百日咳

百日咳

発熱・感染症β版・逐条レビュー継続中

2026-09-12更新
β版用量は適用前に一次資料と院内採用を確認。このβ版について

施設プロファイル: 二次救急/小児集中治療なし。乳児の百日咳は当院で持てない場面がある。

30秒要約

  • 乳児期早期は「咳」で来ない。「乳児(特に新生児や乳児早期)ではまれに咳が先行しない場合がある」「単に息を止めているような無呼吸発作からチアノーゼ、けいれん、呼吸停止と進展することがある」。
  • 入院適応が明記されている。ワクチン未接種・未完了の乳児(特に生後4か月未満)、呼吸障害、チアノーゼ、無呼吸、肺炎、経口摂取不良、痙攣 — いずれかがあれば入院加療が望ましい
  • 家庭内2次感染率は約50%。適切なワクチン接種歴があっても。同居人全員への予防内服が提案されている。
  • 第一選択はアジスロマイシン(新生児も)。エリスロマイシンは乳児の肥厚性幽門狭窄症リスクがある。
  • マクロライド耐性菌(MRBP)が2024年からの再流行とともに報告されている。MICは>256 μg/mLと高度耐性。

レッドフラグ → 次の一手

所見があったときにどれだけ急ぐかと、家族に何を伝えるかの対応表。3列目の文言は家族説明ページに同じ言葉で載っているので、画面を見せながら渡せる。

緊急度所見次の一手
119乳児の無呼吸発作・チアノーゼ・けいれん・呼吸停止咳がなくても百日咳を疑う。モニタ装着。急速な呼吸不全・脳症・肺高血圧を伴い致死的な経過をとることがある。集中治療のできる施設へ
119白血球数の著明高値(下記の交換輸血基準を参照)重症百日咳。交換輸血・ECMOを要する段階。当院で持てない
緊急生後4か月未満/ワクチン未接種・接種未完了の乳児入院加療が望ましい(学会の明文)
緊急呼吸障害・チアノーゼ・無呼吸・肺炎・経口摂取不良・痙攣いずれか1つでも入院加療が望ましい
緊急咳の後に大きく息を吸い込む(笛声・whoop)、咳嗽発作の反復(レプリーゼ)、しばしば嘔吐を伴う痙咳期の典型。診断へ
当日2週間以上続く咳(発熱が乏しい)百日咳を鑑別に。ワクチン既接種児・成人では典型的な症状がみられず、持続する咳が所見としてみられることも多い
当日家庭内に発症者がいる母親および同胞への2次感染率は約50%。同居人全員への予防内服を検討
当日治療中も咳が続くMRBPの可能性を考慮し、マスク着用等の咳エチケットを指導

臨床経過

時期日数所見
潜伏期通常5〜10日(最大3週間程度)
カタル期約2週間普通のかぜ症状で始まり、次第に咳の回数が増えて程度も激しくなる。抗菌薬で症状の軽減と伝播予防が期待できるのはここ
痙咳期約2〜3週間短い咳が連続的に起こり(スタッカート)、息を吸う時に笛のようなヒューという音(笛声・whoop)。この発作をくり返すのがレプリーゼ。しばしば嘔吐を伴う
回復期2〜3週間〜全経過約2〜3カ月で回復

潜伏期は届出ガイドライン第三版が「通常5〜10日(最大3週間程度)」、JIHS詳細版が「通常7〜10日間程度」とわずかに異なる

血液所見: 白血球数増多が認められることがある。

診断(発症からの時期で使い分ける)

検査検体推奨時期・特徴
培養鼻咽頭ゴールドスタンダードだが感度は高くない。3日以上の培養が必要。発症後2週以内
核酸増幅法(LAMP・PCR)鼻咽頭拭い液感度が高い。2024年6月からLAMP法に加えPCR法も保険適用発症後3〜4週以内
イムノクロマト(抗原)鼻咽頭拭い液専用機器不要・15分程度だが感度は86.4%程度。交差反応あり。本キットの結果のみで診断せず総合的に判断する
抗PT-IgG抗体血清発症後2週以降。単一血清で100 EU/mL以上を高値陽性。ペア血清は陽転または2倍以上上昇
IgM/IgA抗体血清感度が10%程度と非常に低い。健常小児の39.5%が陽性/判定保留になるなど特異度にも問題

抗体検査の落とし穴: 「乳児は免疫系が未発達のため百日咳菌に感染しても抗体価が100 EU/mL以上とならない場合がある」「WHOでは、乳児と百日咳含有ワクチン接種後1年未満の者に対し抗PT-IgG抗体による診断を推奨していない」。

治療

抗菌薬開始のタイミング: 「発症1〜2週以内のカタル期に抗菌薬治療を開始することで、症状の軽減および周囲への伝播予防が期待できる痙咳期では、抗菌薬投与により咳症状の改善は期待できないが、他の人への二次感染防止を目的に投与を行う」。

第一選択=アジスロマイシン(年齢別・小児呼吸器学会/小児感染症学会 追補版 表2A)

年齢アジスロマイシン
生後1か月未満10 mg/kg/日 1日1回 5日間
生後1〜5か月同左
生後6か月以降1日目 10 mg/kg/日、2〜5日目 5 mg/kg/日、1日1回
  • 新生児の第一選択もアジスロマイシン(エリスロマイシンは乳児肥厚性幽門狭窄症のリスクがあるため)。
  • クラリスロマイシンは生後1か月未満には推奨されない。生後1か月以降は15 mg/kg/日 分2 7日間。
  • エリスロマイシン 40 mg/kg/日 分4 14日間。
  • ST合剤は新生児・低出生体重児に禁忌(黄疸のある新生児ではビリルビン脳症のリスク)。

マクロライド耐性(MRBP)

  • 2018年に生後2か月の乳児から初めてMRBPの検出が報告された
  • 2024年からの再度の流行とともに、MRBPの報告がみられるようになった
  • MICは>256 μg/mLと高度耐性。
  • MRBPが疑われる場合はマクロライド系薬に加えてST合剤の併用を検討(妊婦・低出生体重児・新生児には禁忌)。
  • β-ラクタム系はin vitroで活性が高いものもあるが「臨床データは限られているため、一般的には推奨されない」。

注意: JIHS詳細版(2018年改訂)は「わが国ではマクロライド耐性菌の出現は認められていない」としているが、より新しい学会追補版(2025年)が耐性菌の報告を明記している。新しい方を採る。

曝露後予防(PEP)

  • 家庭内で小児が発症した場合、母親および同胞への2次感染率は約50%(適切なワクチン接種歴があっても)。
  • 「家庭のメンバーが百日咳と診断された際、無症状であっても小児を含めた同居人全員に発症予防のため、曝露後早期(遅くとも7〜10日の潜伏期以内)にマクロライド系薬の内服を提案する」。
  • 特に、予防接種による初回免疫が未完了の乳児には積極的な予防内服を提案する」。
  • すべて保険適用外
薬剤用量期間
アジスロマイシン10 mg/kg/日 1回/日5日間
クラリスロマイシン15 mg/kg/日 2回/日7日間
エリスロマイシン40 mg/kg/日 4回/日14日間
ST合剤8 mg/kg/日(TMP量)2回/日14日間(低出生体重児・新生児は禁忌
  • 新生児・乳児でのマクロライドは肥厚性幽門狭窄症のリスクがあるが、「重症の百日咳発症リスクはIHPSの潜在的リスクよりも高い」ため予防投与が正当化される。
  • 曝露後予防内服中であっても学校保健安全法による登校の停止は必要なく、集団生活は可能

入院適応(学会の明文)

百日咳含有ワクチン未接種または接種未完了の乳児(特に生後4か月未満)や、呼吸障害、チアノーゼ、無呼吸、肺炎、経口摂取不良、痙攣などの症状を呈する症例では、入院加療が望ましい

重症百日咳(当院で持てない段階)

無呼吸、痙攣、呼吸不全、肺高血圧、心不全を合併する症例では、集学的治療が必要である。特に、生後4か月未満で一定の条件を満たす場合、交換輸血を推奨する報告がある」。

交換輸血を検討する基準の一例

  1. 白血球数≥25,000/μL かつ リンパ球数≥12,000/μL、かつ 心原性ショック/肺高血圧症/臓器不全の少なくとも1つ
  2. 白血球数≥48,000/μL かつ リンパ球数≥15,000/μL
  3. 白血球数≥30,000/μL かつ リンパ球数≥15,000/μL、かつ24時間に50%以上の上昇

「肺高血圧症が進行し、人工呼吸器管理で酸素化が維持できない症例ではECMOの導入が検討される。ただし、ECMO導入例の予後は不良であることが多い」。

致命率: 全年齢児で0.2%、6カ月未満児で0.6%

院内感染対策

  • 標準予防策および飛沫感染対策を行う。サージカルマスクと手指衛生。
  • 菌排出の期間: 咳の開始から約3週間持続するが、エリスロマイシンなどによる適切な治療により、服用開始から5日後には菌の分離はほぼ陰性となる
  • 要確認: 個室隔離が必須かを明記した日本の一次資料は見つからなかった。院内で方針を決める必要がある。

妊婦への接種(コクーン戦略)

  • 「妊娠中のTdap接種による生後2か月未満乳児への百日咳を全体の77.7%、入院例に限れば90.5%減少させたと報告されている」。
  • 米国では妊娠27〜36週での接種が推奨。日本ではTdapが認可されていないため、DTaPの妊婦への接種が検討されている。電子添文上も妊婦への接種は可能。
  • 医療関係者(特に産科病棟スタッフ、新生児・乳児をケアするスタッフ)への百日咳ワクチン接種が日本環境感染学会から推奨されている。

届出・出席停止

項目内容
届出2018年1月1日から5類全数把握疾患。診断後7日以内に、感染症サーベイランスシステムへの入力または保健所へ届出
届出区分①検査診断例 ②検査確定例と接触があり臨床的特徴を有する例(この場合は必ずしも検査所見を必要としない)
脳症合併時さらに急性脳炎(5類全数把握)の届出が必要
出席停止「特有の咳が消失するまで又は五日間の適正な抗菌性物質製剤による治療が終了するまで」(学校保健安全法施行規則第19条。百日咳は第二種)

鑑別

疾患見分け
マイコプラズマ感染症長引く咳が共通。発熱を伴うことが多い(マイコプラズマ
RSV・細気管支炎乳児の無呼吸が共通。流行期・喘鳴(RSV
BRUE無呼吸で来た乳児。百日咳を鑑別に入れる
気道異物突然の咳込みから始まる(気道異物
喘息呼気性喘鳴、吸入への反応(喘息発作
結核長引く咳。接触歴・体重減少

送る/持つ(当院=二次救急・小児集中治療なし)

状態当院の扱い
年長児の典型例当院で対応できる。抗菌薬・届出・出席停止・家族への予防内服の説明
生後4か月未満/ワクチン未完了の乳児入院加療が望ましい。当院で入院管理できるかを確認し、できなければ送る
無呼吸・チアノーゼ・呼吸不全持てない。人工呼吸管理のできる施設へ
白血球著明高値・肺高血圧持てない。交換輸血・ECMOを要する

エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)

  • 要確認:個室隔離の院内方針(日本の一次資料に明記がない)
  • 要確認:LAMP法/PCR法が当院で出せるか、外注なら何日かかるか
  • 要確認:同居家族への予防内服を当院で処方するか(保険適用外である点の説明を含む)
  • 要確認:乳児の入院管理・人工呼吸管理ができる施設の受け入れ先
  • 要確認:産科病棟スタッフ・新生児をケアするスタッフの百日咳ワクチン接種状況(3種混合ワクチンの出荷調整が続いている可能性がある

家族に渡す一文

「百日咳は、咳が2〜3か月続くことがある病気です。抗菌薬は、咳がひどくなる前の早い時期にはよく効きますが、遅い時期には咳そのものを短くする効果は限られます。それでも、人にうつさなくするために飲みますとくに生後4か月より小さい赤ちゃんは危険で、咳ではなく「息が止まる」形で出ることがあります。ご家庭では、症状がなくてもご家族全員に予防のお薬をおすすめすることがあります(家庭内でうつる確率が約半分と高いためです)。登園・登校は、特有の咳が消えるまで、または5日間の抗菌薬治療が終わるまで休みます。」

医師確認事項(要・岡本判断)

  • 要確認:個室隔離の要否。日本の一次資料に明記がなく、院内で決める必要がある。
  • 要確認:同居家族への予防内服を当院で処方するか。保険適用外である点をどう説明するか。
  • 要確認:生後4か月未満の乳児を当院で入院管理するか、初めから送るか。
  • 要確認:潜伏期が届出ガイドライン(5〜10日)とJIHS詳細版(7〜10日)で異なる。記載を統一するか。
  • 要確認:無呼吸のみが症状の乳児で、RSV・胃食道逆流・代謝疾患とどう鑑別するかを述べた一次資料は見つからなかった。接触歴とワクチン歴の聴取が手がかりになる。

出典

  • 日本小児呼吸器学会・日本小児感染症学会.小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022 百日咳に関する追補版 Ver.1.1(2025年10月14日).https://www.jspid.jp/wp-content/uploads/2025/10/guide_bp_20251014.pdf (2026-09-12閲覧)。検査法の使い分け(培養/核酸増幅法/イムノクロマト/抗体、2024年6月からPCR法も保険適用)、抗菌薬開始のタイミング(カタル期で症状軽減と伝播予防、痙咳期は二次感染防止目的)、年齢別の治療用量(表2A)と新生児の第一選択がアジスロマイシンであること、MRBP(2018年初報告・2024年からの再流行とともに報告・MIC>256 μg/mL)とST合剤併用、β-ラクタム系が一般的には推奨されないこと、入院適応(ワクチン未接種・未完了の乳児〈特に生後4か月未満〉、呼吸障害、チアノーゼ、無呼吸、肺炎、経口摂取不良、痙攣)重症例の集学的治療と交換輸血の基準(表3)・ECMO曝露後予防(家庭内2次感染率約50%、遅くとも7〜10日以内、同居人全員、表4の用量、すべて保険適用外、IHPSリスクとの比較衡量、予防内服中の登校は可)、出席停止とMRBP時の咳エチケット、妊婦へのTdap/DTaP接種と医療関係者へのワクチン推奨
  • 国立感染症研究所実地疫学研究センター・感染症疫学センター・細菌第二部.感染症法に基づく医師届出ガイドライン(第三版)百日咳.2025年3月26日.https://id-info.jihs.go.jp/manuals/pertussis/guidelines/20250326/pertussis_guideline_20250326.pdf (2026-09-12閲覧)。潜伏期(通常5〜10日、最大3週間程度)、症例定義(乳児では咳が先行しない場合がある/嘔吐や無呼吸発作/重症化し肺炎・脳症を合併しまれに致死的)、ワクチン既接種児・成人の非典型像、白血球数増多、抗PT-IgG抗体の判定基準(単一血清100 EU/mL以上、ペア血清の陽転・2倍以上上昇)と乳児での限界・WHOの非推奨、IgM/IgA抗体の感度10%程度、2018年1月1日からの5類全数把握化と7日以内の届出、届出区分、脳症合併時の急性脳炎の届出。
  • 国立健康危機管理研究機構.百日咳(詳細版)(2018年1月29日改訂).https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/pertussis/detail/index.html (2026-09-12閲覧)。カタル期・痙咳期(スタッカート、笛声、レプリーゼ)・回復期の経過、「年齢が小さいほど症状は非定型的であり、乳児期早期では特徴的な咳がなく、単に息を止めているような無呼吸発作からチアノーゼ、けいれん、呼吸停止と進展することがある」菌排出は咳の開始から約3週間持続するが適切な治療により服用開始から5日後にはほぼ陰性、致命率(全年齢児0.2%・6カ月未満児0.6%)、合併症(肺炎・脳症)。なお本ページは「わが国ではマクロライド耐性菌の出現は認められていない」としているが、より新しい学会追補版が耐性菌の報告を明記しているため、本シートは後者を採った
  • 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会.生後2か月未満の乳児における重症百日咳の発症に関する注意喚起と治療薬選択について.2025年6月22日.https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20250623_jyushouhyakunitizeki.pdf (2026-09-12閲覧)。「生後2か月未満の新生児および乳児にとって、百日咳菌感染は急速な呼吸不全、無呼吸、脳症、肺高血圧症などを伴い、致死的な経過をとることがあります」。
  • 日本感染症学会.感染症クイック・リファレンス「百日咳」(2025年4月13日更新).https://www.kansensho.or.jp/ref/d71.html (2026-09-12閲覧)。標準予防策および飛沫感染対策。
  • 学校保健安全法施行規則(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/333M50000080018 (2026-09-12閲覧)。第19条「百日咳にあつては、特有の咳が消失するまで又は五日間の適正な抗菌性物質製剤による治療が終了するまで」。

処方

kgこのシートの計算すべてに反映。タブを閉じるまで保持されるので、患者が変わったらクリアする。
処方

処方の考え方

カタル期(発症1〜2週以内)に始めれば症状の軽減と伝播予防が期待できる。痙咳期では咳の改善は期待できないが、二次感染防止のために投与する。新生児の第一選択もアジスロマイシン(エリスロマイシンは乳児肥厚性幽門狭窄症のリスク)。

場面

この数字の意味

体重換算の考え方であって処方箋ではない。実際の剤形・力価(ドライシロップ10%/20%等)と採用薬は施設ごとに違い、本シートの「院内ローカルルール」(§6)は未確定のまま。g・包数への換算は院内採用を確認したうえで行う。

薬剤名だけで用量が出ないものは、正本にその記載が無いということ。推測の数字は出さない。

参考計算・参考判定です。適用は添付文書・現行ガイドライン・院内採用・患者個別要因を確認のうえ医師が判断してください。

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