マイコプラズマ感染症・マイコプラズマ肺炎

マイコプラズマ感染症・マイコプラズマ肺炎

発熱・感染症β版・逐条レビュー継続中

2026-09-12更新
β版用量は適用前に一次資料と院内採用を確認。このβ版について

施設プロファイル: 二次救急。多くは当院で対応できる。落とし穴は迅速検査を信じすぎること耐性を考えないこと

30秒要約

  • 迅速抗原検査の感度は低い。「肺炎マイコプラズマは下気道の線毛上皮細胞で増殖するため、上気道の菌量は下気道の約1%以下であり、咽頭ぬぐい液を用いたイムノクロマト法での迅速検査の感度は低い」。陰性でも否定しない
  • 急性期の確定診断は核酸増幅検査(PCR・LAMP)が最も優れている
  • マクロライドの効果は投与後2〜3日以内の解熱で概ね評価できる。48時間で解熱しなければ耐性を疑う。
  • マクロライド前投与があって改善がなければ耐性率は90%以上。前投与がなければ50%以下。
  • 8歳未満にテトラサイクリン系は「他の薬剤が使用できないか、無効の場合にのみ」。肺炎ならトスフロキサシンを選ぶ。

レッドフラグ → 次の一手

所見があったときにどれだけ急ぐかと、家族に何を伝えるかの対応表。3列目の文言は家族説明ページに同じ言葉で載っているので、画面を見せながら渡せる。

緊急度所見次の一手
119呼吸不全・酸素化の悪化重症マイコプラズマ肺炎。過剰な免疫応答が主体でステロイド治療が必要になる。専門医に紹介することが望ましい
緊急マクロライド投与後48〜72時間で解熱しないマクロライド耐性または他の原因を考える。薬剤変更を検討
緊急それ以前でも酸素化が悪化する同上。待たない
緊急意識障害・けいれん・麻痺肺外合併症(脳炎、髄膜炎、末梢神経障害、急性散在性脳脊髄炎、ギランバレー症候群)。意識障害
緊急粘膜疹・水疱を伴う皮疹Stevens-Johnson症候群の合併がありうる。薬疹・SJS/TEN
緊急黄疸・貧血溶血性貧血の合併
当日乾性咳嗽が解熱後も長く続く(3〜4週間)マイコプラズマらしい経過
当日湿性咳嗽に変化した肺炎球菌などのほかの細菌感染症の合併も考慮する必要がある
当日変更後も改善しない/増悪する専門医紹介を検討

臨床像

  • 発症形式は緩徐。「頭痛、倦怠感、微熱などの前駆症状から、乾性咳嗽を呈するようになる」。「発熱、倦怠感、頭痛、咽頭痛などの症状がではじめて、数日後に咳嗽が出てくる」。
  • 咳は「痰を伴うことが少ない乾いた咳(乾性咳嗽)が特徴で、解熱した後も長く持続することがあり、『長引く頑固なせき』と表現される」。熱が下がった後も3〜4週間続く
  • 胸部聴診上の所見が乏しい(成人肺炎診療ガイドライン2024の鑑別6項目の1つ)。
  • 画像は「多発するスリガラス陰影、気道散布型の粒状陰影および小斑状陰影、中枢気管支壁の肥厚様像」で、肺炎球菌によるいわゆる細菌性肺炎とは異なるパターンをとる。
  • 好発年齢: 「通常5歳以後で、10〜15歳くらいに多いが、成人もしばしば罹患する」。報告の約80%は14歳以下。
  • 潜伏期2〜3週間、飛沫感染、家族内感染・再感染も多い。

診断

検査位置づけ
核酸増幅法(PCR・LAMP)一般臨床現場の急性期診断には最も優れている(2011年10月以降に保険収載)。マクロライド耐性を判定できるキットもある
迅速抗原検査(イムノクロマト)迅速性はあるが核酸増幅検査に比べ感度は劣る。単一施設の報告では感度20%台前半という数値もある。検体は咽頭拭い液。粘膜をしっかり擦って採取することが重要
血清抗体(PA法・CF法)ペア血清で4倍以上の上昇、または単一血清でPA法320倍以上・CF法64倍以上。ただし急性期の抗体が陽性でも、回復期の変動を見なければ確定できないことも多い
急性期IgM迅速検査陽性持続期間が長く、流行期には既感染で陽性を示すことがある。「感染から1年近く陽性が持続する場合がある」
寒冷凝集反応特異性が低い。EBV・CMV感染症やリンパ腫でも上昇する。補助的
培養生育までに約3〜4週間を要し、実際の診療では行われない

時期による使い分け: 「咳嗽発症後4週未満では、百日咳菌の分離や遺伝子検査(LAMP法、PCR法)、抗原検査(イムノクロマト法)」、「4週間以上ではIgM/IgA抗体やPT-IgG抗体検査」。→ 早期=菌検出系、後期=血清抗体

迅速抗原検査が陰性でも治療を始めてよい: 「検査で確定する前に、マイコプラズマ肺炎の患者さんとの接触歴や症状から肺炎マイコプラズマによる感染症を疑って、治療を開始することがあります」(学会の明文)。

治療ワークフロー

やること判断
1マクロライド系薬の前投与歴を聞く前投与があり改善がなければ耐性率90%以上。前投与がなければ50%以下
2前投与がなければマクロライド系薬が第一選択感性株へのMICは極めて低く、治療終了時には気道から除菌される
3投与後2〜3日(48〜72時間)で解熱を確認する感性株なら80%以上が48時間で解熱。耐性株では約70%が解熱しない
448〜72時間で解熱しない/酸素化が悪化する耐性または他の原因。薬剤変更を検討
5変更先を選ぶ肺炎で8歳未満ならトスフロキサシン(肺炎マイコプラズマに効果が期待できる唯一の小児適応ニューキノロン)。8歳以上ならテトラサイクリン系(ミノサイクリン)も
6変更後も改善しない/増悪する専門医紹介
7重症(発熱7日以上+LDH 480 IU/L超)の肺炎ステロイド全身投与が考慮される。ただし安易な投与は控える

用量(適用前に院内採用と添付文書を確認すること)

薬剤用量期間
クラリスロマイシン10〜15 mg/kg/日 分2〜3(最大400 mg/日)10日間
アジスロマイシン10 mg/kg/日 分1(最大500 mg/日)3日間(欧米では5日間)
エリスロマイシンエチルコハク酸エステル25〜50 mg/kg/日 分4〜6(最大1200 mg/日)14日間
トスフロキサシン12 mg/kg/日 分2(最大360 mg/日)7〜14日間
ミノサイクリン2〜4 mg/kg/日 分2(最大200 mg/日)7〜14日間

使ってはいけない・慎重にすべきもの

  • クリンダマイシンは使用しない。「有効であるとの十分なエビデンスはなく、国内外において投与は推奨されていない。マクロライド耐性肺炎マイコプラズマは、クリンダマイシンに対しても高度耐性」。
  • トスフロキサシンを含むキノロン系薬剤のルーチン使用は控えるべき。「使用する必要があると判断される場合」に限る。
  • トスフロキサシン細粒小児用の適応は「肺炎」のみ。気管支炎には適応がない。
  • 8歳未満へのテトラサイクリン系は、他の薬剤が使用できないか無効の場合にのみ(一過性骨発育不全・歯牙着色・エナメル質形成不全)。
  • ドキシサイクリンは小児用製剤がなく、原則8歳以上

マクロライド耐性の状況(数値の出所に注意)

時期・出典耐性率
2012年頃(国内分離株)80〜90%
2018〜2020年(国内分離株)30%台以下
2019〜2020年20〜30%との報告
2017〜19年頃10〜20%に減少
2024年上半期60%という報告もある(日本小児科学会 2025年改訂)
2024年時点・一部の地域60%以上が耐性(5学会声明 2024-11-19)
中国90%以上/韓国 80%以上/台湾 70%以上

注意: 2024年の数値は一部報告・一部地域のもので全国代表値ではない。学会自身も2024年時点で「今回の流行でマクロライド耐性がどの程度の割合を占めているかは明らかになっていない」としている。

鑑別

疾患見分け
細菌性肺炎(肺炎球菌など)湿性咳嗽、聴診所見が明瞭、画像パターンが異なる(肺炎
百日咳長引く咳が共通。笛声・レプリーゼ(百日咳
喘息呼気性喘鳴、吸入への反応(喘息発作
副鼻腔炎による後鼻漏鼻症状(副鼻腔炎
結核接触歴・体重減少
細菌の合併感染湿性咳嗽への変化があれば考える

合併症(肺外病変が多彩)

  • 5〜10%未満で中耳炎、胸膜炎、心筋炎、髄膜炎など
  • 神経: 脳炎、髄膜炎、末梢神経障害、急性散在性脳脊髄炎、ギランバレー症候群
  • 皮膚粘膜: 蕁麻疹、不定型紅斑、多形滲出性紅斑、結節性紅斑、アレルギー性紫斑病、Stevens-Johnson症候群
  • 血液: 溶血性貧血
  • そのほか関節炎、糸球体腎炎

院内感染対策

5学会合同声明の明文: 「マイコプラズマ感染症は飛沫感染で拡大します。本感染症の患者は、原則、個室隔離か、コホーティングを行った上で、飛沫感染対策を行います潜伏期間が2〜3週間と長めであることから、院内への感染の持ち込み事例も考えられます。流行期に、入院されてきた患者で、呼吸器症状などを呈する場合は、本感染症を念頭にいれた検査を行うことを推奨します」。

感染期間: 症状のある間がピークだが、保菌は数週〜数か月間持続する

届出・出席停止

項目内容
届出5類感染症・定点把握(全国約500カ所の基幹定点医療機関から週単位)。全数把握ではないので、個々の医師に届出義務はない
出席停止学校保健安全法施行規則に個別に列挙されていない第三種「その他の感染症」として、必要があるときに限り校長が学校医の意見を聞いて措置をとれる。期間の基準は「病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで」
登校の目安発熱や激しい咳が治まり、全身状態のよい者は登校(園)可能

送る/持つ(当院=二次救急)

状態当院の扱い
外来で対応できる肺炎当院で対応。48〜72時間の効果判定を必ず約束する
48〜72時間で解熱せず、薬剤変更後も改善しない専門医紹介
酸素化の悪化・呼吸不全持てない。ステロイド治療を含む集学的管理が要る
肺外合併症(脳炎・SJS・溶血)持てない。各専門へ

エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)

  • 要確認:核酸増幅検査(PCR・LAMP)が当院で出せるか。出せないなら耐性判定もできず、臨床経過だけで判断することになる
  • 要確認:個室隔離・コホーティングの院内方針(5学会声明は原則個室隔離としている)
  • 要確認:トスフロキサシン細粒の院内採用
  • 要確認:重症例の紹介先

家族に渡す一文

「マイコプラズマによる感染症です。熱が下がったあとも、乾いた咳が3〜4週間続くのが特徴で、咳が長引くこと自体は心配いりません。抗菌薬を飲み始めて2〜3日で熱が下がるかどうかが、薬が効いているかの目安になります。下がらないときは薬を変える必要があるので、必ず受診してください。効きにくいタイプの菌が増えており、日本でも報告されています。咳が湿った感じに変わったり、息が苦しくなったりしたときも、すぐに来てください。」

医師確認事項(要・岡本判断)

  • 要確認:当院で核酸増幅検査(耐性判定を含む)が出せるか。出せない場合、臨床経過(48〜72時間の解熱)のみで薬剤変更を判断する運用になる。
  • 要確認:個室隔離・コホーティングの院内方針
  • 要確認:入院適応の数値基準(SpO2・呼吸数など)は、今回の一次資料に見当たらなかった。小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022の本体(書籍)にCQがある可能性があり、未確認。
  • 要確認:2025年秋以降〜2026年の流行状況の最新値は一次資料に到達できていない。運用開始時にJIHSのIDWR最新号を確認すること。
  • 要確認:寒冷凝集反応の陽性率が出典で食い違う(査読誌は約50%、JIHS詳細版〈2012年更新〉は「ほとんどで陽性」)。

出典

  • 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会.小児のマイコプラズマ肺炎の診断と治療に関する考え方(2013年2月19日策定/2025年3月29日改訂).https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20250422_maikopurazuma.pdf (2026-09-12閲覧)。急性期の確定診断には核酸同定検査や迅速抗原検査が望ましいこと、核酸増幅検査が最も優れており耐性判定キットもあること、検体採取(粘膜をしっかり擦る)、マクロライド系薬が第一選択とその理由、効果は投与後2〜3日以内の解熱で概ね評価できること、前投与があり改善がなければ耐性率90%以上・前投与がなければ50%以下、感性株は48時間で80%以上が解熱し耐性株は約70%が解熱しないこと、マクロライド無効時の代替(トスフロキサシン/テトラサイクリン系)と8歳未満での制限、トスフロキサシンのルーチン使用を控えるべきこと・適応は肺炎のみであること、クリンダマイシンを使用しないこと、用量(表2)、重篤例へのステロイド全身投与(発熱7日以上+LDH 480 IU/L超)と安易な投与を控えること、2024年上半期の耐性率60%という報告、2024年中頃からの流行が2025年以降も続いていること。
  • 日本小児科学会.マイコプラズマ肺炎流行に対する日本小児科学会からの注意喚起(2024年10月27日).https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20241028_maiko.pdf (2026-09-12閲覧)。上気道の菌量は下気道の約1%以下で迅速検査の感度が低いこと、検査確定前でも接触歴と症状から治療を開始することがあること、合併症、2024年の流行が2016年以来8年ぶりであること、耐性の割合が明らかになっていないこと。
  • 日本呼吸器学会・日本感染症学会・日本化学療法学会・日本環境感染学会・日本マイコプラズマ学会.マイコプラズマ感染症(マイコプラズマ肺炎)急増にあたり、その対策について(2024年11月19日).https://www.jrs.or.jp/activities/guidelines/file/mycoplasma_pneumoniae_statement_20241119.pdf (2026-09-12閲覧)。緩徐な発症形式と乾性咳嗽、湿性咳嗽への変化=他菌合併の示唆、胸部聴診上所見が乏しいこと、画像所見、血清抗体の判定基準(ペア血清4倍以上/単一血清 PA法320倍以上・CF法64倍以上)、培養が実際の診療で行われないこと、原則個室隔離かコホーティングのうえ飛沫感染対策・潜伏期2〜3週間による持ち込み、成人ではテトラサイクリン系を第一選択・レスピラトリーキノロンを第二選択、48〜72時間での判定と専門医紹介、肺外病変の詳細リスト、耐性率の推移と地域差(一部地域で2024年時点60%以上)、東アジアの耐性率、第三種「その他の感染症」としての出席停止の扱い
  • 厚生労働省.マイコプラズマ肺炎.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/mycoplasma.html (2026-09-12閲覧)。5類感染症・基幹定点(全国約500カ所)からの週単位報告、報告の約80%が14歳以下、解熱後も3〜4週間続く咳、5〜10%未満での合併症。
  • 日本小児科学会.肺炎マイコプラズマ感染症(一般の方向け).https://www.jpeds.or.jp/general/prevention/yobo-kansensho/kansensho03-19.html (2026-09-12閲覧)。好発年齢(通常5歳以後、10〜15歳に多い)、潜伏期2〜3週間、飛沫感染・家族内感染・再感染、保菌が数週〜数か月持続すること、迅速抗体検査が1年近く陽性持続しうること、登校の目安(発熱や激しい咳が治まり全身状態がよければ可)、第三種感染症の枠組み。
  • 国立健康危機管理研究機構.IASR 45(1), 2024「マイコプラズマ肺炎 2023年現在」https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/45/527/article/010/index.html /「マイコプラズマ肺炎の発生状況について」(2024年9月19日)https://id-info.jihs.go.jp/relevant-information/mycoplasma-pneumoniae-infection/20240919/index.html /「マイコプラズマ肺炎(詳細版)」https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/mycoplasma-pneumoniae-infection/detail/index.html (2026-09-12閲覧)。耐性機序(23S rRNA遺伝子の点突然変異)、耐性率の推移、流行の周期性(3〜7年)、年齢分布、罹患年齢のピーク。
  • 布施閲ほか.マイコプラズマ感染症における診断法の問題点.日本呼吸器学会雑誌 45(12):936-942, 2007. https://is.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/045120936j.pdf (2026-09-12閲覧)。寒冷凝集反応は特異性が低く約50%で陽性・32倍以上で疑う・EBV/CMV/リンパ腫でも上昇、PA法とCF法の特性、単一血清による診断での偽陽性への注意。
  • 未確認: 2025年秋以降〜2026年の流行状況の一次データ(IDWR最新号)、入院適応の数値基準、日本マイコプラズマ学会の治療指針本文、小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022本体(書籍)。

処方

kgこのシートの計算すべてに反映。タブを閉じるまで保持されるので、患者が変わったらクリアする。
処方

処方の考え方

マクロライド前投与歴を先に聞く。前投与があり改善がなければ耐性率90%以上、前投与がなければ50%以下。投与後48〜72時間で解熱を確認する(感性株なら80%以上が48時間で解熱、耐性株では約70%が解熱しない)。

マクロライド前投与と年齢

この数字の意味

体重換算の考え方であって処方箋ではない。実際の剤形・力価(ドライシロップ10%/20%等)と採用薬は施設ごとに違い、本シートの「院内ローカルルール」(§6)は未確定のまま。g・包数への換算は院内採用を確認したうえで行う。

薬剤名だけで用量が出ないものは、正本にその記載が無いということ。推測の数字は出さない。

参考計算・参考判定です。適用は添付文書・現行ガイドライン・院内採用・患者個別要因を確認のうえ医師が判断してください。

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