11-16 低血糖

緊急

11-16低血糖

病態・根拠
このページの目次13項目

1病態と根拠

2脳へ届くエネルギーが不足する

食事からの糖、肝のグリコーゲン分解、糖新生が血糖を支え、絶食時には脂肪分解から生じるケトン体も脳の代替燃料になる。乳幼児は体重あたりのエネルギー需要が大きく、糖の備蓄が少ないため、嘔吐や長い絶食で血糖が下がりやすい。一方、過剰なインスリンや脂肪酸酸化障害ではケトン体が十分作られず、血糖低下と代替燃料不足が重なりうる。[1][2]

交感神経の反応は蒼白、発汗、震え、空腹感、動悸など、脳の糖不足は行動変化、傾眠、意識障害、けいれんとして現れる。乳児や低年齢児は症状を言葉にできず、反復低血糖では警告症状が弱まることもある。症状がないことを安全の根拠にせず、状況に応じて測定する。[1][3]

3対象と目的の違う閾値を混ぜない

対象・資料数値の意味適用時の注意
糖尿病治療中の小児(日本糖尿病学会2024)臨床的低血糖は70 mg/dL未満非糖尿病児の病因診断基準へ一律転用しない
非糖尿病児(RCH救急指針)症状ありで3.0 mmol/L未満(約54 mg/dL)、症状によらず2.6 mmol/L未満(約47 mg/dL)を低血糖として扱う意思表示できない児では3.0 mmol/L未満の治療を考慮。海外救急基準であり、当院の確定済みカットオフではない
高リスク新生児、先天性低血糖疾患を疑わない場合(PES2015)生後48時間未満で血漿糖50 mg/dL超、48時間超で60 mg/dL超を治療目標とする「診断閾値」ではなく管理目標。出生後の移行期を扱う新生児プロトコルが必要
確認された持続性低血糖疾患(PES2015)血漿糖70 mg/dL超を治療目標とする高インスリン血症などの病因に合わせて専門管理

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上記は原典の対象と役割を分けた比較で、どの児にも共通の一本の境界を作るものではない。[1][2][3] 低値の程度・持続・反復、ケトンなどの代替燃料、症状が神経障害リスクに関わる。意識障害・けいれんと低血糖がある場合は、分類や検査室確定のために補正を待たない。

4新生児・乳児・年長児の背景を聞き分ける

新生児では出生体重、在胎週数、母体糖尿病、周産期ストレス、哺乳を確認する。出生後の移行期を越えて持続する、静注糖が必要、反復する場合は、先天性高インスリン血症や内分泌・代謝疾患を見直す。乳児では肝腫大、成長不良、絶食不耐、兄弟の同様の出来事や突然死が手がかりになる。[1]

幼児の病気・絶食後のケトンを伴う低血糖は摂取不足で説明できることがあるが、反復、短い絶食でも起こる、成長不良、肝腫大、低ケトン、重度のアシドーシスなどでは「自家中毒」として終えない。糖尿病児ではインスリン時刻・量、食事、運動、嘔吐、シックデイ対応を具体的に照合する。誤飲では家族の糖尿病薬やアルコール、β遮断薬も確認する。[2]

5危急時検体は何を教えるか

ブドウ糖投与後にはインスリン、遊離脂肪酸、ケトンなどが速やかに変わるため、低血糖時の検体は病因検索に有用である。可能なら治療前に検査室血糖とケトン、インスリン/Cペプチド、遊離脂肪酸、コルチゾール、成長ホルモンなどを、症状・採取時刻・最後の食事と一緒に記録する。血液ガス、乳酸、アンモニア、肝機能と、出来事後最初の尿も背景に応じて評価する。[1][2]

必要な全採血が揃うまで補正を保留しない。一回で採れなければ、緊急補正を優先し、採れた項目と投与前後を明記する。当院で夜間測定できる血糖・血液ガス/乳酸・電解質・アンモニアなどと、特殊検査を分ける。ケトンの測定法、特殊ホルモン/代謝検体の採取管、保管、提出条件は未確認であり、海外の氷冷手順を院内手順として流用しない。

パターン考える病態解釈の限界
低血糖なのにケトンが乏しい高インスリン血症、脂肪酸酸化障害などケトンだけで病名は確定しない。遊離脂肪酸や病歴を組み合わせる
ケトン増加、長い摂取不足絶食への反応、糖原病・ホルモン欠乏などケトン陽性でも基礎疾患を除外できない
アシドーシス、乳酸/アンモニア上昇代謝疾患、肝障害、循環不全など発作・採取条件・全身状態の影響を考える

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簡易血糖計は低値域で誤差が大きくなりうるため、検査室血糖を併せて確認する。ただし確認待ちで重症例の治療を遅らせない。インスリンが測定限界未満でも高インスリン性低血糖を完全には否定せず、ケトン・遊離脂肪酸の抑制などを専門医が統合する。[1][2]

6補正後に再低下を防ぐ理由

単回の糖投与で意識が戻っても、摂取不足、薬剤作用、内因性インスリン過剰が残れば再低下する。意識が戻り安全に飲めるか、糖を含む摂取を続けられるか、点滴の糖投与が不足しないかを評価する。静注量・濃度は本文の確定手順を維持し、糖投与速度(GIR)と輸液量を混同しない。糖入り輸液を途中で急に止めず、血糖と摂取量をみながら移行する。[2]

7フォローと退院の条件

血糖・反応を再測定し、補正後も意識や神経所見が回復しなければ、別の脳疾患や低血糖による傷害も含め緊急評価する。原因が説明できるか、食事を保てるか、糖投与を減らしても再低下しないかを見て退院を判断する。新生児、原因不明、反復、低ケトン、成長不良などは専門相談・入院評価を優先する。

家族には食事を抜かないことだけでなく、嘔吐して糖を取れないときの連絡先と受診条件を具体化する。糖尿病児では主治医と投与・運動・食事・補食計画を見直す。重症低血糖後の「もう治った」は単回の血糖改善のみを意味しない。絶食試験を家庭や当直で自己判断して行わない。[1][2]

8参照資料

9既存手順の参照資料

  • 日本糖尿病学会.糖尿病診療ガイドライン2024 第18章 小児・思春期における糖尿病.https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/18.pdf (2026-09-12閲覧・PDF原文を確認)。「小児科領域では、臨床的な低血糖は70 mg/dL未満である」「重症低血糖の頻度は、3〜7人/100人・年である」「6〜7歳以下の患者は低血糖を認知できないで重症低血糖となる可能性を考慮して低血糖対策を行う必要がある」。この定義は1型糖尿病患者の文脈である点に注意。
  • 日本小児内分泌学会.糖尿病.https://jspe.umin.jp/public/tounyou.html (2026-09-12閲覧)。低血糖の症状(不機嫌、空腹感、顔色不良、傾眠傾向、あくびなど、症状には個人差がある/進行すれば昏睡状態に陥る)。同ページに血糖値のカットオフの明記はない。
  • 日本小児神経学会.小児てんかん重積状態・けいれん重積状態治療ガイドライン2023.https://www.childneuro.jp/uploads/files/about/SE2023GL/03SE_vol01.pdf (2026-09-12閲覧)。けいれん重積の初期対応に「血糖測定(必要ならブドウ糖投与)」が含まれること。
  • 小児科当直医マニュアル改訂第14版 p.233。「意識障害・けいれんを伴う重症低血糖では10%ブドウ糖2〜5mL/kgまたは20%ブドウ糖1〜2.5mL/kgを緩徐に静注し、高濃度ブドウ糖(50%等)は使わない」。
  • 厚生労働省.重篤副作用疾患別対応マニュアル 低血糖(令和5年12月改定)p.16。持続注入速度10%ブドウ糖5mg/kg/分(薬剤一覧に既掲載、2026-09-26に本トピックの出典として追記)。

10臨床医が迷う場面

11簡易血糖が低いが、採血結果が出るまで補正を待つ?

血糖計は低値域で誤差があるため検体で確認するが、意識障害やけいれんを伴う低値では確認結果を待たず補正する。直ちに採れる危急時検体だけ確保し、採血・糖投与の時刻を記録する。投与後は血糖と神経症状を再評価する。

出典:RCH 低血糖(海外小児指針)

12糖を入れて一度上がったら帰宅できる?

再低下しないか、普段どおり飲食できるか、原因が説明できるかを確認する。長い絶食、薬剤誤飲、代謝・内分泌疾患では一時的改善後も再発し得る。原因不明・反復・重症例は入院や専門評価につなぎ、次に食べられなくなったときの対応も具体化する。

出典:RCH 低血糖(海外小児指針)

13胃腸炎の絶食が原因らしい。精査しなくてよい?

年齢、絶食時間、ケトン、成長、肝腫大、反復歴を合わせて判断する。短い絶食で重症化する、低ケトン性、肝機能異常や発達所見を伴う場合は単純な飢餓性低血糖としない。危急時検体の結果を引き継ぎ、小児内分泌・代謝専門医へ相談する。

出典:RCH 低血糖(海外小児指針)

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