外来受診に於いては最大4%が卵巣腫瘍茎捻転によるものであるとされている
  • しかし、小児における卵巣腫瘍茎捻転の診断の遅れはしばしばみられる。卵巣腫瘍茎捻転の小児が診察を受けてから手術を受けるまでの平均時間は初経前患者で974.5分、初経後患者で770.2分との報告があり、どちらも12時間以上の時間を要している」「突然の強い下腹部痛や嘔気嘔吐を主訴とし、七転八倒する耐え難い痛みを呈する
  • 感度は72.1%、特異度は99.6%程度とされており」「若年者、特に小児におけるCT検査のハードルは高いと思われ、まず経腹超音波断層法を施行することが推奨される
  • 当院では、悪性腫瘍が疑われる場合以外には腹腔鏡下に捻転した卵巣の整復を行っている。その後、卵巣温存が可能と考えられる症例には腹腔鏡下卵巣腫瘍摘出術」「発症から時間が経過しており、肉眼的虚血性変化を認めていたが、摘出した標本には壊死のない部位も認められ、術後合併症は生じなかった。発症から時間が経過した卵巣茎捻転の症例であっても、特に若年者に於いては積極的に卵巣温存を行うべきであると考える

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