伝染性単核症(EBV)
発熱・感染症β版・逐条レビュー継続中
施設プロファイル: 二次救急。多くは当院で対応できる。落とし穴は「扁桃炎だと思って抗菌薬を出すこと」。
30秒要約
- 溶連菌性扁桃炎と思ってペニシリン系を出すと、薬疹が出る。「ABPCを内服すると薬疹を生じて、鮮明な滲出性紅斑様皮疹や丘疹などを呈す」。
- 発熱は38℃以上の高熱で1〜2週間持続することが多い。「抗菌薬が効かない扁桃炎」で疑う。
- 乳幼児期の初感染は不顕性であることが多く、思春期以降に感染するとIMを発症することが多い。年齢で見え方が変わる。
- 異型リンパ球は数%以下のこともある。10〜50%と著増する例もあれば、少ない例もある。少ないことを否定の根拠にしない。
- 脾腫があれば脾破裂のリスク。運動制限が要る(期間は出典で食い違う。下記)。
レッドフラグ → 次の一手
所見があったときにどれだけ急ぐかと、家族に何を伝えるかの対応表。3列目の文言は家族説明ページに同じ言葉で載っているので、画面を見せながら渡せる。
| 緊急度 | 所見 | 次の一手 |
|---|---|---|
| 119 | 左上腹部痛・ショック(脾破裂) | 「時に巨大脾腫から脾破裂に至ることもある」。外科のある施設へ緊急(当院で開腹できない) |
| 119 | 気道閉塞を疑う(扁桃の著明腫大・いびき・陥没呼吸) | 気道確保のできる施設へ。急性喉頭蓋炎と同じ扱いで刺激しない |
| 緊急 | 意識障害・けいれん・麻痺 | 中枢神経合併症(無菌性髄膜炎、脳炎、急性片麻痺、Guillain-Barré症候群)。意識障害 |
| 緊急 | 黄疸・著明な肝機能異常 | 肝炎型。入院を検討 |
| 緊急 | 経口摂取ができない(咽頭痛・扁桃腫大) | 輸液。入院適応の判断へ |
| 当日 | 抗菌薬を出したあとに全身の皮疹 | ペニシリン系による薬疹を疑う。EBVを考え直す |
| 当日 | 扁桃炎+頸部リンパ節腫脹+肝脾腫 | EBVを疑い、血算(異型リンパ球)・肝機能・EBV抗体 |
治療ワークフロー(当院でやること)
| 順 | やること | 注意 |
|---|---|---|
| 1 | 溶連菌迅速検査を出す | 陽性でもEBVの合併はありうる。「陽性だからEBVではない」と決めない |
| 2 | 血算(異型リンパ球)・肝機能 | 異型リンパ球は10〜50%と著増することもあれば数%以下のこともある |
| 3 | EBV抗体(VCA-IgM、抗EBNA抗体) | VCA IgMは乳幼児では検出されない場合がある |
| 4 | ペニシリン系(ABPC/AMPC)を出さない | 薬疹が出る。すでに出ていれば中止 |
| 5 | 脾腫を触知するか確認する | あれば運動制限(期間は下記・要確認) |
| 6 | 対症療法(解熱鎮痛・水分) | 特異的治療はない |
| 7 | 経口摂取・気道・意識を評価して入院適応を判断 | — |
検査の読み方
| 項目 | 所見 |
|---|---|
| 潜伏期 | 4〜6週間と長い。接触歴は思い出せないことが多い |
| 発熱 | 多くの場合38℃以上の高熱で1〜2週間持続 |
| 異型リンパ球 | 10%から中には50%と著増する場合もあるが、中には数%以下の症例も認められる |
| AST/ALT | 第2週頃をピークとして300〜500 IU/L程度のことが多い |
| VCA-IgM | 通常、初感染急性期に検出される。乳幼児では検出されない場合がある |
鑑別
脾腫と運動制限(出典で期間が食い違う)
- 国立健康危機管理研究機構: 「時に巨大脾腫から脾破裂に至ることもあるため、注意を要する」(期間の明記なし)
- 二次情報では「脾腫が認められる場合、脾破裂のリスクとなるため発症3週間は運動を避けるよう指示」とするものと、「脾腫は2〜3カ月は安静が必要で、本格的な運動開始は6カ月後が望ましい」とするものがある。
要確認: 運動制限の期間について、日本の一次情報で確定した記載を本シートでは確認できていない。「脾腫があれば運動を避ける」という原則のみ確実で、期間は院内で決めるか、専門医の指示に従うこと。学校・部活への指示を出す場面で必ず問題になるので、方針を決めておく必要がある。
送る/持つ(当院=二次救急・外科的処置なし)
| 状態 | 当院の扱い |
|---|---|
| 典型的な経過で経口摂取可能 | 当院で対応できる。対症療法と運動制限の指示 |
| 経口摂取不能・脱水 | 輸液。入院適応を判断 |
| 脾破裂を疑う | 持てない。外科のある施設へ緊急 |
| 気道閉塞を疑う扁桃腫大 | 持てない。気道確保のできる施設へ |
| 中枢神経合併症 | 持てない |
| 血算に芽球など悪性を疑う所見 | 血液専門施設へ |
エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)
- 要確認:運動制限の期間の院内方針院内(学校・部活へ出す指示に直結する)
- 要確認:EBV抗体の外注と結果が出るまでの日数
- 要確認:入院適応(経口摂取不能・気道・肝障害)の院内基準
家族に渡す一文
「EBウイルスによる感染症で、のどの腫れ・高熱・首のリンパ節の腫れが1〜2週間続くのが特徴です。抗菌薬は効きません。むしろ、ある種の抗菌薬を飲むと全身に発疹が出ることがあるため使いません。脾臓(ひぞう)が腫れている場合は、ぶつけると破裂する危険があるので、運動は主治医の許可が出るまで控えてください。水が飲めない・息が苦しい・お腹の左上が強く痛む、といったときはすぐ来てください。」
出典
- 国立健康危機管理研究機構.伝染性単核症(詳細版).https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/infectious-mononucleosis/detail/index.html (2026-09-12閲覧)。潜伏期4〜6週間、症状(発熱・咽頭扁桃炎・リンパ節腫脹・発疹・末梢リンパ球増加・異型リンパ球増加・肝機能異常・肝脾腫)、38℃以上の高熱が1〜2週間持続すること、「乳幼児期に初感染をうけた場合は不顕性感染であることが多いが、思春期以降に感染した場合にIMを発症することが多く」、異型リンパ球が10〜50%と著増する場合もあれば数%以下の症例も認められること、AST/ALTが第2週頃をピークとして300〜500 IU/L程度のことが多いこと、「VCA IgMは通常、初感染急性期に検出されるが、乳幼児では検出されない場合がある」、中枢神経合併症(無菌性髄膜炎・脳炎・急性片麻痺・Guillain-Barré症候群)、「ABPCを内服すると薬疹を生じて、鮮明な滲出性紅斑様皮疹や丘疹などを呈す」、「時に巨大脾腫から脾破裂に至ることもあるため、注意を要する」。
- 日本感染症学会.感染症クイック・リファレンス「伝染性単核球症」.https://www.kansensho.or.jp/ref/d51.html (2026-09-12閲覧)。VCA-IgM抗体の診断的意義。
- 運動制限の期間(3週間/2〜3カ月/6カ月)は二次情報の間で食い違っており、日本の一次情報での確定記載は本シートでは確認できていない。
病態・根拠7章
咽頭炎に全身所見が加わる理由
伝染性単核球症ではEBVなどの感染に伴う免疫反応により、発熱・咽頭炎・リンパ節腫脹と強い倦怠感が現れる。肝脾腫、肝機能異常、異型リンパ球や血球減少を伴うこともある。咽頭所見だけを細菌性扁桃炎と捉えず、頸部以外のリンパ節、腹部と全身状態をみる。[1]
似た病像はCMVなどでも起こる。扁桃腫大に呼吸困難・嚥下不能が加わる場合は気道の問題を優先し、左上腹部痛、肩痛、蒼白・循環不良があれば脾損傷・破裂を疑って緊急評価する。当院に緊急開腹体制がないため、循環異常では採血や画像の完了を待たず外科対応施設へ相談する。[1](当院運用)
検査で「いつの感染か」を確認する
異好抗体検査は小児で陰性になりやすく、偽陽性もあるため、それだけでEBV感染を確定・除外しない。VCA-IgM、VCA-IgG、EBNAなどは出現時期が異なり、症状と採血時期を合わせて解釈する。VCA-IgGの高値だけでは最近の感染を意味しない。[2]
初期の抗体陰性でも完全に除外できない場合があり、非典型的・長引く経過では診断を見直す。血算と肝機能は、支持所見だけでなく貧血・血小板減少・肝障害など合併症を評価する目的で使う。悪化する全身状態や持続する血球異常を「EBVだから」と説明し続けない。[1][2]
治療の中心は水分と休養、疼痛管理である。EBV単独に抗菌薬は効かず、アモキシシリン・アンピシリン投与時には発疹の問題がある。細菌感染の併存を疑う場合はその根拠を確認する。[1]
脾腫を伴うため接触・衝突のある運動を避け、本文の院内採用方針に沿って復帰を診察で判断する。超音波による脾臓評価だけで破裂リスクがゼロになったとは説明しない。腹痛や失神・顔色不良があれば、運動再開前後を問わず直ちに受診するよう伝える。[1](当院運用)
出典
- 海外・CDC:About Infectious Mononucleosis(本文確認:2026-10-23)
- 海外・CDC:Laboratory Testing for EBV(本文確認:2026-10-23)
海外資料の薬剤・処置は国内の承認・院内採用を意味しない。本文の施設条件を前提に適用する。
臨床医が迷う場面
抗菌薬で良くならない扁桃炎。さらに広い薬へ変える?
EBVなどの単核症、膿瘍や別の感染を再評価し、リンパ節・肝脾腫・血算・肝機能を確認する。EBVが疑われる場合はAMPCなどを漫然と追加しない。呼吸・嚥下障害や脱水があれば、外来で薬を替えるだけにせず入院評価を考える。
解熱したので接触スポーツへ戻してよい?
解熱だけで脾腫や脾破裂リスクがなくなったとはいえない。腹痛、脾腫、全身状態を再評価し、復帰時期は既存の運動制限方針と担当医の判断に従う。左上腹部痛、肩痛、失神や顔色不良は直ちに救急評価し、腹部への衝撃を避ける。
だるさが数週続く。抗菌薬の追加が必要?
単核症では回復後もしばらく疲労が残り得る。睡眠・飲水・学校活動を調整しつつ、発熱再燃、黄疸、出血、体重減少などを再評価する。長引くことだけで抗菌薬を追加せず、経過が非典型なら別の感染症や血液疾患を検討する。