動物咬傷・ハチ刺傷・虫刺され

動物咬傷・ハチ刺傷・虫刺され

救急・外傷・中毒β版・逐条レビュー継続中

2026-09-12更新
β版用量は適用前に一次資料と院内採用を確認。このβ版について

施設プロファイル: 二次救急/外科的処置なし/縫合ができない(2026-09-14 確認)。深い創・頭蓋内穿通・内臓損傷は持てない。洗浄・被覆・破傷風予防は当院でできる——咬傷では洗浄こそが本体の治療なので、縫えないことは治療の中心を損なわない。

30秒要約

  • 小児の犬咬傷は、傷の見た目より中が危ない。死亡例は小児に偏在し、頭蓋内損傷・内臓損傷・大血管損傷が起こりうる。
  • 2歳未満の頭部咬傷は、皮膚の傷が軽微でも頭蓋内穿通創がありうる。見た目で判断しない。
  • 創の消毒は推奨されない(組織障害の懸念)。洗浄が有効。狂犬病が危惧される場合だけ消毒を考慮する。
  • 抗菌薬による破傷風発症予防のエビデンスはなく、受傷後の予防投与は推奨されない。破傷風はトキソイド(±免疫グロブリン)で考える。
  • ハチのアナフィラキシーは速い。致死的反応で呼吸停止または心停止までの中央値は、ハチ15分(薬物5分、食物30分)。

所見 → 次の一手

咬傷全般

所見次の一手
小児の犬咬傷(部位を問わず)成人より注意深く診察する。頭蓋内損傷、内臓・頸椎・気管・大血管損傷、筋肉内血腫、多発骨折、複数箇所の損傷、穿通創や鈍的外傷を探す
2歳未満の頭部・顔面の咬傷皮膚損傷が軽微でも頭蓋内穿通創がありうる。頭部画像を検討し、脳外科のある施設へ相談
胸部・腹部の咬傷気胸と内臓損傷の有無を確認気胸
創がある石鹸と流水で洗浄する(有効・グレードB)。狂犬病が疑われる咬傷は徹底的に洗浄
創の消毒をしようとしている推奨されない(グレードC2)。細菌感染率を下げるエビデンスがなく、組織障害が懸念される。ただし狂犬病感染が危惧される場合は考慮(C1)
顔面の創受傷後24時間以内であれば積極的に縫合を考慮してもよい当院では縫えないので、この24時間は搬送の期限になる
顔面以外の創縫合可能な時間は8時間以内とする意見が多い(エビデンスレベルは低い)。当院では縫えないので、この8時間も搬送の期限。ただし咬傷は一次縫合を避ける場面が多いので、送る前に「そもそも縫う創か」を考える
手の咬傷/刺創/易感染性の基礎疾患一次縫合の適応は慎重に選ぶ。手の咬傷は他部位より有意に感染率が高い
洗浄の行き届かない刺創一次縫合は推奨されない

破傷風

創の状態分類
汚染創、穿刺創、壊死組織を伴う創、受傷から6時間超高リスク創
清潔な切創、浅表創低リスク創
接種歴次の一手
3回以上接種済み最後のトキソイド注射から、高リスク創は5年以上・低リスク創は10年以上経過していればトキソイドが必要。それ未満なら不要
接種歴が不十分または不明+汚染または大きな創トキソイドに加えヒト破傷風免疫グロブリン(TIG)の適応
低リスク(清潔・浅表)創通常トキソイド単独投与
抗菌薬で破傷風を予防しようとしているエビデンスはなく、受傷後の予防投与は推奨されない

要確認: 破傷風トキソイドは2025年7月時点で限定出荷の状態だった(沈降破傷風トキソイド「生研」は2025年7月29日から出荷再開も当面限定出荷、破トキ「ビケンF」も6月から限定出荷)。2026年9月時点の供給状況は未確認。DT・DPTは破傷風曝露後予防としては保険適応外。当直の前に院内在庫を確認すること

狂犬病

所見次の一手
国内で犬・猫に咬まれた日本は狂犬病の発生のない国(人は1956年、動物は1957年の猫が最後)。国内曝露のリスク評価と海外曝露は分けて考える
海外(流行国)で咬まれた/コウモリに咬まれた「できるだけ早く接種を開始する必要があります」。創は石鹸と流水で徹底的に洗浄。渡航医学の相談先へ
咬んだ動物を特定でき観察できる受傷から2週間以上その動物が狂犬病の症状を示さなければ、咬まれたときに感染した可能性を否定できる
免疫グロブリンが要りそう一般に入手が難しい。受け入れ先・専門機関に早めに相談する

ハチ刺傷・虫刺され

所見次の一手
皮膚・粘膜症状+気道/呼吸・循環器・重度消化器症状のいずれかアナフィラキシー。アドレナリン筋注(エピペンじんましんとアナフィラキシー
典型的な皮膚症状がなくても、血圧低下・気管支攣縮・喉頭症状が数分〜数時間で急速に発症アナフィラキシーの可能性が非常に高い。皮疹がないことを否定の根拠にしない
ハチに刺された致死的反応で呼吸停止・心停止までの中央値は15分。観察の場を離れない
アドレナリンを打った二相性反応に備える。成人の最大23%・小児の最大11%に発生し、約半数は最初の反応後6〜12時間以内に出現。アドレナリン投与の遅れ(発症から30分以上)は二相性反応の出現に関連する
マダニが咬着している無理に引きちぎらない。SFTS(潜伏期6〜14日、通常7〜10日)・日本紅斑熱(潜伏期2〜8日)・つつが虫病(潜伏期5〜14日)を念頭に、後日の発熱で再受診する条件を渡す
数日後の発熱+発疹+刺し口日本紅斑熱(発疹は体幹より四肢末端部に強い)・つつが虫病を疑い、届出対象疾患として対応

送る/持つ(当院=二次救急・外科的処置なし)

状態当院の扱い
頭蓋内穿通が疑われる頭部咬傷(特に2歳未満)持てない。脳外科のある施設へ
胸腹部咬傷で気胸・内臓損傷を疑う持てない
深い創・大血管損傷・多発外傷持てない
顔面の縫合(24時間以内)当院では縫えない受傷後24時間以内に形成外科のある施設へ着かせる
アナフィラキシーアドレナリンは当院で。二相性反応の観察をどこまで当院で担うかは要確認
表在性の創・洗浄と破傷風対応のみ当院で対応

エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)

  • 確定(2026-09-14)当院で創縫合は行わない。洗浄・被覆・破傷風予防までが当院の範囲
  • 要確認:破傷風トキソイド・TIGの院内在庫(供給不足の影響を受けている可能性がある)
  • 要確認:狂犬病曝露後予防が必要なときの相談先(渡航医学・検疫)
  • 要確認:アナフィラキシー後の観察時間の院内基準(二相性反応は6〜12時間以内が半数)
  • 要確認:脳外科・形成外科の夜間受け入れ先

家族に渡す一文

「咬まれた傷は、見た目より中が傷んでいることがあります。とくに小さなお子さんの頭は、皮膚の傷が小さくても中まで届いていることがあるので、必要なら詳しい検査をします。傷はよく洗うことが大事で、消毒はかえって治りを悪くすることがあるため行いません。破傷風の予防が必要かどうかは、傷の状態と予防接種の記録で決めますので、母子手帳を見せてください。ハチに刺された後は、しばらく目を離さないでください。息苦しさ・声のかすれ・ぐったりが出たら、すぐ知らせてください。」

医師確認事項(要・岡本判断)

  • 決着(2026-09-14)当院で縫合は行わない。顔面24時間以内の創は、その時間内に形成外科へ着かせる運用になる。残る判断は、どこへ送るか(施設名・番号は保留中)。
  • 要確認:破傷風トキソイドの在庫と、供給不足時の代替方針。
  • 要確認:アナフィラキシー後の観察時間の院内基準(二相性反応の6〜12時間をどう扱うか)。
  • 要確認:狂犬病免疫グロブリンの現在の入手可否。2015年の資料は「入手は不可能」、2025年の資料は「一般に入手が難しい」と表現が変わっており、確定できていない。
  • 要確認:つつが虫病の潜伏期間が、同じ機構の2ページ間で「5〜14日」と「10〜14日」に食い違っている。本シートは疾患自身のページの「5〜14日」を採った。

出典

  • 日本形成外科学会・日本創傷外科学会・日本頭蓋顎顔面外科学会.急性創傷診療ガイドライン 第Ⅰ編 第5章 動物咬傷.2015年4月10日 第1版第1刷(金原出版).https://jsprs.or.jp/docs/guideline/keiseigeka2.pdf (2026-09-12閲覧)。CQ49 一次縫合(グレードC1。手・刺創・易感染性の基礎疾患では慎重に。顔面は受傷後24時間以内なら積極的に考慮してもよい。縫合可能な時間は顔面24時間以内・その他8時間以内とする意見が多い〈エビデンスレベルVI〉)、CQ47 創部消毒(推奨されない・グレードC2。狂犬病が危惧される場合は考慮・C1)、CQ46 創部洗浄(有効・グレードB。狂犬病疑いは石鹸と流水で徹底洗浄=WHO・厚生労働省の狂犬病対応ガイドライン2001)、CQ38 小児の犬咬傷(死亡例は小児に偏在。2歳未満の乳児の頭部外傷は皮膚損傷が軽微でも頭蓋内穿通創がありうる。胸部腹部咬傷では気胸・内臓損傷の確認)。
  • 日本感染症学会.破傷風トキソイド供給不足への対応について.2025年7月30日.https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/news/gakkai/gakkai_toxoid_250730.pdf (2026-09-12閲覧)。高リスク創・低リスク創の目安、接種歴と創リスクによるトキソイド・免疫グロブリンの要否(3回以上接種済みで高リスク創は5年以上・低リスク創は10年以上)、TIGの適応、抗菌薬による破傷風発症予防のエビデンスはなく受傷後の予防投与は推奨されないこと、供給状況(2025年7月30日時点)。
  • 厚生労働省.狂犬病に関するQ&A.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rabies_qa.html (2026-09-12閲覧)。日本国内の発生状況(人は1956年、動物は1957年の猫が最後で現在は発生のない国)、輸入感染事例4例、咬まれた際はできるだけ早く接種を開始する必要があること、咬んだ動物を2週間以上観察して症状を示さなければ感染の可能性を否定できること
  • 国立健康危機管理研究機構 トラベルクリニック.狂犬病ワクチンについて.最終更新2025-08-04.https://travelclinic.jihs.go.jp/021/Rabies2025.pdf (2026-09-12閲覧)。咬まれた後からでもワクチン接種で発症を予防できること、免疫グロブリンが一般に入手が難しいこと。
  • 日本アレルギー学会 Anaphylaxis対策委員会.アナフィラキシーガイドライン2022.https://www.jsaweb.jp/uploads/files/Web_AnaGL_2022_1201.pdf (2026-09-12閲覧)。診断基準、致死的反応において呼吸停止または心停止までの中央値は薬物5分・ハチ15分・食物30分(Pumphrey RS. Clin Exp Allergy. 2000;30:1144-50 の引用。母集団は英国データ)、二相性反応の頻度(成人最大23%・小児最大11%、約半数は最初の反応後6〜12時間以内)、アドレナリン投与の遅れ(発症から30分以上)と二相性反応の関連。
  • 国立健康危機管理研究機構.重症熱性血小板減少症候群(SFTS)https://id-info.jihs.go.jp/diseases/sa/sfts/index.html (更新2025-06-19)/日本紅斑熱 https://id-info.jihs.go.jp/diseases/na/jsf/010/index.html /つつが虫病 https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/tsutsugamushi-disease/detail/index.html (2026-09-12閲覧)。潜伏期間、症状、発生地域。

手技

手技

動物咬傷・ハチ刺傷にその場で対応する

小児の犬咬傷は、傷の見た目より中が危ない。 2歳未満の頭部咬傷は皮膚の傷が軽微でも頭蓋内穿通創がありうるため見た目で判断しない。創の消毒は推奨されず、石鹸と流水での洗浄が有効ハチのアナフィラキシーは速く、致死的反応で呼吸停止・心停止までの中央値は15分

始める前に

  • 小児の犬咬傷は成人より注意深く診察する。頭蓋内損傷、内臓・頸椎・気管・大血管損傷、筋肉内血腫、多発骨折、複数箇所の損傷、穿通創や鈍的外傷を探す
  • 2歳未満の頭部・顔面の咬傷は皮膚損傷が軽微でも頭蓋内穿通創がありうる。頭部画像を検討し脳外科のある施設へ相談する
  • 胸部・腹部の咬傷は気胸と内臓損傷の有無を確認する
  • 咬んだ動物を特定でき観察できるか確認する(受傷から2週間以上その動物が狂犬病の症状を示さなければ感染の可能性を否定できる)

手順

  1. 1

    石鹸と流水で創を洗浄する。狂犬病が疑われる咬傷は徹底的に洗浄する

    洗浄は有効(グレードB)

  2. 2

    顔面の創は受傷後24時間以内であれば積極的に縫合を考慮する。顔面以外は8時間以内を目安とする

  3. 3

    手の咬傷・刺創・易感染性の基礎疾患がある場合は一次縫合の適応を慎重に選ぶ

    手の咬傷は他部位より有意に感染率が高い

  4. 4

    破傷風は創を高リスク創(汚染創、穿刺創、壊死組織を伴う創、受傷から6時間超)/低リスク創に分類し、接種歴と合わせてトキソイド・TIGの要否を判断する

  5. 5

    海外(流行国)で咬まれた・コウモリに咬まれた場合はできるだけ早く狂犬病ワクチン接種を開始し、創は石鹸と流水で徹底的に洗浄する

  6. 6

    皮膚・粘膜症状+気道/呼吸・循環器・重度消化器症状のいずれかがあればアナフィラキシーとしてアドレナリンを筋注する

    典型的な皮膚症状がなくても急速に発症しうる(皮疹がないことを否定の根拠にしない)

  7. 7

    ハチに刺された場合は観察の場を離れない

    致死的反応で呼吸停止・心停止までの中央値は15分

  8. 8

    アドレナリンを投与したら二相性反応に備えて経過観察する

    成人最大23%・小児最大11%に発生し、約半数は最初の反応後6〜12時間以内に出現。アドレナリン投与の遅れ(発症から30分以上)は二相性反応の出現に関連する

  9. 9

    マダニが咬着している場合は無理に引きちぎらず、SFTS・日本紅斑熱・つつが虫病を念頭に後日の発熱で再受診する条件を渡す

やってはいけない

  • 創の消毒をする(推奨されない・グレードC2。ただし狂犬病感染が危惧される場合は考慮)
  • 洗浄の行き届かない刺創を一次縫合する
  • 抗菌薬で破傷風発症を予防しようとする(エビデンスはなく受傷後の予防投与は推奨されない)
  • 皮疹(皮膚症状)がないことをアナフィラキシー否定の根拠にする
  • マダニを無理に引きちぎる

終わったあと

  • 咬まれた傷はよく洗うことが大事で、消毒はかえって治りを悪くするため行わないことを伝える
  • 破傷風の予防が必要かどうかは傷の状態と予防接種の記録で決めるため母子手帳を見せてもらう
  • ハチに刺された後はしばらく目を離さないよう伝える。息苦しさ・声のかすれ・ぐったりが出たらすぐ知らせるよう伝える

この場で持てない・送る

  • 頭蓋内穿通が疑われる頭部咬傷(特に2歳未満) → 持てない。脳外科のある施設へ
  • 胸腹部咬傷で気胸・内臓損傷を疑う → 持てない
  • 深い創・大血管損傷・多発外傷 → 持てない
  • 顔面の縫合(24時間以内) → 当院で縫えるかは要確認。縫えないなら形成外科のある施設へ
  • 免疫グロブリンが要りそう → 一般に入手が難しい(2015年の資料は「入手は不可能」、2025年の資料は「一般に入手が難しい」と表現が変わっており確定できていない)。受け入れ先・専門機関に早めに相談する
  • 要確認:当院で創縫合をどこまで行うか(部位・深さ・年齢)
  • 要確認:破傷風トキソイド・TIGの院内在庫(供給不足の影響を受けている可能性がある。2026年9月時点の供給状況は未確認)
  • 要確認:狂犬病曝露後予防が必要なときの相談先(渡航医学・検疫)、狂犬病免疫グロブリンの現在の入手可否(2015年と2025年の資料で表現が異なり確定できていない)
  • 要確認:アナフィラキシー後の観察時間の院内基準(二相性反応は最初の反応後6〜12時間以内が約半数)
  • 要確認:脳外科・形成外科の夜間受け入れ先
  • 要確認:つつが虫病の潜伏期間は同じ機構内のページ間で「5〜14日」(疾患ページ)と「10〜14日」(別ページ)の記載に食い違いがあり、本カードは疾患ページの「5〜14日」を採用した

手順・適応・禁忌はすべて本シートの正本の記載のみ。院内の器材・採用薬・搬送先は施設ごとに違うため、適用前に院内ルールを確認すること。

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