5-4こどもの便秘
便塞栓(fecal impaction)と腸重積の除外
β版 · 紙面の最終確認 2026-10-30
日付は紙面の確認日です。院内承認を示すものではありません。処方・運用は、本文の適用条件と出典、院内の採用薬・手順を確認してください。
このページの目次9項目
1ポイント
- 便秘の当直で最も危ないのは、腸重積を便秘として扱い浣腸してしまうこと。間欠的な啼泣・不機嫌の波があれば浣腸せず相談へ回す。
- 浣腸で出た反応便に血が混じったら、便秘ではなく腸重積の所見。
- fecal impaction(便塞栓)があれば、維持療法の前に必ずdisimpaction(便塊除去)を先行させる。ここを飛ばすと効果が出にくい。
- red flags(胎便排泄遅延・成長障害・血便・肛門の形態異常など)があれば機能性便秘と決め打ちせず専門施設での基礎疾患検索を検討する。
2鑑別のながれ
- 間欠的な啼泣・不機嫌の波→浣腸で出た反応便に血が混じる→腸重積(便秘として浣腸しない)
- 胎便排泄遅延(生後24時間以降)・成長障害・血便・肛門の形態異常→red flags陽性→ヒルシュスプルング病・脊髄係留症候群など器質性疾患
- 排便自立後の便失禁・漏便→特有の悪臭・液状〜ぽろぽろの便→overflow incontinence(漏便)=fecal impactionのサイン(下痢と誤診しない)
3検査
- fecal impaction(便塞栓)の疑い:腹部触診・直腸指診での便塊触知、最後の排便から5日以上、少量の硬い便、いきんでいるが出ない、overflow incontinenceのいずれか。
- 画像検査(腹部X線・超音波)はfecal impaction自体の診断としては限定的で、直腸指診が困難・難治傾向の評価・基礎疾患除外が必要な場合に行う。当直帯は腹部エコーを読める人がおらず、軽く当てることはできても陰性所見を否定に使ってはいけない。
- 直腸指診は侵襲的手技。目的説明・同意取得・付添者立会が要り、同意が得られなければ腹部触診・画像で代替する。
4処置・処方例
Rp. 1マルツエキス(1歳未満で酸化マグネシウム・モビコールが使えない児) 年齢別に1回3〜15 gを1日2〜3回経口投与(年齢ごとの量は下記) 内服
モビコール(1歳以上)・酸化マグネシウム製剤(銘柄により1歳以上)が使えない1歳未満児で使える浸透圧性下剤。主成分は麦芽糖で副作用はほとんどないとされる。
- 6か月未満:1回3〜6 g
- 6か月以上1歳未満:1回6〜9 g
- 1歳以上3歳未満:1回9〜15 g
- いずれも1日2〜3回経口投与
Rp. 2モビコール配合内用剤(PEG、1歳以上) 年齢別の固定用量。1歳・2〜6歳はLD1包、7歳以上はLD2包相当を1日1回から開始。最大量・増量幅は年齢で異なる(下記)。 内服
2026年9月改訂。成分過敏症、腸閉塞・腸管穿孔・重症の炎症性腸疾患がある、または疑われる場合は禁忌。1歳未満の臨床試験は未実施。水に溶かして服用する。
- 1歳:初回LD1包を1日1回。調整後は1日1〜2回、最大1日LD2包(1回LD2包=HD1包)まで。
- 2歳以上7歳未満:初回LD1包を1日1回。7歳以上12歳未満:初回LD2包またはHD1包を1日1回。最大1日LD4包(1回LD2包=HD1包)。
- 1〜11歳:増量は2日以上あけ、増量幅は1日量としてLD1包まで。2歳以上は調整後1日1〜3回とする。
- 12歳以上:初回LD2包またはHD1包を1日1回、最大1日LD6包(1回LD4包=HD2包)。増量は2日以上あけ、1日量としてLD2包まで。
- HD1包=LD2包。腹痛・下痢では減量・休薬等を検討し、定期的に継続の必要性を見直す。
Rp. 3酸化マグネシウム(マグミット等、1歳以上) 1歳以上の小児に1日20〜80 mg/kgを食後2回に分割経口投与(開始用量の目安は1日40 mg/kg) 内服
↑ このページの入口へ便性状(コロコロ・硬便が続けば増量、泥状・水様便が続けば減量)に応じて調整する。銘柄により小児用法用量の記載がない製剤があるため、処方前に添付文書を確認する。
- 1回 —(1日40 mg/kgを2回に分割、食後)を開始量とする
- 便性状で調整:コロコロ・硬便が続けば増量、泥状・水様便が続けば減量し、1日20〜80 mg/kgの範囲におさめる
- 嘔吐・徐脈・脱力・傾眠が出たら中止し受診(高マグネシウム血症の徴候)。腎機能低下がある児は特に注意する
5disimpaction(便塊除去)
- 経口薬・経直腸治療(浣腸・坐薬)・両者の併用のいずれかで行う。優劣を示す強いエビデンスはなく、家族と相談して選択する。
- 経直腸(浣腸)の体位:左側臥位。立位では行わない(直腸穿孔リスク)。
- グリセリン浣腸液を、乳児は肛門から3〜4 cm、それ以外の小児は3〜6 cm挿入する(成人は5〜6 cm)。
- 通常1回10〜150 mLを直腸内注入し、年齢・症状により適宜増減する。乳児は少量から(反応を把握しにくく過量投与に陥りやすい)。
- 体重換算の目安(院内基準):—〜—/回(添付文書の10〜150 mLの範囲内)。乳児は1 mL/kg寄り、年長児は2 mL/kg寄りの運用が考えられる。
- 浣腸実施後は排便・症状消失を確認したうえで、30分程度の院内観察後に帰宅可とする(院内方針院内)。
- 実施期間の目安は数日〜1週間。必ず再診し効果判定を行う。
やってはいけない・落とし穴
↑ このページの入口へ- 浣腸は立位で行わない(直腸穿孔リスク)。左側臥位で行う。
- 腸管内出血・腹腔内炎症・腸管穿孔のおそれ・急性腹症が疑われる患者には浣腸を行わない。
- 全身衰弱の強い患者、下部消化管術直後の患者には浣腸を行わない。
- 乳児は患児側の反応を十分に把握できず過量投与に陥りやすいため、年齢の割に少量から行う。
- グリセリン浣腸を維持治療として反復連用しない(耐性化・効果減弱・薬剤依存のリスク)。
6帰宅・入院の目安
- 帰宅red flagsのない機能性便秘:生活・食事指導と便性コントロールを指導し経過観察
- 搬送・紹介経口・浣腸での摘便が奏功しない場合:速やかに全身麻酔対応可能な専門施設へ、red flags陽性(新生児期発症・下肢の運動異常・肛門位置異常など):専門施設で基礎疾患検索
7診療中の疑問と回答
- 下剤を飲んでいるのに出ない。まず増量する?
- 増量前に便塊が残っていないか、服薬量・飲み残し、便を我慢する行動、痛みを確認する。漏便があっても直腸内の便塊の周囲を便が漏れることがあり、下痢とは限らない。便塞栓があればまず便塊除去、その直後から維持療法へ進む。胆汁性嘔吐、著明な膨満、間欠的な激痛・血便があれば単なる便秘として下剤や浣腸を増やさない。
根拠:RCH Constipation:便塊除去、維持療法、再発 - 維持薬は便の回数だけを見て調整すればよい?
- 痛まず容易に出る軟らかい便を目標にし、便性状、排便時痛、我慢、漏便、服薬を日誌で確認する。硬便や排便困難が続けば適正量を増やし、水様便が続けば減量を検討する。ただし漏便や少量の液状便は便塞栓の可能性があり、先に腹部と経過を再評価する。生活指導だけで難治例を長く待たない。
根拠:RCH Constipation:便塊除去、維持療法、再発 / 丸石製薬:マグミット小児用量と調節(2025年電子添文に基づく) - モビコールを数日飲んでも効かない。どこまで増やす?
- 年齢、LD/HDの取り違え、溶解・服薬量と便塞栓を確認する。2026年9月改訂で1歳はLD1包を1日1回から、最大1日・1回LD2包。2〜11歳は最大1日LD4包・1回LD2包で、1〜11歳の増量は2日以上あけて1日量LD1包まで。12歳以上の上限・増量幅は別欄を確認する。海外の高用量便塊除去法を国内用法へ転用せず、上限でも不応なら診断と解除の成否を見直す。
根拠:PMDA:モビコールLD/HD電子添文(用法及び用量) - 酸化マグネシウムで注意する検査・中止サインは?
- 腎機能と併用薬、処方銘柄を確認する。マグミットには1歳以上の小児用量があるが、全銘柄が同じ記載とは限らない。長期投与時は定期的な血清Mg測定などで監視し、腎機能低下があれば特に慎重に扱う。嘔吐、脱力、傾眠、徐脈などが出たら服用を止めて診察し、高マグネシウム血症を評価する。便が硬いという理由だけで際限なく増量しない。
根拠:丸石製薬:マグミット小児用量と調節(2025年電子添文に基づく) / PMDA:マグミット電子添文(2025年10月、基本的注意8.1) - 毎日出るようになったら、いつ下剤を減らす?
- 1回よく出ただけでは中止しない。痛み・我慢・漏便がなく軟便を安定して出せる状態を保ち、排便習慣が整ってから少しずつ減らす。治療は数か月以上を要することが多い。硬便や我慢が戻れば、再び便塊ができる前に前の有効量への調整を相談する。トイレットトレーニング中は服薬を急にやめず、本人の発達と生活変化に合わせる。
根拠:RCH Constipation:便塊除去、維持療法、再発 / 小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン2013:維持療法 - どの段階で便秘専門外来・小児外科へ紹介する?
- 新生児期からの便秘、胎便排泄遅延、体重増加不良、持続嘔吐、神経・肛門の異常は早めに器質性疾患を調べる。適切な便塊除去と維持薬、服薬確認・生活調整を行っても不応なら専門科へ相談する。強い腹痛や膨満・嘔吐がある便塊除去不成功例は漫然と外来で増薬せず、院内方針院内どおり入院での処置が可能な施設へ紹介する。
根拠:RCH Constipation:便塊除去、維持療法、再発
- 浣腸していい便秘か迷ったら?
- 間欠的な啼泣・不機嫌の波があれば、当直帯はエコーで腸重積を外せないので、浣腸せずに相談へ回す。
- 浣腸の反応便に血が混じったら?
- 便秘ではなく腸重積の所見。ただちに評価を切り替える。
9家族への説明
硬い便が続く、お腹が張る、排便を痛がる状態です。便を柔らかく保つ治療が中心で、通常6〜24か月ほど薬を続けながら改善していきます。自己判断で早くやめると再発しやすいです。生まれてすぐから便がまったく出ない、体重が増えない、繰り返し吐く、便に血が混じる、お腹がパンパンに張っている、足の動きがおかしい、肛門の形や位置がおかしいと感じる、お薬を飲んでいて吐く・脈が遅い・力が入らない・ぼーっとしている様子がある——このいずれかがあれば、様子を見ずに連絡してください。
一般教育・院内オペ補助。個別診断・治療の代わりにはなりません。β版・逐条レビュー継続中。