2-1. 脱水度の評価
最も正確なのは直近の健診体重などとの比較による体重減少%だが、外来では臨床所見からの推定が実際的。単一の所見で決めず複数所見を組み合わせる[1][2][4][5]。
体重減少%は年齢によって解釈が異なる(乳児は年長児・思春期より体内水分比率が高いため、同じ臨床重症度でも%の数値が高く出る。この年齢差の明記が本表の要点)。乳児〜幼児と年長児の中間(学童期前半)は明確な基準値がなく、臨床的に補間して判断する[4][5]。
| 分類 | 体重減少(乳児) | 体重減少(年長児・思春期) | 主な所見 | 対応の方向性 |
|---|
| 脱水なし | <5% | <3% | ほぼ所見なし、口渇のみ | 経口摂取の維持、ORSは補助的に[3][4][5] |
| 軽症 | 目安5%(補正量の目安50mL/kg) | 目安3%(補正量の目安30mL/kg) | 軽度の口渇・粘膜のわずかな乾燥 | ORSが第一選択[1][2][4] |
| 中等症 | 目安10%(補正量の目安100mL/kg) | 目安5〜6%(補正量の目安50〜60mL/kg) | 粘膜乾燥、活気低下、尿量減少、皮膚ツルゴール軽度低下、頻脈 | ORSが第一選択(頻回の再評価を伴う)[1][2][4] |
| 重症 | 目安15%(補正量の目安150mL/kg) | 目安7〜9%(補正量の目安70〜90mL/kg) | 頻脈、末梢冷感、CRT延長、傾眠〜意識障害、尿量著減、皮膚のまだら状変化、(ショックでは)血圧低下 | 経静脈輸液を優先、ショック評価[1][5] |
※NICE[3]は上記のような年齢別・軽症/中等症/重症の4区分ではなく、「臨床的脱水あり/なし」「ショック」の簡略化した2〜3区分で運用し、脱水ありと判断した時点で一律50mL/kg(4時間)を投与する設計(§2-3参照)。本表(乳児/年長児の4区分・mL/kg対応)はMSD Manual Professional Version[4][5]に基づく古典的な年齢別分類(Finberg分類に由来)で、§2-3の「軽症50mL/kg・中等症100mL/kg」はこの表の乳児側の数値と対応している。
- CRT(毛細血管再充満時間)は正常上限が概ね2秒とされ、延長は循環不全を示唆する補助所見(単独で確定診断にはしない)。
- 尿量減少(おむつの重さ・排尿回数の聴取)、皮膚ツルゴール、粘膜の乾燥、意識状態・活気は保護者からの聴取と診察で複合的に評価する[4][5]。
- 高Na血症性脱水(易刺激性、筋緊張亢進、深部腱反射亢進、けいれん)は臨床像が通常の脱水と異なり、補正速度の管理が別途必要になるため、疑ったら通常の急速補正を避ける[3]。
2-2. ORS(経口補水液)の組成と選択
ORSは腸管でのNa-グルコース共輸送を利用するため、Naとブドウ糖の比率が重要。低浸透圧ORSが標準(WHO 2002年改訂版で下痢の期間短縮・嘔吐減少が示されている)[3][4]。
| 項目 | WHO低浸透圧ORS(2002) | OS-1(日本の代表的市販ORS) |
|---|
| Na | 75mEq/L | 50mEq/L |
| K | 20mEq/L | 20mEq/L |
| ブドウ糖 | 75mmol/L | 1.8〜2.5%(約18〜25g/L) |
| 総浸透圧 | 245mOsm/L | 約260mOsm/L |
日本の市販ORSはWHO処方よりNaが低め(50〜60mEq/L台)に設計されているものが多く、軽症〜中等症の維持〜補正に使いやすい設計。院内採用品の組成は§6で要確認[6]。
2-3. 経口補水量の考え方(mL/kg)
「軽症」「中等症」の境界は§2-1表の体重減少%に対応する(乳児基準:軽症=目安5%=50mL/kg、中等症=目安10%=100mL/kg。年長児・思春期では軽症=目安3%=30mL/kg、中等症=目安5〜6%=50〜60mL/kgとなり数値が異なる点に注意)[4][5]。
| 場面 | 目安量 |
|---|
| 欠乏量の補正(4時間かけて、乳児基準) | 軽症: 50mL/kg(体重減少目安5%)/中等症: 100mL/kg(体重減少目安10%)[4][5](NICEは年齢・軽重区分をせず一律50mL/kg+維持量として設計)[3] |
| 下痢1回あたりの追加 | 10mL/kg(上限目安240mL/回)[4] |
| 嘔吐がある場合の開始量 | 5mLを5分おきから開始し、耐容性を見て漸増[4]。NICEも「頻回・少量」を明記[3] |
| 維持(治療中の並行摂取) | 母乳・ミルク・普段の水分摂取は中止せず継続[3] |
4時間補正後に再評価し、脱水が是正されていれば通常の食事・水分に移行。ORSでの補正が奏功しない(持続嘔吐でORSが摂取できない、臨床的に悪化)場合が「経口補水失敗」=点滴適応の目安[1][3]。
2-4. 点滴(経静脈輸液)の適応
- 重症脱水・ショック疑い(末梢冷感、頻脈、CRT延長、意識レベル低下、血圧低下)[1][3][5]
- 経口補水トライアルが失敗(持続する嘔吐でORS摂取が続けられない、悪化傾向)[1][3]
- イレウス・急性腹症など経口摂取自体が禁忌な病態の合併が疑われる(このファイルのスコープ外、外科的評価へ)
- ショックが疑われる場合の初期輸液は生理食塩水20mL/kgの急速投与が国際的な標準的な出発点[3](実施は院内プロトコル・要確認§6)
2-5. 維持輸液の考え方
点滴が必要になった場合の維持輸液量は、体重換算のHolliday-Segar式が古典的な出発点(個別処方箋ではなく考え方の例示)。
| 体重区分 | 1日あたりの考え方 |
|---|
| 最初の10kgまで | 100mL/kg |
| 次の10kg(11〜20kg分) | +50mL/kg |
| 20kgを超える分 | +20mL/kg |
輸液の種類: 従来はHolliday-Segar式とセットで低張液(1/4〜1/3生食相当)が広く使われてきたが、国際的には等張液を維持輸液の第一選択とする方向へ転換している。理由は、嘔吐・疼痛・脱水自体が非浸透圧性のADH分泌を亢進させ、そこに低張液を投与すると自由水が過剰になり医原性の急性低Na血症・けいれんを起こしうるため[7][8]。米国小児科学会(AAP)2018年ガイドライン[8]は、生後28日〜18歳で維持輸液を要する患者に等張液(適切なK・ブドウ糖添加)を第一選択として推奨している。除外対象(適用範囲外)は原著要旨に基づくと「神経外科疾患、先天性/後天性心疾患、肝疾患、悪性腫瘍、腎機能障害、尿崩症、大量の水様性下痢、重度熱傷を有する患者、生後28日未満またはNICU管理下の新生児、18歳超の患者」であり(2026-08-01、PubMed要旨をWebFetchで確認・原文引用は§7[8]参照)、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)は原著の除外リストに明記はないが臨床的には別プロトコルで管理するのが実務上妥当。本ファイルの想定読者(一般小児外来・新生児を除く)にはおおむね当てはまるが、腎機能障害合併例は適用範囲外である点に注意[8](※Pediatrics本誌原文は403で直接確認できず、要旨レベルの確認にとどまる)。等張液を用いる場合も、電解質(特にNa・K)の経過フォローと、必要に応じたブドウ糖・カリウムの追加は個別に判断する。カリウム追加は排尿(尿量)を確認し腎機能に問題がないことを確認したうえで行うのが原則(乏尿・腎機能障害がある状態でのK投与は高K血症のリスクを高める)。
2-6. 制吐薬の位置づけ
- オンダンセトロン: 海外(米・英・加など)の救急外来では、持続嘔吐でORT失敗リスクのある小児に単回経口投与する運用が広がっており、嘔吐回数の減少・点滴/入院回避に有効という報告が蓄積している一方、NICE(2018年サーベイランス時点でも現行版[3]として維持・追加証拠は結論不十分と評価)は「費用対効果・安全性のさらなる検証」を研究課題として挙げるにとどめ、ルーチン使用は推奨していない[3]。日本での承認適応は注射剤で2つ——(1)抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心・嘔吐)、(2)術後の消化器症状(悪心・嘔吐)(2022年2月改訂・第3版で効能追加)——であり、放射線治療に伴う悪心・嘔吐は適応に含まれない(同じ5-HT3拮抗薬でもグラニセトロンは放射線照射にも適応があり、オンダンセトロンとは異なる)。添付文書の小児用法・用量もこの2適応についてのみ記載があり、小児胃腸炎の嘔吐に対する使用はいずれの承認適応にも該当せず、日本では適応外[9](2026-08-01、PMDA公式添付文書〈オンダンセトロン注4mgシリンジ「マルイシ」2022年5月改訂・第4版〉をWebFetchで一次確認。旧脚注のWikipedia依存は解消)。QT延長のリスクがあり(添付文書の過量投与の項にもQTcF延長の記載あり)、脱水に伴う電解質異常(低K・低Mg)がある患児では特に注意。院内で採用・運用方針が定まっていなければ安易に導入しない。
- ドンペリドン・メトクロプラミド: 有効性を示す報告はあるが、日本のガイドラインでもエビデンスレベルは高くないとされ一律使用は推奨されていない[2]。メトクロプラミドは錐体外路症状のリスクにも留意。