5-6急性胃腸炎と脱水評価
このページの目次17項目
1脱水の病態と再評価(2026-10-02追補)
水分不足と循環不全を分ける
嘔吐・下痢による喪失と摂取不足が重なると、水分と電解質の不足が進む。乳児では体重に占める水分割合が高く、体重あたりの喪失も大きくなりやすい。予備の糖も少ないため、飲めない時間が長くなるとケトン増加や低血糖が併存する。胃腸炎の診療は原因ウイルスを当てることより、水分・循環・糖・電解質が保たれているかを評価する仕事である。[24][25]
脱水とショックは同じではない。粘膜乾燥、涙の減少、尿量、体重変化は不足の手がかりになり、頻脈、末梢冷感、CRT延長、意識変化、弱い脈は循環不全を疑う。血圧低下は小児では遅い所見になりうるため、正常血圧だけで安心しない。発症前の実測体重があれば減少率を参考にするが、推定の「いつもの体重」やスコアだけで重症度を決めない。[25][26]
経口補水が効く理由
腸炎でも、腸管のナトリウムとブドウ糖を一緒に吸収する仕組みは保たれることが多い。適切な組成のORSはこの仕組みを使い、水分を吸収させる。ジュースやスポーツ飲料は糖と電解質の組成がORSと異なるため、脱水補正の代替として同じ量を指示しない。[24] 母乳を続け、補正後には年齢相応の食事へ戻す。長い絶食やミルクの希釈は栄養不足を増やす。
嘔吐した一回だけでORT失敗と決めず、少量頻回に与え、実際の摂取と再嘔吐を観察する。本文の量は既存手順として保持するが、全員に同じ時間・量を強制するものではない。意識障害、ショック、外科疾患が疑われる腹部所見、持続する強い嘔吐などでは安全な投与経路を選び直す。経鼻胃管補水は海外指針で選択肢だが、当院の実施・監視手順は未確認である。[24][25]
電解質と低血糖を見落とさない
低張性の飲料だけを多量に与えた場合や、感染・痛みなどに伴う水排泄低下では低Naが問題になりうる。逆に濃すぎる調乳や水分不足では高Naを伴うことがある。どちらも意識変化・けいれんの原因になり、脱水が一見軽くても除外できない。重症、静注補水が必要、意識異常、基礎疾患、長い摂取不良では電解質・腎機能・血糖を確認する。[25][26]
高Naでは、皮膚・循環の所見だけで不足の程度を把握しにくい。ショックを見逃して蘇生を保留することと、高Naの欠乏量を急速に補正することの両方を避ける。初期循環対応と、その後の電解質是正を分け、血清Naの変化と神経所見を追いながら上級医・専門施設と調整する。本追補は輸液組成、補正速度、維持量の未確定な院内処方を補完するものではない。[26]
低血糖があれば糖補正を遅らせない。多飲・多尿、体重減少、深い呼吸があれば、尿ケトン陽性を「絶食性」と決める前に血糖・血液ガスを確認しDKAを区別する。
胃腸炎から外れる手がかり
下痢のない嘔吐、胆汁性嘔吐、局所的な強い圧痛、腹部膨満、間欠的な激しい啼泣、歩行拒否、血便、持続する意識変化は、腸重積、腸閉塞、虫垂炎、中枢神経感染、代謝異常などを再検討する理由になる。[25] 当院夜間は熟練者による腹部超音波評価ができず、必要な画像を翌朝まで待つことが安全かを上級医・受入先と判断する。
血便後に蒼白、尿減少、浮腫、血小板減少、腎機能変化が加わる場合はEHEC・HUSを疑う。抗菌薬や下痢止めを一律に追加せず、病原体、経過、全身状態に応じて相談する。2024国内ガイドラインの刊行とCQ構成は学会公式で確認できるが、今回最終版の全推奨本文は取得していないため、薬剤に関する未確認の更新を推測していない。
帰宅は補水への反応を見て決める
再評価では顔色、反応、呼吸・末梢循環、摂取、嘔吐、尿量を見直し、腹部を再診察する。ORTが進む、循環が安定、診断に重大な懸念がない、家族が継続して少量ずつ与えられる、悪化時に受診できることを確認する。尿が出たという一つの所見だけで、まだ飲めない児を帰さない。[25]
若い乳児、持続する喪失、腎・心疾患、免疫不全、初回補水が不十分、電解質異常では入院・相談の閾値を下げる。家族には飲めない、起こしても反応が乏しい、尿が減る、胆汁性嘔吐、血便、腹痛の増悪を再受診条件として伝える。下痢が続いていても補水と食事が保てる場合と、危険な経過を分けて説明する。
2一目でわかるフロー
受診(嘔吐・下痢・腹痛)
→ レッドフラグ評価(該当あれば即・精査/外科コンサルト/上位施設紹介)
→ 脱水重症度・病型(ウイルス性/細菌性)の判定
→ 検査(要る/要らない)
→ 治療(ORT第一選択、必要時のみ輸液・薬物)
→ 再診・帰宅指導・紹介/入院基準図は横にスクロールできます →
3レッドフラグ(見逃し厳禁)
- 胆汁性(緑〜黄色)嘔吐・噴出性嘔吐: 腸回転異常症・中腸軸捻転、腸閉鎖など外科的疾患を疑う。中腸軸捻転は進行すると腸管の大量壊死に至る緊急疾患 [6]。
- 血性嘔吐
- 間欠的な激しい啼泣(疝痛発作)を周期的に繰り返す+イチゴゼリー様血便: 腸重積症を疑う。血便は腹痛出現より遅れて(発症から半日以上経って)出現することが多く、血便の出現を待たずに、間欠的啼泣の時点で疑って精査する [7]。腸重積症は生後6〜10か月の乳児に好発するが、年長児では家族性ポリポーシス等が背景にあることもあり油断しない [4]。
- 腹膜刺激徴候(筋性防御・Blumberg徴候)/持続性で部位が限局した腹痛: 腹膜炎・虫垂炎など外科的疾患を示唆。ただし小児は啼泣時に筋性防御を正確に取ることが難しく、また汎発性腹膜炎ではかえって痛みが腹部全体に及んで限局せず、より重症でありながら見逃されやすい点に注意 [4]。
- 腸蠕動音の消失: 汎発性腹膜炎など外科的緊急性の高い病態を示唆 [4]。
- 重度脱水・ショック/プレショック徴候(意識レベル低下、末梢循環不全=毛細血管再充満時間(CRT)延長、体重減少9%超): 経静脈輸液・入院適応 [1][2]。
- 持続する嘔吐で経口摂取が全く不可能、尿量の著明な減少、眼窩の陥凹、意識レベルの低下: 経静脈輸液を要する危険性が高い所見 [2]。
- 全身状態の急な変化(ぐったりする、顔色が悪い、四肢が冷たい): 腸内細菌による菌血症・敗血症への移行を示唆 [4]。
- 血便・粘血便(特に腸管出血性大腸菌(EHEC)疑い): 発症後3〜14日で溶血性尿毒症症候群(HUS)を合併することがあり、特に5歳未満で高頻度 [3]。
- 2日を超えて発熱が持続する場合: 典型的なウイルス性下痢症の経過から外れるため、他疾患の合併を考慮 [2]。
- 生後3か月未満の乳児、免疫不全・基礎疾患(炎症性腸疾患、血液透析、ヘモグロビン異常症等)のある児: 重症化リスクが高く、抗菌薬適応の閾値も個別に下がる [2][3]。
- 多尿・多飲の病歴(体重減少を伴う)、呼気アセトン臭、頻呼吸・クスマウル呼吸、意識障害を伴う嘔吐・腹痛: 新規発症1型糖尿病・糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)を疑う。DKAは急性胃腸炎と酷似した嘔吐・腹痛・脱水で発症し、多尿・多飲の病歴を取らずに「ウイルス性胃腸炎」として経口補水/輸液のみで帰宅させると数時間〜1日でケトアシドーシスが進行し致死的となりうる。国内データでは新規発症1型糖尿病(17歳以下)335例中54例(16.1%)が初診時に胃腸炎/感冒等と誤診され、うち61.1%が診断確定までにDKAを発症、54.5%が重症DKAだったと報告されている。疑う場合は血糖値・尿ケトン(可能なら血液ガス)を確認する [13][14][15]。
- 下痢を伴わない嘔吐(特に持続性・噴出性)、症状に比して強い活気不良・機嫌不良、大泉門膨隆・項部硬直、頭痛を伴う嘔吐、痙攣: 細菌性髄膜炎など中枢神経感染症を疑う。乳児では髄膜炎の初発症状が下痢・嘔吐など消化器症状のみのことがあり、重篤な徴候(項部硬直・大泉門膨隆)は遅れて出現し月齢が低いほど所見の陽性率自体が下がる(大泉門膨隆は新生児で約25〜50%程度)。「嘔吐=胃腸炎」と決め打ちせず、乳児では所見が乏しくても全身状態と病歴(発熱パターン・活気)を優先する [16]。
- 男児の急性腹痛・嘔吐: 精巣捻転の除外のため陰嚢の視診・触診を必ず行う。年少児は痛みの部位をうまく訴えられず「お腹が痛い」としか言わないことがあり、陰嚢を診察しなければ完全に見逃される。発症6〜8時間以内の血流再開が救済の目安とされる器質的緊急疾患。陰嚢腫脹・疼痛・挙睾筋反射消失があれば泌尿器科/外科へ即紹介する [17][18]。
4重症度・病型の判定
病型(ウイルス性 vs 細菌性)
- 小児急性胃腸炎の大部分はウイルス性(ロタウイルス、ノロウイルス、腸管アデノウイルス、アストロウイルス、アイチウイルス等)[3]。
- 細菌性を疑う所見: 高熱、強い腹痛、血便・粘血便、テネスムス。腹部エコーでは細菌性は回盲部末端から上行結腸にかけての浮腫性壁肥厚・リンパ節腫脹が手がかりとなり、ウイルス性は小腸・大腸の腸液貯留を認めることが多い [3]。
脱水重症度
- 体重減少率による目安(成書上の一般的分類): 年長児では軽症3〜5%、中等症6〜9%、重症10%以上。乳児は基準が異なり(軽症5%・中等症10%・重症15%目安)、年長児の基準をそのまま当てはめると過小評価する危険がある [5]。
- 日本小児救急医学会「小児急性胃腸炎診療ガイドライン2017」: 臨床所見スコアにより軽度脱水(1〜4点)/中等症〜重症脱水(5〜8点)に分類 [1]。これは国際的なClinical Dehydration Scale (CDS)(①general appearance ②eyes ③mucous membranes ④tearsの4項目、0〜8点)に相当すると考えられる [8]。
- 簡易評価(厚生労働省 抗微生物薬適正使用の手引き): ①CRT 2秒以上 ②粘膜の乾燥 ③流涙なし ④全身状態の変化、の4項目のうち2項目該当で体重の5%以上の脱水が示唆される [2]。
- 体重減少率9%超、またはショック/プレショック徴候がある場合は「重度脱水」として経静脈輸液を優先する(詳細は4節) [1]。
5検査
- 必要:
- 重度脱水・ショック疑いの場合の電解質・腎機能等の血液検査
- 血便を伴う・激しい腹痛がある・EHEC/HUS疑い・免疫不全者では便培養検査 [2][3]
- 腸重積・虫垂炎など外科的疾患を疑う所見があれば腹部エコー・外科コンサルト(腹部単純X線・超音波が第一段階、深部病変や汎発性腹膜炎が疑われる場合はCTも選択肢)[4]
- 意識レベル低下・傾眠・痙攣を伴う例、または長時間の摂食不良が続く乳幼児では簡易血糖測定(+尿ケトン)を考慮。小児は肝グリコーゲン予備能が少なく、嘔吐・摂食不良が続くと低血糖・ケトン性低血糖(自家中毒)を来しやすく、意識障害や痙攣の原因となりうる [19][20]。
- 多尿・多飲歴、脱水の割に元気がない・呼吸が速い等でDKAを疑う場合は血糖値・尿ケトン(可能なら血液ガス)を確認する(1節参照)[13][14][15]。
- 不要・過剰になりがち:
- 典型的な軽症〜中等症のウイルス性下痢症全例への便培養検査(自然軽快するため原因微生物特定の意義が乏しい)[2]
- ノロウイルス迅速抗原検査のルーチン施行(保険適用は3歳未満・65歳以上・悪性腫瘍確定例・臓器移植後・免疫抑制剤投与中に限定。それ以外は保険適用外であり、また流行期の典型例では検査陰性でもノロウイルス感染症を否定できず意義が低い)[2]
- 経口摂取可能で軽症〜中等症の児への画像検査・血液検査のルーチン施行
6治療
- 第一選択: 脱水なし〜中等症では経口補水療法(ORT)が経静脈輸液より優先される [1][2][3]。
- 具体的プロトコル(GLの一般論。個別処方量は診察時に算出): 脱水症状出現からできるだけ早期(3〜4時間以内)に、経口補水液(ORS)を少量(ティースプーン1杯程度)から開始し徐々に増量しながら、脱水量相当分(軽症〜中等症なら体重あたり概ね50〜100mL/kg)を2〜4時間かけて補正する [2]。
- 嘔吐が強い場合の少量頻回投与の考え方: 5mL程度を5分おきに与え、嘔吐なく経過すれば漸増するという方法が一般臨床で用いられている。この具体的な間隔・量(5mL/5分)は厚労省手引き第三版・JAID/JSC 2015のいずれにも記載が確認できず、国内一次GLでの直接記載は確認できていない(海外の実践プロトコル由来の可能性がある)。
- 脱水が補正されたら年齢相応の食事を制限なく再開し、下痢が続いていても母乳・人工乳は継続する。ミルクの希釈やラクトース制限は通常不要 [3]。
- 経口補水療法と経静脈輸液を比較したメタ解析では、ORTで効果がなく経静脈輸液を要した例はわずか3.6%で、治療後の低Na血症・高Na血症の頻度にも差はなかった [3]。
- 乳酸菌製剤等の整腸剤は排便量・下痢持続の軽減効果が報告されている(JAID/JSC 2015, BII)[3]。
- 重度脱水で経静脈輸液を行う際: 高張性脱水(高Na血症)を急速補正すると脳細胞内へ水が移動し脳浮腫・痙攣を来す危険がある。可能なら電解質(特にNa)を確認し、高張性脱水が疑われる場合は急速補正を避け緩徐に是正する(フェーズを分けた補正)。皮膚が「こねた生地様」に触れる、脱水の見た目の割に機嫌が悪い・興奮性が高い等は高張性脱水を示唆する所見。6節の院内輸液プロトコル確定までの暫定注意 [21][22]。
- 制吐薬(オンダンセトロン等)の位置づけ:
- 厚生労働省の手引きでは、嘔吐に対する制吐薬は科学的根拠に乏しく推奨されていない [2]。
- JAID/JSCの小児ウイルス性腸炎ガイドラインでは、制吐薬は嘔吐軽減に有効な場合もあるとしつつ、ドンペリドン・メトクロプラミドについては錐体外路症状や呼吸抑制など他の薬理作用への注意を促している(推奨度BII) [3]。
- オンダンセトロン: 海外の救急外来RCTでは、プラセボと比べ嘔吐の頻度低下・経口補水量の増加・経静脈輸液を要する割合の低下が報告されている [9][10]。一方、日本国内でのオンダンセトロンの効能・効果は「抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状」および「術後の消化器症状」(2022年2月に小児へも適応追加)の2つのみであり、感染性胃腸炎・急性下痢症に伴う嘔吐への適応は存在しない=完全な適応外(オフレーベル)使用である [11][23]。加えて、急性胃腸炎自体が低カリウム血症など電解質異常を伴いやすく、これがQT延長リスクをさらに増強させる [11]。適応外・QT延長リスク(特に電解質異常合併時)を踏まえ、院内では原則使用しない方針とするか、使用する場合の個別評価基準を定めるかは医師判断とする。 院内方針:原則使わない。経口補水が進まないときに医師が個別に判断する。
- ⚠要医師確認|「小児消化管感染症診療ガイドライン2024」(文献12)はCQ1-4で制吐薬(メトクロプラミド・ドンペリドン・五苓散・生姜等)の推奨可否を扱っている可能性が高いが原本未確認。運用前に原本で確認し本節を更新する(6節タスク参照)。
- 第二選択・無効時:
- 経口摂取が全く不可能、体重減少9%超の重度脱水、またはショック/プレショック徴候がある場合は経静脈輸液を優先し、意識・全身状態が改善したら速やかにORTへ移行する [1][3]。
- 抗菌薬: 原則不要。大部分がウイルス性であり、細菌性が疑われる場合でも多くは自然軽快するため、抗菌薬は無効であるばかりか腸内細菌叢を乱し(菌交代現象)、非チフス性サルモネラでは排菌期間をかえって延長させる可能性が指摘されている [2][3]。
- 抗菌薬投与を検討する例外(軽症では投与しないことが大前提。以下は重症化リスクが高い場合に限る):
- 生後3か月未満の乳児
- ステロイド・免疫抑制剤投与中、HIV感染症等の細胞性免疫障害
- 炎症性腸疾患、血液透析、ヘモグロビン異常症(鎌状赤血球症等)、腹部大動脈瘤、心臓人工弁置換術後などの基礎疾患
- 菌血症・膿瘍などの腸管外病変を合併
- 全身状態が不良な重症カンピロバクター腸炎・サルモネラ腸炎 [2][3]
- 上記に該当し抗菌薬投与を検討する場合の薬剤クラス(GL上の一般論。個別処方値は診察時に算出): カンピロバクター腸炎はマクロライド系(クラリスロマイシン等)。非チフス性サルモネラ腸炎はJAID/JSC 2015(V章、p.48)ではアモキシシリン(AMPC)経口・ホスホマイシン(FOM)経口・ノルフロキサシン(NFLX)経口(乳児には投与しない)が選択肢として並列で挙げられ、重症例(菌血症疑い等)に限りセフトリアキソン(CTRX)静注/点滴静注が選択肢となる。生後3か月未満の乳児は本ワークフローが抗菌薬適応の閾値を下げるとしているまさにその対象であり、ニューキノロン系(NFLX)は乳児には使用しない点に特に注意 [3]。
- EHEC(腸管出血性大腸菌)腸炎: 抗菌薬投与とHUS発症リスクの関係については結論が統一されていない。海外の統合解析では明確な関連は否定的な報告がある一方、より厳密なHUS定義に限定すると抗菌薬投与とHUS発症増加の関連を示す解析もある。日本の小児を中心にした研究では発症早期(発症後3日以内)のホスホマイシン内服でHUS発症率が低かったとの報告もあり、JAID/JSCも「現時点で抗菌薬治療に対しての推奨は統一されていない」としている [3]。
- やってはいけない/非推奨:
- 止痢薬(ロペラミド等の腸管蠕動抑制薬): 明らかな効果を示すデータはなく、EHEC腸炎ではHUS発症の危険性を高める懸念があるため使用しない [2][3]。
- 軽症例への一律の抗菌薬投与
- 適応を個別評価せず全例に出す一律の制吐薬投与
7再診・帰宅指導・保護者説明
- 再受診すべきサイン(保護者に伝える):
- 嘔吐が続いて少量頻回のORTも続けられない、水分がほとんど摂れない
- 半日以上尿が出ない、ぐったりして反応が悪い
- 便に血液や強い粘液が混じる
- 38℃以上の発熱が2日以上続く、またはいったん良くなりかけて悪化する
- 数十分おきに激しく泣く様子を繰り返す、嘔吐物が緑色・黄色になった
- お腹を痛がって触らせない、お腹が硬く張っている
- けいれんを起こした、意識がはっきりしない(「ぐったりして反応が悪い」だけでは痙攣という具体的な訴えを引き出せないため独立項目化)[16][19]
- 経過の見通し:
- 大部分はウイルス性で自然軽快する。ノロウイルスは嘔吐がほぼ1日で軽快し、下痢は多くの場合2〜3日(長引く例で7〜10日)続くことがある。発熱は伴わないか、あっても2日以内のことが多い [3]。
- 2日を超えて発熱が続く場合は、単なるウイルス性下痢症以外の可能性を考える [2]。
- 紹介・入院の閾値:
- 体重減少9%超の重度脱水、またはショック/プレショック徴候
- 経口摂取が全く不可能でORTが継続できない
- 1節のレッドフラグ(腸重積・虫垂炎疑い、腹膜刺激徴候、意識障害等)に該当
- 血便を伴いHUS合併が懸念されるEHEC疑い
- 養育者が家庭でORTを実施できない、フォローが困難な社会的背景がある
- 生後3か月未満、または免疫不全・重症化リスクのある基礎疾患を持つ児: 脱水所見が軽度でも急速に代償不全に陥りうるため、脱水度とは別に入院・上位医療機関相談の閾値を個別に下げる(独立項目) [2][3]
8院内ローカルルール(愛育での運用)
- ⚠要医師確認|「小児消化管感染症診療ガイドライン2024」(文献12)の該当CQ確認タスク: 制吐薬CQ1-4を含む9つのCQを書籍原本で確認し、本稿の該当箇所(特に4節制吐薬節・2節脱水スコア)を更新する。確認済みになるまで本稿の制吐薬・脱水判定の記述は暫定扱い(1節冒頭の警告参照)。
9出典
- 日本小児救急医学会「エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン2017 第Ⅰ部 小児急性胃腸炎診療ガイドライン」2017年6月23日発行(Mindsガイドラインライブラリ掲載頁)https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00577/
- 厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課「抗微生物薬適正使用の手引き 第三版」2023年11月16日公表、急性下痢症(一般外来編p.35-42、乳幼児編p.86-91)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001168459.pdf (旧版=第一版(案)から2026-07-30改訂。内容面(脱水5%示唆の4項目中2項目基準・ORS 50-100mL/kgを2-4時間補正等)は第三版でも一致を確認済み)
- 日本感染症学会・日本化学療法学会「JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 ―腸管感染症―」感染症学雑誌 第90巻第1号 平成28年1月20日、V.小児の細菌性腸炎(p.47-49)、VI.小児のウイルス性腸炎(p.50-51)https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/guideline_JAID-JSC_2015_intestinal-tract.pdf
- 黒田達夫「小児急性腹症診察のコツ」日本腹部救急医学会雑誌 29(1):35-38, 2009(国立成育医療センター外科)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaem/29/1/29_1_35/_pdf
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「小児における脱水」https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/19-小児科/小児における脱水および輸液療法/小児における脱水
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「乳児および小児における悪心・嘔吐」https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/19-小児科/乳児および小児の症状/乳児および小児における悪心-嘔吐
- MSDマニュアル家庭版「腸重積」https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/23-小児の健康上の問題/小児における消化器系の病気/腸重積
- Friedman JN, Goldman RD, Srivastava R, Parkin PC. Development of a clinical dehydration scale for use in children between 1 and 36 months of age. J Pediatr. 2004(Clinical Dehydration Scale、4項目・0〜8点)https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0022347604004317
- NEJM原著「Oral Ondansetron for Gastroenteritis in a Pediatric Emergency Department」(Freedman SB, et al. N Engl J Med 2006;354:1698-1704)https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa055119 ※旧リンクの日本語版サイト(nejm.jp)はドメイン失効のため原著へ差し替え(2026-08-14)
- NEJM原著「Multidose Ondansetron after Emergency Visits in Children with Gastroenteritis」(N Engl J Med 2025;393)https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2503596 ※旧リンクの日本語版サイト(nejm.jp)はドメイン失効のため原著へ差し替え(2026-08-14)
- オンダンセトロン インタビューフォーム(2022年9月改訂 第6版、QT延長に関する記載)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00003932.pdf
- 日本小児感染症学会・日本小児消化管感染症・免疫アレルギー研究会「小児消化管感染症診療ガイドライン2024」紹介記事(日経メディカル、2024年12月)https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/202412/586937.html ※原文は書籍のため全文は今回未確認
- 医学界新聞2023「ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ(16)高血糖緊急症 診断編」https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2023/3532_04
- 日本糖尿病学会誌 65(10):536, 2022「小児1型糖尿病患者における重症DKAを予防するには」https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/65/10/65_536/_pdf
- 日経メディカル「腹痛、悪心・嘔吐では必ずDKAの鑑別を」https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/iwaoka3/201710/553198.html
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「新生児細菌性髄膜炎」「生後3カ月以上の乳児における細菌性髄膜炎」https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/19-小児科/新生児における感染症/新生児細菌性髄膜炎
- 日本小児泌尿器科学会「小児の急性陰嚢症」https://jspu.jp/ippan_021.html
- 獨協医科大学埼玉医療センター小児外科「急性陰のう症:精巣捻転」https://dept.dokkyomed.ac.jp/dep-k/ped_surg/acutescrotum.html
- 日本小児・思春期糖尿病学会「低血糖」https://jspad.jp/ofs/patient/life/08.html
- MSDマニュアル「低血糖」https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/10-内分泌疾患と代謝性疾患/糖尿病と糖代謝異常/低血糖
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「小児における脱水」(高張性脱水の急速補正リスクに関する記載箇所)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/19-小児科/小児における脱水および輸液療法/小児における脱水
- 日本小児科学会雑誌「小児の脱水症に対する輸液療法—生理学的根拠にもとづく考え方—」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpn/38/0/38_rv.24-034/_article/-char/ja/
- オンダンセトロン製剤 各社インタビューフォーム 効能・効果欄(例: https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00003932.pdf)/日本小児麻酔学会・小児治験ネットワークによる術後適応追加承認(2022年2月25日)※2026-07-30 WebSearchで効能・効果を再確認、感染性胃腸炎への適応がないこと(適応外使用)を確定
※ 点数・GLは改定される。運用前に最新版を確認。本稿が主軸とした2017年版GL(文献1)の後継として、2024年11月に「小児消化管感染症診療ガイドライン2024」(文献12、日本小児感染症学会・日本小児消化管感染症免疫アレルギー研究会)が刊行されている。同書には制吐薬に関するCQ(CQ1-4)を含む9つのCQが収載されているが、書籍のため全文は今回未確認。運用前に2024年版での該当CQの推奨内容を直接確認することを強く推奨する。
10追補の一次資料
- [24] CDC. *Managing Acute Gastroenteritis Among Children: Oral Rehydration, Maintenance, and Nutritional Therapy*. MMWR 2003. ORSの吸収機構、栄養と補水。https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5216a1.htm
- [25] Royal Children's Hospital. *Gastroenteritis*. 鑑別・検査・補水反応・退院判断。https://www.rch.org.au/clinicalguide/guideline_index/Gastroenteritis/
- [26] Royal Children's Hospital. *Dehydration*(2026年4月更新)/*Hypernatraemia*. 脱水とショック、電解質検査、高Naでの循環対応とその後の緩徐補正。https://www.rch.org.au/clinicalguide/guideline_index/Dehydration/ / https://www.rch.org.au/clinicalguide/guideline_index/Hypernatraemia/
- [27] 日本小児感染症学会『小児消化管感染症診療ガイドライン2024』公式刊行案内。CQ構成を確認、最終版の全推奨本文未取得。2024公開コメント案を最終版として扱わない。https://www.jspid.jp/guideline/
11臨床医が迷う場面
121回吐いたら経口補水は失敗?すぐ点滴にする?
単発の嘔吐だけで失敗としない。少量を頻回に与え、飲めた量、嘔吐・下痢による損失、尿量、反応・循環を繰り返し評価する。口から必要量を保てず脱水が続くなら、経鼻胃管による補水も選択肢。経腸補水が不適切・不成功なら点滴へ進む。ショックや意識障害は最初から救急対応とする。
根拠:RCH Gastroenteritis:補水不応、鑑別、退院条件 / 厚生労働省:抗微生物薬適正使用の手引き第三版(急性下痢症)
13吐き気止めを出せば飲めそう。オンダンセトロンを使う条件は?
当院は原則使用しない。海外では主に6か月以上で、嘔吐により経口補水が進まない児への補助手段として検討される。国内では胃腸炎への適応外使用なので、必要性と説明を含め医師が個別判断する。電解質異常、QT延長や併用薬を確認し、下痢が主体なら利益は小さい。嘔吐が止まっても外科疾患などの除外にはならない。
根拠:CPS:急性胃腸炎に対する経口オンダンセトロン(海外推奨) / PMDA:オンダンセトロン注射液「サンド」電子添文 / RCH Gastroenteritis:補水不応、鑑別、退院条件
14採血や便検査を追加する境目は?
軽く、補水に反応する典型例では全例に採血・便検査を行わない。点滴が必要な脱水、意識変容、遷延・再受診、基礎疾患がある場合は血糖・電解質を含め評価する。血便、強い腹痛、高熱、免疫不全や渡航歴は細菌性腸炎などを考えて便検査を選ぶ。嘔吐だけが続く児では胃腸炎以外の診断を見直す。
根拠:RCH Gastroenteritis:補水不応、鑑別、退院条件 / 厚生労働省:抗微生物薬適正使用の手引き第三版(急性下痢症)
15血便が出たら抗菌薬を始める?
血便だけで経験的に抗菌薬を開始しない。腸重積などの外科疾患と、腸管出血性大腸菌を含む感染症を分け、便培養等を採取する。重い全身症状、低月齢、免疫不全では入院・専門科相談を優先する。EHEC疑いでは抗菌薬の利益が確立していないため安易に処方せず、尿量・顔色・血小板や腎機能などHUSの兆候を追跡する。
16下痢が残る間は絶食や薄いミルクにする?
補水が進み状態が改善したら年齢相応の食事へ戻す。母乳を継続し、ミルクを一律に薄めない。下痢が残るだけで絶食を続けず、飲水と尿量をみる。乳糖除去も一律には行わず、通常食再開後に便回数が増えるなど必要な場合に検討する。糖の多いジュース・スポーツ飲料を経口補水液の代わりにしない。
根拠:RCH Gastroenteritis:補水不応、鑑別、退院条件 / 厚生労働省:抗微生物薬適正使用の手引き第三版(急性下痢症)
17点滴で元気になった。帰宅前に何を確認する?
点滴直後の見た目だけで決めず、嘔吐が減り、経口で水分を保て、脱水・循環所見が改善したことを確認する。家庭で続ける補水法と再受診先を共有する。再び飲めない、尿が減る、反応が鈍い、緑色の嘔吐、血便や局在する強い腹痛は早期再評価。低月齢や基礎疾患、家庭での観察困難なら入院の閾値を下げる。
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