ネフローゼ症候群(初発の見つけ方)

ネフローゼ症候群(初発の見つけ方)

腎・泌尿器β版・逐条レビュー継続中

2026-09-12更新
β版用量は適用前に一次資料と院内採用を確認。このβ版について

施設プロファイル: 二次救急/腎生検・小児腎臓専門外来なし/当直帯の尿検査は定性のみ(沈渣・蛋白定量は出ない)/夜間入院はできる(2026-09-14 確認)。

30秒要約

  • 「まぶたが腫れた」で来る。朝いちばんの眼瞼浮腫→夕方に下腿へ移る。アレルギーと間違えて抗ヒスタミン薬を出すと日が延びる。
  • むくみを見たら、その場で尿を出させる。試験紙で蛋白3+〜4+なら、その時点でほぼ決まる。診断に必要なのは尿と血清アルブミンだけ
  • 診断基準(ISKDC):高度蛋白尿(夜間蓄尿で40 mg/時/m²以上、または早朝尿で尿蛋白クレアチニン比2.0 g/gCr以上)+低アルブミン血症(血清アルブミン2.5 g/dL以下)
  • 2〜5歳がいちばん多く、約半分が5歳未満で発症年間小児人口10万人あたり6.5人(欧米の約3倍)。
  • 当直で怖いのは腎臓ではなく合併症循環血漿量減少によるショック・血栓症・腹膜炎。むくんでいるのに血管内は脱水、という状態がありうる。

レッドフラグ → 次の一手

所見があったときにどれだけ急ぐかと、家族に何を伝えるかの対応表。3列目の文言は家族説明ページに同じ言葉で載っているので、画面を見せながら渡せる。

緊急度所見その場で次にやること時間の勝負
119強い腹痛+発熱(腹膜刺激症状)特発性細菌性腹膜炎を疑う。血培・腹水。当院で持てない即時
119頻脈・CRT延長・四肢冷感・乏尿(浮腫はあるのに)循環血漿量減少性ショック。生食ボーラス+アルブミン製剤の適応を専門施設と相談即時
119片側の下肢腫脹・胸痛・突然の呼吸困難・けいれん血栓症(深部静脈・肺・脳静脈洞)。ネフローゼは血栓リスクが高い即時
119呼吸困難・起座呼吸・SpO2低下胸水・肺水腫。胸部X線(胸部X線即時
緊急肉眼的血尿・高血圧・腎機能低下・低補体血症を伴う浮腫微小変化型以外の可能性。腎生検の適応になりうる=専門施設当日
緊急1歳未満の発症先天性/遺伝性を考える。専門施設へ当日
緊急陰嚢・陰唇の高度浮腫、腹部膨満(腹水)入院管理。当院は当直帯でも入院を受けられる(持つかどうかの方針は要確認)当日
緊急発熱+水痘や麻疹の曝露歴ステロイド開始前に必ず確認。免疫抑制下の重症化当日
当日眼瞼浮腫+尿蛋白3+以上、全身状態良好入院で治療を始める病気。当日〜翌日に受け入れ先を決める当日

鑑別:よくあるもの(「むくんだ」で来たとき)

病態見分け次の一手
アレルギー(血管性浮腫・じんましん)痒み・膨疹・急な発症。尿蛋白は出ない尿を見れば区別がつく(じんましん
急性糸球体腎炎血尿が主役、高血圧、乏尿、体重増加低補体血症(C3低下)急性糸球体腎炎
心不全頸静脈怒張・肝腫大・頻呼吸胸部X線・心電図
肝疾患による低アルブミン血症黄疸・肝腫大・AST/ALT上昇黄疸・肝機能異常
蛋白漏出性胃腸症/低栄養慢性下痢・体重減少。尿蛋白が出ない低アルブミン血症炎症性腸疾患
局所の腫れ(虫刺され・蜂窩織炎)片側・熱感・発赤蜂窩織炎

「むくみを見たら尿を見る」。これだけで上の半分が片づく。

鑑別:見逃してはいけないもの(当院の扱い)

病態見逃しの形当院の扱い
特発性細菌性腹膜炎「ネフローゼの腹水でお腹が張っている」で済ませる持てない。血培を採って搬送
血栓症「歩かないのは浮腫のせい」持てない
循環血漿量減少性ショック浮腫があるから輸液は不要、と判断する初期輸液は当院で開始、その先は専門施設
ステロイド開始後の水痘・麻疹曝露歴を聞かない曝露歴は初診で必ず取る
先天性ネフローゼ(1歳未満)通常のネフローゼとして扱う持てない
膜性増殖性糸球体腎炎・ループス腎炎など二次性低補体・血尿・高血圧を無視してステロイドを始める腎生検が要る=持てない

治療ワークフロー(当院でやること/やらないこと)

ステロイドを当直で始める病気ではない。 診断をつけて、受け入れ先を決めるところまでが当院の仕事。

やること
1体重を測る。むくみの評価は体重が最も鋭い。前回受診時との差を出す
2血圧を年齢の基準値で読む
3尿定性(できれば早朝尿)+尿沈渣+尿蛋白クレアチニン比当直帯に出るのは定性だけ試験紙の蛋白3+以上+浮腫+低アルブミン血症があれば、定量を待たずに動いてよい
4採血:血清アルブミン・総蛋白・Cr・BUN・電解質・総コレステロール・C3、血算
5循環血漿量の評価(心拍数・CRT・四肢冷感・尿量)。浮腫=血管内も満ちている、とは限らない
6腹部所見(腹水・圧痛)。発熱+腹痛なら腹膜炎を外す
7胸部X線(胸水・心拡大)を必要に応じて
8水痘・麻疹の罹患歴とワクチン歴、直近の曝露歴を記録(治療開始前に要る情報)
9受け入れ先に連絡。「初発ネフローゼ疑い、蛋白◯+、Alb◯、血圧◯、浮腫の程度◯、循環は保たれている/いない」を伝える

専門施設で行われる標準治療(家族への説明のため。当院では開始しない)

  • はじめてネフローゼ症候群と診断された場合には、1日3回のステロイドを28日間、そのあと1日1回のステロイドを1日おきに28日間使って治療する
  • 1日3回のステロイドを28日間使っても尿の中の蛋白が消えない場合には、精密検査(腎生検)をおこなって別の治療法に変更する
  • ガイドラインの推奨は、初発時治療は8週間治療(ISKDC法)を選択することを推奨する(推奨グレード1B、一致率100%)
  • 体の中のアルブミンが少なく症状がひどい場合にはアルブミン製剤を使用する(使う前には医師から説明をうけたうえでご家族・ご本人の同意が必要)。

診断基準(そのまま使う)

国際小児腎臓病研究班(ISKDC)の診断基準に基づき、高度蛋白尿(夜間蓄尿で40 mg/時/m²以上または早朝尿で尿蛋白クレアチニン比2.0 g/gCr以上)、低アルブミン血症(血清アルブミン2.5 g/dL以下)によりネフローゼ症候群と診断する。

厚生省特定疾患調査研究班の診断基準を用いてもよい:

項目基準
①蛋白尿(必須1日の尿蛋白量が3.5 g以上ないし0.1 g/kg、または早朝起床時第1尿で300 mg/100 mL以上の蛋白尿が持続する(持続とは3〜5日以上
②低蛋白血症(必須血清総蛋白:学童・幼児6.0 g/100 mL以下、乳児5.5 g/100 mL以下/血清アルブミン:学童・幼児3.0 g/100 mL以下、乳児2.5 g/100 mL以下
③高脂血症(必須ではない)血清総コレステロール:学童250 mg/100 mL以上、幼児220 mg/100 mL以上、乳児200 mg/100 mL以上
④浮腫(必須ではない)

高脂血症・浮腫は診断のための必須条件ではないが、これを認めればその診断はより確実となる。

所見の取り方

所見取り方所見があったら次にどうする
眼瞼浮腫朝いちばんに最も強い。家族に「朝の顔」を聞く/写真を見せてもらう尿定性
下腿・足背の圧痕浮腫脛骨前面を母指で5秒押す尿定性
陰嚢・陰唇の浮腫見ないと分からない。必ず見る高度。入院適応
腹水腹部膨満・波動・臍の突出腹膜炎の除外
体重前回値との差数kgの増加は数日で起きる
血圧年齢の基準値で読む。カフサイズを確認高ければ微小変化型以外を疑う
循環(CRT・心拍・末梢温)浮腫に惑わされない血管内脱水なら初期輸液
発熱+腹痛毎回聞く腹膜炎として動く

検査

検査何がわかるか読み方
尿定性蛋白の有無3+〜4+が典型
尿蛋白クレアチニン比(早朝尿)定量。2.0 g/gCr以上が診断基準随時尿では過大・過小になりうる
尿沈渣血尿・円柱血尿があれば微小変化型以外を疑う
血清アルブミン2.5 g/dL以下が診断基準診断の要
Cr・BUN・電解質腎機能・脱水腎機能低下は非微小変化型のサイン
C3(補体)低補体なら微小変化型以外(腎炎・ループス・MPGN)腎生検の適応判断に使われる
総コレステロール補助的上昇
血算血液濃縮・感染Ht上昇は血管内脱水の示唆
胸部X線胸水・心陰影呼吸症状があれば

腎生検が要るサイン(=当院で持てないサイン)

腎生検の適応として、発症時に①持続的血尿・肉眼的血尿、②高血圧、腎機能低下、③低補体血症、④1歳未満などがあげられ、このような臨床所見を認める場合には微小変化型以外の組織型の可能性が考えられ、腎生検で組織型を確定したあとに治療方針を決定する。

逆に言えば、この4つがなければ微小変化型の可能性が高く、腎生検をせずにステロイドを先行させるのが一般的。小児の特発性ネフローゼ症候群は組織学的にはMCNSが70〜80%を占め、微小変化型の90%以上はステロイド感受性

問診チェック

  • いつからむくんだか。朝/夕方のどちらが強いか
  • 体重の変化(母子手帳・保育園の記録)
  • 尿量・尿の泡立ち・尿の色
  • 先行感染(かぜ・咽頭炎)、虫刺され、予防接種
  • 水痘・麻疹の罹患歴とワクチン歴、直近の曝露(ステロイド開始前に必須)
  • 家族歴:腎疾患、遺伝性腎疾患
  • 服薬(NSAIDs・その他)
  • 既往のネフローゼ(再発かどうかで話がまるごと変わる

送る/持つ(当院=二次救急・腎生検なし)

状態当院の扱い
初発ネフローゼ(合併症なし)初期診断は当院。治療導入は専門施設入院受け入れ自体は当直帯でも可能(2026-09-14 確認)。抱えるかどうかの方針は要確認
循環血漿量減少性ショック初期輸液は当院。その先は持てない
血栓症・腹膜炎の疑い持てない
腎生検の適応サインあり(血尿・高血圧・腎機能低下・低補体・1歳未満)持てない
既知のネフローゼの再発主治医に連絡するのが先。自己判断で増量しない
ステロイド内服中の発熱感染症の評価。副腎不全も念頭に。主治医へ連絡

エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)

  • 要確認:小児腎臓専門医のいる紹介先(夜間・休日の受け入れ)
  • 要確認:当院で初発ネフローゼを入院管理するか、初めから転院か。入院そのものは当直帯でも可能と確認済みなので、これは体制ではなく方針の問題
  • 要確認:夜間の血清アルブミン・C3の測定可否(尿蛋白定量は当直帯に出ないと確認済み。定性で代える)
  • 要確認:アルブミン製剤の院内在庫と小児への使用手順
  • 要確認:既知のネフローゼ患者が当院に来たときの、主治医への連絡経路

家族に渡す一文

おしっこにたんぱくが大量に漏れて、血の中のたんぱくが減り、むくみが出る病気です。子どもでは2〜5歳にいちばん多く、日本では1年に10万人あたり6.5人が発症します。おくすり(ステロイド)がよく効く型がほとんどですが、治療は入院で始めます。今日いちばん気をつけたいのは、むくみそのものよりお腹の痛みと熱(腹膜炎)、片足の腫れや急な息苦しさ(血栓)です。このどれかがあれば、時間を待たずに来てください。また、水ぼうそうや麻しんにかかったことがあるか、予防接種を受けたかを必ず教えてください。治療の前に確認が要ります。」

医師確認事項(要・岡本判断)

  • 要確認:当院で初発ネフローゼを入院管理するか。管理するなら、プレドニゾロンの実投与量(体表面積あたり)を院内で確定する必要がある。本シートは意図的に用量を書いていない(体表面積・上限・剤形は施設判断のため)。
  • 要確認:循環血漿量減少に対する初期輸液の量と、アルブミン製剤を当院で使うか。ガイドライン第Ⅱ章「一般療法 A.浮腫の管理」は本シートで確認できていない(入手したPDFにCQ部分しか含まれていなかった)。
  • 要確認:血栓症の予防(弾性ストッキング・抗凝固)の当院での扱い。本シートは予防に触れていない。
  • 要確認:再発の定義と再発時の対応。学会の患者向け資料は「最初の治療の後に全く再発しない患者さんの割合は26.7%、再発回数が年に4回以上ある頻回再発型は32.7%」「半年の間に2回再発した場合や1年のうちに4回以上再発する場合は再発抑制治療を行う」としている。当直で再発患者が来たときの扱いを決めておきたい。
  • 要確認:小児の年齢別血圧基準値を院内のどこに置くか。「岡山県検尿マニュアル」は「学校検尿のすべて」P.123の表を参照としており、本シートには数値表を載せていない。

出典

  • 小児慢性特定疾病情報センター.微小変化型ネフローゼ症候群 診断の手引き(告示番号24/バージョン1.1・2015-05-23更新/文責:日本小児腎臓病学会).https://www.shouman.jp/disease/instructions/02_01_003/ (2026-09-12閲覧)。ISKDC診断基準(高度蛋白尿:夜間蓄尿で40 mg/時/m²以上または早朝尿で尿蛋白クレアチニン比2.0 g/gCr以上、低アルブミン血症:血清アルブミン2.5 g/dL以下)、厚生省特定疾患調査研究班の診断基準(蛋白尿・低蛋白血症・高脂血症・浮腫の数値と、蛋白尿・低蛋白血症は必須条件/蛋白尿の持続とは3〜5日以上)、MCNSの診断上の留意点(小児の特発性ネフローゼ症候群は組織学的にはMCNSが70〜80%/微小変化型の90%以上はステロイド感受性/一般には腎生検は行わずにステロイド療法を先行させる)腎生検の適応(①持続的血尿・肉眼的血尿 ②高血圧、腎機能低下 ③低補体血症 ④1歳未満)、鑑別診断(FSGS)。
  • 日本小児腎臓病学会.小児特発性ネフローゼ症候群診療ガイドライン2020(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「小児腎領域の希少・難治性疾患群の診療・研究体制の確立」の一事業).全文PDF https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2019/192051/201911032B_upload/201911032B202007161223573470004.pdf (2026-09-12閲覧)。「わが国では2013年に行われた疫学調査により、1年間に小児10万人に6.5人が発症し、欧米と比較して約3倍の頻度で発症する」「2000年以降の調査では、実に20〜50%と高率に疾患活動性を保ったまま成人に移行する」。CQ1「小児特発性ネフローゼ症候群の初発時治療は、8週間治療(ISKDC法)を選択することを推奨する」(推奨グレード1B、一致率100%)。対象は微小変化型・巣状分節性糸球体硬化症・びまん性メサンギウム増殖の小児期(骨端線閉鎖まで=目安として男児17歳頃、女児15歳頃)。
  • 日本小児腎臓病学会.患者、ご家族、一般の方向けQ&A「ネフローゼ症候群」(Copyright © 2021).https://jspn01.umin.jp/kanja/files/kanja-byoki-08.pdf (2026-09-12閲覧)。「我が国では、1年間に約1000人の患者さんが新たにネフローゼ症候群と診断されています(発症率:年間小児人口10万人あたり6.5人)」「2-5歳ごろのお子さんに最も多く発症し、約半分のお子さんが5歳未満で発症する」(出典としてClin Exp Nephrol (2017) 21:651–657を明示)、診断(早朝尿で尿蛋白クレアチニン比2.0以上、血清アルブミン2.5 g/dL以下)、初回治療(1日3回のステロイドを28日間、そのあと1日1回のステロイドを1日おきに28日間/28日間使っても尿蛋白が消えない場合には腎生検)、アルブミン製剤の同意、再発(全く再発しない患者は26.7%/頻回再発型は32.7%/半年で2回再発、または1年で4回以上再発する場合は再発抑制治療)。

処方

処方

処方の考え方

初発ネフローゼ症候群はステロイドを当直で開始しない。診断(尿蛋白・血清アルブミン)をつけて受け入れ先を決めるところまでが当院の仕事。専門施設での標準治療は8週間法(ISKDC法)だが、実投与量(体表面積あたり)は施設判断のため、本シートは意図的に用量を記載していない。

治療の位置づけ

この数字の意味

体重換算の考え方であって処方箋ではない。実際の剤形・力価(ドライシロップ10%/20%等)と採用薬は施設ごとに違い、本シートの「院内ローカルルール」(§6)は未確定のまま。g・包数への換算は院内採用を確認したうえで行う。

薬剤名だけで用量が出ないものは、正本にその記載が無いということ。推測の数字は出さない。

参考計算・参考判定です。適用は添付文書・現行ガイドライン・院内採用・患者個別要因を確認のうえ医師が判断してください。

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