頻拍(脈あり)
脈のある頻拍への初期対応(PALS:小児の脈拍があり循環が良好な頻拍アルゴリズム/脈拍はあるが循環不良な頻拍アルゴリズム)
判断の流れ
拡大して見る ↗脈あり頻拍:QRS幅→安定/不安定の順に見る
- 1酸素・モニター・ルート確保気道呼吸を整える。治療を遅らせない
- 2QRS幅を測る迷えば広い(VT)とみなす狭い(≦0.08秒)洞性頻拍かSVTかを見分ける広い(>0.08秒)VTとして治療する
- 3狭いQRS:原因と安定度洞性頻拍発熱/脱水等の原因を治療頻拍自体は止めないSVT・安定迷走神経刺激無効ならATPを急速静注SVT・不安定ショックを最優先ルートがあればATPも検討
- 4広いQRS:安定度で分ける安定専門医に相談抗不整脈薬を検討不安定同期電気ショック不成功なら再施行
ATP急速静注/骨髄内
—〜—
直後に生理食塩水5〜10mLで急速フラッシュ(緩徐投与・フラッシュ不足が不成功の主因)
同期電気ショック経皮パッド
初回—〜—
不成功なら—まで再施行。毎回「同期」を選び直す。脈なしVF/VTの非同期除細動はAHA 2025の心停止ページで別途確認
プロカインアミド緩徐静注/骨髄内(専門医コンサルト後)
—
30分以上かけて緩徐に投与。急速投与しない。アミオダロンと併用しない。在庫要確認
アミオダロン緩徐静注/骨髄内(専門医コンサルト後)
—〜—
30分以上かけて緩徐に投与。プロカインアミドと併用しない
1ポイント
- QRS幅で治療の枝が変わる。狭ければ洞性頻拍とSVT(上室頻拍)の鑑別へ、広ければ変行伝導が確認できない限りVT(心室頻拍)として治療する。
- 血行動態が不安定なら、迷走神経刺激やルート確保を理由に電気ショックを遅らせない。
- 安定したSVTはまず迷走神経刺激(年齢で方法を変える)、無効ならアデノシン(ATP)を急速静注し、直後に急速フラッシュする。
- 広いQRS幅が電気ショックに反応しない・短時間で再発するときのプロカインアミド/アミオダロンは専門医コンサルト後に投与する。両者は併用しない。
- QRS幅の境界値(0.08秒=JRC2020、0.09秒=PALS本)とATPの絶対量上限の有無は出典で数字の枠組みが違う——本シートはJRC2020を基本に、PALS(AHA)との違いを併記する。
- アルゴリズムの分岐の順序自体もJRC2020とAHA2020・PALS本で異なる——JRC2020はQRS幅を先に判定してから血行動態を評価するが、AHA2020・PALS本は血行動態(安定/不安定)を先に判定してからQRS幅を評価する。本シートはJRC2020の順序(QRS幅→血行動態)を採用している。
2手順(アルゴリズム)
- 11. 初期対応酸素投与。気道・呼吸を評価し必要なら人工呼吸を補助する。心電図モニターと除細動器(パッド)を装着し、可能なら12誘導心電図をとる。静脈路/骨髄路を確保する。治療を遅らせない。
- 22. QRS幅を測るモニターまたは心電図でQRS幅を測る。JRC2020は0.08秒(小目盛り2つ分)、PALS本(2015年版)は0.09秒を境に狭い/広いを分ける——数字はほぼ同じだが一致しない。狭ければ手順3へ、広ければ手順7(広いQRS)へ。境界付近で迷ったら広いQRS(VT)として安全側に倒す。
- 33. 狭いQRS幅:洞性頻拍かSVTかを見分ける病歴・心拍数の変動・P波の有無で見分ける。洞性頻拍と考えられる所見頻拍をきたす既知の原因(発熱・脱水・疼痛・不安など)と矛盾しない病歴。P波あり/正常でPR時間は一定、体動やストレスでRR間隔が変動する。心拍数は乳児で通常220/分未満、小児で通常180/分未満。→ 原因(発熱・脱水・疼痛・貧血・ショックなど)を是正する治療に進む。頻拍そのものを薬で止めない。SVT(上室頻拍)と考えられる所見原因が不明瞭・非特異的、または突然の心拍数変動。P波が認められないか異常で、心拍数は体動に伴って変動しない。心拍数は乳児で通常220/分以上、小児で通常180/分以上。QRS幅が狭いSVTは90%以上を占める。→ 手順4(安定/不安定の判定)へ。
- 44. 血行動態は安定か不安定か循環不良の徴候(四肢の冷感、意識/反応の低下、脈拍が弱い、皮膚の蒼白・まだら模様、血圧低下)を評価する。不安定なら、迷走神経刺激やルート確保を理由に電気ショックを遅らせない。
- 55. 安定したSVT:迷走神経刺激→アデノシン(ATP)まず迷走神経刺激を試みる(他の治療の準備をしている間に行ってもよい)。無効ならアデノシン(ATP)の急速静注に進む。無効なら専門医にコンサルトして他の抗不整脈薬を考慮する。
- 66. 不安定なSVT:ルートの有無で分ける静脈路/骨髄路が確保されていれば、心拍モニタリング下にアデノシン(ATP)の急速投与を試みてよいが、同期電気ショックの実施を遅らせない範囲に限る。ルート確保が難しければ、直ちに同期電気ショックを行う(0.5〜1 J/kgから開始、不成功なら2 J/kgまで上げて再施行)。
- 77. 広いQRS幅:VTとして治療する小児で変行伝導があるとわかっていない限り、広いQRS幅の頻拍はVT(心室頻拍)として治療する。QRS波形が単一でR-R間隔が一定・血行動態が安定していれば、変行伝導を伴うSVTの可能性を考えアデノシン投与を検討してもよい(VTに対しては無効だが有害でもない)。
- 88. 広いQRS幅:血行動態は安定か不安定か循環不良の徴候(四肢の冷感、意識/反応の低下、脈拍が弱い、皮膚の蒼白・まだら模様、血圧低下)を評価する。安定していれば、電気ショックを急がず、小児循環器医など専門医にコンサルトして抗不整脈薬(プロカインアミドまたはアミオダロン)を考慮する。不安定なら手順9(同期電気ショック)に進む。
- 99. 広いQRS幅で不安定:同期電気ショック→抗不整脈薬0.5〜1 J/kgで同期電気ショックを行い、不成功なら2 J/kgまで上げて再施行する。2回目が不成功、または頻拍が短時間で再発する場合は、3回目を試みる前に抗不整脈薬(プロカインアミドまたはアミオダロン)の投与を考慮する——専門医への相談を強く推奨する。
3機材・手技
除細動器(同期電気ショック)
パッド/パドルは患者の胸部に完全に当たる最大サイズを選ぶ。植込み型ペースメーカーの真上を避ける。脈あり頻拍の同期電気ショックと、脈なしVF/VTの非同期除細動は別の対応。心停止はAHA 2025の心停止ページを参照する。
- 粘着パッドを右前胸壁と左腋窩に貼る(パドル使用時は電導ジェル/ペーストを塗り、ケーブルの接続を確認する)
- 可能なら鎮静薬の投与を考慮する。ただし血行動態が不安定なときはショックを遅らせない
- 『同期』モードを選ぶ。同期マーカーが各R波の上に乗っているか確認する(振幅が低くR波を識別できないと同期下ショックができないため、非同期ショックへの切り替えを検討する)
- 初回 —〜—(0.5〜1 J/kg)でショックする
- 不成功なら —(2 J/kg)まで上げて再施行する。実施のたびに『同期』を選び直す(多くの機種はショック後に非同期モードへ自動で戻る)
- 2回目も不成功、または頻拍が短時間で再発するなら、3回目を試みる前に抗不整脈薬(プロカインアミド・アミオダロン)を考慮し専門医に相談する
迷走神経刺激
安定したSVTでまず試す。他の治療(電気ショック・薬剤)の準備をしている間に行ってもよい。不安定な患児には行わず電気ショックを優先する。
- 乳児・低年齢児: 小さいポリ袋を氷と水で満たし、顔の上半分に15〜20秒当てる。鼻と口を塞がない
- 協力できる年長児: 細いストローを強く吹かせる
- 頸動脈洞マッサージ・眼球圧迫は行わない。施設の小児SVT手順で監視下の手技を選ぶ。
- 1回で止まらなくても、次の治療の準備をしている間にもう一度試してよい
4処置・処方例
Rp. 1ATP 国内の実務薬。0.1〜0.3mg/kgで開始し、無効なら増量できる(最大投与量0.3mg/kg・絶対量の上限なし) 急速静注/骨髄内
安定したSVTで迷走神経刺激が無効なとき。不安定でも心拍モニタリング下・静脈路確保下なら、同期電気ショックの実施を遅らせない範囲で使ってよい。海外教材(PALS)の『アデノシン』とは薬も数字も別物——下の『アデノシン(参考)』の絶対mg上限(6mg/12mg)をATPの計算にそのまま当てはめない。
- —〜—を、できるだけ心臓に近い太い静脈路から急速静注する
- 直後に生理食塩水5〜10mLで急速フラッシュする(2シリンジ法。緩徐な投与や不十分なフラッシュが『不成功』の主な原因)
- 投与後10〜15秒ほどの短い徐脈・心静止が起こりうる。想定内の反応として経過をみる
- VT(心室頻拍)に対しては無効だが有害でもないため、QRS波形が単一でR-R間隔が一定・血行動態が安定していれば、広いQRSでも投与を検討してよい
Rp. 2アデノシン 初回0.1mg/kg(最大6mg)、無効なら0.2mg/kgをもう1回(最大12mg)、いずれも急速静注 急速静注/骨髄内(参考:海外教材PALSの量)
国内の実務薬はATP(上記)。アデノシンの絶対mg上限をそのままATPに当てはめない。体格の大きい年長児・肥満児でATPを計算するときの目安として参考にする。
- —を急速静注する(初回)
- 無効なら—をもう1回急速静注する(2回目)
- いずれも2シリンジ法で5〜10mLの生理食塩水による急速フラッシュを併用する
Rp. 3プロカインアミド 15mg/kgを約30分以上かけて緩徐に静脈内投与(JRC2020・PALS本とも同じ数字)。正常洞調律に復した場合・中毒症状が出た場合・QRS幅の延長が投与前の50%以上になった場合は投与を中止する。 緩徐静注/骨髄内(専門医コンサルト後)
広いQRS幅の頻拍が電気ショックに反応しない、または短時間で再発するとき。投与前に小児循環器医など専門医への相談を強く推奨する。アミオダロンとの併用はしない。
- 専門医(小児循環器医など)に電話でコンサルトしてから投与する
- —(15mg/kg)を30分以上かけて緩徐に静脈内投与する。急速投与しない
- 投与中は心電図・血圧を連続モニターする
- 正常洞調律に戻った・中毒症状(低血圧など)が出た・QRS幅が投与前より50%以上延長した——いずれかで投与を中止する
- アミオダロンと併用しない(QT延長が重なる)
- アミサリン注(プロカインアミド注射液)は製造元の事情で供給に不透明感がある(2025年9月時点)。当直帯で使う前に在庫があるか薬剤部・当直の体制で確認する
Rp. 4アミオダロン 2.5〜5mg/kg(最大300mg)を約30分以上かけて緩徐に静脈内投与(JRC2020)。PALS本は5mg/kgを20〜60分かけてと単一値で記載——JRCの範囲の上限に収まる数字で、大きくは矛盾しない。 緩徐静注/骨髄内(専門医コンサルト後)
プロカインアミドと同じ場面(広いQRS幅の頻拍が電気ショックに反応しない・再発する)。プロカインアミドとの併用はしない。
- 専門医にコンサルトしてから投与する
- —〜—(2.5〜5mg/kg、最大300mg)を30分以上かけて緩徐に静脈内投与する
- 投与中は血圧を慎重にモニターする(低血圧が出やすい)
- プロカインアミドと併用しない
5落とし穴
- QRS幅カットオフの違い(0.08秒=JRC2020/0.09秒=PALS本)は、いずれも心電図の小目盛りおよそ2つ分を指す近い値。境界付近で判断に迷ったら広いQRS(VT)として安全側に倒す。
- ATP(アデノシン)の絶対量上限: JRC2020は体重あたりの上限のみ明記(最大0.3mg/kg)。PALS(AHA、2020年版も同じ)は初回上限6mg・2回目上限12mgという絶対量の上限も明記する。体格の大きい年長児・肥満児では、mg/kgだけに従うと絶対量が大きくなりうる——迷ったらPALSの絶対量上限も確認する。
- アデノシンは緩徐投与・不十分な生食フラッシュが『不成功』の主な原因。急速静注と直後の急速フラッシュ(2シリンジ法)をセットで行う。
- 広いQRS幅の頻拍を『きっと変行伝導を伴うSVTだろう』と決めつけない。変行伝導があるとわかっていない限りVTとして治療する。
- プロカインアミドとアミオダロンは併用しない(QT延長が重なる)。乳児にベラパミルは用いない(難治性低血圧・心停止のおそれ)。年長児でも慎重投与とする。
- プロカインアミド注射液(アミサリン注)は製造委託先の破産により2025年9月時点で今後の入荷に不透明感がある。出荷区分自体は『A:出荷量通常』で在庫消尽見込みは2027年だが、当直帯で使う前に在庫の有無を薬剤部・当直の体制で確認しておく(2026-09-27 Web確認)。
- 小児循環器医など専門医への相談経路(電話番号等)はfacility.jsonに記載がなく未確認。院内の緊急連絡網に従う。
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一般教育・院内オペ補助。個別診断・治療の代わりにはなりません。数字の出典は原資料(PALS・JRC蘇生ガイドライン2020ほか)。逐条レビュー継続中。