1-21伝染性単核症(EBV)
抗菌薬が効かない扁桃炎・薬疹・脾腫
β版 · 紙面の最終確認 2026-10-30
日付は紙面の確認日です。院内承認を示すものではありません。処方・運用は、本文の適用条件と出典、院内の採用薬・手順を確認してください。
このページの目次9項目
1ポイント
- 溶連菌性扁桃炎と思ってペニシリン系(ABPC/AMPC)を出すと薬疹が出る。「抗菌薬が効かない扁桃炎」で疑う。
- 発熱は38℃以上の高熱で1〜2週間持続することが多い。
- 乳幼児期の初感染は不顕性であることが多く、思春期以降に感染するとIMを発症することが多い。
- 異型リンパ球は10〜50%と著増する例もあれば、数%以下のこともある。少ないことを否定の根拠にしない。
- 脾腫があれば脾破裂のリスク。運動制限が要る。
2鑑別のながれ
- 扁桃炎+頸部リンパ節腫脹+肝脾腫→溶連菌迅速検査陽性でも併存しうる→EBV(血算・肝機能・EBV抗体)
- 抗菌薬を出したあとに全身の皮疹→ABPCを内服すると鮮明な滲出性紅斑様皮疹や丘疹などを呈す→ペニシリン系による薬疹(EBVを考え直す)
- 結膜炎を伴う咽頭炎→迅速検査で鑑別→アデノウイルス(咽頭結膜熱)
- 開口障害・口蓋垂偏位→気道緊急疾患→扁桃周囲膿瘍
- 左上腹部痛・ショック→時に巨大脾腫から脾破裂に至ることもある→脾破裂(外科のある施設へ緊急)
- 意識障害・けいれん・麻痺→IMの経過中に出現しうる→中枢神経合併症(脳炎・急性片麻痺・Guillain-Barré症候群は持てない。全身状態が安定した無菌性髄膜炎は当院で入院管理し、日勤帯に専門施設と相談〈院内方針院内〉)
3検査
- 溶連菌迅速検査を出す。陽性でもEBVの合併はありうる
- 血算(白血球総数)・肝機能は当直帯で出せるが、異型リンパ球の分画・鏡検は夜間は出ない。臨床所見(咽頭炎・頸部リンパ節腫脹・肝脾腫)とEBV抗体・肝機能で当直帯の判断を組み立て、異型リンパ球の確認は日勤帯に回す
- EBV抗体(VCA-IgM、抗EBNA抗体)は、臨床像が典型的(発熱・咽頭炎・リンパ節腫脹)で経過が合致するなら臨床診断でよく、非典型例・入院適応判断が必要な例のみ提出する。VCA IgMは乳幼児では検出されない場合がある
- VCA-IgM陰性でもVCA-IgG陽性・EBNA陰性なら『初感染だが検体提出が早すぎた』パターン、EBNA陽性なら既感染パターン
- AST/ALTは第2週頃をピークとして300〜500 IU/L程度のことが多い
- 脾腫を触知するか確認する(触診手技は下記)
- 小児IMの診断基準の目安:臨床所見(発熱・扁桃咽頭炎・頚部リンパ節腫脹・肝肥大または脾腫)のうち3項目以上+検査所見(末梢血リンパ球比率50%以上あるいは5,000/μL以上、または異型リンパ球10%以上あるいは1,000/μL以上)+血清学的所見(VCA-IgM抗体陽性等)1項目以上、を満たせば診断
4処置・処方例
Rp. 1アセトアミノフェン 1回10〜15mg/kg、4〜6時間以上あけて。1日総量60mg/kgかつ1500mgを超えない(1回最大500mg) 内服
第一選択。解熱・咽頭痛の苦痛緩和が目的。特異的治療薬はない
- シロップ(カロナールシロップ2%=20mg/mL):—〜—(10〜15mg/kg)を1回
- 細粒(カロナール細粒20%=200mg/g):—〜—(10〜15mg/kg)を1回
- 坐剤:1回 —〜— に一番近い規格・個数を選ぶ(アンヒバ/アルピニー 50・100・200mg。10kgなら100mgを1個)
- 次は4〜6時間以上あける。1日の合計は — まで
避けること・注意:ペニシリン系(ABPC/AMPC)を出さない。薬疹が出る。すでに出ていれば中止する。
↑ このページの入口へ5脾腫の触診
- 仰臥位にして膝を軽く曲げさせ、腹壁の力を抜かせる
- 左手を背側から左脇腹に当てて脾臓を前方へ押し上げるように支え、右手を左上腹部(左肋骨縁の下)に置く(双手診)
- 右手は臍の下あたりからゆっくり左上方(左肋骨縁に向けて)へ進める。上方からいきなり触診すると巨大な脾腫を見逃す
- 手で強く突かない。呼吸に合わせて指先で触れにいく
- 触れたら左肋骨縁の下に何cm触れるかを記録する。乳児では左肋骨縁下に1〜2cm触れるのは正常範囲
やってはいけない・落とし穴
↑ このページの入口へ- 上方から先に触診すると、すでに骨盤方向まで達した巨大な脾腫を見逃す
- 既に腫大している脾臓を手で強く突くと脾破裂のリスクがあるため、決して強く押し込まない
6送る/持つ
- 帰宅典型的な経過で経口摂取可能なら当院で対症療法と運動制限の指示
- 入院経口摂取不能・脱水は輸液のうえ入院適応を判断、黄疸・著明な肝機能異常(肝炎型)は入院を検討、全身状態が安定した無菌性髄膜炎は当院で入院管理し、日勤帯に専門施設と相談(院内方針院内)
- 搬送・紹介脾破裂を疑うなら外科のある施設へ緊急、気道閉塞を疑う扁桃腫大は気道確保のできる施設へ。急性喉頭蓋炎と同様に咽頭を刺激する診察をしない、脳炎・急性片麻痺・Guillain-Barré症候群は持てない、血算に芽球など悪性を疑う所見は血液専門施設へ
7診療中の疑問と回答
- 抗菌薬で良くならない扁桃炎。さらに広い薬へ変える?
- EBVなどの単核症、膿瘍や別の感染を再評価し、リンパ節・肝脾腫・血算・肝機能を確認する。EBVが疑われる場合はAMPCなどを漫然と追加しない。呼吸・嚥下障害や脱水があれば、外来で薬を替えるだけにせず入院評価を考える。
根拠:CDC Infectious mononucleosis - 解熱したので接触スポーツへ戻してよい?
- 解熱だけで脾腫や脾破裂リスクがなくなったとはいえない。腹痛、脾腫、全身状態を再評価し、復帰時期は既存の運動制限方針と担当医の判断に従う。左上腹部痛、肩痛、失神や顔色不良は直ちに救急評価し、腹部への衝撃を避ける。
根拠:CDC Infectious mononucleosis - だるさが数週続く。抗菌薬の追加が必要?
- 単核症では回復後もしばらく疲労が残り得る。睡眠・飲水・学校活動を調整しつつ、発熱再燃、黄疸、出血、体重減少などを再評価する。長引くことだけで抗菌薬を追加せず、経過が非典型なら別の感染症や血液疾患を検討する。
根拠:CDC Infectious mononucleosis
- 溶連菌迅速検査が陽性ならEBVは否定できる?
- できない。陽性でもEBVの合併はありうる。「陽性だからEBVではない」と決めない。
- 異型リンパ球が少なければEBVを否定できる?
- できない。10〜50%と著増する例もあれば数%以下のこともある。少ないことを否定の根拠にしない。
- 脾腫があるときの運動制限期間は?
- 保守的に3〜4週間の運動制限とし、腹部超音波等で脾腫消退を確認できれば解除する。
9家族への説明
EBウイルスによる感染症で、のどの腫れ・高熱・首のリンパ節の腫れが1〜2週間続くのが特徴です。抗菌薬は効きません。むしろ、ある種の抗菌薬を飲むと全身に発疹が出ることがあるため使いません。脾臓(ひぞう)が腫れている場合は、ぶつけると破裂する危険があるので、運動は主治医の許可が出るまで控えてください。水が飲めない・息が苦しい・お腹の左上が強く痛む、といったときはすぐ来てください。
一般教育・院内オペ補助。個別診断・治療の代わりにはなりません。β版・逐条レビュー継続中。