水分不足と循環不全を分ける
嘔吐・下痢による喪失と摂取不足が重なると、水分と電解質の不足が進む。乳児では体重に占める水分割合が高く、体重あたりの喪失も大きくなりやすい。予備の糖も少ないため、飲めない時間が長くなるとケトン増加や低血糖が併存する。胃腸炎の診療は原因ウイルスを当てることより、水分・循環・糖・電解質が保たれているかを評価する仕事である。[24][25]
脱水とショックは同じではない。粘膜乾燥、涙の減少、尿量、体重変化は不足の手がかりになり、頻脈、末梢冷感、CRT延長、意識変化、弱い脈は循環不全を疑う。血圧低下は小児では遅い所見になりうるため、正常血圧だけで安心しない。発症前の実測体重があれば減少率を参考にするが、推定の「いつもの体重」やスコアだけで重症度を決めない。[25][26]
経口補水が効く理由
腸炎でも、腸管のナトリウムとブドウ糖を一緒に吸収する仕組みは保たれることが多い。適切な組成のORSはこの仕組みを使い、水分を吸収させる。ジュースやスポーツ飲料は糖と電解質の組成がORSと異なるため、脱水補正の代替として同じ量を指示しない。[24] 母乳を続け、補正後には年齢相応の食事へ戻す。長い絶食やミルクの希釈は栄養不足を増やす。
嘔吐した一回だけでORT失敗と決めず、少量頻回に与え、実際の摂取と再嘔吐を観察する。本文の量は既存手順として保持するが、全員に同じ時間・量を強制するものではない。意識障害、ショック、外科疾患が疑われる腹部所見、持続する強い嘔吐などでは安全な投与経路を選び直す。経鼻胃管補水は海外指針で選択肢だが、当院の実施・監視手順は未確認である。[24][25]
電解質と低血糖を見落とさない
低張性の飲料だけを多量に与えた場合や、感染・痛みなどに伴う水排泄低下では低Naが問題になりうる。逆に濃すぎる調乳や水分不足では高Naを伴うことがある。どちらも意識変化・けいれんの原因になり、脱水が一見軽くても除外できない。重症、静注補水が必要、意識異常、基礎疾患、長い摂取不良では電解質・腎機能・血糖を確認する。[25][26]
高Naでは、皮膚・循環の所見だけで不足の程度を把握しにくい。ショックを見逃して蘇生を保留することと、高Naの欠乏量を急速に補正することの両方を避ける。初期循環対応と、その後の電解質是正を分け、血清Naの変化と神経所見を追いながら上級医・専門施設と調整する。本追補は輸液組成、補正速度、維持量の未確定な院内処方を補完するものではない。[26]
低血糖があれば糖補正を遅らせない。多飲・多尿、体重減少、深い呼吸があれば、尿ケトン陽性を「絶食性」と決める前に血糖・血液ガスを確認しDKAを区別する。
胃腸炎から外れる手がかり
下痢のない嘔吐、胆汁性嘔吐、局所的な強い圧痛、腹部膨満、間欠的な激しい啼泣、歩行拒否、血便、持続する意識変化は、腸重積、腸閉塞、虫垂炎、中枢神経感染、代謝異常などを再検討する理由になる。[25] 当院夜間は熟練者による腹部超音波評価ができず、必要な画像を翌朝まで待つことが安全かを上級医・受入先と判断する。
血便後に蒼白、尿減少、浮腫、血小板減少、腎機能変化が加わる場合はEHEC・HUSを疑う。抗菌薬や下痢止めを一律に追加せず、病原体、経過、全身状態に応じて相談する。2024国内ガイドラインの刊行とCQ構成は学会公式で確認できるが、今回最終版の全推奨本文は取得していないため、薬剤に関する未確認の更新を推測していない。
帰宅は補水への反応を見て決める
再評価では顔色、反応、呼吸・末梢循環、摂取、嘔吐、尿量を見直し、腹部を再診察する。ORTが進む、循環が安定、診断に重大な懸念がない、家族が継続して少量ずつ与えられる、悪化時に受診できることを確認する。尿が出たという一つの所見だけで、まだ飲めない児を帰さない。[25]
若い乳児、持続する喪失、腎・心疾患、免疫不全、初回補水が不十分、電解質異常では入院・相談の閾値を下げる。家族には飲めない、起こしても反応が乏しい、尿が減る、胆汁性嘔吐、血便、腹痛の増悪を再受診条件として伝える。下痢が続いていても補水と食事が保てる場合と、危険な経過を分けて説明する。