1-1 インフルエンザ

緊急

1-1インフルエンザ

病態・根拠
このページの目次11項目

1一目でわかるフロー

受診
 │
 ├─① レッドフラグ評価(最優先・§1)
 │    意識障害/けいれん重積・非対称けいれん/異常言動が持続 → 陽性なら検査を待たず
 │    即・気道循環評価+上位医療機関へ紹介(インフルエンザ脳症を疑う)
 │
 ├─② 重症度・病型の判定(§2)
 │    年齢(乳児/1-5歳/6-11歳/12歳以上)・基礎疾患の有無・呼吸状態・
 │    経口摂取可否で軽症/中等症/重症を仕分け
 │
 ├─③ 検査要否(§3)
 │    発症からの経過時間を必ず確認
 │    - 発症12時間未満:抗原検査は偽陰性が多い → 臨床診断を優先、
 │      流行状況・接触歴・症状パターンで判断し、必要なら翌日以降に再検査
 │    - 発症12-48時間:迅速抗原検査が最も感度が高い時間帯
 │    - 迅速検査「陰性」=インフルエンザ「否定」ではない(§3・§7[1][7])
 │
 ├─④ 治療方針(§4)
 │    抗ウイルス薬の適応判断(全例必須ではない)→ 年齢・重症度・
 │    基礎疾患で薬剤クラスを選択 → NSAIDs禁忌の確認
 │
 └─⑤ 保護者説明・再診基準(§5)
      異常行動の注意喚起(発熱から少なくとも2日間は目を離さない)+
      再受診すべきサイン(レッドフラグの平易な言い換え)を必ず伝えて帰宅
       ↓
     経過中に増悪・レッドフラグ出現 → 再受診・紹介・入院(§5)

図は横にスクロールできます →

2レッドフラグ(見逃し厳禁)

インフルエンザ脳症を含む重症化のサイン。いずれか1つでも認めたら、検査結果を待たずに精査・上位/専門医療機関への紹介を検討する。

  • 意識障害:呼びかけへの反応が鈍い・せん妄・すぐに眠り込む等、傾眠〜昏迷以上の意識レベル低下が持続する状態。インフルエンザ脳症で最も重視される所見[7][6]
  • けいれん:以下のいずれかを満たす場合は熱性けいれんでなく脳症を強く疑う[7]
  • 15分以上持続(けいれん重積)
  • 短時間で反復する
  • 左右差のある(非対称性の)けいれん
  • 異常言動・異常行動が長時間続く:断続的・持続的に1時間以上続く場合は経過観察でなく脳症の初期像を疑う(短時間で自然消失するものと区別する)[7]
  • 異常行動そのもの(転落リスク):抗インフルエンザ薬の使用有無・種類にかかわらず、インフルエンザ罹患時に発現しうる。発熱から2日以内の発現が多く、就学以降の小児・未成年(特に男児)で報告が多いが女児でも起こりうる。突然走り出す・部屋やベランダから飛び出そうとする・呼びかけに反応せず徘徊する、等の転落関連事故につながる行動が報告されている[3]
  • 呼吸不全兆候:多呼吸・陥没呼吸・チアノーゼ・SpO2低下(肺炎・ARDS合併を疑う)
  • 持続する嘔吐・経口摂取不能・脱水徴候(脳症の随伴症状、または重症化の間接所見)
  • ハイリスク児での増悪:先天性心疾患、慢性呼吸器疾患、神経筋疾患、免疫不全、代謝性疾患、乳児(特に生後6か月未満)など基礎疾患を持つ患児の症状増悪は閾値を下げて評価する

3重症度・病型の判定

  • 軽症:発熱・上気道症状主体、意識清明、経口摂取可、活気良好 → 外来対症療法+抗ウイルス薬の適応判断
  • 中等症:高熱が遷延、経口摂取低下、活気低下だが意識清明 → 抗ウイルス薬適応を積極検討、翌日以降の再評価を明確に指示
  • 重症:肺炎合併、呼吸不全、意識障害、けいれん重積、脱水著明、基礎疾患増悪 → 原則として全例に抗ウイルス薬治療を行い、入院・上位医療機関紹介を検討[2]。重症例・肺炎合併例で使用実績・推奨が明確なのはオセルタミビル・ペラミビルの2剤に限られる(薬剤選択の絞り込みは§4参照)[1]
  • 年齢因子:
  • 乳児(特に1歳未満)は重症化・非典型症状のリスクが高く評価閾値を下げる
  • インフルエンザ脳症は1〜5歳(特に2歳前後)に好発し、6歳未満で全体の約7割を占めるとされる(要一次資料確認[要確認])[7]
  • 学童期以降(特に10歳前後の男児)は異常行動(転落事故)リスクが相対的に高い[3]
  • 病型:A型・B型で薬剤の相対的な効果に差がある(§4参照)。臨床像だけでは型を確定できないため、治療選択に型が影響する場合は検査結果を待つ

4検査

  • 必要:
  • 迅速抗原検査:発症12〜48時間が最も感度の高いウインドウ。ある前向き観察研究では発症12〜24時間で感度約40.5%、24〜48時間で約65.2%、48時間以降で約69.6%と報告されており[7]、発症直後(12時間未満)はウイルス量不足による偽陰性が多い
  • 治療方針や型が予後・感染対策上重要な場面(重症例、ハイリスク児、院内発生時など)での検査
  • 不要・過剰になりがち:
  • 発症数時間以内の「念のため」検査:偽陰性が高頻度に生じるため、臨床像・流行状況・接触歴で診断できる典型例では検査を急がない方がよい場合がある
  • 迅速検査「陰性」=インフルエンザ「除外」という短絡:流行期に典型的な臨床像(急な高熱・関節筋肉痛・上気道症状の組み合わせ等)を呈する患者は、迅速検査陰性でも臨床的にインフルエンザと診断し治療方針を決めてよい場面がある(=★忘れがちポイント)。特に下気道優位の重症例では上気道検体の抗原検査が陰性でもPCRで陽性となることが経験されている[1]
  • 軽快傾向にある例での治療方針変更を目的としない再検査

5治療

  • 第一選択(年齢・体重・型で選択、GLの一般値。個別処方値はここに書かない):
  • 新生児・乳児(1歳未満):オセルタミビル経口が推奨(生後2週以降が適応)。体重2,500g未満または生後2週未満の新生児は使用経験が得られていないため、投与する場合は下痢・嘔吐等の消化器症状をはじめとする副作用の発現に十分注意する(添付文書・JPS指針脚注に明記)[1]。経口困難例はペラミビル点滴静注を考慮(生後1か月以降が対象)[1]。オセルタミビルの一般的な体重換算の考え方は、幼小児で1回2mg/kg(最高1回75mg)を1日2回・5日間、新生児・乳児で1回3mg/kgを1日2回・5日間、というのが添付文書上の枠組み[8]
  • 幼児(1〜5歳):オセルタミビル推奨。バロキサビルは低感受性(治療耐性)変異ウイルスの排出が高頻度(6歳未満で52.2%との報告)かつ排出が遷延する可能性があり積極的には推奨されない(B型感染例は考慮)[1]
  • 6〜11歳:ザナミビル・ラニナミビルは吸入手技が可能なら推奨。バロキサビルはA型では慎重投与、B型では使用を提案する位置づけ[1]。粉末吸入が困難な乳幼児向けの代替製剤としてラニナミビル吸入懸濁液(イナビル吸入懸濁用160mgセット、2019年6月承認)があり、国内の市販後調査(4歳未満1,104例)で特段の安全性懸念は認められていない(エアロゾルが発生するため感染対策には注意)[1]
  • 12歳以上:A型・B型ともに複数の薬剤(オセルタミビル、バロキサビル、ザナミビル、ラニナミビル等)が推奨選択肢。バロキサビルはB型で他剤より有効性が高い可能性が示されている[1][2]
  • 吸入薬(ザナミビル・ラニナミビル)共通の注意:気管支喘息・COPD等の基礎疾患がある患者では気管支攣縮・呼吸機能低下が生じうるため、症状が現れた場合は投与中止・適切な処置を行う。短時間作用型気管支拡張剤の携行を指導することが添付文書上求められている(★忘れがちポイント)。ザナミビルは添付文書上、夾雑物として乳蛋白を含む乳糖水和物を使用しておりアナフィラキシーの報告があるため、牛乳・乳製品アレルギー既往児には慎重投与が必要(★忘れがちポイント)。またザナミビルは低出生体重児・新生児・乳児・4歳以下の幼児を対象とした臨床試験を実施しておらず安全性は確立していない[8]
  • 吸入薬は年齢基準(体重でなく年齢)で用量が決まる一般的枠組み:ザナミビルは5歳以上で成人と同じ1回10mg・1日2回・5日間吸入、ラニナミビルは10歳未満20mg・10歳以上40mgの単回吸入、が添付文書上の考え方[8]
  • バロキサビル:2025年9月に20kg未満の小児に対する顆粒製剤の使用が承認された。添付文書上、体重20kg未満の小児に対しては他の抗インフルエンザウイルス薬の使用を考慮した上で、本剤投与の必要性を特に慎重に検討することとされている(低年齢になるほど低感受性株の出現頻度が高い傾向が示されているため)[1]。体重区分別の具体的な用量(mg数)は改訂が続いているため、処方前に必ず最新の添付文書・インタビューフォームの体重区分表を直接確認すること(本ファイルでは一次資料〈PMDA・最新添付文書〉の体重区分表を直接確認できておらず、具体的なmg数の記載は控える=要確認)
  • 重症例・肺炎合併例:使用実績・推奨が明確なのはオセルタミビル・ペラミビルの2剤に限られる(経口投与が可能ならオセルタミビル、経口・吸入が困難な場合はペラミビル点滴静注)。バロキサビル・ザナミビル・ラニナミビルは重症例に対する効果のエビデンスが成人を対象とした検討に限られており、JPS指針上も重症例へのこの3剤は「エビデンスが不足している」と明記されている[1]
  • 第二選択・無効時:
  • 経口・吸入が困難な重症例・入院例ではペラミビル点滴静注を考慮
  • アマンタジンはA型にのみ有効だが耐性ウイルスの問題から現在は積極的に推奨されない
  • 発症48時間を超えてからの投与は罹病期間短縮効果のエビデンスが乏しいが、重症化リスクが高い患者では投与を検討してよい[2]
  • やってはいけない/非推奨:
  • アスピリン等サリチル酸系製剤(配合剤含む):ライ症候群(Reye症候群)との関連が疑われ、1998年(平成10年)の措置により15歳未満の水痘・インフルエンザ患者への投与は原則禁忌とされている[9]
  • ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン等):2001年(平成13年)の厚労省通知により、小児のウイルス性疾患(水痘・インフルエンザ等)患者への解熱目的の投与は原則禁忌とされている(脳症症例の集積を踏まえた措置、★忘れがちポイント)。通知原文はサリチル酸系製剤と同様の「小児」を対象とし、具体的な年齢の数値は同通知内に明記されていない(サリチル酸系の15歳未満に準じる運用が一般的だが、正確な境界は各社最新添付文書で確認する=要確認)[9]
  • メフェナム酸(ポンタール等):上記2001年通知の時点では症例集積数が少なく「影響評価は困難、経過観察が必要」との整理であり、同通知はメフェナム酸を明確に禁忌とはしていない。ただし各社添付文書では小児のウイルス性疾患への使用に注意喚起があり、日本小児科学会も小児のインフルエンザ関連発熱への使用を推奨していない(★忘れがちポイント)
  • 推奨される解熱薬はアセトアミノフェン。イブプロフェンは上記の薬剤ほど明確な使用制限はないが、上記2001年通知でも「影響評価は困難、経過観察が必要」とされ、慎重投与を要する薬剤として扱う施設が多い。当院の方針:解熱はアセトアミノフェンのみとし、イブプロフェンも使わない。
  • 抗インフルエンザ薬の全例投与は必須ではない(軽症の健康な学童・成人などでは投与しない選択肢もある)[2]

6再診・帰宅指導・保護者説明

  • 再受診すべきサイン(保護者に伝える):
  • 呼びかけへの反応が鈍い、様子がおかしい、すぐ寝てしまい起こしても反応が悪い(意識障害)
  • けいれんが15分以上続く、繰り返す、体の左右で動きが違う
  • 「わけのわからないことを言う・する」状態が1時間以上続く、または断続的に繰り返す(短時間で治まるものとは区別して説明する)
  • 息が速い・呼吸が苦しそう・唇の色が悪い
  • 水分が摂れない、ぐったりして目を離せない
  • 熱が一度下がった後に再び高熱が出た、5日以上熱が続く
  • 異常行動・転落事故対策:抗インフルエンザ薬を飲んだ/飲んでいないに関わらず、発熱から少なくとも2日間は子ども・未成年を一人にしない。窓・玄関の施錠を確実にする、ベランダに面していない部屋・できれば1階で寝かせる、窓に格子のある部屋を選ぶ、등(★忘れがちポイント=薬の有無を問わず全例に伝える)[3]
  • 経過の見通し・登園/登校の目安:
  • 抗ウイルス薬使用時は発熱期間が通常1〜2日短縮される見込み[3]。未使用でも多くは自然軽快する
  • 登園・登校の目安(学校保健安全法施行規則第19条):発症した後5日を経過し、かつ解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまでは出席停止[10]。発症日・解熱日は0日目としてカウントする実務上の数え方を保護者に説明する
  • 紹介・入院の閾値:
  • §1のレッドフラグ(意識障害・けいれん重積/非対称/反復・異常言動遷延)を認めたら即・上位医療機関へ紹介
  • 呼吸不全兆候、経口摂取不能・脱水、基礎疾患(心疾患・神経疾患・免疫不全等)を持つ患児の症状増悪
  • 重症例・肺炎合併例は原則として抗ウイルス薬治療の適応であり、外来管理が難しいと判断すれば入院を検討[2]

7出典(日本のGL優先・URL+版年)

8臨床医が迷う場面

9迅速陰性で発症早期なら、明日陽性になるまで治療を待つ?

検査時期や採取で陰性になることがある。流行、接触、症状、重症度と基礎疾患から治療の必要性を判断する。低酸素、意識異常、けいれん、脱水があれば検査の再陽性確認より評価・治療を優先する。検査陰性を帰宅の根拠にしない。

出典:日本小児科学会 2025/26治療・予防指針 / 厚生労働省 ARI総合対策Q&A2025

10抗ウイルス薬を使ったのに翌日も熱がある。薬を変更する?

発熱の残存だけで無効・耐性としない。服薬・吸入ができたか、嘔吐、呼吸症状、飲水、二峰性の発熱を再評価する。肺炎や細菌合併症、脳症などを疑う変化があれば診断を見直す。重症例の薬剤選択は本文の指針に沿い、外来薬を機械的に追加しない。

出典:日本小児科学会 2025/26治療・予防指針 / 厚生労働省 ARI総合対策Q&A2025

11異常行動があった。薬をやめれば見守りは不要?

異常行動は薬を使わなくても起こり得る。転落防止と見守りを続け、発熱後少なくとも2日間は一人にしない。持続する意識の異常、反応低下、けいれんがあれば薬の副作用と決めつけず緊急評価する。薬の継続可否は症状と時間経過を処方医に伝えて判断する。

出典:日本小児科学会 2025/26治療・予防指針 / 厚生労働省 ARI総合対策Q&A2025

一般教育・院内オペ補助。個別診断・治療の代わりにはなりません。β版・逐条レビュー継続中。

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