2-1. 腎機能:血清Cr・電解質・eGFR
体表面積あたりのGFRは出生時は成人のおよそ1/5程度で、発達とともに2歳前後で成人と同程度になる。血清Crは筋肉量に比例し腎機能に反比例するため、乳幼児期は絶対値が著しく低い(出生直後は母体と同値→数日後0.4mg/dL程度→1歳で0.2mg/dL台→その後筋肉量増加で徐々に上昇)[1][2]。
日本人小児の血清Cr基準値(酵素法、mg/dL)[1][2]
| 年齢 | 2.5パーセンタイル | 中央値 | 97.5パーセンタイル |
|---|
| 3〜5ヵ月 | 0.14 | 0.20 | 0.26 |
| 1歳 | 0.16 | 0.23 | 0.32 |
| 2歳 | 0.17 | 0.24 | 0.37 |
| 4歳 | 0.20 | 0.30 | 0.40 |
| 6歳 | 0.25 | 0.34 | 0.48 |
| 8歳 | 0.29 | 0.40 | 0.53 |
| 10歳 | 0.30 | 0.41 | 0.57 |
| 12歳(男児) | 0.40 | 0.53 | 0.61 |
| 12歳(女児) | 0.40 | 0.52 | 0.66 |
| 15歳(男児) | 0.48 | 0.68 | 0.93 |
| 15歳(女児) | 0.47 | 0.56 | 0.72 |
日本人小児のeGFR推算式(日本小児腎臓病学会・日本小児科学会・日本小児泌尿器科学会)[1][15]
- 2歳以上19歳未満・精密(5次式): 血清Cr基準値(身長Ht〔m〕から算出)に対する患者Cr値の比を用いて eGFR(mL/min/1.73m²)= 110.2 ×(血清Cr基準値/患者血清Cr)+ 2.93
- 3か月以上2歳未満: 上記5次式で算出したeGFRに、月齢による補正係数 {0.107 × ln(月齢)+ 0.656} を乗じる(体表面積あたりの生理的なGFR低値を補正するための係数)[15]
- 2歳以上12歳未満・簡易式(ベッドサイド用): eGFR(mL/min/1.73m²)= 0.35 × 身長(cm)/血清Cr(mg/dL)(適用年齢は「2〜12歳」ではなく「2歳以上12歳未満」=上限は11歳)[15]
- 2歳未満についてはeGFR式そのものは存在するが、CKDのステージ判定(表2のG1〜G5区分)には使わない。体表面積あたりの生理的GFRが成人・年長児より低く(出生時は成人の約1/5、2歳前後で成人同等)、通常のステージ判定表の基準(G1≥90など)をそのまま当てはめると腎機能障害を過小評価するため。2歳未満は年齢別の血清Cr基準値・CKDステージ判定表(原資料の表8相当)で評価する[1][15]。
- 筋肉量が体格相当でない場合(重症心身障害児・神経筋疾患・低栄養など)はCrベースの評価が腎機能を過大評価するため、血清シスタチンC(eGFR = 104.1/血清シスタチンC − 7.80)や血清β₂ミクログロブリン(eGFR = 149.0/血清β₂ミクログロブリン + 9.15)を用いる(いずれも適用年齢は原資料の基準値表に基づき3か月以上17歳未満)[1][15]。
- 小児CKDの診断基準は「①尿蛋白・画像・血液・病理での腎障害の存在(特に蛋白尿)」または「②GFR<60mL/min/1.73m²(ただし2歳未満はGFR<50%、すなわち年齢相当の正常eGFRの半分未満)」のいずれか、または両方が3ヵ月以上持続することで行う[15]。年齢・性別ごとのCKDステージ判定表(血清Cr基準値の4/3倍・2倍・4倍・8倍を境界とする実務上の目安)は原資料の判定表を参照する[1]。
- 成人向けの日本人eGFR式(194×Cr⁻¹°⁰⁹⁴×年齢⁻⁰°²⁸⁷等)や国際的なSchwartz式(旧式:k×身長cm/Cr、kは年齢で0.33〜0.70)を小児にそのまま当てはめるのは不適切とされる[1][15]。
電解質・BUNの年齢別基準値(代表値)[3]
| 項目 | 0ヵ月 | 1歳 | 6歳 | 12歳 | 20歳 |
|---|
| Na(mEq/L) | 135〜143 | 135〜143 | 137〜144 | 138〜144 | 138〜144 |
| K(mEq/L) | 4.1〜6.0 | 3.6〜5.1 | 3.6〜4.7 | 3.6〜4.7 | 3.7〜4.7 |
| Cl(mEq/L) | 101〜111 | 101〜110 | 101〜110 | 102〜109 | 102〜109 |
| Ca(mg/dL) | 9.0〜11.0 | 8.8〜10.6 | 8.7〜10.2 | 8.7〜10.1 | 8.7〜10.0 |
| 無機リン(mg/dL) | 5.0〜7.7 | 3.9〜6.2 | 3.9〜5.8 | 3.6〜5.8 | 2.8〜4.7 |
| BUN(mg/dL) | 3.7〜15.5 | 3.7〜18.6 | 6.6〜19.6 | 6.8〜19.2 | 6.8〜18.6 |
要点: 乳児期はKと無機リンが生理的に高値(成長に伴う骨代謝・細胞代謝の高さを反映)、BUNは小児では成人より低め。乳幼児のK・IPを成人基準で「高値」と誤読しない。
脱水の評価: 小児急性胃腸炎診療ガイドライン2017は、脱水の重症度評価は臨床症状(活気・皮膚ツルゴール・粘膜湿潤度・尿量・体重減少率)を中心に行うことを推奨し、体重の9%を超える明らかな重度脱水はショックの前兆として経静脈輸液を優先するとしている[8]。血液検査(BUN/Cr比の上昇、代謝性アシドーシスの有無、Na異常の有無)は補助的位置づけであり、採血値が「正常範囲」でも臨床的な脱水を否定する根拠にはならない。BUNは腎前性の尿細管再吸収亢進で上昇しやすいが、Crは急性期には変化しにくいため、BUN/Cr比の上昇(目安10以下が正常、20以上は腎前性を示唆)は脱水の補助指標として使えるが、単独では判定しない。
2-2. 肝逸脱酵素・ALP
AST(GOT)の年齢別基準値(IU/L、JSCC標準化対応法)[3]
| 年齢 | 男児 | 女児 |
|---|
| 0ヵ月 | 20〜62 | 20〜62 |
| 1歳 | 23〜57 | 24〜57 |
| 3歳 | 24〜43 | 24〜44 |
| 6歳 | 24〜38 | 24〜38 |
| 12歳 | 15〜31 | 15〜30 |
| 20歳 | 14〜32 | 12〜27 |
ALT(GPT)の年齢別基準値(IU/L、JSCC標準化対応法)[3]
| 年齢 | 男児 | 女児 |
|---|
| 0ヵ月 | 11〜45 | 11〜45 |
| 1歳 | 9〜38 | 9〜38 |
| 3歳 | 9〜30 | 9〜30 |
| 6歳 | 9〜28 | 9〜27 |
| 12歳 | 9〜32 | 9〜28 |
| 20歳 | 9〜41 | 9〜32 |
乳児期はAST・ALTともに成人よりやや高めで、年齢とともに低下し学童期以降に成人型へ近づく。12歳以降は男女差が開き、20歳ではAST上限が男児32に対し女児27、ALT上限が男児41に対し女児32と女児の方が低い。女児にも男児側の数値を当てはめると、女児の軽度異常値(例: AST 29)を正常範囲内と見誤るおそれがあるため、必ず性別も確認して判定する[3]。
ALP(アルカリホスファターゼ)の年齢別基準値(IU/L、JSCC標準化対応法)[3]
| 年齢 | 男児 | 女児 |
|---|
| 0ヵ月 | 530〜1,610 | 530〜1,610 |
| 1ヵ月 | 510〜1,620 | 510〜1,620 |
| 3ヵ月 | 480〜1,620 | 480〜1,620 |
| 6ヵ月 | 420〜1,580 | 420〜1,580 |
| 1歳 | 395〜1,339 | 395〜1,289 |
| 2歳 | 410〜1,250 | 410〜1,150 |
| 3歳 | 420〜1,200 | 420〜1,130 |
| 6歳 | 440〜1,230 | 460〜1,250 |
| 12歳 | 455〜1,500 | 300〜1,380 |
| 15歳 | 270〜1,200 | 155〜900 |
| 20歳(成人) | 150〜410 | 120〜340 |
(乳幼児期はほぼ男女差なし。二次性徴期〔12〜15歳〕から男児の方が高値になりやすい)
小児のALPは成人基準値の3〜4倍に達することがあり、乳幼児期と思春期前後(骨形成のピーク)で最も高い[3][4]。院内検査システムの報告書がどの測定法(JSCC標準化対応法か、近年普及したIFCC法か)に基づくかで絶対値のレンジが大きく変わるため、基準値は必ず自施設の年齢別参照範囲(またはそれに準じた成書)と照合する。ALP高値のみを理由に肝・骨疾患の精査を急がず、まず年齢を確認する[4]。
採血手技による偽高値(溶血の影響): 小児は採血が難航しやすく、溶血によりLDH・AST・Kが同時に高値となることがある。3項目が揃って高値のときは溶血の影響を疑う[4]。
2-3. 血糖・低血糖の評価とクリティカルサンプル
新生児は出生直後に一過性に血糖が低下し、生後72時間以降は平均80mg/dL前後に安定する。生後48時間以降は低血糖への応答閾値が成人と同様になるが、肝グリコーゲン等の予備能が少ないため空腹時に血糖<70mg/dLになりやすい[6]。
運用上の低血糖の目安[6][7][12]:
- 生後48時間未満: 血糖<50mg/dL
- 生後48時間以降: 血糖>60mg/dL(3.3mmol/L)を維持できない状態を「低血糖」と定義する(先天性高インスリン血症診療ガイドラインの診断上の定義)[6]
- 一般臨床では血糖<50〜60mg/dLでクリティカルサンプル採取・介入を検討する運用が広く行われている
- Whipple三徴(低血糖症状の出現・その時点での血糖低値・ブドウ糖投与による症状改善)で診断を裏づける
「診断の閾値」と「治療目標値」は別物[6][12]: 上記の60mg/dLは「低血糖と診断する閾値」である。いったん低血糖性疾患(先天性高インスリン血症など)と診断した後の血糖管理目標は>70mg/dL(対抗ホルモン分泌が始まるレベルより安全側)とされる[6]。国際的なPediatric Endocrine Society勧告(Thornton et al. 2015)[12]も、生後48時間以降・確定した低血糖性疾患の治療目標を70mg/dL以上としており、60と70の数値の違いは矛盾ではなく「診断」と「治療目標」の使い分けである。血糖<45mg/dLの反復は有意な発達遅延と関連するとの報告があり、70mg/dLは安全マージンを取った目標値である[6]。
重症度に応じた優先順位(安全弁)[7][12]: 意識障害・けいれん(重積を含む)を伴う重症の症状性低血糖は、低血糖脳症による不可逆的な神経後遺症のリスクがあるため、採血・クリティカルサンプル確保より治療(ブドウ糖投与)を優先する。厚生労働省マニュアルも「低血糖が疑われる場合は迅速検査機器や簡易血糖測定器を用いて速やかに血糖値を測定して診断し、治療を開始することが重要である」としている[7]。可能であれば治療の実施前後(末梢ライン確保時など)に追加採血を試みるが、治療開始を遅らせてまで検体採取を優先しない。軽症〜中等症(意識清明・症状軽微)の場合にのみ、クリティカルサンプルの確保を治療に先行させる。
クリティカルサンプル(低血糖時に治療前採取すべき項目)[6]
| 検体 | 検査項目(*は必須) |
|---|
| 血液 | CBC、CRP、一般生化学、電解質、血糖値*(簡易血糖測定器ではなく採血管で測定)、インスリン*、Cペプチド、血液ガス分析*、遊離脂肪酸、アンモニア*、血中ケトン体・ケトン体分画*、乳酸・ピルビン酸、ACTH・コルチゾール、FT4・TSH、GH・IGF-1、血清アシルカルニチンプロフィル(タンデムマス)、血清保存(凍結)* |
| 尿 | 検尿*、尿有機酸分析、尿保存(凍結)* |
低血糖時にしか異常値を示さない項目が多いため、治療でブドウ糖を投与してしまうと原因診断ができなくなる。可能な限り治療開始前に上記を採取する[6]。
ケトン性低血糖症: 1〜5歳頃に好発する小児の低血糖の代表的原因。感染や食事摂取不良による絶食時間の延長を契機に、ケトン体産生を伴う低血糖をきたす。先天性高インスリン血症(インスリン過剰でケトン体・遊離脂肪酸が抑制される)や副腎皮質機能低下症・GH欠損症・脂肪酸β酸化異常症・糖原病などを除外した上での診断となる。多くは学童期までに自然軽快する良性の経過をたどる。
低血糖時の初期対応(体重換算の考え方): 日本の一次資料は、体重あたりの単回ボーラス「mL/kg」ではなくグルコース投与速度(GIR, mg/kg/分)で管理する持続静注を基本の考え方としている。厚生労働省マニュアルは、重症低血糖(意識障害を伴い経口摂取不能)に対し「小児の場合は10%ブドウ糖を5mg/kg/分の速度で注入することで治療を開始し、正常な血糖値まで急速に回復するように注入速度を調節する」としている[7]。先天性高インスリン血症診療ガイドラインは、血糖目標(>70mg/dL)をブドウ糖持続静注で維持することを推奨し、7mg/kg/分以上のブドウ糖量が必要な場合は通常中心静脈の確保が必要であるとしている[6]。GIRの目安は新生児で4〜6mg/kg/分、成人で1〜2mg/kg/分、小児期はその中間とされる(先天性高インスリン血症では正常血糖維持に必要なGIRが年齢別カットオフを超えることが診断の一助になる)[6]。急速静注(ワンショット)を行う場合も、高浸透圧による血管障害・リバウンド低血糖を避けるため急速すぎない速度で投与し、投与後は頻回の血糖再測定で反応を確認する。個別患者への投与量・投与速度は院内プロトコルと担当医判断で最終決定する。
2-4. アンモニア
基準値・異常高値の目安[5]:
- 新生児: 血中アンモニア持続高値 >120μmol/L(200μg/dL)
- 乳児期以降: >60μmol/L(100μg/dL)
先天代謝異常症(尿素サイクル異常症)を疑う所見の組み合わせ[5]: 血中アンモニア高値の持続、アニオンギャップ正常(<20)、血糖正常(新生児期>40mg/dL)が揃えば尿素サイクル異常症を強く疑う。逆に代謝性アシドーシスを伴う高アンモニア血症は有機酸血症を、低血糖を伴う場合は脂肪酸β酸化異常症を考慮する。
採血・検体の取り扱い(偽高値の回避)[10]: アンモニアは全血放置により産生が進み偽高値化しやすいとされる(室温放置・溶血で急速に上昇するという報告がある)。運用上は、
- 駆血を長くかけない(溶血・局所うっ血を避ける)
- 採取後は直ちに氷冷し、速やかに検査室へ搬送する
- 溶血検体は測定値を鵜呑みにせず再検を検討する
(数値の経時変化を厳密に引用する場合は原著の確認が必要。運用としては「常温放置=偽高値」が原則である点を押さえる。)
2-5. CK(クレアチンキナーゼ)
年齢別基準値(IU/L、JSCC標準化対応法)[3]
| 年齢 | 男児 | 女児 |
|---|
| 0ヵ月 | 44〜310 | 44〜310 |
| 1歳 | 39〜299 | 39〜295 |
| 3歳 | 43〜270 | 43〜270 |
| 6歳 | 46〜230 | 46〜230 |
| 12歳 | 51〜270 | 45〜210 |
| 15歳 | 50〜275 | 41〜180 |
| 20歳(成人) | 48〜240 | 37〜160 |
乳児期は成人より基準値の上限が明らかに高い。思春期以降は男女差が開く(筋肉量の差を反映)[3]。
上昇の解釈:
- 採血手技由来の偽高値: 激しい啼泣・筋肉注射・激しい運動・溶血(赤血球中のアデニル酸キナーゼによる見かけ上の上昇)でも上昇しうる[9]。
- けいれん直後: CK上昇の頻度が高い。数時間〜1日でピークとなることが多く、経過とともに軽快する[9][10]。
- 良性急性小児ミオパチー(インフルエンザ随伴性など): 発熱疾患の回復期にふくらはぎの筋痛・歩行困難で発症し、多くは1週間程度で自然軽快する良性の経過をたどる。CK著明高値を伴うことが多い[11]。
- 横紋筋融解症: CKが基準値上限の5倍を超えることが診断の目安の一つ。腰・大腿・ふくらはぎの筋痛を伴うことが多く、腎機能(Cr・BUN)・尿ミオグロビン・電解質(K・Ca・P)の同時評価が必要[11]。
- 筋原性のAST高値: ASTのみが単独で高値でALT・肝機能は正常な場合、肝疾患でなく筋原性(CK同時上昇の有無で鑑別)を疑う。