歩かない・手足を動かさない(外傷・跛行)

歩かない・手足を動かさない(外傷・跛行)

整形β版・逐条レビュー継続中

2026-09-10更新
β版用量は適用前に一次資料と院内採用を確認。このβ版について

施設プロファイル: 二次救急/外科・整形外科の手術対応なし/当直帯に超音波・MRIは使えず、末梢血液像も出ない(2026-09-14 確認)。関節穿刺・ドレナージ・筋膜切開・観血的整復はいずれも当院で持てない。

30秒要約

  • 「歩かない」は主訴であって診断ではない。発熱があれば化膿性関節炎を最初に外す。関節軟骨は時間で壊れる。
  • 乳児の骨折は、それだけで虐待を疑う理由になる。虐待による骨折の90%は2歳未満、自然外力による骨折の85%以上は5歳以上。歩けない児の大腿骨骨幹部骨折は特異性が高い。
  • 受傷機転と所見が合わないときは、機転のほうを疑う
  • 鎮痛に反応しない痛み+腫脹+他動的伸展で増悪 → コンパートメント症候群。筋膜切開は当院で持てない
  • 肘内障の典型像は別シート(肘内障)へ。

レッドフラグ

所見があったときにどれだけ急ぐかと、家族に何を伝えるかの対応表。3列目の文言は家族説明ページに同じ言葉で載っているので、画面を見せながら渡せる。

緊急度所見その場で次にやること時間の勝負
119開放骨折(創から骨が見える・皮膚の連続性が断たれている)創を清潔に覆い固定。整形外科のある施設へ緊急搬送待たない
119鎮痛に反応しない強い痛み+腫脹+他動的伸展で増悪コンパートメント症候群。締め付けを解除し、患肢を心臓より高く上げすぎない。緊急で整形外科へ筋膜切開が要る
緊急発熱+関節を動かさない・荷重不能Kocher基準を取る。化膿性関節炎なら関節穿刺・ドレナージが要る=当院で持てない関節軟骨は時間で壊れる
緊急乳児(特に歩けない児)の骨折虐待を疑う閾値を下げる。全身骨X線と通告の検討
緊急受傷機転と所見が合わない/受診までの時間が長い/説明が変わる同上
緊急麻痺・脈拍消失コンパートメント症候群の進行例。緊急待たない
当日発熱なし・荷重可能・経過が矛盾しない単純性股関節炎などを考えつつ、再評価の日時を約束する

鑑別:発熱を伴う跛行 — Kocher基準

化膿性股関節炎と単純性(一過性)股関節炎の鑑別に使う4項目。

項目閾値
発熱38.5℃超
患肢の荷重不能non-weight-bearing
赤沈(ESR)40 mm/時 超
白血球数12,000/mm³ 超

該当数と化膿性関節炎の予測確率: 0項目 0.2%未満/1項目 3.0%/2項目 40.0%/3項目 93.1%/4項目 99.6%

CairdらはこれにCRP 2.0 mg/dL以上を加えた5項目を提唱し、3項目以上で化膿性股関節炎の可能性が高く診断率が80%を超えるとしている。

使い方: 当院は関節穿刺・ドレナージを持たないので、スコアが高ければ確定を待たずに送る。低くても、発熱があって歩けない児を「様子見」で帰さない。

鑑別:見逃してはいけない

疾患これがあれば疑う確認法当院の扱い
化膿性関節炎・骨髄炎発熱+荷重不能+関節の自動運動を嫌がる。Kocher高値血算・CRP・血液培養(当直帯にエコーは無い。ESRの夜間可否も要確認)。Kocher基準は診察と血算・CRPで組めるので、画像なしでも判断は立つ持てない疑った時点で穿刺・ドレナージのできる施設へ
開放骨折創と骨折の連続視診持てない。緊急搬送
コンパートメント症候群鎮痛に反応しない痛み、腫脹、他動的伸展で増悪、異常感覚。麻痺・脈拍消失は進行例臨床所見が中心(内圧測定はおおむね30mmHg以上が目安とされる)持てない。筋膜切開が要る
虐待による骨折乳児の骨折、受傷機転と所見の不一致、多発・新旧混在全身骨X線(下記)通告と、施設内の虐待対応の枠組みへ
精巣捻転男児が下腹部痛で歩けない陰嚢を診る(急性陰嚢症持てない。6〜8時間の勝負
悪性腫瘍(白血病・骨腫瘍)の骨痛夜間痛、体重減少、複数部位、外傷歴に乏しい血算・末梢血像・画像要確認: 本シートでは国内の一次情報を確認できていない。臨床的には鑑別に置く

虐待を疑ったとき(日本小児科学会 子ども虐待問題プロジェクト)

全身骨X線撮影(骨スクリーニング)の適応

  • 2歳以下では、疑われる場合は全員に行う(無症状や病歴不詳例などが隠れているため)
  • 2〜5歳では、診察所見で骨損傷の疑いのある症例のみ
  • 年長児では無症状の骨折は経験されないため、この検査は不要

撮り方

  • 全身の前後像を1枚で撮るのではなく、各部位ごとに撮影方法を選択して細分化して行う
  • 1回のみでなく、1〜2週間後に再度行う。初回で見逃されやすい微細な骨折を見逃さないため
  • この再検査は1歳未満の乳児など低年齢児には不可欠(骨折による変位が少なく受傷早期の診断が困難であること、身体的虐待での骨折が乳児期にきわめて多いことの2点から)

骨折の特異度

特異度骨折
高い骨幹端骨折、肋骨(背部の肋骨脊椎接合部)、棘突起骨折、胸骨骨折、肩甲骨骨折
中程度骨端離開、脊椎の骨折や脱臼、指趾の骨折、頭蓋の複雑骨折、複数骨折(特に両側性)、異なる骨折時期の存在
低い鎖骨骨折、長管骨骨幹部骨折、頭蓋骨線状骨折

年齢の重み

  • 自然外力による骨折の85%以上は5歳以上
  • 虐待による骨折の90%は2歳未満
  • 実際には歩けない5か月児が大腿骨骨幹部骨折、あるいは頭蓋骨線状骨折があれば、虐待の特異性は高くなる

受傷機転から疑う骨折形態

  • 骨幹端骨折(corner fracture/bucket handle fracture)は自然外力ではとても起こりえない骨折形態
  • 長管骨に捻転するような外力が加わると起こるらせん状骨折
  • パイプを折り曲げるような外力で起こり、対側の骨膜・皮質は保たれ片側のみ骨折という鉛管骨折

所見の取り方

  • どこが痛いかを、子どもに触らせて指させる。乳児は健側と比較して、自発運動の左右差を見る。
  • 関節の自動運動を嫌がるか(化膿性関節炎は自動・他動とも強く嫌がる)。
  • 歩かせる。荷重できるかどうかがKocherの1項目そのもの。
  • 全身の皮膚を見る。あざの部位・新旧・形(虐待の手がかり)。
  • 腫脹している部位では、他動的伸展で痛みが増すかを必ず確認する(コンパートメント症候群)。

問診チェック

検査

  1. 発熱+跛行では血算・CRP・ESR・血液培養。Kocherの2項目が検査値。
  2. エコーで関節液貯留を見る。当直帯は当院で当てられないので、この工程は飛ばして、診察所見と血算・CRPで疑ったらそのまま相談する
  3. X線は部位を決めて撮る。骨折疑い部位は正面と側面の両方。
  4. 虐待を疑う2歳以下は全身骨X線(上記の適応と撮り方に従う)。1〜2週間後の再撮影を予定に入れる。

送る/持つ(当院=二次救急・外科的処置なし)

状態当院の扱い
開放骨折持てない。創を覆い固定して緊急搬送
コンパートメント症候群の疑い持てない。筋膜切開が要る。緊急搬送
化膿性関節炎の疑い(Kocher高値)持てない。関節穿刺・ドレナージのできる施設へ
転位のある骨折・整復が要る骨折持てない。整形外科のある施設へ
虐待を疑う医学的対応と並行して、施設内の虐待対応の枠組みへ。通告は疑いの段階で行う
単純性股関節炎らしい当院で経過観察しうる。再評価の日時を約束する

送ると決めた時点でやること

  1. 固定(動かさない)、鎮痛
  2. 開放創は清潔に覆う
  3. 受け入れ先へ先に電話。発熱の有無とKocherの該当数を最初に伝える
  4. 絶食(手術になりうる場合)

エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)

  • 確定(2026-09-14 確認)当直帯に院内の整形外科はいない。夜間・休日の受け入れ先と直通番号は要確認(保留中)
  • 要確認:虐待を疑ったときの院内手順(誰に報告し、誰が通告するか、夜間はどうするか)
  • 要確認:夜間にESRが出せるか(出せないならKocherの4項目が揃わない。その場合の代替をどうするか)
  • 確定(2026-09-14)単純X線は夜間も撮れる。虐待評価の全身骨X線を当直帯に撮る運用にするかは要確認(読影体制も含めて)

家族に渡す一文

「痛がって使わない手足には、骨や関節の中で急いで治療が必要なものが隠れていることがあります。とくに熱があって足をつけない場合は、関節の中に細菌が入っている可能性を先に確かめます。当院では手術ができないので、必要と判断したら、できる病院にお願いします。」

医師確認事項(要・岡本判断)

  • 要確認:夜間にESRが測定できるか。できない場合、Kocher基準をそのまま使えない。代替の運用(CRPを含むCaird基準に寄せる等)を決める必要がある。
  • 要確認:虐待を疑ったときの院内手順と、夜間の通告経路。このシートで最も運用依存の部分
  • 要確認:Kocher基準の数値は二次情報(MDCalc・Orthobullets等)経由で確認しており、原著 Kocher MS et al. J Bone Joint Surg Am 1999 の本文は未確認
  • 要確認:虐待の放射線所見の出典は2006年4月の資料。より新しい「子ども虐待診療の手引き」第3版との照合が未。
  • 要確認:悪性腫瘍による骨痛を鑑別に入れているが、国内の一次情報は確認できていない。

出典

  • 日本小児科学会 子ども虐待問題プロジェクト.15. 虐待を受けた子どもの放射線所見.2006年4月.https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/abuse_15.pdf (2026-09-10閲覧)。全身骨X線撮影の適応(2歳以下は全員/2〜5歳は疑い例のみ/年長児は不要)、1〜2週間後の再撮影と1歳未満での必要性、骨折の特異度分類、自然外力による骨折の85%以上が5歳以上・虐待による骨折の90%が2歳未満、骨幹端骨折(corner/bucket handle)・らせん状骨折・鉛管骨折。2006年の資料であり、より新しい「子ども虐待診療の手引き」との照合は未
  • Kocher MS, Zurakowski D, Kasser JR. Differentiating between septic arthritis and transient synovitis of the hip in children: an evidence-based clinical prediction algorithm. J Bone Joint Surg Am. 1999. 4項目(発熱38.5℃超・荷重不能・ESR 40mm/時超・白血球12,000/mm³超)と該当数別の予測確率(0項目0.2%未満/1項目3.0%/2項目40.0%/3項目93.1%/4項目99.6%)。MDCalc・Orthobullets等の二次情報経由で確認しており、原著本文は未確認https://www.mdcalc.com/calc/1817/kocher-criteria-septic-arthritis
  • Caird らの5項目(Kocherの4項目+CRP 2.0 mg/dL以上、3項目以上で診断率80%超)。二次情報経由・原著未確認
  • コンパートメント症候群の症状(他動的伸展での増悪、鎮痛に反応しない痛み、麻痺・脈拍消失は進行例、内圧おおむね30mmHg以上): MSDマニュアル ほかの二次情報経由。国内学会の一次資料は未確認
  • 肘内障は本サイトの別シート「肘内障」を参照(日本整形外科学会の資料に基づく)。

手技

手技

歩かない子を評価し、送る準備をする

「歩かない」は主訴であって診断ではない。発熱があれば化膿性関節炎を最初に外す。乳児の骨折は、それだけで虐待を疑う理由になる。受傷機転と所見が合わないときは、機転のほうを疑う。

始める前に

  • 「歩かない」は主訴であって診断ではない。発熱があれば化膿性関節炎を最初に外す。関節軟骨は時間で壊れる
  • 乳児の骨折は、それだけで虐待を疑う理由になる。虐待による骨折の90%は2歳未満、自然外力による骨折の85%以上は5歳以上。歩けない児の大腿骨骨幹部骨折は特異性が高い
  • 受傷機転と所見が合わないときは、機転のほうを疑う
  • いつから、どこが、どうなったか。受傷の目撃者は誰か
  • 受傷機転と、いまの所見が釣り合っているか
  • 受診までの時間(長いこと自体が手がかり)
  • 発熱・先行感染
  • 説明が人によって・時間によって変わらないか
  • 過去の受傷歴・受診歴
  • 月齢と、その月齢で可能な動作(寝返り・つかまり立ち・歩行)
  • どこが痛いかを、子どもに触らせて指させる。乳児は健側と比較して、自発運動の左右差を見る
  • 関節の自動運動を嫌がるか(化膿性関節炎は自動・他動とも強く嫌がる)
  • 歩かせる。荷重できるかどうかがKocherの1項目そのもの
  • 全身の皮膚を見る。あざの部位・新旧・形(虐待の手がかり)
  • 腫脹している部位では、他動的伸展で痛みが増すかを必ず確認する(コンパートメント症候群)

手順

  1. 1

    虐待を疑うとき、2歳以下では疑われる場合は全員に全身骨X線(骨スクリーニング)を行う。2〜5歳では診察所見で骨損傷の疑いのある症例のみ。年長児では不要

    2歳以下は無症状や病歴不詳例などが隠れているため、年長児では無症状の骨折は経験されないため

  2. 2

    全身の前後像を1枚で撮るのではなく、各部位ごとに撮影方法を選択して細分化して行う

  3. 3

    1回のみでなく、1〜2週間後に再度撮影する。特に1歳未満の乳児など低年齢児には不可欠

    初回で見逃されやすい微細な骨折を見逃さないため。骨折による変位が少なく受傷早期の診断が困難であること、身体的虐待での骨折が乳児期にきわめて多いことの2点から

  4. 4

    発熱+跛行では血算・CRP・ESR・血液培養を採る

    Kocherの2項目が検査値

  5. 5

    エコーで関節液貯留を見る

  6. 6

    X線は部位を決めて撮る。骨折疑い部位は正面と側面の両方

  7. 7

    送ると決めたら固定(動かさない)と鎮痛を行う

  8. 8

    開放創は清潔に覆う

  9. 9

    受け入れ先へ先に電話する

    発熱の有無とKocherの該当数を最初に伝える

  10. 10

    絶食にする(手術になりうる場合)

やってはいけない

  • 低くても、発熱があって歩けない児を「様子見」で帰さない
  • コンパートメント症候群疑いでは、締め付けを解除し、患肢を心臓より高く上げすぎない
  • 麻痺・脈拍消失が出てもコンパートメント症候群の進行例として様子を見ない(緊急)

この場で持てない・送る

  • 開放骨折 → 持てない。創を覆い固定して緊急搬送
  • コンパートメント症候群の疑い → 持てない。筋膜切開が要る。緊急搬送
  • 麻痺・脈拍消失を伴う場合 → コンパートメント症候群の進行例。緊急
  • 化膿性関節炎の疑い(Kocher高値)→ 持てない。関節穿刺・ドレナージのできる施設へ
  • 転位のある骨折・整復が要る骨折 → 持てない。整形外科のある施設へ
  • 虐待を疑う → 医学的対応と並行して、施設内の虐待対応の枠組みへ。通告は疑いの段階で行う
  • 単純性股関節炎らしい → 当院で経過観察しうる。再評価の日時を約束する
  • 精巣捻転(男児が下腹部痛で歩けない)→ 持てない。6〜8時間の勝負
  • 悪性腫瘍(白血病・骨腫瘍)による骨痛(夜間痛・体重減少・複数部位・外傷歴に乏しい)→ 要確認:本シートでは国内の一次情報を確認できていない。臨床的には鑑別に置く
  • 当院は関節穿刺・ドレナージを持たないので、スコアが高ければ確定を待たずに送る
  • 要確認:整形外科(小児整形)の夜間・休日の受け入れ先と直通番号
  • 要確認:虐待を疑ったときの院内手順(誰に報告し、誰が通告するか、夜間はどうするか)
  • 要確認:夜間にESRが出せるか(出せないならKocherの4項目が揃わない。その場合の代替をどうするか)
  • 要確認:夜間の全身骨X線の実施可否

手順・適応・禁忌はすべて本シートの正本の記載のみ。院内の器材・採用薬・搬送先は施設ごとに違うため、適用前に院内ルールを確認すること。

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