「成長痛」と呼ぶ前に(夜間の下肢痛)
整形β版・逐条レビュー継続中
2026-09-13更新
β版用量は適用前に一次資料と院内採用を確認。このβ版について
施設プロファイル: 二次救急。
30秒要約
- 「成長痛」は診断名ではなく、除外したあとに残る呼び名。当直で最初に使う言葉ではありません。
- 日本整形外科学会は、この言葉をはっきり戒めています。「成長痛」という言葉は、「成長しているから痛い」「だから放置してよい」と誤解されます。
- 原因はある。子どもは運動器がまだ十分に発達していないのに、活発に動き回ります。そのために、筋肉が疲れて痛みやだるさを訴えることが多いようです。関節に無理がかかっている場合もあります。つまり、原因はちゃんとあるのです。
- 中には重大な疾病の始まりであることもあります。訴えが続く場合には整形外科で真の原因を明らかにしてもらうように指導しましょう。
- 当直での実務はひとつ。「成長痛らしい」と言う前に、外すべきものを外したかを自分に問うこと。
「成長痛」と言ってよい条件(全部そろって初めて)
| # | 条件 |
|---|---|
| 1 | 両側性(片側だけなら成長痛としない) |
| 2 | 夕方から夜間の痛みで、日中は元気に遊んでいる |
| 3 | 翌朝には痛みが残っていない(朝のこわばり・朝の跛行がない) |
| 4 | 跛行がない。歩ける・走れる |
| 5 | 発熱がない |
| 6 | 腫脹・熱感・発赤・圧痛点がない |
| 7 | 体重減少・寝汗・蒼白・紫斑がない |
| 8 | 成長曲線から外れていない |
| 9 | 経過が数か月で、悪化していない |
ひとつでも欠けたら、成長痛として帰さない。
レッドフラグ → 次の一手
所見があったときにどれだけ急ぐかと、家族に何を伝えるかの対応表。3列目の文言は家族説明ページに同じ言葉で載っているので、画面を見せながら渡せる。
| 緊急度 | 所見 | その場で次にやること | 時間の勝負 |
|---|---|---|---|
| 119 | 発熱+ショック徴候 | 敗血症(小児敗血症) | 即時 |
| 緊急 | 片側性の痛み | 成長痛ではない。原因を探す | 当日 |
| 緊急 | 発熱を伴う | 化膿性関節炎・骨髄炎(化膿性関節炎・骨髄炎) | 即時 |
| 緊急 | 跛行がある・歩けない | 歩かない・手足を動かさない | 当日 |
| 緊急 | 朝も痛い・朝にこわばる | 若年性特発性関節炎を考える | 当日 |
| 緊急 | 夜間痛で目が覚める+蒼白・紫斑・リンパ節腫大・肝脾腫 | 白血病。血算+末梢血液像とLDH(白血病を疑うとき) | 当日 |
| 緊急 | 体重減少・寝汗・持続する発熱 | 悪性腫瘍・感染(不明熱) | 当日 |
| 緊急 | 一点の骨の圧痛・局所の腫脹が触れる | 骨腫瘍・骨髄炎。X線 | 当日 |
| 緊急 | 背部痛・脊柱の可動域制限 | 脊椎の病変。小児の背部痛は器質的疾患のことが多い | 当日 |
| 緊急 | 痛みが進行している/範囲が広がっている | 経過が成長痛に合わない | 当日 |
| 当日 | 膝下の骨の出っ張り(脛骨粗面)が痛い・腫れている・運動で悪化(10歳前後〜思春期) | オスグッド病。整形へ | 数日 |
| 当日 | 条件9つを満たし、全身状態良好 | 経過観察でよい。再受診の条件を紙で渡す | — |
鑑別:夜間の下肢痛で外すもの
| 病態 | 見分け | 次の一手 |
|---|---|---|
| 白血病 | 夜間痛で目が覚める、日中も元気がない、蒼白・紫斑・発熱・肝脾腫・リンパ節腫大 | 血算+末梢血液像・LDH(白血病を疑うとき) |
| 骨腫瘍(骨肉腫・Ewing肉腫) | 持続する骨痛・局所の腫脹・夜間痛。10歳前後〜思春期の膝周囲 | X線。持てない |
| 化膿性骨髄炎 | 骨幹端の一点圧痛+発熱(熱がないこともある) | 化膿性関節炎・骨髄炎 |
| 若年性特発性関節炎 | 朝のこわばり、関節の腫脹、数週以上 | 専門施設 |
| 単純性股関節炎 | 跛行、先行する感冒 | 歩かない |
| Perthes病 | 片側の股関節痛・跛行、4〜7歳 | 整形へ |
| 大腿骨頭すべり症 | 思春期・肥満・股関節または膝の痛み、跛行 | 整形へ。膝の痛みで来るので股関節を見ないと落とす |
| オスグッド病 | 脛骨粗面の痛みと隆起、運動で悪化 | 整形へ |
| 疲労骨折 | 同じ場所に繰り返し長期間の負荷(骨折) | X線・MRI |
| ビタミンD欠乏性くる病 | 下肢変形・成長障害・食事歴 | 採血 |
| IgA血管炎 | 紫斑・腹痛・関節痛 | 紫斑・出血斑 |
| 心因性・不登校の身体化 | 状況依存、学校がある日に集中 | 決めつけない。器質を外してから(起立性調節障害) |
所見の取り方
| 所見 | 取り方 | 所見があったら次にどうする |
|---|---|---|
| 痛む場所を本人に指ささせる | 関節か、骨か、筋肉か | 骨の一点なら画像 |
| 左右差 | 必ず両側を比べる | 片側なら成長痛としない |
| 歩かせる・走らせる・片足立ち | 診察室で実際にやらせる | 跛行があれば歩かない |
| 股関節の内旋 | 膝の痛みでも股関節を回す | 制限があれば大腿骨頭すべり症・Perthes |
| 脛骨粗面 | 押す・膝を伸展させる | オスグッド |
| 関節の腫脹・熱感 | 左右比較 | 関節炎 |
| リンパ節・肝脾腫・皮膚 | 全身を見る | 血液疾患 |
| 体重と身長 | 成長曲線に打つ | 外れていれば器質的疾患 |
| 痛みで夜中に起きるか | 「泣いて起きるか」「さすると治まるか」 | 目が覚めるほどの痛みは要注意 |
治療ワークフロー(当院でやること)
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 痛みの型を聞き取る(両側か/時間帯/翌朝/期間/悪化しているか) |
| 2 | 服を脱がせて全身を見る。皮膚・リンパ節・腹部 |
| 3 | 歩かせる。関節可動域(股関節の内旋を忘れない) |
| 4 | 上の9条件に照らす |
| 5 | 条件を欠く/迷う → 血算+末梢血液像・CRP・赤沈・LDH、必要ならX線 |
| 6 | 条件をすべて満たす → 検査なしで経過観察してよい。ただし再受診の条件を紙で渡す |
| 7 | 「成長痛です」で終わらせない。「今は心配な所見がない」と「何が出たら来てほしいか」を伝える |
送る/持つ(当院=二次救急)
| 状態 | 当院の扱い |
|---|---|
| 9条件をすべて満たす | 当院で説明し、経過観察 |
| 発熱・片側性・跛行を伴う | 原因検索へ。多くは持てない |
| 血算・末梢血液像に異常 | 持てない(白血病を疑うとき) |
| 骨腫瘍を疑う | 持てない |
| オスグッド・Perthes・大腿骨頭すべり症 | 整形へ紹介 |
| 朝のこわばり・多関節炎 | 小児リウマチへ紹介 |
エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)
- 要確認:整形外科・小児リウマチの紹介先
- 要確認:赤沈を当院で出せるか
- 要確認:学校の運動器検診で拾われた子を当院で受けるか
- 要確認:再受診の条件を書いた紙を院内で用意するか
家族に渡す一文
「『成長痛』という言葉は、あまり良い言葉ではありません。『成長しているから痛いのだ、放っておいてよい』という意味に受け取られてしまうからです。実際には、痛みには必ず理由があります。多くは、体がまだ育ちきっていないのにたくさん動いたことで、筋肉が疲れている状態です。今日の診察では、急いで調べたほうがよい所見はありませんでした。ただし、次のどれかが出たら、また見せてください。片方の足だけが痛い/朝も痛い/熱が出る/びっこを引く/痛くて夜中に目が覚める/体重が減る/あざや鼻血が増える/痛みがだんだん強くなる。これらは、別の病気のサインのことがあります。」
医師確認事項(要・岡本判断)
- 要確認:本シートの核(「成長痛」という言葉を戒める部分)は、日本整形外科学会の学校保健向けFAQを一次資料としている。運動器検診の文脈の文章であり、救急外来向けの診療ガイドラインではない。
- 要確認:「成長痛と言ってよい9条件」は本シートの実務上の整理であり、一次資料に基づくチェックリストではない。診断基準として扱わず、判断の順序として使うこと。国内で確立した成長痛の診断基準を本シートでは確認できなかった。
- 要確認:オスグッド病の記載は日本整形外科学会が日本スポーツ整形外科学会のPDFを参照先として示しているが、そのPDFは画像のみで本文を抽出できず、本シートでは逐語引用していない。オスグッドの詳細を載せるなら別の一次資料が要る。
- 要確認:大腿骨頭すべり症・Perthes病の記載も本シートで一次資料を確認していない。「膝の痛みで来るので股関節を見る」は実務上の注意として書いている。
- 要確認:夜間痛で白血病を疑う閾値。本シートは「目が覚めるほどの痛み+全身所見」としているが、血算をどこまでルーチンに出すかは当院で決めたい。
出典
- 日本整形外科学会.保護者・養護教諭・学校医向けFAQ「検診結果が『全部成長痛』!?」.https://www.joa.or.jp/public/motion/growing_pain.html (2026-09-13閲覧)。「子どもが、特に夕方から夜間にかけて痛みやだるさを訴える場合に『成長痛』というようですが、私はこの言葉が嫌いです。『成長痛』という言葉は、『成長しているから痛い』『だから放置してよい』と誤解されます。子どもは運動器がまだ十分に発達していないのに、活発に動き回ります。そのために、筋肉が疲れて痛みやだるさを訴えることが多いようです。関節に無理がかかっている場合もあります。つまり、原因はちゃんとあるのです。中には重大な疾病の始まりであることもあります。訴えが続く場合には整形外科で真の原因を明らかにしてもらうように指導しましょう」「学校医は保健調査票の記載を軽視してはいけません」「異常が疑われれば整形外科専門医を受診させることが必要です」。
- 日本整形外科学会.症状・病気をしらべる「オスグッド病」.https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/osgood_schlatter.html (2026-09-13閲覧)。詳細は日本スポーツ整形外科学会(JSOA)「スポーツ損傷シリーズ 1.オスグッド病」https://jsoa.or.jp/content/images/2023/05/s01.pdf を参照先として示している(同PDFは画像のみで本文を抽出できず、本シートでは内容を引用していない)。
- 日本整形外科学会.症状・病気をしらべる「骨折」.https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/bone_fracture.html (2026-09-13閲覧)。疲労骨折について「健康な骨に弱い力がかかる場合でも、同じ場所に繰り返し長期間かかり続けると骨折することがあります」。
- 国立がん研究センター がん情報サービス.白血病〈小児〉.https://ganjoho.jp/public/cancer/leukemia/print.html (2026-09-13閲覧)。「代表的な症状は、貧血、出血、感染、肝臓や脾臓の腫れ、発熱、骨痛などです」。詳細は本サイト「白血病・悪性腫瘍を疑うとき」を参照。