蜂窩織炎・眼窩周囲蜂窩織炎
アレルギー・皮膚β版・逐条レビュー継続中
施設プロファイル: 二次救急/外科的処置なし/当直帯に造影CTは撮れない(2026-09-14 確認)。切開排膿・眼窩の手術は当院で持てない。
30秒要約
- まず壊死性筋膜炎を外す。重症の皮膚軟部組織感染では敗血症・ショックを伴いうる。全身状態不良なら敗血症と壊死性筋膜炎を緊急評価する。
- 目のまわりの腫れは、隔膜の前か後ろかで別の病気。眼窩蜂窩織炎(OC)は眼窩膿瘍、脳膿瘍、髄膜炎、海綿静脈洞血栓症を起こしうる重症細菌感染症。
- 眼球突出も眼球運動障害もない眼窩蜂窩織炎の症例が報告されている。「眼の所見がないから隔膜前だ」と決めない。
- 両者の鑑別にはCTが有用。目の腫れで迷ったら撮る。
- ただし当直帯の当院に造影CTは無い(2026-09-14 確認)。鑑別の手段が無い以上、目のまわりの腫れで迷ったら「撮る」ではなく「送る」。原典は眼科的症状が全くみられない眼窩蜂窩織炎の症例を報告しており、所見が乏しいことを安心の材料にできない——これが夜に自前で外せない理由。
- 膿瘍が疑われれば排膿・培養の要否を評価し、当院では独自に穿刺・切開せず外科へ相談する。自然排液があれば培養を検討する。
レッドフラグ → 次の一手
所見があったときにどれだけ急ぐかと、家族に何を伝えるかの対応表。3列目の文言は家族説明ページに同じ言葉で載っているので、画面を見せながら渡せる。
| 緊急度 | 所見 | 次の一手 |
|---|---|---|
| 119 | 皮膚所見と不釣り合いな強い痛み | 壊死性筋膜炎を疑う。外科のある施設へ緊急 |
| 119 | 皮膚所見の範囲を超えて広がる圧痛 | 同上 |
| 119 | 意識障害・頻脈・血圧低下・頻呼吸など全身状態不良 | 重症の皮膚軟部組織感染では敗血症・ショックを伴いうる。壊死性筋膜炎・敗血症を考える |
| 119 | 急速に拡大する皮膚所見 | 同上 |
| 緊急 | 眼球突出・眼球運動障害・視力障害 | 眼窩蜂窩織炎。当直帯はCTが無いので確かめずに眼科・外科のある施設へ |
| 緊急 | 目のまわりの腫脹・発赤で、眼の所見がはっきりしない | それでも眼窩蜂窩織炎を否定できない(眼科的症状が全くみられない症例の報告あり)。当直帯はCTで鑑別できない=疑った時点で送る |
| 緊急 | 副鼻腔炎の症状を伴う目の腫れ | 眼窩蜂窩織炎は副鼻腔炎の合併率が高い(自験例で83.3%) |
| 緊急 | 膿瘍を触れる・波動がある | 切開排膿が要る=当院で持てない可能性。外科へ |
| 当日 | 局所の発赤・腫脹・熱感・圧痛で全身状態良好 | 抗菌薬と経過観察。再診の日を決め、悪化の条件を渡す |
眼窩周囲蜂窩織炎(PC)と眼窩蜂窩織炎(OC)の区別
「眼窩蜂窩織炎(orbital cellulitis:OC)は眼球突出、眼球運動障害、結膜浮腫および眼瞼の炎症と腫脹を呈し、眼窩膿瘍、脳膿瘍、髄膜炎、海綿静脈洞血栓症などの重篤な合併症を引き起こすこともある重症細菌感染症である。一方、眼窩内病変を伴わない眼瞼と眼窩周囲組織の炎症は一般的に眼窩周囲蜂窩織炎(periorbital cellulitis:PC)と呼ばれ、OCとは区別されるべき疾患である。」
| 眼窩周囲蜂窩織炎(PC) | 眼窩蜂窩織炎(OC) | |
|---|---|---|
| 病変 | 眼瞼と眼窩周囲組織(眼窩内病変を伴わない) | 眼窩内に及ぶ |
| 所見 | 眼瞼の腫脹・発赤 | 眼球突出・眼球運動障害・結膜浮腫・視力障害 |
| 年齢 | — | 発症年齢が有意に高い(自験例) |
| 副鼻腔炎 | — | 合併率が高い(83.3%) |
| 重症度 | — | 抗菌薬使用期間・入院期間ともに有意に長い |
| 合併症 | — | 眼窩膿瘍、脳膿瘍、髄膜炎、海綿静脈洞血栓症 |
最も重要な落とし穴: 自験例19例のうち、眼科的な症状(眼球突出・眼球運動障害・視力障害)が全くみられないOC症例が存在した。→ 眼の所見がないことを、眼窩蜂窩織炎を否定する根拠にしない。
鑑別にはCTが有用。「両者の鑑別にはCT検査が有用であり、臨床的重症度の違いを認識して適切な治療戦略をたてる必要がある」。
壊死性筋膜炎を外す(最初にやること)
「まず重要なこと:壊死性筋膜炎を絶対に見逃さない」
| 手がかり | 意味 |
|---|---|
| 皮膚所見と不釣り合いな強い痛み | 見た目より痛がる |
| 皮膚所見の範囲を超えて広がる圧痛 | 押すと、赤い範囲の外まで痛い |
| 意識障害・頻脈・血圧低下・頻呼吸など全身状態不良 | 重症の皮膚軟部組織感染では敗血症・ショックを伴いうる |
| 急速に拡大する皮膚所見 | 時間単位で広がる |
根拠の性質: この4項目は病院独自の実務資料(亀田総合病院の感染症ガイドライン)に基づく。日本の学会による小児蜂窩織炎のガイドラインは本シートでは確認できていない。この旧資料の「ショックになる蜂窩織炎はない」という断定は採用しない。RCHは重症蜂窩織炎で敗血症を挙げており、蜂窩織炎でも敗血症・ショックを評価する。
治療ワークフロー(当院でやること)
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 壊死性筋膜炎の4項目を外す。1つでも当てはまれば外科へ |
| 2 | 境界をペンでマークし、時刻を書く。拡大速度が判断材料になる |
| 3 | 目のまわりなら、眼球突出・眼球運動・視力を確認。迷えば送る(当直帯にCTは無い) |
| 4 | 膿瘍では排膿と培養の要否を評価し、当院では切開排膿せず処置可能な外科へ速やかに相談する |
| 5 | 全身状態・年齢・部位から、外来(内服)か入院(点滴)かを判断 |
| 6 | 治療期間は「局所所見が消失するまで、経過に応じて7〜14日程度」 |
| 7 | 再診の日を決め、悪化の条件(拡大・発熱・全身状態)を紙で渡す |
抗菌薬の具体的な薬剤・用量は本シートに記載していない。小児の蜂窩織炎ガイドライン・院内アンチバイオグラムに基づき院内レジメンを新たに作成する。
ただし、皮膚・軟部組織感染で敗血症に至った小児については、国内ガイドラインに具体例がある。J-SSCG2024 Table 9-1-1 は皮膚・軟部組織を感染巣とする小児敗血症について、想定微生物を Group A Streptococcus・S. aureus、抗微生物薬の例を 第1世代セファロスポリン、使用例を セファゾリン(CEZ)150 mg/kg/day・8時間毎 としている(小児敗血症に表を転記)。
これは「敗血症に至った例」の経験的治療であって、外来で見る単純な蜂窩織炎の第一選択としてそのまま使う根拠にはならない。また原典自身が「各施設の疫学・アンチバイオグラムなどを踏まえたうえで」決めるものとしている。MRSA を疑う場面では第1世代セファロスポリンでは覆えない点にも注意。
鑑別
頸部リンパ節炎を診たら川崎病を外す
- 川崎病の主要症状の1つが「急性期における非化膿性頸部リンパ節腫脹」。超音波検査で多房性を呈することが多い。
- 頻度は「年少児では約65%と他の主要症状に比べて低いが、3歳以上では約90%に見られ、初発症状になることも多い」。
- → 頸部リンパ節炎として抗菌薬を始める前に、川崎病の主要症状を数える(川崎病)。
要確認: 亜急性壊死性リンパ節炎(菊池病)や悪性リンパ腫との鑑別ポイント(発熱期間・大きさ・可動性・圧痛の具体的な基準)は、本シートでは一次資料に到達できていない。
送る/持つ(当院=二次救急・外科的処置なし)
| 状態 | 当院の扱い |
|---|---|
| 壊死性筋膜炎の疑い | 持てない。外科のある施設へ緊急 |
| 眼窩蜂窩織炎(OC) | 持てない。眼窩膿瘍の排膿・眼科的管理が要る |
| 膿瘍形成で切開排膿が要る | 切開排膿は行わず外科へ紹介する。できなければ外科へ |
| 眼窩周囲蜂窩織炎(PC)で全身状態良好 | 日勤帯にCTでOCを外せたなら当院で対応しうる。当直帯はOCを外せないので、当院で抱えると決めない |
| 局所の蜂窩織炎で全身状態良好 | 当院で対応。境界をマークして経過を見る |
エスカレーション(施設オーバーレイで上書き)
- 決定:切開排膿は行わず外科へ紹介する(論点:当院で切開排膿をどこまで行うか)
- 確定(2026-09-14):夜間に造影CTは撮れない。目のまわりの腫れは「疑った時点で送る」が当院の既定
- 要確認:眼科・外科の夜間受け入れ先
- 決定:小児の蜂窩織炎ガイドライン・院内アンチバイオグラムに基づき院内レジメンを新たに作成する(論点:蜂窩織炎の院内抗菌薬レジメン(小児の入院・点滴の適応基準を含む))
家族に渡す一文
「皮膚の深いところに細菌が入って炎症を起こしています。赤みの範囲に印をつけました。これが広がるかどうかが、薬が効いているかの目安になります。印を超えて広がる・熱が上がる・ぐったりするときは、時間を待たずに来てください。目のまわりの場合は、奥まで炎症が及んでいないかをCTで確かめることがあります。奥に及んでいると、目や脳に影響することがあるためです。」
出典
- 鈴木章平ほか.当科で経験した眼窩および眼窩周囲蜂窩織炎19例の臨床的検討.小児感染免疫 21(2):112-116, 2009(藤沢市民病院こども診療センター小児科).https://www.jspid.jp/wp-content/uploads/pdf/02102/021020112.pdf (2026-09-12閲覧・PDF原文を確認)。眼窩蜂窩織炎(OC)と眼窩周囲蜂窩織炎(PC)の定義と区別、OCの合併症(眼窩膿瘍・脳膿瘍・髄膜炎・海綿静脈洞血栓症)、眼科的な症状が全くみられないOC症例が存在したこと、OC群で発症年齢が有意に高く副鼻腔炎の合併率が83.3%で抗菌薬使用期間・入院期間が有意に長いこと、両者の鑑別にCT検査が有用であること。単一施設の症例集積研究であり、学会の診断ガイドラインではない。
- 日本川崎病学会ほか.川崎病診断の手引き 改訂第6版.2019年5月.https://jskd.jp/wp-content/uploads/2022/10/tebiki201906.pdf (2026-09-12閲覧)。主要症状「急性期における非化膿性頸部リンパ節腫脹」、「非化膿性頸部リンパ節腫脹(超音波検査で多房性を呈することが多い)の頻度は、年少児では約65%と他の主要症状に比べて低いが、3歳以上では約90%に見られ、初発症状になることも多い」。
- 亀田総合病院.亀田1ページで読める感染症ガイドライン「蜂窩織炎」(2005年2月作成・2017年5月改訂).https://medical.kameda.com/general/medical/assets/14.pdf (2026-09-12閲覧)。壊死性筋膜炎を見逃さないための4項目、「皮下膿瘍は穿刺/切開排膿し、膿をシリンジで吸引して(スワブではなく)培養に提出する」、治療期間「局所所見が消失するまで、経過に応じて7-14日程度」。病院独自の実務資料であり、日本の学会・行政ガイドラインではない。米国感染症学会2014年ガイドライン等の成人向けエビデンスが基盤で小児専用ではない。
- 未確認: 日本小児科学会・JAID/JSC感染症治療ガイドによる小児蜂窩織炎の入院・IV抗菌薬・外科的ドレナージの適応基準、Chandler分類の国内学会一次資料での明文化、菊池病・悪性リンパ腫との鑑別の具体的基準。
病態・根拠9章
病態:皮膚だけの病気で終わるとは限らない
蜂窩織炎は皮膚・皮下組織の細菌感染で、溶連菌や黄色ブドウ球菌が主な原因となる。傷口が見つからない場合もある。局所感染から全身の感染反応へ進むことがあり、蜂窩織炎という診断自体は敗血症やショックを否定しない。循環不良、反応低下、急速な拡大があれば、原因病名の再検討と同時に重症感染として対応する。[1]
鑑別:かゆみ、膿瘍、深部の痛みを分ける
虫刺されの反応は刺し口とかゆみが目立ち、痛みが乏しいことが手がかりとなる。膿瘍では液体貯留があり、抗菌薬だけでなく排膿の必要性を評価する。見た目に比べて強い痛み、急速な進行、全身不良では壊死性軟部組織感染を疑い、外科相談を遅らせない。これらを同じ外来抗菌薬の経過観察へまとめない。[1]
眼周囲の発赤では眼窩隔膜より深い感染を分ける。眼球運動痛・運動制限、視力低下・複視、眼球突出、強い頭痛は眼窩内感染の赤旗であり、視力と頭蓋内合併症を守るため、耳鼻科・眼科と画像評価が必要となる。[2]
検査と初期治療
全身状態が良い軽症例では血液検査・血液培養を一律に行わない。排液があれば培養し、膿瘍・異物・深部感染を疑えば超音波等を選ぶ。培養結果が出るまでは局所所見と重症度に応じて溶連菌・ブドウ球菌を対象に治療し、結果と反応に応じて薬剤を絞る。薬剤選択は国内の感受性と施設手順で確認する。[1]
当直帯に画像・外科処置ができない場合、壊死性病変、膿瘍、眼窩内感染を疑った時点で受入先へ連絡する。眼窩内感染を疑う児のCTの鎮静・気道管理も、受入側と調整する。[1][2]
経過で判断し直す
開始後の発赤の変化だけで直ちに無効と断定しない一方、悪化や全身症状を「最初は広がるもの」と見過ごさない。範囲、痛み、体温、飲水、循環を比較し、改善が乏しければ感染源・診断・感受性・服薬を再評価する。帰宅には経口治療と再診が可能なことが必要で、急な拡大、強い痛み、眼症状、元気低下なら予定前に受診する。[1][2]
出典と適用範囲
- [1] RCH Cellulitis and other bacterial skin infections。軽症から敗血症を伴う重症例、鑑別、検査、反応の再評価。
- [2] RCH Periorbital and orbital cellulitis。眼窩内感染の赤旗、画像と専門科対応。
海外の抗菌薬用量・MRSAの地域頻度は院内処方へ転用していない。
臨床医が迷う場面
抗菌薬開始翌日に赤みが少し広がった。直ちに変更する?
開始直後は見かけ上悪化することもある。範囲を記録し、疼痛、発熱、全身状態と服薬状況を合わせて評価する。ただし不釣り合いな強い痛み、急速な進行、壊死・水疱、循環不良は待たず外科・上位施設へ相談する。安定例でも24〜48時間で再評価する。
眼瞼が腫れているが、内服して明日まで待てる?
視力・複視・眼球運動時痛、眼球突出、強い頭痛を確認する。評価困難な乳幼児や腫脹で眼を診られない例も慎重に扱う。当院当直帯は造影CTができないため、眼窩内感染を否定できず迷う場合は検査可能な施設へ同日相談する。
膿瘍を伴う蜂窩織炎は抗菌薬増量だけで治る?
波動や限局した腫脹、改善しない疼痛があれば膿瘍・異物を再評価し、超音波などと排膿の要否を相談する。感染源の処置が必要なら薬の変更だけでは不十分。当院で独自に穿刺・切開せず、処置可能な外科へつなぐ。