低体温(偶発性低体温症)

低体温(偶発性低体温症)

救急・外傷・中毒β版・逐条レビュー継続中

2026-09-13更新
β版用量は適用前に一次資料と院内採用を確認。このβ版について

施設プロファイル: 二次救急/体外循環による復温を持たない
溺水は溺水、対になる病態は熱中症

30秒要約

  • 定義深部体温(直腸温、膀胱温、食道温、肺動脈温など)が35℃以下に低下した状態事故や不慮の事態に起因する低体温を、意図的な低体温と区別して偶発性低体温症と呼びます。
  • 腋窩温では測れない。深部体温を測らないと、この病気は始まりません。直腸温を測る
  • 30℃以下は触るだけで危ない30℃以下では心筋の被刺激性が著しく高まり致死的な不整脈を発生しやすく、患者の扱いには愛護的な配慮が必要乱暴に動かさない・揺らさない
  • 子どもは冷えやすい幼少児は原因のリストに明記されています。体表面積が大きく、熱産生の予備が小さい。
  • 復温するまで死亡を判定しない。心停止に見えても、復温がなされるまでは死亡判定をすべきではないとされます(下の医師確認事項)。

レッドフラグ → 次の一手

所見があったときにどれだけ急ぐかと、家族に何を伝えるかの対応表。3列目の文言は家族説明ページに同じ言葉で載っているので、画面を見せながら渡せる。

緊急度所見その場で次にやること時間の勝負
119深部体温28℃以下(高度低体温)筋は硬直致死的不整脈のリスク愛護的に扱い、体外循環を持つ施設へ即時
119心停止・脈が触れない復温しながら蘇生を続ける復温前に死亡を判定しない即時
119意識レベルの低下(感情鈍磨〜昏睡)中等度以上。持てない即時
119徐脈・徐呼吸体温の低下は、神経系では感情鈍磨から昏睡状態へ、呼吸系では頻呼吸から徐呼吸・呼吸停止へ、循環系では頻脈から徐脈・心停止へといずれも抑制的に働く即時
119心電図でJ波(Osborn波)低体温の特徴的所見。重症度の確認即時
緊急戦慄(shivering)が消えた中等度低体温では戦慄は消失震えが止まった=悪化。軽症化と読み違えない即時
緊急低血糖を伴う低血糖は低体温の原因にも結果にもなる血糖を測る低血糖即時
緊急新生児・乳児の低体温+哺乳低下・不活発敗血症を疑う新生児は発熱ではなく低体温で来る生後3か月未満の発熱小児敗血症即時
緊急説明のつかない低体温(屋内、寒冷曝露なし)中毒・内分泌疾患・低血糖・敗血症・虐待(ネグレクト)を考える即時
当日軽度低体温(35〜32℃)で意識清明、震えあり受動的復温。原因を探す当日

重症度分類(そのまま使う)

区分深部体温骨格筋神経呼吸循環
軽度低体温35〜32℃戦慄(shivering)する感情鈍磨頻呼吸頻脈
中等度低体温32〜28℃戦慄は消失意識低下徐呼吸へ徐脈へ
高度低体温28℃以下筋は硬直昏睡呼吸停止へ心停止へ

「震えていないから軽い」は逆です。 震えが消えるのは32℃を下回ったサインです。

心電図

心電図ではT波逆転、PQ・QR・QTSの延長、種々の不整脈などがみられるが、特徴的なものとしてQRS群の終末に出る陽性動揺はJ波(Osborn波)として有名である。

30℃以下では心筋の被刺激性が著しく高まり致死的な不整脈を発生しやすく、患者の扱いには愛護的な配慮が必要である。

体位変換・ライン確保・移送は、できるだけそっと心電図)。

原因(子どもで実際に当たるもの)

低体温症の原因には、①寒冷環境、②熱喪失状態、③熱産生低下、④体温調節能低下などがあり、これらが単独あるいは複合して発症する。

具体的に挙げられているもの:山岳遭難、水難事故、泥酔、薬物中毒、脳血管障害、頭部外傷、幼少児、高齢者、路上生活者、広範囲熱傷、皮膚疾患、内分泌疾患(甲状腺・下垂体・副腎などの機能低下)、低血糖、低栄養

小児の当直で実際に多いのは:

場面押さえること
水難事故・溺水水は空気の20倍以上の速さで熱を奪う(下の医師確認事項)。溺水
新生児・低出生体重児体表面積が大きく、すぐ冷える。敗血症のサインでもある
広範囲熱傷冷やしすぎが小児では危険熱傷
急性中毒アルコール・向精神薬(急性中毒
低血糖・低栄養低血糖
内分泌疾患甲状腺機能低下症・副腎不全
ネグレクト・屋外放置屋内で説明のつかない低体温は虐待も考える
手術・処置後輸液・室温・露出

治療ワークフロー(当院でやること)

やること
1深部体温を測る(直腸温)。腋窩温で判断しない
2気道・呼吸・循環愛護的に扱う(乱暴な体位変換をしない)
3濡れた衣服を全部脱がせる毛布・加温(受動的復温)
4血糖を測る低血糖
5心電図モニタ(J波・不整脈)(心電図
6採血:血算・生化・電解質・血ガス・凝固・甲状腺(必要に応じ)・中毒スクリーニング
7加温輸液(当院で可能かは要確認)
8原因を探す:中毒・敗血症・内分泌・外傷・低血糖・ネグレクト
9重症度で分ける中等度以上(32℃未満)は持てない
10搬送先に体温・意識・心電図所見・推定曝露時間を伝える

復温の考え方

区分方法
受動的復温濡れた衣服の除去・乾いた毛布・室温を上げる。軽度低体温で意識清明なら、まずこれ
能動的体表復温加温ブランケット・温風式加温
能動的体内復温加温輸液・加温加湿酸素・体腔洗浄
体外循環(ECMO等)高度低体温・心停止当院で持てない

本シートは復温の速度・目標温・具体的手技を書いていません(下の医師確認事項)。

鑑別・併存を必ず探す

病態なぜ探すか
低血糖原因にも結果にもなる。測れば分かる
敗血症乳児は発熱ではなく低体温で来る小児敗血症
急性中毒体温調節を壊す(急性中毒
副腎不全・甲状腺機能低下説明のつかない低体温
頭部外傷・脳血管障害意識障害と低体温が両方ある(頭部打撲意識障害
溺水溺水
虐待・ネグレクト屋内・季節に合わない状況(歩かない・手足を動かさない
凍傷末梢の色調・知覚。低体温の復温を優先

問診チェック

  • どこで、どのくらいの時間、どんな状況で(屋外/屋内/水中/風・雨)
  • 衣服の状態(濡れていたか)
  • 最後に元気だった時刻
  • 食事の最終摂取(低血糖・低栄養)
  • 内服・誤飲の可能性
  • 既往(内分泌疾患・神経疾患・皮膚疾患)
  • 家庭の状況(暖房・養育環境)。責める聞き方をしない
  • 新生児・乳児では:哺乳・活気・体重

送る/持つ(当院=二次救急・体外循環なし)

状態当院の扱い
高度低体温(28℃以下)・心停止持てない体外循環を持つ施設へ
中等度低体温(32〜28℃)持てない。復温を開始しながら搬送
軽度低体温(35〜32℃)+意識清明+原因が明確当院で受動的復温し、原因を治療
低血糖を伴うブドウ糖は当院で
敗血症を疑う乳児持てない小児敗血症
ネグレクトを疑う持てない。通告と全身評価

エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)

  • 要確認:深部体温計(直腸温プローブ)が当直帯にあるか。無ければこのシートは動かない
  • 要確認:加温ブランケット・温風式加温装置・輸液加温器の有無
  • 要確認:体外循環(ECMO)による復温ができる搬送先
  • 要確認:当院で復温をどこまで行うか(体温の目標と速度)
  • 要確認:低体温で心停止した患者の蘇生中止基準を当院でどう扱うか

家族に渡す一文

体の芯の温度が下がりすぎている状態(低体温症)です。わきの下ではなく、おしりから体の奥の温度を測ります。体の芯が冷えると、震えが止まり、ぼんやりして、脈も呼吸もゆっくりになります震えが止まったのは、良くなったのではなく、悪くなったサインです。冷えた心臓は刺激に弱いので、そっと扱いながら、ゆっくり温めていきます。温度が大きく下がっている場合は、血液を体の外で温める装置がある病院にお願いします。いま血糖も測ります。低血糖は、冷えの原因にも結果にもなるためです。」

医師確認事項(要・岡本判断)

  • 要確認:本シートの定義・重症度分類・心電図所見は日本救急医学会の用語解説(用語委員会)を一次資料としている。診療ガイドラインではない。復温の具体的な手技・速度・目標温は載っていないため、本シートも書いていない。
  • 要確認:「復温がなされるまでは死亡判定をすべきではない」は、検索で救急向けの解説に現れた記載で、本シートでは一次資料(JRC蘇生ガイドライン等)を確認していない。本文では「とされます(要確認)」の扱いにしている。蘇生中止の判断に使うなら、必ず原典を確認すること
  • 要確認:「水は空気の20倍以上の速さで熱を奪う」も一次資料未確認。載せ続けるなら裏取りが要る。
  • 要確認:小児に特化した低体温の重症度区分・復温プロトコルは本シートで見つけられなかった。引用した区分は成人を含む一般的なもの
  • 要確認:「乳児は発熱ではなく低体温で敗血症を呈する」小児敗血症生後3か月未満の発熱と整合させたい。本シートでは一次資料を確認していない。
  • 要確認:当院に直腸温プローブがあるか。これが無いと「35℃以下」の定義に乗れない。最優先で確認したい項目。

出典

  • 日本救急医学会 用語委員会.医学用語解説集「偶発性低体温症」https://www.jaam.jp/dictionary/dictionary/word/0508.html (2026-09-13閲覧)。「低体温症hypothermiaとは深部体温(直腸温,膀胱温,食道温,肺動脈温など)が35℃以下に低下した状態をさす。事故や不慮の事態に起因する低体温を,低体温麻酔のように意図的に低体温とした場合と区別するために,偶発性低体温症accidental hypothermiaと呼ぶ」「低体温症の原因には,①寒冷環境,②熱喪失状態,③熱産生低下,④体温調節能低下などがあり,これらが単独あるいは複合して発症する。具体的には,山岳遭難,水難事故,泥酔,薬物中毒,脳血管障害,頭部外傷,幼少児,高齢者,路上生活者,広範囲熱傷,皮膚疾患,内分泌疾患(甲状腺・下垂体・副腎などの機能低下)低血糖,低栄養などでおこりやすい」「一般的に,軽度低体温(35〜32℃),中等度低体温(32〜28℃),高度低体温(28℃以下)に分類される。軽度低体温では骨格筋は戦慄(shivering)するが,中等度低体温では戦慄は消失し,高度低体温では筋は硬直する」「同様に体温の低下は,神経系では感情鈍磨から昏睡状態へ,呼吸系では頻呼吸から徐呼吸・呼吸停止へ,循環系では頻脈から徐脈・心停止へといずれも抑制的に働く」「心電図ではT波逆転,PQ・QR・QTSの延長,種々の不整脈などがみられるが,特徴的なものとしてQRS群の終末に出る陽性動揺はJ波(Osborn波)として有名である。30℃以下では心筋の被刺激性が著しく高まり致死的な不整脈を発生しやすく,患者の扱いには愛護的な配慮が必要である」。

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