10-2チック・トゥレット症
反復性・止められるか・意識は保たれるかで見分ける
β版 · 紙面の最終確認 2026-10-30
日付は紙面の確認日です。院内承認を示すものではありません。処方・運用は、本文の適用条件と出典、院内の採用薬・手順を確認してください。
このページの目次9項目
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1ポイント
- チックは思わず起こってしまう素早い体の動きや発声。多くは瞬き・咳払いなど一時的で、多くの場合はそのまま軽快する。
- チックの特徴は「反復性」と「短時間なら止められる」こと。前駆する違和感(むずむず感)があり、随意的に短時間抑えられる。この2点が舞踏運動・てんかん発作との鑑別点。
- トゥレット症は病気であってしつけの問題ではない。体質的な疾患で、脳の働き方の違いによって起こる。人口1000人あたり3〜8人、男児に多い。
- 当直で見逃してはいけないのは『チックらしくない急性発症』:先行感染後の急な舞踏運動(シデナム舞踏病)、精神症状+けいれん+意識障害を伴う急性発症(自己免疫性脳炎)、制吐薬・抗精神病薬内服後の急性ジストニア反応。いずれも『新しいチックが出た』と誤認されやすい。チック症には生物学的基盤があり、4〜6歳で発症しやすく、慢性化しても10〜12歳をピークに軽快に向かうことが多い。
↑ このページの入口へ2鑑別のながれ
- 瞬き・首振り・咳払いなど反復する単純な運動チック・音声チック→意識清明、前駆する違和感があり短時間は自分で止められる→良性のチック・トゥレット症(119/urgent所見がなければ外来紹介)
- 発症から1年未満の運動チック又は音声チック(両方でもよい)→18歳未満で発症し、薬剤・他疾患等を除外する→暫定的チック症。困りごとと機能障害に応じ外来評価
- 発症から1年以上の運動チック又は音声チックの一方→両種類を有するトゥレット症とは区別し、他の原因を除外する→持続性(慢性)運動又は音声チック症
- 複数の運動チックと一つ以上の音声チックが経過中にあり、発症から1年以上→両者が同時期に出る必要はない。18歳未満発症、薬剤・他疾患等を除外する→トゥレット症。専門科で評価・支援を相談
- 運動のパターンがいつも一定(同じ動きを繰り返す)。自閉スペクトラム症児で目立つことがある→→常同運動(stereotypy)(発達相談へ)
- 急性発症(3か月未満)の異常運動+意識低下・けいれん・急な精神行動異常→6主要徴候のうち4つ以上:異常行動/認知障害・言語障害・けいれん・異常運動/ジスキネジア・意識低下・自律神経障害→抗NMDA受容体脳炎などの自己免疫性脳炎(持てない・専門施設へ)
- けいれん・意識消失を伴う異常運動、発作後の記憶なし→チックは意識が保たれ完全に覚えている→てんかん発作(持てない)
- 数週間〜数か月前の咽頭炎・発熱のあとの不規則で予測できない激しい四肢の動き→後天性舞踏運動の原因として最多。学童期に多い→シデナム舞踏病(溶連菌感染後)(軽症〈気道・循環に影響なし〉なら当院でASO・咽頭培養等を検査し経過観察、悪化時は専門施設へ相談。それ以外は循環器評価含め持てない)
- 制吐薬・抗精神病薬の内服後、複数回投与後24〜72時間に眼球上転・口角偏位・舌の突出・頸部後屈・斜頸→主に顔面と頸部にジストニア反応→薬剤性の急性ジストニア反応(原因薬中止・軽症で気道症状なければ当院で経過観察可)
- 著明な日内変動を示す四肢優位のジストニア、10歳以下で初発、片足の姿勢ジストニア(内反足)→→瀬川病(ドパ反応性ジストニア)(早期診断が予後を左右。持てない)
↑ このページの入口へ3計算・スコア
スコア
抗NMDA受容体脳炎を疑う主要症候の確認(診断基準の一部)
↑ このページの入口へ4検査
- 反復性・律動性・部位・左右差・眼球運動異常の有無を観察する(可能なら保護者同意のうえ動画記録)
- 『少しの間、我慢できる?』と本人に聞き、抑制可能かどうかを見る
- 意識は保たれているか(チックは意識清明。発作なら反応が乏しい・記憶がない)
- 内服歴(制吐薬・抗精神病薬)、数週間〜数か月前の発熱・咽頭炎の既往を聴取
- 先行感染後の急性舞踏運動(シデナム舞踏病)を疑う場合、軽症(気道・循環に影響なし)ならASO・咽頭培養等を当院で検査し経過観察する(院内方針院内)
- 精神症状(幻覚・興奮・行動変化)・けいれん・自律神経症状の有無を確認
- 睡眠中は消失するか確認する。睡眠中も持続するなら他の病態を疑う
- 頭部MRIは当直帯に撮れない。腰椎穿刺と髄液の一般検査はできる(自己抗体測定は別)が、意識障害・けいれんを伴う急性発症(自己免疫性脳炎相当)では画像のない当院でのLP先行はせず搬送を優先する
- 良性のチックは特別な検査は不要。丁寧な病歴聴取と行動観察から診断する
↑ このページの入口へ5対応の注意
避けること・注意:新しく出た異常運動を『いつものチック』と決めつけて経過観察すること、シデナム舞踏病やジストニア反応を見逃したまま帰宅させること。
↑ このページの入口へ6送る・持つの目安
- 帰宅良性の一過性チック・慢性チック・トゥレット症(119/urgent所見なし):当院で急性期対応の必要はない。外来紹介でよい。薬物療法の開始は専門施設(小児神経科・児童精神科)に委ね、開始後の維持・継続処方は当院外来で対応可(院内方針院内)、薬剤性の急性ジストニア反応:原因薬中止後、軽症で気道症状がなければ当院で経過観察してよい、シデナム舞踏病疑い:軽症(気道・循環に影響がないもの)に限り当院でASO・咽頭培養等を検査し経過観察してよい。悪化時は専門施設へ相談する(院内方針院内)
- 搬送・紹介抗NMDA受容体脳炎などの自己免疫性脳炎疑い:持てない。集中治療・免疫療法ができる専門施設へ、てんかん発作:持てない、シデナム舞踏病疑い(軽症でない・悪化):循環器評価を含め持てない、瀬川病など特異的治療のあるジストニア:持てない。早期診断が予後を左右する
↑ このページの入口へ7診療中の疑問と回答
- まばたきが増えた。薬を始めるべき?
- 単純な運動チックで本人の苦痛や生活障害がなければ、直ちに薬や専門紹介を必要としない。意思で完全に止められる癖ではないことを家族と学校に説明し、注意や叱責を避ける。頻度だけでなく痛み、授業、対人関係への影響を次回確認する。
根拠:NICE NG127 小児のチック - チックが強くて困っている場合、どこにつなぐ?
- 本人の生活への影響を確認し、強迫症状や不安が中心なら精神保健、ADHDや自閉スペクトラム症が疑われれば発達評価へつなぐ。重いチック自体は小児神経に相談する。薬物療法は副作用と併存症を含む専門評価を受けて調整する。
根拠:NICE NG127 小児のチック - 急に全身が動きにくくなったが、チックとして経過観察できる?
- 急に出現した舞踏運動、失調、ジストニアは、いつものチックと区別して直ちに神経評価へつなぐ。意識、歩行、薬剤曝露、感染後の経過を確認する。従来のチック診断があっても、運動の性質が変わった場合はその診断だけで説明しない。
根拠:NICE NG127 小児のチック
- チックとてんかん発作はどう見分ける?
- チックは意識が保たれ、本人は完全に覚えている。発作は意識が飛ぶ・記憶がないことが多い。
- チックは止められる?
- 短時間なら随意的に抑えることができる。『少しの間、我慢できる?』と聞いてみる。
- 新しく出た異常運動はいつも『チックが増えた』でいい?
- 違う。先行感染・内服歴・精神症状やけいれんの有無を必ず確認し、舞踏病・脳炎・薬剤性ジストニアを外す。
↑ このページの入口へ9家族への説明
チックは、思わず起こってしまう素早い体の動きや声のことです。瞬きや咳払いなど、多くの子どもに一時的に見られるもので、多くはそのまま自然に軽くなっていきます。長く続いたり、いろいろな動きや声が重なって1年以上続く場合は、トゥレット症と呼ばれることがあります。トゥレット症は、体質的な病気で、脳の働き方の違いによって起こるものです。しつけが厳しい、育て方が悪い、といった心理的な原因で起こるのではありません。今日の診察では、チックとは違う病気(発作や、他の病気による体の動き)が隠れていないかを確認しました。今後、動きの様子が急に変わったり、意識がぼんやりする、様子がおかしいと感じることがあれば、すぐに受診してください。