1-23敗血症・菌血症を疑うとき
このページの目次12項目
1病態・根拠(医師確認前の原稿)
2「菌血症」と「敗血症」を分けて考える
医師確認前の学習用原稿。SSC小児版は2026年3月に改訂されたため、既存の「診療の要点」にある時間目標・輸液・認識基準は改訂版との再照合が必要。当院独自の薬剤・輸液プロトコルを定める節ではない。[1][2][3]
菌血症は血中に細菌が存在する微生物学的な状態で、敗血症は感染に伴う生命を脅かす臓器機能障害である。血液培養が陽性でも臓器障害がなければ両者は同義でなく、逆に培養陰性でも感染と臓器障害を疑えば敗血症を除外できない。原因が細菌に限られない点も、抗菌薬を開始した後の再評価で重要になる。[2][3]
小児のPhoenix基準は、感染が疑われる児の呼吸・循環・凝固・神経の障害を統合して敗血症を定義する。従来のSIRS/Goldstein基準は発熱・頻脈などに敏感でも重症度を十分に識別できず、新しい定義では「重症敗血症」という語を用いない。ただしPhoenixスコアは発症早期のスクリーニング用ではない。スコア成立や低血圧を待たず、灌流・意識・呼吸の変化から初期対応を始める。[2]
3小児で見逃しやすい理由と悪化の仕組み
正常の心拍数・呼吸数・血圧は年齢で異なり、免疫成熟と感染の疫学も年齢で変わる。乳児では発熱や感染巣の訴えが明瞭でないことがあり、低体温、哺乳低下、活気低下、無呼吸などを全身状態の異常として拾う。早産児や出生後から入院中の新生児にはPhoenix基準の開発データをそのまま適用できない。これらの児は新生児の診療体系で別に評価する。[2][3][4]
感染への宿主反応が局所にとどまらず、循環・呼吸・凝固・神経など離れた臓器の機能障害に及ぶと、ショックや多臓器不全へ進む。循環の破綻は血圧低下だけで表れない。頻脈、毛細血管再充満時間、四肢温、脈の質、意識、尿量を繰り返して見るのは、輸液・抗菌薬・搬送の間に灌流が改善しているかを捉えるためである。心機能低下や体液過剰が加わる児では、循環不全を一律の追加輸液だけで解決しようとすると害になりうる。[1][3]
4検査は「原因」と「臓器障害」を並行して探す
| 問い | 初期評価 | 結果の限界 |
|---|---|---|
| 灌流障害は進んでいるか | 年齢に応じたバイタル、CRT、末梢温、脈、意識、尿量を反復する。可能なら血液ガスと乳酸を確認する。[1][3] | 血圧が保たれていてもショックはありうる。乳酸だけを診断や輸液終了の条件にしない。当院は夜間の乳酸測定可否が未確認。[1][3] |
| どの臓器が障害されているか | 呼吸状態・酸素化、神経所見、凝固、腎機能などを臨床像に応じて評価する。[2][3] | Phoenixスコアが未成立でも、将来の悪化を否定できない。早期スクリーニングとして単独使用しない。[2] |
| 感染巣・病原体は何か | 診察を軸に尿、呼吸器、中枢神経、腹部、皮膚軟部組織、留置デバイスなどを検討し、抗菌薬を実質的に遅らせない範囲で血液培養を先に採る。[1][3] | 陰性培養や単一の炎症マーカーで敗血症を除外できない。検査が遅れるならショックへの治療と受入先連絡を先行する。[3] |
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SSC小児版2026は、敗血症が疑われる児の初期評価に乳酸測定を推奨する一方、循環蘇生は乳酸の値だけでなく臨床所見を継続評価する。血液培養は抗菌薬を大幅に遅らせない場合に投与前採取とする。当院の夜間培養搬送と乳酸測定の運用確認が残る。[3]
5鑑別と抗菌薬の考え方
発熱と頻脈だけで細菌性敗血症と決めず、脱水、ウイルス感染、尿路感染症、肺炎、髄膜炎、急性腹症などを同時に考える。特に感染巣の処置が必要な場合、抗菌薬だけでは感染源を制御できない。SSC小児版2026は処置可能な感染源の速やかなコントロールと、病原体・感受性が判明した後の抗菌薬の絞り込みを求めている。[3]
ショックが疑われる場合、抗菌薬の選択と投与を急ぎ、血液培養のために大きく遅らせない。SSC小児版2026はショック疑いで認識後できれば1時間以内、ショックのない敗血症疑いでは短時間の評価後、懸念が裏づけられればできれば3時間以内としている。これは小児の国際指針であり、J-SSCG2024の「必ずしも1時間以内という目標は用いない」は成人のCQ2-2である。院内の掲示と計時点は医師間で統一する。[1][3]
6輸液への反応を毎回判断する
等張晶質液を投与する目的は、循環血液量が不足する児の灌流を改善することにある。ショックの程度、心機能、呼吸状態、集中治療へのアクセスで適量は変わる。SSC小児版2026は、集中治療が利用できる医療体制と利用できない体制で輸液推奨を分け、各ボーラス後に血行動態を再評価し、ショックの解消または体液過剰の徴候で中止する。当院はPICUを持たないが搬送先へアクセスするため、どの推奨区分で院内の輸液上限を設定するかは未確定である。[1][3]
呼吸の悪化、ラ音、肝腫大などが出現したら追加輸液を機械的に続けず、心機能と肺うっ血を考える。研修・機器がある場合、心肺POCUSを蘇生の補助に使うことが2026版で条件付き推奨されたが、当院での利用可否は未確認である。輸液不応や循環作動薬を要する段階では、当院で初期治療を進めながらPICU受入先と早期に協議する。[1][3]
7搬送判断と引き継ぎ
初期輸液後も灌流障害が続く、呼吸・神経・凝固など複数臓器へ障害が広がる、循環作動薬または人工呼吸管理が必要と判断する場合は、当院の能力を超える。検査の確定やすべての輸液反応を待たず受入先へ連絡する。2026版は循環作動薬が必要な場合、中心静脈路の確保を待つことで投与を遅らせるより末梢静脈路で開始することを条件付きで提案しているが、これは当院での薬剤開始体制があることを意味しない。受入先の指示と搬送体制を確認する。[1][3]
引き継ぎでは、疑う感染巣、各時点のバイタルと灌流、採血・培養の時刻、抗菌薬の薬剤・投与時刻、輸液の種類・量・反応、呼吸・意識の変化を時系列で渡す。最初の印象より、介入への反応と悪化速度を共有する。[1][3]
8出典と適用範囲
- 日本集中治療医学会・日本救急医学会.日本版敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG2024)。小児CQ9、国内の感染巣別抗菌薬例、輸液と循環評価を参照。2026-10-01確認。
- Schlapbach LJ, et al. International Consensus Criteria for Pediatric Sepsis and Septic Shock. JAMA. 2024;331:665–674。Phoenix基準の目的、年齢適用範囲、SIRSとの違い、早期スクリーニングへの非適用を参照。2026-10-01確認。
- Weiss SL, et al. Surviving Sepsis Campaign International Guidelines for the Management of Sepsis and Septic Shock in Children 2026. Society of Critical Care Medicine. 2026-03-23公開。初期評価、抗菌薬、輸液、循環作動薬、感染源管理の推奨を参照。2026-10-01確認。
- National Institute for Health and Care Excellence. Suspected sepsis in under 16s: evaluating risk level (NG254). 2025-11-19公開。年齢別のバイタルと低体温・無呼吸・活気低下などの警告徴候を参照。英国のリスク層別化を国内の搬送基準として転用しない。2026-10-01確認。
培養は抗菌薬を実質的に遅らせない範囲で投与前に採取し、採取・夜間提出・保管の調整に手間取っても治療開始を待たせない。[3]
9臨床医が迷う場面
10血圧が保たれている発熱児は敗血症性ショックでない?
血圧低下は遅い所見になり得る。意識・反応、脈、皮膚灌流、尿量、呼吸と推移を評価する。四肢が温かくCRTが速い型もあるため、冷感がないだけで除外しない。感染に臓器障害が疑われれば上級医を呼び、蘇生と原因評価を並行する。
11採血や画像が終わってから抗菌薬を開始する?
可能なら投与前に血液培養を採るが、ショックで治療を実質的に遅らせない。疑い敗血症性ショックではできるだけ早く、理想1時間以内を目標にする。感染源・年齢・耐性リスクと既治療を確認し、投与時刻を記録して搬送先へ伝える。
12輸液後も循環が悪い。さらに同じ量を入れ続ける?
各投与後に灌流と呼吸、肝腫大など容量過剰徴候を再評価する。反応が乏しい、肺水腫などが疑われる場合は漫然と反復せず、昇圧・強心薬とPICU搬送を急ぐ。総投与量・反応、抗菌薬と培養の時刻を一緒に引き継ぐ。
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