12-17便(うんち)の検査
ウイルス抗原・便培養・CDトキシン・便潜血の使い分け
β版 · 紙面の最終確認 2026-09-27
日付は紙面の確認日です。院内承認を示すものではありません。処方・運用は、本文の適用条件と出典、院内の採用薬・手順を確認してください。
このページの目次7項目
1ポイント
- ウイルス胃腸炎の便迅速抗原(ロタ・ノロ・アデノ)は陽性でも治療方針を変えないことが多く、保険適用も原則3歳未満・65歳以上等に限定される。
- 便培養は全例ではなく、高熱・強い腹痛・血便・遷延・重症・免疫不全・渡航歴・集団発生など細菌性を疑う所見があるときに、抗菌薬投与前に提出する。
- 血便を見たら細菌性腸炎だけで片づけず、腸重積・IBD・食物蛋白誘発胃腸症も鑑別に挙げる。
- CDトキシン検査は2歳未満では原則出さない(無症候性保菌が多く解釈できない)。
- 便の検査は当直帯でも出せる。出ないのは腹部エコーで、腸重積を疑ったときに注腸整復の相談へつなぐ動線は画像抜きで起動する。
2鑑別のながれ
- 血便(乳児)→間欠的腹痛(啼泣・不機嫌)・嘔吐・いちごゼリー状粘血便→腸重積。腹部エコーが標準だが当直帯は画像抜きで整復可能施設へ連絡する
- 腹痛や血便+下肢優位の紫斑・関節痛(学童期)→腹部症状が紫斑に先行することがある→IgA血管炎。紫斑がなくても念頭に置く
- 嘔吐の色が緑色や黄色っぽく変化→胆汁性嘔吐→腸がねじれる病気(腸回転異常症等)を疑う
- EHEC(O157等)陽性後の数日〜2週間→溶血性貧血・血小板減少・急性腎障害→溶血性尿毒症症候群(HUS)の合併に注意(特に5歳未満で高率)
3検査
- ウイルス抗原迅速(ロタ・ノロ・アデノ):所要時間15〜20分程度。保険適用はロタ・アデノが3歳未満・65歳以上、ノロは3歳未満・65歳以上・悪性腫瘍確定・臓器移植後・免疫抑制剤投与中のいずれかに限定
- 便培養:目的菌はカンピロバクター属・非チフス性サルモネラ属・下痢原性大腸菌(EHECを含む)・赤痢菌・エルシニア属。抗菌薬投与を開始する前に必ず採取する
- 便培養は結果判明まで数日かかる。重症所見(高熱・強い腹痛・血便・意識障害)があれば、結果を待たずempiric therapyを検討する(採取さえ抗菌薬投与前に済ませてあれば結果は待たなくてよい)。ただしEHEC(O157等)疑いは抗菌薬の扱いに注意(下記「避けること」参照)
- 便グラム染色でグラム陰性らせん状桿菌を検出すればカンピロバクター感染を強く示唆する(感度92.4%、特異度99.7%との報告)
- CDトキシン検査:2歳以上で抗菌薬投与歴があり、Bristol Stool Scale5以上の下痢かつ頻回の排便がある場合が対象。感度は一般に60〜80%程度で陰性のみで否定できない
- 便潜血:肉眼的血便を伴わない慢性下痢・貧血精査・体重増加不良での消化管出血の補助検査
- 培養は当直帯には検査室へ提出できない。検体は採れるので、採って保管し翌朝提出する
4対応の注意
避けること・注意:止痢薬(ロペラミド等)を乳幼児に使う(低出生体重児・新生児・生後6か月未満は禁忌、生後6か月〜2歳未満は原則禁忌)。EHEC(O157等)疑い例へ抗菌薬を安易に投与する(HUS発症リスクとの関連は国内外で結論が統一されておらず、確立した推奨ではない。投与するなら発症後できるだけ早期〈3日以内〉に開始し、迷えば上級医に相談する)。CDトキシン検査を治療効果判定・隔離解除判定に使うこと。入院後48時間以上経過して発症した下痢に対する通常の便培養ルーチン提出(院内食由来の食中毒を疑う目的)。
5帰宅・入院の目安
- 帰宅軽症のウイルス性胃腸炎(嘔吐・水様下痢のみ、活気良好)で対症療法が可能
- 入院脱水で経口摂取が続けられない
- 搬送・紹介腸重積疑い(浣腸・注腸整復の相談へ)、EHEC陽性判明時(保健所届出・HUS監視)
6Q&A
- 熱があって下痢の子には全員ウイルス抗原検査をする?
- しない。陽性でも脱水評価と経口補水療法という対応自体は変わらないことが多い。検査を出す価値があるのは集団発生の把握や院内感染対策、入院要否の補助材料になる場面に限られる。
- 下痢止めは血便がなければ乳幼児にも使ってよい?
- 使わない。国内添付文書上、低出生体重児・新生児・生後6か月未満は禁忌、生後6か月〜2歳未満は原則禁忌。血便の有無にかかわらず慎重投与。
- 便培養は抗菌薬を出したあとでも意味がある?
- 検出率が下がる。便培養は抗菌薬投与前に採取する。
- EHEC(O157等)疑いに抗菌薬を出してよい?
- 安易には出さない。HUS発症リスクとの関連は国内外で結論が統一されておらず、確立した推奨ではない。投与するなら発症後できるだけ早期(3日以内)に開始し、迷えば上級医に相談する。
7家族への説明
便からウイルスを調べる検査をしても、多くの場合は治療(水分補給と経過観察)が変わりません。だから全員には行いません。血が混じった便が出たときは、様子を見ずに早めに受診してください。赤ちゃんが火がついたように泣いて嘔吐を繰り返す場合は腸重積という病気の可能性があるので、すぐに来てください。便の培養検査は結果が出るまで数日かかります。結果を待つ間に症状が強くなった場合はすぐにご連絡ください。下痢止めのお薬は、細菌性の腸炎や血便があるときはかえって良くないことがあります。自己判断で使わないでください。
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