4-22動物咬傷・ハチ刺傷・虫刺され
傷の見た目より中が危ない
β版 · 紙面の最終確認 2026-10-30
日付は紙面の確認日です。院内承認を示すものではありません。処方・運用は、本文の適用条件と出典、院内の採用薬・手順を確認してください。
このページの目次9項目
1ポイント
- 小児の犬咬傷は、傷の見た目より中が危ない。死亡例は小児に偏在し、頭蓋内損傷・内臓損傷・大血管損傷が起こりうる。
- 2歳未満の頭部咬傷は、皮膚の傷が軽微でも頭蓋内穿通創がありうる。見た目で判断しない。
- 創の消毒は推奨されない(組織障害の懸念)。洗浄が有効。狂犬病が危惧される場合だけ消毒を考慮する。
- 抗菌薬による破傷風発症予防のエビデンスはなく、受傷後の予防投与は推奨されない。破傷風はトキソイド(±免疫グロブリン)で考える。
- ハチのアナフィラキシーは速い。致死的反応で呼吸停止または心停止までの中央値は、ハチ15分(薬物5分、食物30分)。
2鑑別のながれ
- 小児の犬咬傷(部位を問わず)→頭蓋内損傷・内臓/頸椎/気管/大血管損傷・多発骨折の可能性→成人より注意深く診察する
- 2歳未満の頭部・顔面の咬傷→皮膚損傷が軽微でも頭蓋内穿通創がありうる→頭部画像を検討し脳外科のある施設へ相談
- 胸部・腹部の咬傷→気胸と内臓損傷の有無→気胸の確認が必要
- ハチに刺され数分〜数時間で血圧低下・気管支攣縮・喉頭症状(皮疹がなくても)→致死的反応の中央値は15分→アナフィラキシーショック(観察の場を離れない)
3検査
- 創がある場合は石鹸と流水で洗浄する(有効・グレードB)。狂犬病が疑われる咬傷は徹底的に洗浄
- 顔面創の一次閉鎖は、洗浄・創の深さ・汚染・経過時間を踏まえ専門科が選ぶ。当院は院内縫合できないため早期に相談する
- 咬傷は一次閉鎖を避ける場面が多い。十分な洗浄と深部損傷評価を行い、閉鎖適応は専門科に相談する。受傷後の時間を相談・搬送を待てる猶予としない
- 手の咬傷・刺創・易感染性の基礎疾患は一次縫合の適応を慎重に選ぶ
4処置・処方例
Rp. 1沈降破傷風トキソイド 0.5mL筋注(体重によらず固定量) 筋注
接種歴・創のリスクからトキソイドが必要と判断したときに使う(下記の注記参照)。当直の前に院内在庫を確認する
- 沈降破傷風トキソイド 0.5mL を筋注する(体重換算不要)
Rp. 2破傷風免疫グロブリン(TIG) 250IU筋注(体重によらず固定量) 筋注
接種歴が不十分・不明で汚染創/大きな創のときにトキソイドに追加する。当直の前に院内在庫を確認する
- 破傷風免疫グロブリン 250IU を筋注する(体重換算不要)
Rp. 3アモキシシリン/クラブラン酸配合剤(例: クラバモックス小児用配合ドライシロップ) 感染リスクが高い咬傷にのみ予防投与。本剤として96.4mg(力価)/kg/日(アモキシシリンとして90mg/kg・クラブラン酸として6.4mg/kg)を2回に分け12時間ごと、食直前に3日間 内服
全ての咬傷に一律には使わない。破傷風予防(トキソイド・TIG)とは別の目的(創感染予防)。製剤・採用品は当院で確認する(医学書からの標準治療の補記)。体重40kg以上は添付文書上この用量の小児データがないため、体重換算量をそのまま使わず量を再検討する
- 対象を確認する: 創が挫滅創・穿通創である/部位が顔・手・足・陰部である/免疫不全があるのいずれかがあるときだけ投与する
- クラバモックス小児用配合ドライシロップなら、本剤として —(アモキシシリンとして —・クラブラン酸として —)を1日量とし、12時間ごとに2回に分けて食直前に内服する
- 体重40kg以上は、添付文書上この用法用量を確認した小児データがない。40kg換算のまま出さず、量を見直す
- 3日間で終了する(治療用量ではなく予防投与)
- 製剤・採用品は当院の在庫で確認する
破傷風: 3回以上接種済みなら最後のトキソイドから高リスク創5年以上・低リスク創10年以上経過でトキソイドが必要。接種歴不十分/不明+汚染/大きな創はトキソイドに加えTIGの適応。接種歴不十分/不明でも創が低リスク(清潔・浅表)ならトキソイド単独でよい(TIGは不要)。抗菌薬での破傷風予防は推奨されない(破傷風発症予防目的の抗菌薬とは別に、創感染予防目的の抗菌薬は対象を選んで使う)。TIGの固定250単位は小児科当直医マニュアルにも準拠。
↑ このページの入口へ5咬傷創の洗浄
- 創が深い・壊死組織のデブリドマンが必要なときは、先に局所麻酔を行う
- 生理食塩水または水道水で洗浄する(水道水でも治療成績に差はない)
- 創1cmあたり50〜100mLを目安に洗浄する
- 30〜50mLのシリンジに19ゲージ針(または相当する留置針の外筒)をつけ、5〜8psi相当の圧をかけて洗浄する
- 狂犬病が疑われる咬傷は、上記に加えてとくに徹底的に洗浄する
やってはいけない・落とし穴
↑ このページの入口へ- 消毒は行わない(組織障害の懸念があり推奨されない)
- 圧が弱すぎると汚染除去が不十分になる。かといって組織を傷める強さは避ける
- 洗浄の行き届かない刺創は一次縫合しない
6帰宅・入院の目安
- 帰宅表在性の創・洗浄と破傷風対応のみで当院対応
- 入院アナフィラキシー(二相性反応を踏まえ4〜6時間観察後に帰宅可否を判断し、重症例は入院)
- 搬送・紹介頭蓋内穿通が疑われる頭部咬傷(特に2歳未満。持てない)、胸腹部咬傷で気胸・内臓損傷を疑う(持てない)、顔面の縫合(24時間以内に形成外科のある施設へ着かせる)、顔面以外の縫合を要する創(受傷後8時間以内に着かせる。縫合適応があるときのみ)
7診療中の疑問と回答
- 小さな猫咬傷なら洗って帰してよい?
- 表面が小さくても深い穿刺になり得る。部位、関節・腱への到達、神経血管所見を確認し、十分に洗浄する。手指、顔、関節近傍、挫滅や免疫不全では創感染予防薬と専門科評価を検討する。破傷風対策は抗菌薬と分け、接種歴で判断する。
根拠:RCH Animal and human bites(海外指針・処方は国内確認) - 咬傷をきれいに縫って閉じてよい?
- 大半は感染リスクを考えて開放管理を検討する。顔面など整容上の必要がある創でも、受傷時間、深さ、汚染、十分な洗浄・探索の可否を確認する。当院で腱や関節損傷の評価、適切な処置を完了できない場合は、縫合を先行せず専門科に相談する。
根拠:RCH Animal and human bites(海外指針・処方は国内確認) - 予防薬を飲んでいるのに腫れた。期間を延ばす?
- 疼痛・発赤の拡大、膿、発熱、関節運動制限を再評価する。深部感染や異物があれば内服の延長だけでは不十分で、画像や洗浄・ドレナージが必要となる。培養、投与薬の適合、入院の要否を検討し、骨・関節感染が疑わしければ速やかに専門科へつなぐ。
根拠:RCH Animal and human bites(海外指針・処方は国内確認)
- 咬傷は消毒すべき?
- 推奨されない。細菌感染率を下げるエビデンスがなく組織障害が懸念される。洗浄が有効。
- 国内で犬に咬まれたら狂犬病の心配は?
- 日本は狂犬病の発生のない国。咬んだ動物を2週間以上観察して症状を示さなければ感染の可能性を否定できる。
- マダニに咬まれたら?
- 無理に引きちぎらない。SFTS(潜伏期6〜14日、通常7〜10日)・日本紅斑熱(潜伏期2〜8日)・つつが虫病(潜伏期5〜14日)を念頭に、後日の発熱で再受診する条件を渡す。
- 海外で動物に咬まれた・コウモリに咬まれたら?
- できるだけ早くワクチン接種を開始する。創は石鹸と流水で徹底的に洗浄し、渡航医学の相談先へ早めに相談する。
9家族への説明
咬まれた傷は、見た目より中が傷んでいることがあります。とくに小さなお子さんの頭は、皮膚の傷が小さくても中まで届いていることがあるので、必要なら詳しい検査をします。傷はよく洗うことが大事で、消毒はかえって治りを悪くすることがあるため行いません。破傷風の予防が必要かどうかは、傷の状態と予防接種の記録で決めますので、母子手帳を見せてください。ハチに刺された後は、しばらく目を離さないでください。息苦しさ・声のかすれ・ぐったりが出たら、すぐ知らせてください。
一般教育・院内オペ補助。個別診断・治療の代わりにはなりません。β版・逐条レビュー継続中。