初発の無熱性けいれん・てんかんの入口
神経・発達・こころβ版・逐条レビュー継続中
施設プロファイル: 二次救急/脳外科・小児神経の常駐なし/当直帯に頭部CT・MRIは撮れない(2026-09-14 確認)。
30秒要約
- 当直でやることは3つだけ。①止める ②誘発性(=急性症候性発作)を外す ③帰せるか決める。てんかんの診断を当直でつける必要はない。
- 「てんかん」=発作が2回、が古い定義。ILAEは2014年に、①24時間以上の間隔で2回以上の非誘発性(または反射性)発作 ②1回の非誘発性発作+その後10年間の再発率が2回後の一般的な再発リスク(60%以上)と同程度 ③てんかん症候群と診断されている、のいずれかに変更した。
- 当直で本当に外すのは「てんかん」ではなく「急性症候性発作」。中枢神経感染症・頭部外傷・低血糖・電解質異常・中毒・高血圧性脳症。ここを外すと死ぬ。
- 初回の非誘発性発作では、原則として抗てんかん薬を開始しない。ただし神経学的異常・脳波異常・脳画像病変・てんかんの家族歴があれば再発率が高く、治療開始を考慮する。
- 小児でも、2回目以降に治療を開始して長期発作予後は変わらない。当直で薬を始めない判断は、ガイドラインに沿っている。
レッドフラグ → 次の一手
所見があったときにどれだけ急ぐかと、家族に何を伝えるかの対応表。3列目の文言は家族説明ページに同じ言葉で載っているので、画面を見せながら渡せる。
| 緊急度 | 所見 | その場で次にやること | 時間の勝負 |
|---|---|---|---|
| 119 | けいれんが5分以上続く/覚めないまま次の発作 | てんかん重積として扱う(けいれん重積) | 即時 |
| 119 | 発作後も意識の回復が進まない/悪化する(30分を待たない) | 急性脳症・髄膜炎・中毒を想定。ルート・血糖・搬送準備(意識障害) | 即時 |
| 119 | 発熱+けいれん+意識障害(熱性けいれんの型に合わない) | 細菌性髄膜炎・急性脳炎脳症(細菌性髄膜炎) | 即時 |
| 119 | 血糖が低い | まずブドウ糖。けいれんの原因検索より先(低血糖) | 即時 |
| 119 | 頭部外傷の後7日以内の発作 | 外傷性の急性症候性発作。当院にCTも脳外科も無い=この時点で搬送(頭部打撲) | 即時 |
| 緊急 | 乳児(特に生後6か月未満)の無熱性けいれん | 代謝・電解質・虐待・脳形成異常。帰さない前提で動く | 当日 |
| 緊急 | 片側性の発作、または新たな発作後麻痺 | 器質性病変を疑う。画像が要る | 当日 |
| 緊急 | 中毒が疑われる(薬剤・危険ドラッグ・一酸化炭素・有機リン) | 原因物質を特定(急性中毒) | 即時 |
| 緊急 | 高血圧を伴う | 高血圧性脳症・急性糸球体腎炎。血圧を年齢基準で読む(急性糸球体腎炎) | 当日 |
| 当日 | 発作は短く単発、発作後は完全に元通り、神経学的に異常なし | 急性症候性発作を外せていれば、外来で脳波 | 数日 |
まず分ける:非誘発性発作か、急性症候性発作か
この分岐が当直の本体。てんかんかどうかは後で決まる。
- 非誘発性発作=「明らかな誘因がない慢性疾患としての自発発作」。
- 誘発性発作=「急性症候性発作、状況関連発作ともよばれ、脳炎、外傷、脳血管障害、代謝障害などの急性の脳への侵襲に対する反応として発症する発作」。
急性症候性発作の原因(ガイドラインの表をそのまま使う)
| 原因 | 定義/中身 | 当直での拾い方 |
|---|---|---|
| 脳血管障害 | 脳血管障害から7日以内に起こる発作 | 小児ではまれ。もやもや病・出血性素因・外傷 |
| 中枢神経系感染症 | 中枢神経系感染症の活動期に起こる発作 | 発熱・大泉門膨隆・項部硬直・不機嫌(細菌性髄膜炎) |
| 急性自己免疫性脳炎 | — | 亜急性の行動変化・精神症状・不随意運動 |
| 頭部外傷 | 頭部外傷から7日以内に起こる発作 | 受傷歴。乳児では虐待による頭部外傷も想定(頭部打撲) |
| 代謝性・全身性疾患 | 電解質異常、低血糖、非ケトン性高血糖、尿毒症、低酸素性脳症、肝性脳症、高血圧性脳症、子癇、PRES、SLE、ミトコンドリア脳症など | 血糖・Na・Ca・Mg・血ガス・血圧。ここが当直で拾える層 |
| 中毒 | 麻薬、処方薬(アミノフィリン、イミプラミンなど)、危険ドラッグ、薬剤過剰摂取、環境からの曝露(一酸化炭素、鉛、樟脳、有機リンなど)、アルコール | 家庭内の薬を全部聞く(急性中毒) |
| 離脱/頭蓋内手術後/脱髄性疾患/放射線治療後/重複要因 | — | 既往と手術歴 |
急性症候性発作は「明確な原因と関連すること、急性疾患があるため死亡率が高いこと、短期間の抗てんかん薬投与であること」がてんかんと異なる。新生児期と高齢者で頻度が高い。
鑑別:よくあるもの(けいれんに見えて、けいれんでない)
| 病態 | 見分け | 次の一手 |
|---|---|---|
| 失神(血管迷走神経性) | 立位・痛み・採血などの誘因。前駆の眼前暗黒感。倒れた後に数秒の強直やミオクローヌスが出ることがある(convulsive syncope) | 心原性を外す(失神)。心電図 |
| 憤怒けいれん(泣き入りひきつけ) | 泣いた後に呼吸を止め、チアノーゼか蒼白→意識消失 | 経過観察。鉄欠乏の確認 |
| チック・不随意運動 | 意識が保たれる | 外来 |
| 睡眠時ミオクローヌス | 入眠時、覚醒させると止まる | 経過観察 |
| 心因性非てんかん発作 | 長い、閉眼に抵抗、左右非対称で変動、発作後の錯乱が乏しい | 決めつけない。専門施設へ |
| 胃食道逆流によるSandifer症候群(乳児) | 哺乳と関連した後弓反張 | 胃食道逆流 |
| 熱性けいれん | 発熱を伴う、生後6か月〜5歳 | 熱性けいれん。年齢や経過が典型的でない、または回復不良なら熱性けいれんと決めつけず、急性原因やてんかんを再評価する |
鑑別:見逃してはいけないもの
| 病態 | 見逃しの形 | 当院の扱い |
|---|---|---|
| 細菌性髄膜炎・急性脳炎脳症 | 「熱性けいれんでしょう」と帰す | 持てない。搬送(細菌性髄膜炎) |
| 低血糖 | 発作の原因検索を先にして血糖を測らない | 当院で測れる・治せる(低血糖) |
| 急性中毒 | 病歴を取らない | 中毒110番(急性中毒) |
| 虐待による頭部外傷 | 乳児の説明のつかない発作 | 持てない。画像と通告 |
| 脳腫瘍 | 初発発作の原因として実際にある。初発非誘発性発作の小児411例中、脳腫瘍2例・神経有鉤囊虫症2例が画像で見つかっている | 持てない。画像が要る |
| 高血圧性脳症(急性糸球体腎炎など) | 血圧を測らない/年齢基準を知らない | 当院で降圧開始→専門施設(急性糸球体腎炎) |
| 不整脈による失神 | 「けいれんした」で片付ける | 心電図(失神) |
治療ワークフロー(当院でやること)
| 時間 | やること |
|---|---|
| 0分 | 気道・呼吸・循環。側臥位。SpO2。発作が続いているならけいれん重積へ |
| 0〜3分 | 血糖を測る。低ければブドウ糖 |
| 3〜10分 | 体温。発熱があれば感染症のワークアップへ。血圧を年齢の基準値で読む |
| 10〜30分 | 採血(血算・生化・Na/K/Ca/Mg・血糖・血ガス)。小児の初発発作は低血糖や電解質異常でも起こりうるので、一般血液検査を行うことには意義がある |
| 停止直後から繰り返し | 意識と神経所見を再評価。回復不良・悪化・新規麻痺では観察時間を待たず相談 |
| 判断 | 急性症候性発作の原因が見つかった → その原因の治療へ。見つからない → 非誘発性発作として扱う |
| 判断 | 抗てんかん薬は当直で開始しないのが原則。開始を考慮するのは、神経学的異常・脳波異常・脳画像病変・てんかんの家族歴がある場合 |
| 退院前 | 脳波の予約。再発時の対応を家族に渡す。入浴・水泳・自転車・階段の注意 |
検査
| 検査 | 何がわかるか | 読み方 |
|---|---|---|
| 血糖 | 低血糖 | 最優先。発作中でも測る |
| 電解質(Na・K・Ca・Mg)・血ガス | 代謝性の急性症候性発作 | 乳児では特に |
| 血算・CRP・血液培養 | 感染症 | 発熱があれば |
| 中毒スクリーニング | 中毒 | 疑ったら |
| 頭部CT | 出血・大きな占拠性病変 | 急性期に危険なものを外す目的。ただし当直帯の当院では撮れない(2026-09-14 確認)。撮る必要があると判断した時点が、搬送の判断になる |
| 頭部MRI | 皮質形成異常・腫瘍・海馬硬化 | 神経画像検査を行う場合はMRIが推奨される。ただし一律に行うべきかは十分なエビデンスがない。症候性が示唆される場合には行うことが望ましい |
| 脳波 | てんかん性異常 | 完全回復した児は外来で計画。回復不良や乳児スパズム疑いは早急な専門評価 |
| 心電図 | QT延長・Brugada・WPW | 「けいれんに見えた失神」を外す |
脳波と画像の数字(家族に説明するとき/急ぐかどうかの判断に)
- 小児初発発作後に18〜56%の患者でてんかん性脳波異常(成人では13〜35%)を認める。
- てんかん性脳波異常が存在すると、正常脳波の場合と比較してその後のてんかん発症率が約2倍になる。
- Shinnarらの前向き研究:小児の初発非誘発性発作321例中135例(42%)に脳波異常。異常の検出率は、全般発作より部分発作で、3歳未満の年少児より年長児で、特発性群より症候性群でいずれも高かった。症候性てんかん群では、脳波異常を示した103例中54%で発作の再発を認めたが、脳波異常を示さなかった165例では再発は25%に留まっていた。
- 3回以降の脳波検査でてんかん性脳波異常が出現する機会は少ない。
- MRI:Shinnarらの研究で58例中19例(33%)に異常。本邦の田辺らの前向き研究では41例中10例(24.4%)に異常所見、うち4例が皮質形成異常。ただし画像病変の臨床的意義、特にてんかん原性との関連については慎重に評価すべき。
再発率(そのまま伝える数字)
| 状況 | 再発率 |
|---|---|
| 初回非誘発性発作後、5年以内の発作出現率 | 約43% |
| 2回目の発作後、1年以内の再発率 | 約57% |
| 小児で脳波異常あり(症候性群) | 54% |
| 小児で脳波異常なし(症候性群) | 25% |
決定=上表2行の数字を、てんかん診療ガイドライン2018第3章(成人)の35%/73%から、小児407例を平均9.6年前向き追跡した単独コホート研究(Shinnar S, et al. Ann Neurol. 2000;48(2):140-147)の値に差し替える。5年以内の発作出現率=約43%(同コホートの2回目の発作の累積リスク:1年29%/2年37%/5年43%/10年46%)。2回目の発作後1年以内の再発率=約57%(同コホートの3回目の発作の累積リスク:2回目の発作後1年57%/2年63%/5年71%)。本セッションでEuropePMC(EXT_ID:10939563)のabstractTextを直接取得し、上記数値を逐語確認済み。FIRST trial(2年50.8%・強直間代限定・臨床試験参加集団)やBerg&Shinnar 1991(16文献平均51%)とは2年時点や全体平均で数ポイント〜十数ポイントの開きがあり、研究によって37〜51%程度の幅がある中で最も小児限定性が高いコホートを選んだ判断である。当直帯の対応(2回目の発作まで薬を始めない)はどの数字でも変わらない。未確認:Shinnar 2000のフルテキスト(PDF本体・表・信頼区間・サブグループ別数値)は未取得(abstractTextのみ確認)。
2回目の発作が出現した場合は、1年以内の発作出現率が高く、抗てんかん薬の加療開始が推奨される。
薬を始めるかどうか(当直で決めなくてよい理由)
- 初回の非誘発性発作では、以下の場合を除き原則として抗てんかん薬の治療は開始しない。
- 初回発作でも神経学的異常、脳波異常、脳画像病変ないしはてんかんの家族歴がある場合は、再発率が高く治療開始を考慮する。
- 患者の社会的状況、希望を考慮して初回発作後から治療開始してもよい。
- 小児・思春期でも、初発非誘発性発作は2回目以降に治療しても長期発作予後は変わらない。
- 迅速治療群は遅延治療群に比べ発作のすみやかな抑制には優れていたが、長期予後(寛解)には有意差はみられなかった。
- 初回発作を起こした患者を未治療のまま経過をみても、半分の患者では発作の再発がみられない。初回の発作で治療を開始すると半分の患者に不必要な治療を強いることになる。
→ 当直医が薬を始めないことは、放置ではなく標準的な対応。やるべきは急性症候性発作を外すことと、脳波の予約。
問診チェック
- 発作の目撃者から:始まり方(左右差・眼球偏位)/持続時間(実測か体感か)/意識/チアノーゼ/尿便失禁/発作後の様子と回復までの時間
- 誘因:睡眠不足、発熱、光、ゲーム、過呼吸、立位、入浴、食事との関係
- 薬:家庭内のすべての薬(祖父母の薬も)、サプリ、市販薬、誤飲の可能性
- 既往:周産期歴、発達、頭部外傷、髄膜炎、既知のけいれん
- 家族歴:てんかんの家族歴は治療開始の判断材料になる。熱性けいれん、突然死、若年の失神
- 乳児では:説明の変わる外傷歴、養育環境
送る/持つ(当院=二次救急・脳外科なし)
エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)
- 確定(2026-09-14):夜間に頭部CTは撮れない。「CTが要る」=「送る」として運用する
- 要確認:小児の脳波をいつ・どこで撮れるか(院内/外注/予約の待ち日数)
- 要確認:小児神経の紹介先(てんかん専門医のいる施設)
- 確定(2026-09-14):夜間に血液ガス・電解質は測れる。血中アンモニアも夜間測定可(facility.json)
- 決定:生後6か月未満の無熱性けいれんで発作後に回復していれば、夜間は当院で入院管理し、日勤帯に専門施設と相談する(夜間は画像なし。回復が悪い・繰り返す場合は搬送)
家族に渡す一文
「今日の発作は、はっきりした原因(熱・低血糖・頭のけが・薬など)によるものではなさそうです。1回だけの発作では、すぐにお薬を始めないのが原則です。最初の発作のあと、5年以内にもう一度起きる人は10人のうち4人くらいで、残りの人は繰り返しません。ただし、2回目が起きた場合は、その後1年以内にまた起きる可能性が高くなるので、そのときはお薬を考えます。次にやることは脳波の検査です。それまでの間、入浴は必ず大人が一緒に、水泳はひとりでしない、高いところに登らない、自転車は控えるでお願いします。5分以上止まらない/続けて起きる/覚めない、このどれかなら救急車を呼んでください。」
病態・根拠13章
病態と根拠
発作の現象と、その背景を分ける
てんかん発作は脳神経ネットワークの異常な活動による一時的な症状で、全身のけいれんに限らない。焦点発作では片側の動き、眼球偏位、感覚症状や反応低下だけのことがある。最初に見えた症状、左右差、回復までの順序が、発作が始まったネットワークを考える手がかりになる。目撃者の説明と安全に撮影された動画を、診断の中心に置く。[1]
一度の発作は、慢性的な発作の起こりやすさを示す場合と、低血糖・電解質異常・脳炎・外傷・脳卒中などの急性の侵襲への反応である場合がある。後者では抗発作薬だけで原因が解決するわけではない。血糖と呼吸循環を先に確認し、感染、外傷、毒物曝露、血圧、代謝異常の手がかりを同時に評価する。[1][2]
年齢・発達背景で優先順位が変わる
生後6か月未満では、低血糖、電解質異常、感染、構造異常、遺伝・代謝疾患など治療可能な原因を特に意識する。体重増加不良、絶食との関係、反復嘔吐、発達の停滞・退行、特徴的な皮膚所見を確認する。短い発作を何度もまとめて起こす乳児では、単発の無熱性けいれんの方針を適用せず、乳児てんかん性スパズムとして早急に専門相談する。
学童・思春期では、欠神、起床後のミオクローヌス、過去に見逃された短い発作がないかを問診する。「初発」と思われた全身発作が、実際には既に存在する症候群の一部であることがある。周産期障害、発達遅滞、既知の脳病変があれば、正常発達の児と同じ再発リスクにはならない。[1]
意識が戻らないときの分岐
発作後の眠気はみられるが、回復は繰り返し診察して確かめる。鎮静・抗発作薬の投与時刻と量、低酸素や低血糖の有無も記録する。悪化する意識、瞳孔異常、新たな片麻痺、呼吸異常、反復発作では「30分待つ」という観察をしない。回復が期待どおり進まない場合は、非けいれん性重積、代謝障害、脳炎・急性脳症、頭蓋内病変を考える。[2][3]
新たな片麻痺をTodd麻痺と決める前に、小児脳卒中を含む急性病変を除外する。発作と脳卒中は共存しうる。当院は院内夜間CT・MRIができないため、緊急画像が必要な所見を認めた時点で搬送先に相談する。髄膜炎を疑っても、新規巣症状・瞳孔異常・重度または進行する意識低下、循環・呼吸不安定時は腰椎穿刺を保留し、安定化、抗菌薬、緊急相談を先行させる。[2][4]
検査は何を答えるために行うか
| 検査 | 答えたい問い | 限界 |
|---|---|---|
| 血糖・電解質・血液ガス | 補正すべき急性症候性の原因か | 正常でも脳炎・脳卒中・てんかんを除外できない |
| 心電図 | 不整脈による失神に伴う運動ではないか | 発作的な不整脈は一回の記録で捕まらないことがある |
| 脳波 | 発作型・症候群・再発リスクの手がかりがあるか | 発作間欠期の正常脳波はてんかんを否定しない。異常だけでも発作の診断は確定しない |
| MRI | 原因となる構造異常があるか | 偶発所見の可能性があり、発作の臨床像との整合性が必要 |
完全に回復した児の通常脳波は、夜間にすべて行う検査ではない。一方、意識回復不良では重積評価、乳児のスパズム疑いでは睡眠を含む脳波が診療の時間軸を変える。「脳波は急がない」をすべての児に広げない。採血の範囲も年齢、回復、持続時間、代謝・脱水の背景に応じる。[1][2]
抗発作薬を始める判断の根拠
初回の非誘発性発作に早期治療を行うと短期再発は抑えやすいが、遅延治療と比較した長期寛解の改善は明確ではない。このため、単発・完全回復・神経診察正常の児で、一律に長期薬物療法を開始しない方針には根拠がある。[1] ただし、これは重積、急性原因の治療、乳児スパズム、既にてんかん症候群を満たす児を待つ根拠にはならない。
脳波・画像・発達背景、再発時の傷害リスク、本人・家族の意向を合わせて専門医と判断する。本文の再発率は特定の小児コホート全体の値で、目の前の児の確率をそのまま示さない。研究の対象、発作型、観察期間が異なれば数字も変わる。[1]
経過の確認と生活指導
帰宅前に普段の反応・歩行・左右差を再評価し、再診日と脳波・専門相談の実施先を具体化する。当院の生後6か月未満の児は、完全に回復していても夜間は入院し、日勤帯に専門施設へ相談する。回復不良や反復は夜間の搬送対象である。
再発記録には開始時刻、持続、左右差、意識、回復、発熱を残す。水中・入浴、高所、交通場面では監督と安全策を相談し、過度に活動全体を制限しない。家族には5分以上の発作、覚めないまま反復、呼吸異常の救急対応を伝える。頓用薬は当院の初発時方針に沿い、必要になった場合は適応、投与経路、呼吸観察、119番の条件を別途確認する。[2]
参照資料
- [1] 日本神経学会ほか『てんかん診療ガイドライン2018』第4章 CQ4-1〜4-3。小児初発発作の診断・治療開始。https://www.neurology-jp.org/guidelinem/epgl/tenkan_2018_04.pdf
- [2] Royal Children's Hospital. *Seizures — acute management*. 2025年6月更新。年齢・回復による検査、初発発作のフォロー。https://www.rch.org.au/clinicalguide/guideline_index/Seizures_-_acute_management/
- [3] 日本小児神経学会『小児急性脳症診療ガイドライン2023』。けいれん後の意識障害、二相性経過。https://www.childneuro.jp/uploads/files/about/AE2016GL/01ae2023_total.pdf
- [4] Royal Children's Hospital. *Lumbar puncture*. 禁忌と安定化・治療の優先。https://www.rch.org.au/clinicalguide/guideline_index/Lumbar_puncture/
既存手順の参照資料
- 日本神経学会(監修)「てんかん診療ガイドライン」作成委員会(編).てんかん診療ガイドライン2018.医学書院.全文公開版 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/tenkan_2018.html (2026-09-12閲覧)
- 第1章 てんかんの診断・分類,鑑別 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/epgl/tenkan_2018_01.pdf :CQ1-1「てんかんとはなにか」。ILAE 2014の定義(①24時間以上の間隔で2回以上の非誘発性(または反射性)発作が生じる ②1回の非誘発性(または反射性)発作が生じ、その後10年間にわたる発作再発率が2回の非誘発性発作後の一般的な再発リスク(60%以上)と同程度である ③てんかん症候群と診断されている)。「非誘発性発作(unprovoked seizure)という用語は、明らかな誘因がない慢性疾患としての自発発作である。これに対し『誘発性発作』は、急性症候性発作、状況関連発作ともよばれ、脳炎、外傷、脳血管障害、代謝障害などの急性の脳への侵襲に対する反応として発症する発作である」。
- 第3章 成人てんかんの薬物療法 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/epgl/tenkan_2018_03.pdf :CQ3-1「初回てんかん発作で薬物療法を開始すべきか」。「初回の非誘発性発作では、以下の場合を除き原則として抗てんかん薬の治療は開始しない」「初回発作でも神経学的異常、脳波異常、脳画像病変ないしはてんかんの家族歴がある場合は、再発率が高く治療開始を考慮する」「2回目の発作が出現した場合は、1年以内の発作出現率が高く、抗てんかん薬の加療開始が推奨される」「初回非誘発性発作症例の5年以内での発作出現率は約35%であるが、2回目の発作後の1年以内の再発率は73%となる」。
- 第4章 小児・思春期のてんかんと治療 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/epgl/tenkan_2018_04.pdf :CQ4-2「小児・思春期の初発非誘発性発作ではどのような検査が推奨されるか」(脳波検査のてんかん波検出率は成人より高く、最も有用性が高い/神経画像検査を行う場合はMRIが推奨される/小児初発発作後に18〜56%の患者でてんかん性脳波異常(成人では13〜35%)/てんかん性脳波異常が存在すると正常脳波の場合と比較しその後のてんかん発症率が約2倍/Shinnarら321例中135例(42%)に脳波異常/症候性てんかん群では脳波異常を示した103例中54%で再発、示さなかった165例では25%/3回以降の脳波検査でてんかん性脳波異常が出現する機会は少ない/初発非誘発性発作411例に画像検査を行い脳腫瘍・神経有鉤囊虫症をそれぞれ2例/MRI 58例中19例(33%)に異常/田辺らの本邦前向き研究で41例中10例(24.4%)に異常、うち4例が皮質形成異常/小児の初発発作は低血糖や電解質異常でも起こりうるので、一般血液検査を行うことには意義がある)。CQ4-3「小児・思春期の初発非誘発性発作は2回目以降に治療しても長期発作予後は変わらないか」(成人の場合と同様に、小児・思春期の初発非誘発性発作は2回目以降に治療しても長期発作予後は変わらない/迅速治療群は遅延治療群に比較して発作のすみやかな抑制には優れていたが、長期予後(寛解)には有意差はみられなかった/初回発作を起こした患者を未治療のまま経過をみても、半分の患者では発作の再発がみられない)。CQ4-1(小児てんかん全体で部分てんかん症候群が60〜70%、全般てんかん症候群が20〜30%/小児てんかんでは年齢が生後1か月より18歳前後までを扱う)。
- 第16章 急性症候性発作 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/epgl/tenkan_2018_16.pdf :CQ16-2「急性症候性発作の原因はなにか」の表1(脳血管障害=脳血管障害から7日以内に起こる発作/中枢神経系感染症=活動期に起こる発作/頭部外傷=頭部外傷から7日以内に起こる発作/代謝性・全身性疾患=電解質異常、低血糖、非ケトン性高血糖、尿毒症、低酸素性脳症、肝性脳症、高血圧性脳症、子癇、PRES、SLE、ミトコンドリア脳症など/中毒=麻薬、処方薬(アミノフィリン、イミプラミンなど)、危険ドラッグ、薬剤過剰摂取、環境からの曝露(一酸化炭素、鉛、樟脳、有機リンなど)、アルコール)。「急性症候性発作では、明確な原因と関連すること、急性疾患があるため死亡率が高いことと、短期間の抗てんかん薬投与であることが、てんかんと異なる。新生児期と高齢者で頻度が高い」。
- Shinnar S, Berg AT, O'Dell C, Newstein D, Moshé SL, Hauser WA. Predictors of multiple seizures in a cohort of children prospectively followed from the time of their first unprovoked seizure. Ann Neurol. 2000;48(2):140-147.(小児407例を平均9.6年前向き追跡した単独コホート研究。「再発率」表の5年43%/2回目後1年57%の出典。本セッションでEuropePMC(EXT_ID:10939563)のabstractTextを直接取得・逐語確認済み。フルテキスト〔PDF本体〕は未取得)
臨床医が迷う場面
初めての無熱性けいれんが止まったら、すぐ維持薬を始める?
単回で止まり意識が戻っただけでは、長期抗発作薬の開始を自動的に決めない。低血糖、電解質異常、感染、外傷、薬物曝露など誘因を確認し、発作の動画と経過を添えて小児神経に相談する。乳児、局在所見、回復遅延では緊急性を上げる。
来院時に発作が続き、開始時刻が分からない場合は?
開始時刻不明の持続発作は、短時間と推測して観察を延長せず治療する。気道、呼吸、循環と血糖を確認し、救急搬送中や家庭で投与されたベンゾジアゼピンの回数も合算する。止まらない場合は重積の手順へ移り、反復投与による呼吸抑制も監視する。
発作後に元気なら、全例で緊急脳波やCTが必要?
回復した単回発作に、脳波やCTを一律に緊急実施するのではなく、年齢、外傷、局在性、頭蓋内圧亢進所見、意識回復を基に選ぶ。退院時は再発時の安全確保と救急受診の条件を具体的に伝え、初回無熱性発作として専門外来の評価につなぐ。