5-11細菌性腸炎・腸管出血性大腸菌(EHEC)とHUS
止痢薬は使わない・HUSは持てない
β版 · 紙面の最終確認 2026-10-30
日付は紙面の確認日です。院内承認を示すものではありません。処方・運用は、本文の適用条件と出典、院内の採用薬・手順を確認してください。
このページの目次8項目
1ポイント
- 止痢薬は使わない。HUS発症の危険因子であり、サルモネラ・カンピロバクターでも排菌を遅らせる。
- 抗菌薬は「一定の結論はない」。日本のガイドラインは推奨グレードを「該当せず」としている。
- HUSは下痢の出現後4〜10日に発症。EHEC感染者の約1〜10%。下痢の2〜3日後の発症は急激かつ重症になりうる。
- 乏尿・無尿はHUS患者の約半数に起き、そのさらに約半数が急性血液浄化療法を必要とする。
- 血清Crが年齢・性別基準値上限の2倍以上なら、急性血液浄化療法ができる施設へ。
2鑑別のながれ
- 血便+下痢→嘔吐が先行し下痢が続き、血便は乏しい→ウイルス性胃腸炎(胃腸炎と脱水)
- 血便+下痢→間欠的啼泣、イチゴゼリー状粘血便→腸重積(腸重積)
- 血便+下痢→紫斑+腹痛。腸重積を合併しうる→IgA血管炎(腹部型)
- 血便+下痢→慢性の経過、体重減少、成長障害→炎症性腸疾患
- 血便+下痢→前触れなく大量の下血→Meckel憩室(小児の血便)
- 血便+下痢→新生児・乳児期、哺乳との関連→食物蛋白誘発胃腸炎(小児の血便)
3検査
- 脱水の有無にかかわらず早期に輸液を開始する(輸液不足はAKI・無尿の危険因子)。用量は下の処方欄。
- 便培養を出す(抗菌薬投与前に採取。夜間は検査室へ提出できず、採取後保管し翌朝提出する。EHECの確定診断は菌の分離+ベロ毒素の確認で通常4〜5日を要する)。
- HUSの3主徴:破砕赤血球を伴う溶血性貧血(Hb 10 g/dL未満)・血小板減少(15万/μL未満)・急性腎傷害(血清Crが年齢・性別基準値の1.5倍以上)。破砕赤血球の鏡検は当直帯に出せないため、Hb低下・血小板減少・Cr上昇の組み合わせで臨床的に疑い、確定は翌朝再検か紹介先に委ねる。
- O157迅速検査:IC法は15〜20分で判定できるが検出感度はRPLA法に比べ4倍程度低い。陰性で否定しない。
- 下痢発症後4〜10日をHUSの警戒期間として家族に伝える(尿量・顔色・むくみ・元気のなさ)。
4処置・処方例
Rp. 1経静脈輸液 ショック:生理食塩水20mL/kgを急速投与。ショックでない:ソリタT1号(開始液)10〜20mL/kg/時で2〜3時間(胃腸炎と脱水の輸液方針を準用。本症〈細菌性腸炎・HUS疑い〉固有の輸液プロトコルとしての確定はまだ無い) 点滴
脱水の有無にかかわらず早期に開始する。輸液不足はAKI・無尿の危険因子。低Na血症(130mEq/L以下)はそれ自体HUSでの無尿・乏尿の危険因子なので、ソリタT1号(Na 90mEq/L)を使う場合も電解質を早期に確認する
- ショック(CRT延長・頻脈・意識低下):生理食塩水 — を急速投与し、脈拍・CRT・意識・尿量で再評価。必要なら反復
- ショックでなければ:ソリタT1号(開始液)を —〜—/時で2〜3時間投与する(胃腸炎と脱水の決定を準用)
- 脱水の有無にかかわらず早期に輸液を開始する。輸液不足はAKI・無尿の危険因子
- 電解質(特にNa)を早期に確認する。低Na血症(130mEq/L以下)が判明・持続する場合は輸液内容の見直しを検討する
避けること・注意:止痢薬(HUS発症の危険因子)。抗菌薬もEHEC疑い例では投与しない方針(HUSリスクとの関連が指摘されるため、院内決定)。
↑ このページの入口へ5帰宅・入院の目安
- 帰宅レッドフラグ(乏尿・無尿、意識障害・痙攣、出血傾向)がない、血清Crが年齢・性別基準値上限の2倍未満、脱水・低Na血症(130 mEq/L以下)・ALT上昇(70 IU/L以上)・EHEC O157:H7の確認/疑いなどの無尿・乏尿の危険因子がなく、経過観察できる
- 入院脱水で輸液が必要だが、HUSを疑う所見(乏尿・無尿、Cr基準値上限の2倍以上、中枢神経症状、出血傾向)が無い:当院で対応しうる
- 搬送・紹介HUSを疑う(乏尿・貧血・血小板減少・出血傾向/紫斑・Cr上昇):持てない。急性血液浄化療法ができる施設へ、血清Crが基準値上限の2倍以上:同上、中枢神経症状:持てない
6診療中の疑問と回答
- 下痢が減ったので、HUSの心配も終わり?
- 腸症状の改善後にもHUSが発症し得る。尿量減少、顔色不良、むくみ、紫斑、強い倦怠感を説明し、発症日からの経過と血算・腎機能を追う。疑う変化があれば次回予約を待たず再評価する。初回の血算やCrが正常でも後日の発症は否定できない。
根拠:CDC E. coli感染症の治療 / 国内HUS診断治療ガイドライン - 血便があるので、止痢薬と抗菌薬を同時に出す?
- 止痢薬は使わず、便検査と脱水・腎機能評価を行う。STEC/EHECを疑う場合、抗菌薬は利益とHUSリスクが議論され、当院は院内投与しない既存方針で対応する。他病原体、敗血症、基礎疾患では判断が変わるため、原因を区別して専門医と相談する。
根拠:CDC E. coli感染症の治療 / 国内HUS診断治療ガイドライン - 早く補液すべきなら、尿が出なくても大量に入れる?
- 早期の脱水補正は重要だが、乏尿・無尿や腎傷害が進む場合は体液過剰を避ける必要がある。体重、入出量、呼吸、電解質を反復評価し、漫然と輸液を続けない。HUSが疑わしければCrの閾値到達を待つのではなく、血液浄化に対応する施設へ相談する。
根拠:CDC E. coli感染症の治療 / 国内HUS診断治療ガイドライン
- 抗菌薬は出すか?
- 当院は院内投与しない方針(HUSリスクとの関連が指摘されるため)。日本のガイドラインは推奨グレードを「該当せず」としている。
- 下痢が治まったら登校できるか?
- サルモネラ・カンピロバクターは下痢が治まれば登校(園)可能。手洗いを励行する。
8家族への説明
細菌による腸炎です。下痢止めは使いません。菌や毒素を体の外に出しにくくして、かえって悪化させることがあるためです。血便が出る菌のなかには、下痢が始まってから4〜10日たったころに腎臓に影響が出るものがあります。おしっこの量が減る・顔色が悪い・まぶたや足がむくむ・ぐったりする、このどれかがあれば、日数がたっていてもすぐに来てください。ご家族にも手洗いを徹底してください。
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