1-23敗血症・菌血症を疑うとき
発熱のみ・感染巣不明の乳幼児からショックを拾う
β版 · 紙面の最終確認 2026-10-30
日付は紙面の確認日です。院内承認を示すものではありません。処方・運用は、本文の適用条件と出典、院内の採用薬・手順を確認してください。
このページの目次10項目
1ポイント
- 小児は成人と違い、肺炎を伴わず発熱のみを初期症状とした感染巣のはっきりしない菌血症例が多い。
- 血圧が下がってからでは遅い。代償性ショック(血圧は保たれている)の段階で、CRT延長・四肢冷感・尿量減少から拾う。四肢が温かくCRTが速くても敗血症性ショックを否定しない(温かいショックがある)。
- ルート確保・蘇生と抗菌薬を急ぐ。SSC小児2026では疑い敗血症性ショックは理想1時間以内、ショックなしのprobable sepsisは迅速評価で裏付けられれば理想3時間以内。院内の掲示・実行手順は未確定でも、開始を曖昧にせず上級医と直ちに決める。
- 血液培養は抗菌薬の前に採る。ただし採血に手間取って抗菌薬を遅らせない。
- 輸液に反応しない敗血症性ショックは当院で持てない。ICU/PICUのある施設へ。
判断の流れ
拡大して見る ↗2鑑別のながれ
- 発熱のみで感染巣がはっきりしない乳幼児→小児の菌血症はこの形で来る→菌血症(血液培養と全身評価)
- 乳児の体温低下・無呼吸・筋緊張低下・哺乳不良→乳児の敗血症は『発熱』で来ないことがある→敗血症(全身評価を優先)
- 3か月未満の発熱→感染巣がなくても精査前提→重症細菌感染症
- 発熱+紫斑→電撃性紫斑病・髄膜炎菌血症を疑う→抗菌薬を遅らせない(血液培養を採りつつ投与)
- 乳児の発熱のみ→発熱のみのことが多い。検尿の閾値を低くする→尿路感染症
- 発熱+髄膜刺激徴候(乳幼児では必発ではない)→徴候がなくても否定しない→細菌性髄膜炎
- 発熱が続き抗菌薬に反応しない→主要症状を数える→川崎病
- ぐったりで来る→腹部と陰嚢を診る→腸重積・外科的腹症
3検査
- 夜間に血液ガス・乳酸が同時に出せる(灌流評価にはCRT・末梢冷感・尿量・意識も併用する)
- 血液培養の採取量目安:新生児1〜2 mL、乳児2〜3 mL、幼児・学童3〜5 mL、思春期10〜20 mL。2セット以上採るが、このために抗菌薬投与を遅らせない
- 血液培養は夜間提出不可。治療を遅らせず採取できる場合に採り、検査室と保管・搬送方法を確認する。保管方法は未確定のため独断で翌朝まで待たせない
- 画像は夜間X線のみ。感染巣の推定は病歴と診察でつける
4処置・処方例
Rp. 1感染巣が中枢神経(髄膜炎)疑いの場合:セフォタキシム+バンコマイシン(新生児はさらにアンピシリン) セフォタキシム 300mg/kg/日・6時間毎(1日最大12g)+バンコマイシン 60mg/kg/日・6時間毎(1日最大2g)。新生児(〜2か月)はアンピシリン 300mg/kg/日・6時間毎(1日最大10〜12g)を併用 点滴静注
中枢神経感染を疑う小児敗血症の初期選択。細菌性髄膜炎シートと同一レジメンに揃えてある。セフトリアキソンは全年齢で使わない
- セフォタキシム:1日量 —(1日最大12g)を6時間ごとに4回に分けて点滴静注
- バンコマイシン:1日量 —(1日最大2g)を6時間ごとに4回に分けて点滴静注
- 新生児(〜2か月)はアンピシリン1日量 —を6時間ごとに4回に分けて併用
感染巣が絞れない場合(呼吸器・尿路・腹腔内・皮膚軟部組織)の抗菌薬は、J-SSCG2024が示す例のみで院内採用はまだ確定していない(エスカレーション参照)。体重換算(mg/kg/日)の値は体格の大きい学童・思春期患者では成人の安全域を超えることがあるため、計算した1日総量が上限を超えていないか必ず確認する。医学書で確認できた上限の例:セフォタキシム最大12g/日、バンコマイシン最大2g/日、アンピシリン最大10〜12g/日(セフォチアム・セファゾリンの上限は今回の一次資料で確実な数値を確認できておらず、使う前に添付文書で確認する)。 避けること・注意:血液培養は抗菌薬を実質的に遅らせない範囲で投与前に採取。採取できないことを理由に抗菌薬を待たせない。改善しない発熱のみの乳幼児を『大丈夫そう』で経過観察に留めない。中枢神経感染を疑う場合はセフトリアキソンを使わない(全年齢。新生児の禁忌とカルシウム含有輸液との配合変化による死亡例報告があるため)。第3世代セフェムはセフォタキシムを使う(細菌性髄膜炎の抗菌薬に合わせる)。
↑ このページの入口へ5初期蘇生(時刻を決めて動く)
- 0分:認識する。バイタル・意識・CRT・四肢冷感・尿量を見て酸素投与
- 5分以内:仰臥位で、肘正中皮静脈・手背静脈など見える末梢静脈に、できるだけ太い留置針(24・22・20Gなどを用意する)を確保する
- 5分以内に確保できなければ骨髄路へ切り替える。小児は成長への影響を考慮し前脛骨(脛骨上部内側・脛骨粗面)を穿刺部位とし、骨髄針は1.5歳未満18G・1.5歳以上16Gを目安に垂直に刺入する(院内在庫の機種に従う)
- 15分以内:等張晶質液を — ボーラス投与し、反応と体液過多を再評価する。血液培養は治療を遅らせず採取できる場合に投与前に採る。採血を理由に抗菌薬を待たせない
- 反応がなければ、1回ごとに再評価してボーラスを反復する。肺水腫・肝腫大・ラ音など体液過多の徴候が出たら中止する。上限はJRC2020・SSC小児版2020が最初の1時間で合計40〜60mL/kgをめやすとし、J-SSCG2024は示していない(院内の上限は未確定)。反復と同時に受け入れ先へ連絡する
やってはいけない・落とし穴
↑ このページの入口へ- SSC小児2026の時間目標は診療のポイント・QAを参照する。院内の薬剤・実行手順が未確定でも、医学的に投与を保留できる意味ではない。上級医と開始時点・レジメンを直ちに決め、血培で実質的に遅らせない
- 血液培養の採血に手間取って抗菌薬投与を遅らせない
- 輸液の反応を待ってから受け入れ先へ連絡しない。反復と同時に連絡する
6送る/持つ
- 入院認識・ルート確保・初期輸液・血液培養・抗菌薬開始は当院で行う。送り先に着くまで待たない
- 搬送・紹介初期輸液に反応しない敗血症性ショックは持てない、強心薬・昇圧薬が要る場合は持てない、人工呼吸管理が要る場合は持てない
7診療中の疑問と回答
- 血圧が保たれている発熱児は敗血症性ショックでない?
- 血圧低下は遅い所見になり得る。意識・反応、脈、皮膚灌流、尿量、呼吸と推移を評価する。四肢が温かくCRTが速い型もあるため、冷感がないだけで除外しない。感染に臓器障害が疑われれば上級医を呼び、蘇生と原因評価を並行する。
根拠:SCCM 小児敗血症国際GL2026 - 採血や画像が終わってから抗菌薬を開始する?
- 可能なら投与前に血液培養を採るが、ショックで治療を実質的に遅らせない。疑い敗血症性ショックではできるだけ早く、理想1時間以内を目標にする。感染源・年齢・耐性リスクと既治療を確認し、投与時刻を記録して搬送先へ伝える。
根拠:SCCM 小児敗血症国際GL2026 - 輸液後も循環が悪い。さらに同じ量を入れ続ける?
- 各投与後に灌流と呼吸、肝腫大など容量過剰徴候を再評価する。反応が乏しい、肺水腫などが疑われる場合は漫然と反復せず、昇圧・強心薬とPICU搬送を急ぐ。総投与量・反応、抗菌薬と培養の時刻を一緒に引き継ぐ。
根拠:SCCM 小児敗血症国際GL2026
- 抗菌薬は1時間以内に入れるべき?
- SSC小児2026は疑い敗血症性ショックでできるだけ早く(理想1時間以内)、ショックなしのprobable sepsisは時間を区切る迅速評価で裏付けられれば理想3時間以内とする。培養採取で実質的に遅らせない。院内の開始薬・指示系統・掲示は確認が必要だが、成人の推奨との違いを治療開始保留の根拠にしない。
- 血液培養を採る量は?
- 新生児1〜2 mL、乳児2〜3 mL、幼児・学童3〜5 mL、思春期10〜20 mL。2セット以上採るが、このために抗菌薬投与を遅らせない。
- 3か月未満の発熱の約9割はウイルスだから帰していい?
- 帰す根拠にしない。残り1割程度に敗血症や細菌性髄膜炎が含まれる。
- 送ると決めたら何を伝える?
- 抗菌薬を投与してから送る(投与していないなら、その理由を伝える)。投与した輸液の量・開始時刻・反応を時系列で渡す。血液培養を採ったかどうかを明示する。骨髄路を使ったならその旨も伝える。
9家族への説明
細菌が血液の中に入って全身に影響している可能性があります。時間との勝負なので、診断が確定する前に点滴と抗菌薬を始めます。お子さんの場合、熱だけが症状で、どこが悪いかはっきりしないことがよくあります。当院でできる治療を始めたうえで、集中的な管理が必要と判断したら、設備のある病院へ移っていただきます。
一般教育・院内オペ補助。個別診断・治療の代わりにはなりません。β版・逐条レビュー継続中。