肛門周囲膿瘍・裂肛
消化器β版・逐条レビュー継続中
2026-09-13更新
β版用量は適用前に一次資料と院内採用を確認。このβ版について
30秒要約
- 裂肛は硬便が原因で、赤ちゃんの血便の最多原因。「太くかたい便が肛門を通るときに、肛門の粘膜や皮膚が切れてできる肛門の裂け目(裂傷)のことを裂肛といい、赤ちゃんやこどもの血便の原因としてもっとも多いものです」。
- 乳児痔瘻・肛門周囲膿瘍は珍しくない。「男の子に多い」とされ、「生後1ヶ月前後から1歳位の乳児期の赤ちゃんに比較的良く見られる病気で、決して珍しいものではありません」。多くは下痢や軟便が続いた後に発赤・腫脹して発症する。
- 治療の柱は排膿と便性コントロール。膿を持てば「皮膚に少し穴を開けて溜まっている膿を外に出してあげなければ治りません」。出した後は「下痢を止めて便性を整え,肛門の回りの皮膚を清潔にしてあげてください」。当院で切開排膿まで行うかは要確認。
- 多くは1〜2歳で自然に治るが、経過観察は続ける。「赤ちゃんが1-2歳になりますと自然に治ることが多いようですが、まれに2歳以上になっても残ることがありますので、この時にも診察を受けるようにしてください」。
- 典型像と違うときはクローン病・免疫異常症を疑う(稀)。「潰瘍、浮腫状皮垂、などの肛門病変を伴っている場合が多いです」(炎症性腸疾患を疑うとき)。
レッドフラグ → 次の一手
所見があったときにどれだけ急ぐかと、家族に何を伝えるかの対応表。3列目の文言は家族説明ページに同じ言葉で載っているので、画面を見せながら渡せる。
| 緊急度 | 所見 | その場で次にやること | 時間の勝負 |
|---|---|---|---|
| 119 | 発熱・活気不良・哺乳不良を伴う膿瘍(特に生後3か月未満) | 局所の膿瘍だけで片づけない。生後3か月未満の赤ちゃんの発熱・敗血症・菌血症を疑うときに準じて評価 | 即時 |
| 緊急 | 波動を触れる・自壊しそうな肛門周囲膿瘍 | 「皮膚に少し穴を開けて溜まっている膿を外に出してあげなければ治りません」。当院で切開排膿を行うかは要確認(鎮静が要るか=処置時の鎮静・鎮痛) | 当日 |
| 緊急 | 肛門周囲の発赤が膿瘍の範囲を越えて急速に広がる | 蜂窩織炎に準じて評価。壊死性軟部組織感染症は稀だが皮膚の色調不良・強い疼痛があれば否定せず外科紹介(本シートで一次資料を確認していない) | 即時〜当日 |
| 緊急 | 潰瘍・浮腫状皮垂を伴う非典型の肛門病変、慢性下痢・体重増加不良を伴う | 「潰瘍、浮腫状皮垂、などの肛門病変を伴っている場合が多いです」。クローン病・免疫異常症を疑う。専門施設へ(炎症性腸疾患を疑うとき) | 数日 |
| 当日 | 定型の乳児痔瘻・軽度の発赤腫脹(波動なし) | 「肛門のまわりが赤く腫れているのを見つけたときは、小児外科医に診てもらってください」。便性コントロールを指導し外来フォロー | 数日 |
| 当日 | 再発を繰り返す乳児痔瘻 | 「乳児痔瘻による膿瘍は再発を繰り返すことが多いので、場合によっては成人の痔瘻と同じような手術をしなければいけないときもあります」。小児外科へ紹介 | 数日〜週単位 |
| 当日 | 硬便・排便時痛を伴う裂肛単独(血便の原因) | 便性コントロール(こどもの便秘) | 数日 |
| 当日 | 1〜2歳を過ぎても軽快しない痔瘻・膿瘍 | 「まれに2歳以上になっても残る」。経過観察を打ち切らない。小児外科へ | 数日〜週単位 |
鑑別:よくあるもの(先に外す)
| 病態 | 見分け | 次の一手 |
|---|---|---|
| 裂肛(硬便による) | 「太くかたい便が肛門を通るときに、肛門の粘膜や皮膚が切れてできる肛門の裂け目」。便に付着する少量の鮮血、排便時痛 | 便性コントロール(こどもの便秘) |
| 定型の乳児痔瘻・肛門周囲膿瘍 | 生後1か月〜1歳、男児に多い、下痢や軟便が続いた後に発赤・腫脹。波動を触れることがある | 波動あれば排膿、なければ便性コントロールと経過観察 |
| 見張りいぼ(尖圭ポリープ・皮膚垂) | 裂肛の慢性化。「慢性的な裂傷と炎症を繰り返すと、裂け目のまわりの皮膚が「いぼ」のように盛り上がってきます」 | 便性が整えば縮小することが多い。手術の必要はほとんどありません |
鑑別:見逃してはいけないもの
| 病態 | 見逃しの形 | 当院の扱い |
|---|---|---|
| クローン病・免疫異常症の肛門病変 | 「いつもの乳児痔瘻」として軟膏だけで終わる | 「潰瘍、浮腫状皮垂、などの肛門病変を伴っている場合が多いです」。持てない。専門施設へ(炎症性腸疾患を疑うとき) |
| 2歳以降も残る、または再発を繰り返す痔瘻・膿瘍 | 「そのうち治る」で経過観察を打ち切る | 「まれに2歳以上になっても残ることがありますので、この時にも診察を受けるようにしてください」。「成人の痔瘻と同じような手術」が要ることがある。小児外科へ |
| 敗血症を伴う膿瘍(特に若年乳児) | 局所の発赤・腫脹だけを見て全身状態を評価しない | 持てない。生後3か月未満の赤ちゃんの発熱・敗血症・菌血症を疑うときに準じる |
| 新生児期からの肛門の形・位置の異常 | 出生時からの肛門異常を「痔」として片づける | 直腸肛門奇形・鎖肛術後の合併症を疑う。こどもの便秘にある家族向けレッドフラグ(肛門の形・位置の異常)と同じ視点。専門施設へ |
治療ワークフロー(当院でやること)
当院の仕事は「排膿が要るか判断して、便性コントロールを指導して、非典型なら送る」。
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 全身状態とバイタル。特に若年乳児は活気・哺乳・体温を必ず確認(局所だけ診て帰さない) |
| 2 | 発症までの経過を聞く。下痢や軟便が続いた後に発赤・腫脹していないか |
| 3 | 肛門周囲を視診・触診。発赤・腫脹の範囲、波動の有無、潰瘍・浮腫状皮垂の有無(非典型のサイン) |
| 4 | 便性状・排便時痛・便への血液付着の有無を聞く(裂肛の合併) |
| 5 | 波動を触れる・自壊が近い→切開排膿の適応。「皮膚に少し穴を開けて溜まっている膿を外に出してあげなければ治りません」。当院でどこまで行うか、鎮静が要るかは要確認(処置時の鎮静・鎮痛) |
| 6 | 排膿後(または排膿不要なら)「下痢を止めて便性を整え,肛門の回りの皮膚を清潔にしてあげてください」と指導 |
| 7 | 見通しを説明する。「乳児痔瘻による膿瘍は再発を繰り返すことが多い」が「1-2歳になりますと自然に治ることが多い」 |
| 8 | 帰すなら再受診の条件と、小児外科フォローの要否・時期を伝える |
所見の取り方
| 所見 | 取り方 | 所見があったら次にどうする |
|---|---|---|
| 発赤・腫脹の性状 | 「肛門のまわりが赤く腫れて膿をもつ」範囲を見る。片側性か、周囲に広がっているか | 広がりが強ければ蜂窩織炎の評価も検討 |
| 波動 | 触診でぷよぷよした波動を触れるか | あれば排膿の適応 |
| 瘻孔の開口部 | 皮膚に小さな開口(痔瘻孔)がないか、肛門との位置関係 | 開口があれば小児外科紹介の材料 |
| 裂肛の有無 | 肛門をやさしく開いて前後の粘膜裂傷を見る(前方・後方に裂け目が出やすい) | あれば便性コントロール |
| 見張りいぼ | 裂け目周囲の皮膚の盛り上がり | 慢性裂肛のサイン。便性改善で経過を見る |
| 非典型所見 | 潰瘍、浮腫状皮垂、複数箇所、治りにくい経過 | クローン病・免疫異常症を疑う |
検査
一次資料(学会解説)は検査について触れていない。日常診療では視診・触診による臨床診断が中心と考えられる(本シートで検査の一次資料は確認していない=要確認)。非典型所見(潰瘍・浮腫状皮垂、慢性下痢・体重増加不良を伴う)でクローン病・免疫異常症を疑うときは、炎症性腸疾患を疑うときの検査(血算・CRP・アルブミン等)に準じて評価する。
問診チェック
- 発症からの経過(いつから、下痢や軟便が先行していたか)
- 排便の性状・排便時痛・便への血液付着の有無
- 過去の膿瘍・痔瘻エピソードの有無(初発か再発か)
- 発熱・活気・哺乳の状態(特に若年乳児)
- 慢性下痢・体重増加不良の有無(非典型のサイン)
- 年齢(1〜2歳を過ぎても続いていないか)
- 出生時からの肛門の形・位置の異常の指摘(母子手帳・新生児健診)
送る/持つ(当院=二次救急・外科的処置を持たない)
| 状態 | 当院の扱い |
|---|---|
| 波動を触れない軽度の発赤・腫脹(定型の乳児痔瘻) | 当院で経過観察・便性コントロールの指導 |
| 波動を触れる膿瘍(切開排膿の適応) | 切開排膿を当院で行うかは要確認。行わないなら小児外科・外科へ |
| 裂肛単独(血便の原因) | 当院で対応。便性コントロール |
| 再発を繰り返す乳児痔瘻 | 「成人の痔瘻と同じような手術」が要ることがある。持てない。小児外科へ紹介 |
| 潰瘍・浮腫状皮垂を伴う非典型例 | 持てない。クローン病・免疫異常症の精査へ(炎症性腸疾患を疑うとき) |
| 発熱・活気不良を伴う膿瘍(特に若年乳児) | 持てない。敗血症・菌血症を疑うときに準じる |
| 1〜2歳を過ぎても残る痔瘻・膿瘍 | 経過観察を継続。要再受診・小児外科へ |
エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)
- 要確認:小児外科の紹介先(夜間・休日を含む)
- 要確認:当院で切開排膿を行うか。行うなら鎮静・鎮痛の体制(処置時の鎮静・鎮痛)
- 要確認:フォローアップの間隔(1〜2歳での自然治癒を待つ間、どの頻度で外来受診させるか)
- 要確認:クローン病・免疫異常症を疑ったときの紹介先(小児消化器内科)
家族に渡す一文
「おしりの周りが赤く腫れて膿を持つ状態は、赤ちゃんには珍しくありません。多くは男の子で、生後1か月から1歳ごろによく見られ、下痢やゆるい便が続いたあとに起こります。膿がたまって腫れが強いときは、皮膚に小さな穴を開けて膿を出す処置が必要になることがあります。出したあとは、下痢を治して便を整え、おしりの周りを清潔に保つことが治療の中心です。多くは1〜2歳までに自然に治りますが、繰り返したり、2歳を過ぎても残るときは、また診せてください。硬い便が原因で肛門が切れる裂肛も、赤ちゃんの血便でいちばん多い原因です。便を柔らかく保つことで治っていきます。」
医師確認事項(要・岡本判断)
- 要確認:本シートは日本小児外科学会の一般向け解説ページ「肛門周囲膿瘍・痔瘻」「裂肛、痔核」を一次資料としている。診療ガイドラインではない。切開排膿の適応・手技(麻酔・切開のタイミング・使用する器具)には踏み込んでいない。
- 要確認:当院で切開排膿を行うか。学会ページは「皮膚に少し穴を開けて溜まっている膿を外に出してあげなければ治りません」としているが、誰が・どの場面で・鎮静ありで行うかは当院の体制次第。
- 要確認:フォローの間隔・終診の基準(1〜2歳での自然軽快を待つ間、どのくらいの頻度で診るか)は一次資料に明記がなく、本シートでも定めていない。
- 要確認:「発熱・活気不良を伴う膿瘍は敗血症を疑う」の記載は一般的な発熱児トリアージの延長であり、この疾患に固有のエビデンスとして本シートで確認したものではない。
- 要確認:「発赤が急速に拡大する場合の壊死性軟部組織感染症」の記載は一般外科の教科書的知識であり、日本小児外科学会のページには記載がなく、本シートで一次資料を確認していない。
- 要確認:痔瘻・膿瘍と直腸肛門奇形(鎖肛術後を含む)の鑑別は一次資料に記載がなく、本シートでも踏み込んでいない。
出典
- 日本小児外科学会.小児外科で治療する病気「肛門周囲膿瘍・痔瘻」.http://www.jsps.or.jp/archives/sick_type/jirou (httpでアクセス。2026-09-13閲覧)。「肛門のまわりが赤く腫れて膿をもつようになる病気を肛門周囲膿瘍といいます。肛門の奥の粘液を分泌するくぼみ(肛門腺)や、その他の病気の深い潰瘍からの炎症が、肛門周囲の皮膚に及び、細菌が繁殖し肛門周囲膿瘍が形成されます。さらに、皮膚を穿破すると痔瘻と言われます」「乳児にできる痔瘻(乳児痔瘻)は、男の子に多いといわれています。生後1ヶ月前後から1歳位の乳児期の赤ちゃんに比較的良く見られる病気で、決して珍しいものではありません」「肛門周囲膿瘍はしばしば乳児期の赤ちゃんが、下痢や軟便が続いた後に肛門のまわりが赤く腫れて膿をもつようになって起こります。赤ちゃんは痛みのために機嫌が悪くなり泣くようになります」「膿瘍は良くなったり悪くなったりを繰り返すことが多く、また肛門周囲の他の部位にも広がることがあります」「肛門周囲膿瘍はひどく膿をもつようになると,皮膚に少し穴を開けて溜まっている膿を外に出してあげなければ治りません」「膿を出してあげた後に、下痢を止めて便性を整え,肛門の回りの皮膚を清潔にしてあげてください」「乳児痔瘻による膿瘍は再発を繰り返すことが多いので、場合によっては成人の痔瘻と同じような手術をしなければいけないときもあります」「肛門のまわりが赤く腫れているのを見つけたときは、小児外科医に診てもらってください」「この病気は赤ちゃんが1-2歳になりますと自然に治ることが多いようですが、まれに2歳以上になっても残ることがありますので、この時にも診察を受けるようにしてください」「頻度はたいへん稀ですが、クローン病や何らかの免疫異常症のお子さんにも、肛門周囲膿瘍、痔瘻が見られます」「この場合には、潰瘍、浮腫状皮垂、などの肛門病変を伴っている場合が多いです」「肛門病変が最初に発見され、早期診断・早期治療につながる場合もあります」(原文ママ。読点の「,」「、」混在は原文の表記)。
- 日本小児外科学会.小児外科で治療する病気「裂肛、痔核」.http://www.jsps.or.jp/archives/sick_type/retumon (httpでアクセス。2026-09-13閲覧)。「太くかたい便が肛門を通るときに、肛門の粘膜や皮膚が切れてできる肛門の裂け目(裂傷)のことを裂肛といい、赤ちゃんやこどもの血便の原因としてもっとも多いものです」「肛門の粘膜にできた傷はふさがるのが早く、外から見てもわかりにくいことが多いのですが、排便のたびに繰り返して裂けると、次第に裂け目が深くなり炎症を 起こします」「痛みのために排便を嫌って便が出ないと、さらに便がかたくなり排便のたびに出血したり、おしりの痛みが強くなるという悪循環に陥ります」「慢性的な裂傷と炎症を繰り返すと、裂け目のまわりの皮膚が「いぼ」のように盛り上がってきます。これは「見張りいぼ」と呼ばれる肛門のひだが腫れあがった状態で、ほかに尖兵ポリープ、皮膚垂とも呼ばれます」「炎症の強い場合は局所に軟膏などを使用することもありますが、便秘や かたい便が原因であることが多いため、排便のコントロールを行い肛門部の清潔を保つことがもっとも大切です」「「見張りいぼ」も小さくなってきます。治ったあとに肛門のひだのふくらみが残ることもありますが、手術の必要はほとんどありません」「こどもさんの血便や排便時の痛み、肛門周囲の「いぼ」、などの症状が気になったときは、かかりつけの小児科の先生や小児外科医にご相談ください」(原文ママ。「炎症を 起こします」「便秘や かたい便」のように単語の途中に空白が入る表記は原文の表記)。
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