9-8停留精巣・陰嚢水腫
精巣下降異常・水瘤・鼠径ヘルニアの鑑別
β版 · 紙面の最終確認 2026-10-30
日付は紙面の確認日です。院内承認を示すものではありません。処方・運用は、本文の適用条件と出典、院内の採用薬・手順を確認してください。
このページの目次8項目
1ポイント
- 緊急性のある疾患ではない。当直の役割は急性陰嚢症・嵌頓ヘルニアではないかを除外すること。
- 停留精巣は精巣が陰嚢まで下りてこない状態。似て非なるのが移動性精巣(遊走精巣)で、必ずしも手術は要らない。
- 陰嚢水腫は腹膜鞘状突起が完全に閉鎖した良性の病態で、乳児(1歳未満)は自然治癒することが多い。
- 停留精巣の手術は1歳前後(生後6か月以降)から2歳頃までが推奨される。放置すると精子を作る細胞の働きが徐々に低下する。
- 泣いたり嘔吐したり腹圧がかかった時に大きさが変わる腫脹は水瘤ではなく鼠径ヘルニアを疑うサイン。
2鑑別のながれ
- 陰嚢の急な激痛・腫脹→発症時刻がはっきりする→精巣捻転・急性陰嚢症(このシートの対象外)
- 鼠径部〜陰嚢の硬い腫瘤、啼泣が止まらない→押しても消えない→嵌頓ヘルニア。用手整復は試みず、疑った時点で外科のある施設へ搬送する(院内方針院内。詳細)
- 精巣が陰嚢内で上下に動く→リラックス時は陰嚢内、寒さ・緊張で引き上がる→移動性精巣(遊走精巣)(手術不要のことが多い)
- 無痛性の陰嚢腫脹→光が通過する(透光性あり)、泣いても大きさが変わらない→陰嚢水腫(精巣水瘤)
- 陰嚢腫脹が硬く緊満、皮膚に発赤→水瘤の典型像ではない→精索捻転・精巣上体炎・精巣腫瘍
3検査
- 視診・触診で精巣の位置と触れるかどうかを確認する
- 陰嚢腫脹は懐中電灯などの光の透光性で判断する簡便な視診が有用
- 精巣の大きさに左右差がある、または触れない場合は超音波検査・MRI検査を検討する(当直帯にエコー・MRIは使えない)
- 泣いたり腹圧がかかったときに大きさが変わるかを確認する(変われば鼠径ヘルニア)
4陰嚢の診察(視診・触診・透光法)
- まず陰嚢の急な激痛・発赤がないかを確認する。あれば精巣捻転のワークフローへ切り替える
- 視診・触診で精巣の位置と触れるかどうかを確認する
- リラックスしているときに陰嚢内に触れるが、寒さや緊張の刺激で一時的に引き上がるかを見る。誘導すれば陰嚢内に戻れば移動性精巣
- 泣いたり嘔吐したり腹圧がかかったときに大きさが変わるかを見る。変われば鼠径ヘルニアを疑う
- 部屋を暗くし、懐中電灯(ペンライト)を陰嚢に直接当てて光が透過するか確認する。透過すれば陰嚢水腫を疑う
- 精巣の大きさに左右差がある、または触れない場合は超音波検査・MRI検査を検討する(当直帯は使えないため専門科紹介)
やってはいけない・落とし穴
↑ このページの入口へ- 陰嚢腫脹が硬く緊満し皮膚に発赤があるときは水瘤の典型像ではない。精索捻転・精巣上体炎・精巣腫瘍を疑う
- 泣いて大きさが変わる腫脹を水瘤と決めつけない。鼠径ヘルニアを疑う
5送る/持つの目安
- 帰宅陰嚢水腫(緊満なし・無痛)は経過観察の説明をして外来紹介、移動性精巣(誘導すれば陰嚢内に戻る)は経過観察でよい。停留精巣との鑑別に迷えば泌尿器科へ相談
- 搬送・紹介生後6か月以降も下降しない停留精巣、触知できない停留精巣・左右差は泌尿器科・小児外科の外来へ紹介、新生児の両側非触知精巣は外表異常の有無を問わず、気づいた時点で紹介の緊急度を格上げする(1〜2週間の猶予は廃止)。当直帯は入院・電解質検査で安全を確保し、連携先への連絡は連携先が確定し次第、気づいた当日中(夜間発見なら翌朝一番)に行う、陰嚢水腫がヘルニアを合併・緊満・痛みが強い・本人が気にする場合は専門科紹介
6診療中の疑問と回答
- 陰嚢に精巣が触れない。まず超音波を予約する?
- 暖かく落ち着いた環境で診察し、触知部位と陰嚢へ誘導できるかを記録する。画像だけでは腹腔内精巣の有無を確定できず、専門紹介を遅らせない。両側非触知や外性器の非典型所見がある新生児は、性分化・内分泌の評価も含め早急に相談する。
根拠:EAU Paediatric Urology:停留精巣 - 移動性精巣と言われたら以後の診察は不要?
- 陰嚢内へ誘導でき安定するかを確認し、精巣が上昇していないか成長に合わせて再診する。以前触れていたことだけで停留精巣を除外しない。陰嚢へ戻らない、位置や大きさが変わる場合は泌尿器科へ再紹介する。
根拠:EAU Paediatric Urology:停留精巣 - 痛みのない停留精巣なら学童まで手術を待てる?
- 生後6か月を過ぎて下降しない例は、自然下降を長く待たず専門科で手術時期を決める。妊娠週数、両側性、位置と合併所見を共有する。鼠径部の急な痛みや腫脹、嘔吐は予定手術の相談ではなく捻転・嵌頓として即時評価する。
根拠:EAU Paediatric Urology:停留精巣
- 鼠径部〜陰嚢の腫瘤が押しても消えず啼泣が止まらないときは?
- 嵌頓ヘルニアを疑う。当院では用手整復を試みず、疑った時点で外科のある施設へ搬送する(院内方針院内)。
- 移動性精巣は手術が要る?
- 必ずしも手術が必要になるわけではない。停留精巣との鑑別に迷えば泌尿器科へ相談する。
- 陰嚢水腫はいつ手術?
- 乳児(1歳未満)は自然治癒することが多い。1歳を過ぎると自然治癒しにくくなり、ヘルニア合併・緊満・痛み・本人が気にする場合は手術が望ましいとされる。
- 停留精巣の手術時期は?
- 手術合併症などを考慮し、1歳前後(生後6か月以降)から2歳頃までが推奨されている。
8家族への説明
精巣(睾丸)が陰嚢の中まで下りてきていない状態、あるいは陰嚢に水がたまっている状態と考えられます。今日、急いで手術が必要な状態ではありません。精巣が下りてきていない場合は、生後6か月を過ぎてから2歳ごろまでに手術をすることが勧められています。水がたまっているだけの場合は、1歳ごろまでに自然に治ることが多い状態です。どちらも外来で泌尿器科・小児外科に診てもらう必要があります。もし今後、急に強い痛みが出たり、押しても消えない硬いふくらみが出た場合は、様子を見ずにすぐ受診してください。
一般教育・院内オペ補助。個別診断・治療の代わりにはなりません。β版・逐条レビュー継続中。